ニュースリリース
相談支援サービスの質と生産性の向上へ「福祉相談支援システム」を機能拡充
2020年5月13日
株式会社TKC(本社:栃木県宇都宮市/代表取締役社長:飯塚真規)は、市区町村向けに提供する「TASKクラウド福祉相談支援システム」において生活支援記録法に準拠した記録作成機能を拡充し、来年春にかけて順次提供します。
なお、市区町村向けの業務システムで生活支援記録法に準拠した機能を提供するのは、初の試みとなります。
生活支援記録法(F-SOAIP)とは、福祉・介護・保健医療分野の共通言語となることを目的に嶌末憲子氏(埼玉県立大学准教授)と小嶋章吾氏(国際医療福祉大学教授)が開発した経過記録のための手法です。必要な情報を項目形式で記載するため、効率的かつ的確な経過記録ができるほか、関係者間の情報共有も容易――などが期待できるとして、地域共生社会の実現に向け各分野から注目されているものです。
TKCでは開発者の一人である嶌末准教授とコンサルティング業務契約を締結し、昨年夏から生活支援記録法に準拠した福祉相談支援システムの機能や記録のあり方などに関して研究・開発を進めてきました。その成果の一環として今回、福祉相談支援システムにおいて「生活支援記録法に基づく入力・保存・照会機能」(特許出願中)を搭載しました。
これにより市区町村では、〈業務の効率化〉と〈職員の生産性向上〉を図りつつ、複合的な課題を抱える住民に対して、関係各課がスムーズに連携した〈ワンストップ相談対応〉や〈関係各課がスムーズに連携した総合支援〉が可能となります。
TASKクラウド福祉相談支援システムは、国が掲げる「地域共生社会」の実現に向けて役割強化が求められる市区町村の相談支援業務をサポートするものです。これまで福祉・介護・保健など担当部署ごとに管理されていた情報を一元的に管理・共有できるとともに、相談受付から支援経過管理、対象者の把握、報告書の作成までトータルで支援します。
また昨今、経済的事情による養育困難や児童虐待など相談対応件数が増加していることを踏まえ、今春からは児童相談分野からスモールスタートできる導入プランの提供も開始し、多くのお問い合わせをいただいています。
TKCでは、国の動向も踏まえながら、今後、さらなるシステムの強化拡充に取り組み、より一層の〈行政の効率化〉と〈住民福祉の増進〉の実現を支援してまいります。
当リリースに関するお問い合わせ先
株式会社TKC 東京本社 広報部
TEL:03-3266-9200
取り組みの背景
日本の福祉サービスは、これまで「高齢者」「子ども」「障害者」など対象者別の制度に沿って整備されてきました。しかし、近年では核家族やひとり親世帯の増加、地域のつながりの希薄化など家族や地域社会が著しく変化し、複数分野にまたがる課題を抱える世帯も増え、既存の支援制度では対応困難なケースが増えており、相談支援を担う市区町村の役割はこれまで以上に重要となっています。
この現状を踏まえ、2018年4月に「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が施行。本法では〈地域共生社会〉を実現するために、市区町村の努力義務として、①地域福祉計画の策定、②分野を超えて総合的に相談に応じ関係機関と連絡調整等を行う体制の構築――を求めました。
しかしながら、これまでの福祉相談サービスは分野(高齢者福祉、障害者福祉、子ども・子育て支援、ひきこもり・生活困窮者支援など)ごとに担当部署が分かれていて、相談者や世帯の現況把握が困難な状況です。解決策としてはICTの活用により関係各課の情報を一元的に管理・共有することが有効ですが、それにはベースとなる相談・支援経過の記録が〈自由記述〉のため長文となりやすく、〈入力に時間がかかる〉〈記録を読むのが大変〉〈記載内容にバラつきがある〉――などの課題がありました。
そこで、TKCでは記録作成を中心とした“業務の生産性向上”を実現するため昨年5月に、生活支援記録法(F-SOAIP)の開発者の一人である嶌末憲子氏(埼玉県立大学准教授)とコンサルティング業務契約を締結し、福祉相談支援システムへの機能搭載や記録のあり方に関する研究・開発へ取り組んできました。
生活支援記録法に基づく新機能の概要および提供時期
- 生活支援記録法が定める項目形式に従い、相談支援情報を入力・登録できる。また、必要に応じて項目を限定して表示できるため効率的な情報照会が可能(2020年4月提供)
- 円滑な情報共有を支援するため、複雑な相談支援の経過をタイムライン形式で分かりやすく表示(2020年11月提供予定)
