導入事例 CASE STUDY
有限会社アリエダ産業 様
統合型会計情報システム(FX4クラウド) ユーザー事例
法面工事のプロ集団が示す
徹底した計数管理の効用
東海地方を地盤に、法面工事業を展開しているアリエダ産業。池田勇一社長は原価管理の考え方を現場に導入し、TKCシステムによる利益管理体制を構築した。それまでの採算を度外視した受注体制から、いかに転換を図ったのか、その詳細な過程について野垣浩顧問税理士を交えて聞いた。
高度な技術を有する20名超の職人を雇用
──具体的な業務内容を教えてください。
池田勇一社長
池田 土砂災害の防止を目的とする法面工事をなりわいにしています。山の斜面を調査してワイヤーやモルタル等で保護するほか、災害後の修復工事にも携わっています。現在は静岡県内をはじめ、3カ所に拠点を置いています。
──特徴や強みは?
池田 法面工事は命綱を用いながら行う難易度の高い作業で、誰でもこなせるわけではありません。当社には、特殊な技能を身につけた職人さんが20名以上在籍しています。法面工事の担い手が全国的に不足するなか、これだけの人数の職人さんを雇用している事業者は、東海エリアでは少ないのが実情です。
──社長就任以降、積極的に採用されたのですか。
池田 先代の社長から会社を引き継いだのは2002年ですが、当時在籍していた職人さんは4名でした。少人数ではひとりの職人さんにかかる負担が増し、経営が不安定になるリスクもある。そこで地元静岡県出身の職人さんを増やしていき、社会保険にも加入しました。今では10代から80代まで幅広い世代の職人さんが在籍しています。社内の情報共有を重視しており、業務品質と顧客対応力の向上を図っています。
──情報をどのように共有されていますか。
池田 おもに活用しているのはLINE(ライン)ですね。通常、4名でチームを組んで各地の現場で作業しているので、全員が集まる機会はほとんどありません。そのため、どの現場でどのような作業を行う予定か、各自がラインで報告するんです。幸い経験豊富なメンバーばかりですから、情報を日々共有していると、各現場の忙しくなる時期が予測できるようになり、作業の遅れているチームをサポートしあう雰囲気が醸成されています。私自身高所恐怖症なんですが、ときどき現場に足を運び、職人さんとコミュニケーションを取って進捗(しんちょく)を確認しています。
──新型コロナの影響は?
池田 遠方の現場に赴くと、職人さんのPCR検査が求められる場合もあります。また、取引先で感染者が発生して資材の調達に影響がおよんだり、担当者の立ち会い日が遅れて工期が延びたりすることもありました。
──池田社長は2代目とのことですが、もともと会社を引き継ぐ意思はあったのでしょうか。
池田 高校を卒業後、大学に進学するつもりでした。しかし、高校生のときに当社でアルバイトとして働く機会があり、進路を変更しそのまま入社しました。30年ほど前のことです。当時は1社の元請けに依存する体制で、そのこわさに気付き社長に就任して以降、新規取引先から短期の業務をコツコツと請け負い、信用を得ていきました。現場ごとの利益管理を徹底しながら、体質改善に取り組んでいる最中です。
社員の意識変革を促した原価管理ソフトとの連携
──工事の利益管理方法を教えてください。
池田 各拠点の責任者が、現場で発生する経費を市販の工事原価管理ソフト(どっと原価)に入力して管理しています。データは『FX4クラウド』に自動的に連動されるため、経理業務の効率化を図れました。
従来はTKCの自計化システムである『DAIC2』(建設業用会計情報データベース)を利用していました。ただ、拠点責任者は経理担当者に領収書を渡すのみにとどまり、計数意識をなかなか植え付けられなかったんです。原価管理という発想自体ありませんでしたから、見積書の精度が甘く、安値での受注が頻発。その結果、2期連続の赤字決算に陥りました。社員の意識を抜本的に改めるツールとして、顧問税理士の野垣先生から提案されたのが『FX4クラウド』でした。
野垣浩顧問税理士
野垣 会社に利益を残し、事業を継続するには工事ごとの原価管理が欠かせないと考え、自計化システムの切り替えをおすすめしました。
池田社長と日ごろ接していて特に感心するのは、社員を非常に大切にされる経営姿勢です。人件費を削減するべく作業を外注に出す同業者が多いなか、社員を家族の一員のようにとらえ、雇用を守り抜かれています。そうした姿勢が工事品質の維持や、スピーディーな対応につながっているのだと思います。
──システムの運用体制は?
