あおい交通株式会社 様

あおい交通株式会社

左は中京会計の小島豊弘マネージャー

統合型会計情報システム(FX4クラウド)ユーザー事例

モビリティーの可能性を深掘りし
地域交通の未来をつくる

2000年をまたいで以降、年商、利益とも約10倍にジャンプアップしたあおい交通。松浦秀則社長は、愛知県の尾張小牧地方の交通空白地帯を埋める努力を重ねることで、潜在ニーズを着実に吸い上げてきた。その緻密な経営・財務戦略に迫る。

松浦秀則社長

松浦秀則社長

「MaaS(Mobility as aService=マース)が世界を席巻しはじめています」と切り出したのは松浦秀則あおい交通社長。マースとは直訳すると「サービスとしての移動」。モビリティー(移動手段)を、必要なときだけ料金を払ってサービスとして利用することである。

「タクシーやバス、鉄道、自動車などの移動手段すべてをプラットフォームにのせて、スマホを使いながら予約や決済ができる状態ですね。今後は、自家用車を持っていなくてもどこへでも行ける社会が求められるはずです」(松浦社長)

 欧米ではマースの進捗(しんちょく)著しく、たとえばフィンランドでは、定額で移動手段使い放題のシステムがすでにできあがっているという。米国やドイツなどでも急速に進展中だ。

 一方で日本は手つかずの更地。あおい交通は、バス110台とタクシー30台を縦横に駆使しながら、いわゆる「マース的な取り組み」で成長を続ける希有(けう)な企業なのである。

「敷居の低さ」が持ち味

 創業は1959年。タクシー3台でのスタートだった。当初は変哲もないタクシー会社として細々と営業していたが、20年後に転機が訪れる。1980年代に入り、近隣の日本ガイシ、オークマといった大手メーカーの従業員のマイクロバスによる送迎を手がけ始めたのだ。

「特定旅客自動車運送事業の認定をとってスタートしましたが、これは特定の範囲の乗客のみを対象とする事業に適用されるものなので、発展性に乏しいという欠陥がありました。ところが、より上位の資格である一般貸切旅客自動車運送事業(貸し切りバス)の認可はなかなかとれませんでした」(松浦社長)

 その後の規制緩和により、貸し切りバスの資格をようやくとれたのが1995年。ここからあおい交通の事業範囲が一気に広がる。企業の社員送迎は朝夕に限られるので、空いていた昼間を利用して冠婚葬祭などの送迎に乗りだしたのだ。これで採算が大幅に向上する。

 2000年代に入るとさらなる追い風が同社を後押しする。数万の人口を抱える桃花台ニュータウン(小牧市)の住民が、名古屋への通勤のための春日井駅までのバス便を開設してほしいと依頼に訪れたのである。

あおい交通が展開する路線

あおい交通が展開する路線

「当時、ピーチライナーというモノレールが桃花台ニュータウンから小牧駅までをつないでいて、春日井駅までの交通の便は存在しませんでした。桃花台から春日井までの路線だけでは採算はとれませんでしたが、当社はニュータウン近隣の名古屋造形大学のスクールバスを手がけていてそれをそのまま活用できるので、新たなバスやドライバーはいりません。ただ問題はやはり認可でした」(松浦社長)

 スクールバスの場合、貸し切りバスの資格で十分だが、そこに住民を乗せるとなると話は別。一般乗合旅客自動車運送事業(乗り合いバス)の資格が必要となる。そこで当初は「会員制バス」として例外的に認めてもらう形でスタート。2002年4月のことだった。が、まもなく規制緩和の恩恵を受ける。乗り合いバスの認可を受け半年後の10月に路線バスとして運行することになった。

 この桃花台線が運行することで、当然のことながらピーチライナーの乗客は減少。廃線となったため、小牧市から代替運送の打診を受けたあおい交通は、2006年、桃花台ニュータウンと小牧駅の間の路線(ピーチバス)を開設する。

 ちなみに小牧市は、この両路線の運営を地元の大手バス会社にも依頼したが、拒絶されている。その意味でもあおい交通の、地域交通への果敢な取り組みが見て取れる。松浦社長はいう。