- ジェノグラム・エコマップ(*)の作成、複数図の重ね合わせの実現(2021年春提供予定)
*社会福祉援助活動の展開過程において人々や環境の関連性を記号、図で視覚化するマッピング技法
など
福祉相談支援システム 総合照会画面
今後の取り組み
- 嶌末准教授の協力を得て、引き続き情報活用に関する機能の研究・開発を進め、福祉相談支援システムの機能拡充を図ります。
- 福祉相談支援システム利用団体の協力を得て、生活支援記録法に基づく入力・保存・照会機能の実務面での検証を実施します。
- 全国の市区町村に対して、提案活動を展開します。
「TASKクラウド福祉相談支援システム」の概要
福祉相談支援システムは、福祉関係主管課における相談支援業務をサポートするもので、窓口業務の効率化を図る「福祉ポータル機能」と複雑な課題を有する住民への適切な対応を支援する「相談管理機能」で構成されています。
1.特長
(1)福祉ポータル機能
①総合照会
高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉など各福祉制度における資格やサービス受給状況について、各システムからデータ連携し世帯単位で一つの画面で確認できます。
②受給可能サービスの検索
相談者の資格や世帯構成など形式情報から受給可能なサービスを検索でき、応対する職員の知識等に依存せず適切な案内や申請書作成が行えます。
(2)相談管理機能
①相談内容の登録・共有
各部署で対応している世帯ごとの相談支援(経過)の内容を登録・共有できます。
②会議資料作成支援
登録された相談、支援内容をもとに、対応方針の検討会議などで使用する資料を作成、保存できます
③支援内容登録
相談内容やケース会議の結果を踏まえて判定した支援内容を登録し、その経過を管理できます。
④要支援候補者の抽出
独居高齢者や母子・父子家庭など、さまざまな条件で福祉サービスの支援を必要としている可能性がある該当者を抽出でき、支援が必要な住民を早期発見できます。
2.導入実績および今後の目標
2022年3月末までに50団体への導入を目指します。
以上
【ご参考】
生活支援記録法とは
生活支援記録法(F-SOAIP)とは、福祉・介護・保健医療分野の共通言語となることを目的に嶌末憲子氏(埼玉県立大学准教授)と小嶋章吾氏(国際医療福祉大学教授)が開発した経過記録のための手法です。
医療・福祉従事者による記録の標準化の必要性については国も注目しており、生活支援記録法は総務省の2017年度モデル事業(IoTサービス創出支援事業)で採用されたほか、厚生労働省が昨年度に実施した「介護記録法の標準化に向けた調査研究事業」では、報告書(2020年3月公表)に、生活支援記録法の活用事例が紹介されています。
生活支援記録法の特長は、経過記録に必要な情報を以下の6つの項目に分類して記載することが挙げられます。
F(Focus:タイトル、ニーズや気がかりなど)
S(Subjective Data:利用者の言葉など)
O(Objective Data:観察や支援により得られた情報、他職種等から得られた情報)
A(Assessment:支援者の気づき、判断など)
I(Intervention/Implementation:記録者本人による声がけや実施した内容)
P(Plan:当面の対応予定)
生活支援記録法の利用で、期待される主な効果は以下のとおりです。
- 相談支援内容が整理され、関係者間での情報共有が容易
- 業務過程の可視化により、“振り返り”などによる相談支援業務の質の向上
- 相談支援内容の記録作成にかかる時間短縮ができる
など
*生活支援記録法(F-SOAIP)の詳細については以下をご参照ください。
生活支援記録法(http://seikatsu.care/)、または嶌末憲子(https://researchmap.jp/S100825/)
「地域共生社会」実現に向けた動向
2018年4月に、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が施行されました。地域における包括的な支援体制整備を推進するため、市区町村の努力義務として、〈我が事・丸ごと〉の地域福祉推進の理念に基づき地域住民と行政等との協働による包括的支援体制づくり、福祉分野の共通事項を記載した地域福祉計画の策定が明示されました。
これに伴い、市区町村では、地域生活課題について分野を超えて総合的に相談に応じ、関係機関と連絡調整等を行う体制の構築が急がれています。