導入事例 CASE STUDY
株式会社佐藤ゴム 様
前列左から佐藤秀司工場長、佐藤光信社長、温井德子顧問税理士、温井智久監査担当
統合型会計情報システム(FX4クラウド) ユーザー事例
下町のゴム加工会社が実践する
積極投資と高付加価値経営
京成線八広駅を降り、荒川に沿って下ると東墨田の町工場群に遭遇する。筋を一本入るとひときわ新しくおしゃれな建屋。佐藤ゴムの工場である。製造業受難の時代に堅調な業績を上げ続けている佐藤ゴムの佐藤光信社長と、同社を経理面から支援する税理士法人TGNそれいゆの温井德子税理士、温井智久監査担当に話を聞いた。
──創業は?
佐藤 1959年に100人規模のゴム加工会社につとめていた先代の父が独立したのが当社のスタートです。私が物心ついたのはその10年後くらいですが、家の中がゴムまみれだったのを覚えています(笑)。
──高度成長時代のよき時代ですね。
佐藤 当時は同業者も非常に多く、とても活気がありました。バブル崩壊後は廃業などで減っていきましたが、それでも当社のようなゴム加工会社はまだかなり残っています。
──業容を教えてください。
原材料を練って板ゴムにするロール機
佐藤 ゴムの原材料(シリコンゴム、フッ素ゴム等)をロール機(写真参照)で練り合わせ板状にして加工会社におさめる仕事と、金型を使って半導体関連の部品など要求された形状に仕上げる仕事の2種類あります。前者は私、後者は弟の秀司が中心になってやっています。
──技術的に難しい部分は?
佐藤 長年の勘が必要な仕事ではあります。たとえば、原材料を練る場合には、化学薬品を使用して加工性をよくしたり色をつけたりしますが、その際には配合など微妙な匙(さじ)加減を行いながら要求されるクオリティーに近づけていきます。
──取引先の数は?
佐藤 30~40社くらいでしょうか。以前はもっとあったのですが、25~26年前、30歳くらいの時に、付加価値の高い仕事に集約する方向に転換しました。ちょうどそのころ、メインの取引先が解散し、その会社の会長から「光信君、こんな安い仕事ばかりしていたら将来はないよ」と……。以来、1個1円2円の仕事はできるだけやらないようにして、他社との差別化を意識するようにしました。
──どのような取引先と?
佐藤 基本的には商社がメインなのですが、現在もっとも取引量が多いのは、ゴム加工業では日本最大手の会社です。この会社からは1995年に初めて注文を受けたのですが、最初の売り上げはわずか1,200円でした。「ためしに作ってみてください」という感じでしたね。その後、徐々に取引量が増えて、いまでは売り上げの6分の1くらいはこの会社との取引が占めています。
─大手の信頼を得る秘訣(ひけつ)は?
熟練の技術で付加価値の高い仕事を
佐藤 担当の方々が同年代の人が多く、親密にコミュニケーションをとりながら仲良くなり、一緒に成長していったという感じでしょうか。それくらいしか思い浮かびません(笑)。
温井智 佐藤社長は付加価値をどうつけるかを常に考えておられて、品質はもちろん、たとえば、製品はきちんとした段ボールにつめて出荷されます。当たり前のように思えるかもしれませんが、他社ではいまだにジュースの空き箱につめて出荷したりしています。駅から会社までの道のりでそういう工場が沢山あります。
温井德 従業員10人で年商は3億円、限界利益率も同業他社と比べて高いのは、そうした高付加価値戦略の結果ではないでしょうか。それと、4年前にここ東墨田に新工場を建設されたのも、「きちんとしたところでやっている」と取引先の信頼を得るためだと佐藤社長から聞いたことがあります。
会計事務所の支援のもと思い切った設備投資を決断
──温井先生の事務所(税理士法人TGNそれいゆ)が関与されるようになったのは2016年からとのことですが、どのような会社ですか。
温井德子税理士
温井德 先代と一緒に会社を設立したお母さまもまだまだ現役だし、佐藤社長だけでなく弟の秀司さんや姉の貴恵子さんも会社を支えています。いつお邪魔しても社員の皆さんはニコニコ、会社はいつも明るい雰囲気です。先日、入社2年目の若い社員さんと話をする機会がありましたが、「やっと慣れてきて楽しくなってきた、新しい仕事や機械の操作をやってみたい」と非常に前向きでした。あらためて素敵な会社だなあと。
温井智 佐藤社長のお人柄もポイントでしょう。社長は自宅のある千葉県松戸市から6時過ぎには出勤され、夜10時くらいまで仕事をされます。また、毎朝、工場の周りを掃除されるなど、まじめで几帳面な方です。
──自計化(企業が会計ソフトを導入して計数管理を行うこと)は?
