導入事例 CASE STUDY
八戸酒造株式会社 様
右側2人目から宮本則男総務部長、駒井庄三郎社長、近田雄一顧問税理士、川井雅恵監査担当、二村元樹日本政策金融公庫八戸支店支店長
統合型会計情報システム(FX4クラウド)ユーザー事例
財務データに基づく経営で
社内改革に挑む酒造りの老舗
近江屋の屋号を掲げ、「陸奥八仙」や「陸奥男山」の日本酒銘柄で知られる八戸酒造。酒蔵見学や蔵内のホールを活用したイベントには、国内外から数多くの人々が訪れる。「取引金融機関も含めて経営状況をオープンにしている」と話す駒井庄三郎社長のかじ取りのもと、業績を迅速に把握できる仕組みを整え、強固な社内体制を築きつつある。
多彩なイベントで日本酒ファンを開拓
──日本酒づくりにおけるこだわりをお聞かせください。
新井田川から酒蔵を望む
駒井 特定名称酒とよばれる日本酒づくりを主力にしており、近年は白米、こうじ、水のみを原料に製造する純米酒の比率が増えてきました。地元産の原料にこだわり、主に青森県内で収穫される華吹雪、華想いなどの酒造好適米、八戸蟹沢地区の名水を使用しています。代表銘柄のひとつ「陸奥八仙」は、吟醸香の感じられる華やかな味わいが特徴です。
──歴史を感じさせる酒蔵です。
駒井 当社のルーツは1740年、初代駒井庄三郎が近江国から陸奥国に移り酒造りをはじめたことにさかのぼります。私は8代目の蔵元です。しっくい土蔵やれんが蔵など6つの建造物は大正年間に建てられ、文化庁登録有形文化財および八戸市景観重要建造物に指定されています。特に新井田川対岸から望む景観は、物流拠点としての往時をしのばせる眺めになっています。
──酒蔵見学を随時受け入れているそうですね。
酒蔵のスペースを活用し地域交流を促進するイベントを開催
駒井 見学に来られる方は、ほぼ毎日いらっしゃいますね。2018年の年間見学者数はのべ5000名をこえました。最近増えているのは外国人観光客。もともと三沢米軍基地の関係者が訪ねてくる機会は多かったですが、特に小グループの外国人観光客が目立ちます。
蔵見学では貯蔵蔵に案内して製造工程の一端や当社の歴史を説明しています。日本酒の試飲販売も行っていますが、広告宣伝費が発生しないため高い粗利益を見込めるのがメリットです。ただ、当社のように一般の方々の見学を積極的に受け入れている酒造会社は、まだ数少ないのではないでしょうか。地元の皆さんにボランティアガイドとして協力いただき、10~16時まで応対してもらっています。
──外国人観光客とコミュニケーションをとるのは問題ありませんか。
駒井 万全とは言い切れません。ボランティアガイドの方を当社で雇用することも含め、英語、中国語等で案内できる体制を整える予定です。
──昨年、文化・芸術の振興に貢献した企業を表彰する「メセナアワード2018」優秀賞に選ばれました。
駒井 酒蔵内に40名ほど収容できる小ホールがあり、さまざまなイベントを定期的に開催しています。例えば絵画の展示会やコンサート、落語会のほか、地元の大学生の卒業論文発表やゼミの会場としても活用されています。メセナアワードでは、そうした地域の人々の交流を促進するさまざまな取り組みが評価されました。
業績数値の信頼性を高めたデータ即時送信の仕組み
──日ごろ実施しているマーケティング活動は?