池田 浜松本社で請求書と売掛金の仕訳を、焼津営業所では現預金の仕訳を入力しています。加えて、拠点責任者が現場の経費を「どっと原価」に入力する体制に改めました。
もっとも、システムの利用がすぐに軌道に乗ったわけではなく、職人さんから事務作業が増えることに対して反発の声が挙がりました。職人さんの意識を変える契機になったのが、2期連続の赤字を計上したこと。現場別の原価管理体制の構築が利益を生み、ひいては会社を守ることにつながると粘り強く訴えました。同時に野垣先生の力も借りながら、原価管理ソフトの入力方法を拠点責任者にマスターしてもらいました。
現在は、職人さんに番号を付番した領収書を速やかに提出してもらい、現場ごとに発生した経費に日々ひもづけています。
──大きく変わりましたね。
池田 各チームに対して、予算と利益額を記した現場別工事台帳を提出してもらい、計数意識の向上に努めています。この取り組みにより、利益を生まなかったとき、単にがんばっているという精神論でなく、数字という客観的な根拠をもとに原因を追及できるようになりました。野垣先生と最初に面会したとき、「数字を勉強しなはれ」とアドバイスされましたが、業績データを実際に分析すると楽しく、対策の効果が現れるといっそう面白くなるんです。
──どんな経営指標に注目されていますか。
池田《変動損益計算書》における取引先別および現場別利益の推移や、「TKC経営指標(BAST)」で同業他社の黒字企業割合と、労働分配率をよく確認しています。『FX4クラウド』に移行後、2カ所の拠点からの仕訳入力が可能になり、業績数値をより迅速に把握できるようになりました。決算の2カ月前には、決算に向けた対策を検討できる体制になっています。
──決算時には書面添付(※)を実践されているとか。
池田 野垣先生と07年に顧問契約を結んで以来、10期以上連続でおこなっています。先代社長の時代に税務調査を受け、数百万円を徴収されたことがあり、釈然としない思いを抱いていました。
後を継ぎ、13年に税務署から調査の問い合わせが入ったと先生から聞いたときは緊張しましたが、事前聴取の結果、調査省略となり驚きました。書面添付をおこなっていてよかったと痛感しましたね。同業他社の社長から税務調査に入られたという話を頻繁に耳にするので、書面添付をすすめたい気持ちです。
野垣 いわゆるTKC方式の書面添付は、顧問契約締結3年目以降の実践が推奨されています。ただ、決算内容と池田社長の意気込みを鑑み、当初から実践に踏みきりました。また、2期連続の赤字計上により経営改善計画を策定し、金融機関に支援を依頼して計画を着実に実行してきました。これまで猶予されていた借入金返済のめどもすでに立っています。さらに、「TKCモニタリング情報サービス」を活用して、月次決算データをメインバンクにコンスタントに送信しています。
──抱負をお聞かせください。
池田 自然災害が多発する日本で、これほど災害防止に貢献できる仕事はあまりないと思います。今後も社員を大切にしつつ、取引先さまから気軽に相談してもらえる「山のお医者さん」のような存在になれるよう精進していきます。
※ 「書面添付制度」とは
税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。
- 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
- 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
- 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
- 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。
書面添付をすると、調査対象となる前に、税理士に記載内容についての意見を求められることがあります。これを「意見聴取」と言います。この意見聴取で疑問点が全て解決できれば、調査省略となります。また、調査に移行したとしても、既に調査を行うテーマが分かっており短時間で終了するのが殆どであり、税理士・関与先ともに負担が軽減されます。
日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用
企業情報
有限会社アリエダ産業
- 設立
- 1997年11月
- 所在地
- 静岡県浜松市中区高丘北3-14-50
- 売上高
- 約2億7,000万円
- 社員数
- 25名
- URL
- http://arieda.co.jp
顧問税理士 野垣浩
野垣浩公認会計士・税理士事務所
- 所在地
- 大阪府池田市室町4-52 ロイヤルグラン池田401
- URL
- https://www.nogaki.jp
(『戦略経営者』2021年11月号より転載)