温井德 自計化は当初から行っていたのですが、5年くらい前に『FX2』から『FX4クラウド』にバージョンアップ。これによって、クラウド上でのやりとりが容易になったため毎月の業績管理が迅速かつ緻密になりました。そこで今、経理業務をお母さまから社長の奥さまである裕実さんに引き継いでいくタイミングだとお話ししているところです。
──バージョンアップの効果は?
温井德 新工場の建設につながった面があると思います。
──というのは?
温井智久監査担当
温井智 業績をしっかり把握すれば、返済計画も立てやすくなり、金融機関への融資依頼もしやすくなるからです。また、迅速な計数管理が実現したことで時間的な余裕ができ、月次巡回監査の際に、数字の話だけではなく、新工場の建設など将来の話もできるようになりました。
──なぜ新工場を建設しようと?
佐藤 ロール機が老朽化したのでリプレースする必要があったのですが、以前の工場は新しい機械を入れるには狭くて、場所がなかったのです。だったらいっそのこと工場を新設しようかと思い、温井事務所に相談したら、ぜひやった方がいいと。
──資金は?
佐藤 ロール機は自己資金です。
温井智 総額1,200万円だったのですが、「ものづくり」補助金を申請し、自己資金は700万円ほどにおさえることができました。
──新工場も自己資金ですが。
佐藤 いえ、億単位になりますのでさすがに借り入れです。
温井德 佐藤ゴムさんのメインバンクはもちろん、当事務所が懇意にしている金融機関も紹介し、ベストな選択を模索していきました。金融機関には物件も紹介してもらって、土日を利用してかなり見て回りました。
──きれいでおしゃれな工場です。
新工場前で
佐藤 中古物件も考えたのですが、せっかくなのでやはり自分の思い通りのレイアウトの工場をつくりたいので新築することにしました。
温井智 新工場に関しては、われわれもぐいぐい押しました(笑)。ちょっと煽りすぎたかなと反省する部分もあるのですが、佐藤社長が「今のこのタイミングしかない」と決断されて、それを後押しできて良かったのかなと思っています。
温井德 佐藤社長は日ごろ、ずっと小さな町工場でやるのは先がない、新しい場所でより規模感を持って仕事をしたいとおっしゃっていて、それがかなえられたのは良かったなと。それと、話は違いますが、佐藤社長のところにはM&A紹介が複数来ていると聞いています。それくらい財務体質の良い会社なんですね。
佐藤 複数どころか5社くらいのM&A業者から話が頻繁に来ています。でも、異業種なので、いまのところ応じるつもりはありませんが……。
──事業承継については?
佐藤 後継者はいまのところいません。現在56歳ですが、60歳くらいになったら考えようかなと……。まだ体力がありますので。
温井德 当事務所では会社の価値(売買金額)をいつでも正確に算定できるようにしておきます。
佐藤 まだやめませんよ(笑)。
──今後はいかがでしょう。
佐藤 繰り返しになりますが、より付加価値の高い製品をつくっていくことに注力していきます。「この材料でこれほどのものができるんだ」といったような驚くほどの価値観を創造していきたいですね。
温井德 関与以来、書面添付(※)(『戦略経営者』2022年4月号P64参照)を行っていますが、工場竣工直後の事業年度で、残念ながら税務調査に移行してしまいました。多忙な社長に時間を割いていただくのが申し訳なく、今後は添付書面への記載内容をより充実させて、必ず調査省略を勝ち取るつもりで毎月巡回監査にのぞんでいます。
※書面添付制度(税理士法第33条の2)
申告書作成のプロセスにおいて、計算、整理、相談に応じた事項を明らかにした書面を申告書に添付し、税務の専門家である税理士が、その申告が誠実に行われていることを示す制度。この書面添付を行うことで、顧問税理士が税務署から意見聴取を受けた上で企業への税務調査が省略されることがある。
企業情報
アットホームな社風
株式会社佐藤ゴム
- 設立
- 1960年11月
- 所在地
- 東京都墨田区東墨田3丁目11-4
- 売上高
- 約3億円
- 社員数
- 10名
代表社員 温井德子
税理士法人TGNそれいゆ 日本橋事務所
- 所在地
- 東京都中央区日本橋3-7-7
- URL
- https://tgn-soleil.com/
(『戦略経営者』2022年4月号より転載)