「陸奥八仙」はフルーティーな香りが人気
駒井 毎年4月に開催している「新酒を楽しむ会」は、新酒のお披露目を目的にしているのはもちろん、一般消費者のナマの声に接する大切な機会ととらえています。前回は700名をこえる方々に来場いただきました。ふだんビールやワインを嗜(たしな)む人たちにも飲んでもらえる、ビール酵母やワイン酵母を加えた日本酒や発泡酒づくりに取り組んでいるところです。
──2010年に近田(こんだ)会計事務所と顧問契約を結ばれたと聞きました。
駒井 成長に見合う社内体制をいかに整備するかという課題を当時抱えていて、その課題解決のため以前から評判を耳にしていた近田雄一先生の事務所の門をたたきました。顧問契約締結以降、経営全般をきめ細かくバックアップしてもらえるのでありがたいと感じています。
近田 八戸市内に「八戸セールスプレーヤー協会」という任意団体があり、事務所を開業してまもないころ私もメンバーの1人として、関与先企業を拡大する方法についていろいろ学びました。八戸酒造さまの先代の蔵元は、協会の会長を務められていたんです。
──財務管理体制の構築も課題のひとつでしたか。
駒井 もちろんです。従来は業績があまり芳しくないと、会社の数字から目を背けがちでした。しかし、TKCの自計化システムを導入後は、金融機関も含めて業績をすべてオープンにしています。昨年の決算時には、近田会計の監査担当である川井さんから「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)の活用を提案され、金融機関に決算書データを送信する仕組みを導入。早速、2018年9月期の決算書データを複数行の金融機関に送信しました。
宮本 以前は決算書と経営計画書を携えて取引金融機関を回り、中身を説明していました。MISの活用により、決算書を金融機関にあらかじめ送信した後に経営計画書を持参でき、詳細な説明が必要な点などを把握し入念に準備を行った上で訪問できるようになりました。
──金融機関サイドではMISの機能をどう評価されていますか。
二村 日本政策金融公庫国民生活事業では18年10月にMISの利用を開始しましたが、決算書データをタイムリーに確認できるため、お取引先とのより踏み込んだ対話などを行いやすくなるものと期待しています。MISはお取引先の利便性と決算書の信頼性を高める仕組みとして評価しています。
──昨年『FX2』から『FX4クラウド』に移行された背景を教えてください。
駒井 経営は常に先手を打たなければなりません。ですから、経営判断の指標となる月次業績は翌月10日には把握しておきたい。『FX4クラウド』には販売管理ソフトとの仕訳連携機能があり、仕訳入力作業を効率化できれば月次業績を早期に把握し、経営会議用の資料に反映できると考えたのがひとつ。また、利用している日本酒専用の販売管理ソフトがクラウド化される予定だった点もきっかけになりました。
──経営会議はどのように?
駒井 10名の経営幹部が参加して毎月初旬と中旬の2回開催しており、《月次変動損益計算書》を配布して売上高などの目標数値に対する進捗(しんちょく)、問題点を共有しながら、新たな取り組みや新商品のアイデアを議論しています。業績数値の中で最も注目しているのは、資金や商品在庫がどのくらいの速さで回転しているか。議題にあがったテーマは結論を先延ばしせず、その場で決めるのが肝心です。もし結論が出ない場合は、期限の日を設定します。
川井さんに『FX4クラウド』で現預金関連の仕訳入力を省力化できる「銀行信販データ受信機能」を先日設定してもらいました。タイムリーかつ詳細な業績分析に役立てていきたいと考えています。
川井 八戸酒造さまではグループウエアの導入、社員の皆さんに対するメールアドレスの付与等のIT化を進めているところです。さらに、社内体制整備の一環として新たな人事評価制度の導入についても駒井社長から相談いただき、同業他社の労働分配率等を参照しながら制度設計のお手伝いもしています。
──将来に向けてどんなビジョンを描いていますか。
駒井 財務管理や人事評価制度をはじめ、企業としての仕組みづくりに力を注いできましたが、ようやく10年後、20年後の構想を描ける体制が整いつつあります。震災後、自粛ムードで日本酒の出荷が一時落ち込むなど、大変な時期もありました。いま計画しているのは製造拠点を集約すること。製造から貯蔵、出荷にいたる動線を見直し、作業効率を高めるのがねらいです。
加えて、酒蔵に隣接する土地を取得し、八戸酒造の新たなシンボルとなる建物を建設します。酒蔵見学やイベント参加をきっかけに、日本酒ならではのおいしさを理解してもらいつつ、当社のお酒にも親しんでいただける機会を増やしていく。ゆくゆくは日本酒のテーマパークのようにしていきたいですね。
企業情報
八戸酒造株式会社
- 創業
- 1775年2月
- 所在地
- 青森県八戸市大字湊町字本町9番地1
- 売上高
- 5億9,600万円
- 社員数
- 24名(アルバイト含む)
- URL
- https://www.mutsu8000.com
顧問税理士 近田雄一税理士事務所
税理士 近田雄一
- 所在地
- 青森県八戸市根城8-6-11
- URL
- http://www.kondakaikei.co.jp
(『戦略経営者』2019年5月号より転載)