「当社は資本金1000万円の会社なので、大手と違いとにかく敷居が低いんです。通常では門前払いの案件も、当社に持ってくれば私、つまり社長が出てきてダイレクトに話ができる。そのお手軽さが持ち味といえば持ち味なのでしょう」

「交通空白地帯」を埋める

 そんな「敷居の低さ」が次なる展開へとつながっていく。コミュニティーバスである。大手バス会社が採算性の悪さから撤退した交通空白地帯に、自治体の要請を受ける形で次々と参入していったのだ。小牧市を皮切りに、犬山市、豊山町、大口町、北名古屋市、岩倉市(乗り合いタクシー)と近隣6市町が、こぞってあおい交通に運営を委託しているというからすごい。理由は2つある。

 積極的なバス事業の展開が車両など設備とノウハウを蓄積させ、入札で優位に立つ業務品質と価格競争力の高さを呼び込んだというのがひとつ。もうひとつは同社の高い提案力である。

「経験を重ねるにつれ、対象の自治体の特徴に合わせて〝こういうスタイルの交通網づくりをしたらどうですか〟などと具体的な提案ができるようになりました。普通バス会社は、自治体の計画に従うだけで提案はしません」

バス

 プロの提案は、自治体の担当者にとってありがたかったはず。落札者選定の際の有力な参考資料となったとしても不思議ではない。

 さらに極め付きは名古屋空港と名古屋市街を結ぶ直行バスだ。ここも、中部国際空港の開港により航空便が減少したことで大手が撤退した「空白地帯」だった。採算がとれるかどうかも分からない案件。松浦社長の出した答えは「GO」だった。

「われわれは大手と違っていい加減なんです(笑)。とりあえずやっちゃえと……」

 しかしやってみるものである。JALの経営危機で一瞬ひやりとしたものの、新たにフジドリームエアラインズ(FDA)が参入し、近隣にショッピングセンター(エアポートウォーク名古屋)ができ、さらには三菱重工業が名古屋空港周辺でMRJ(三菱リージョナルジェット)の量産体制に入ることが発表された。立て続けに吹いた追い風のおかげで、名古屋空港直行便は、現在のあおい交通の収益の柱となっている。

制度会計と管理会計を統合

 自らを「いい加減」と韜晦(とうかい)する松浦社長だが、実際には緻密な戦略のもと慎重に事業を組み立ててきた。尾張小牧地区にビジネスエリアを絞り、他地域からの誘いを断り続けているのも「エリアを広げすぎるとコストがかさみ、安全を担保できない」との理由からだ。とくにバス事業に参入してからは、経営計画を立て、部門別に収益管理を行い、計数管理にもとづいた経営を実践してきた。しかし、不満もあった。前近代的なアナログ経理だ。手書きの伝票を使用し、顧問税理士に丸投げ。正確な数字が分かるのが決算申告前という状態。「このままではいけない」と考えた松浦社長は、以前から経営者の勉強会などで面識のあった伊藤圭太税理士(中京会計)に顧問を依頼した。3年前のことである。

伊藤圭太税理士

伊藤圭太税理士

「関与と同時に、即座に『FX4クラウド』を提案・導入しました。目指したのは自計化(会社が会計ソフトへの記帳入力を行い試算表のデータを経営に生かせる状態になること)による月次決算、および管理会計と制度会計の一致です」(伊藤税理士)

 もともとあおい交通では、3つの営業所ごとに路線別の収益(部門採算表)を算出していた。合計で約30部門。ところがこれは手書きの伝票をもとにして独自に集計したもので、試算表の利益と一致していなかった。しかも、膨大な請求書の分別と集計作業を必要としていた。

 中京会計の小島豊弘マネージャーが振り返る。

「『FX4クラウド』の重層管理の機能を活用しました。3つの営業所にコミュニティーバスや企業送迎、スクールバスなどの〝路線〟をぶら下げる形です。そこから導き出されるデータを、自由に帳表が作成できる『マネジメントレポート(MR)設計ツール』という機能を使い部門採算表にまで落とし込むことができました」

 これによって、試算表と部門採算表が完全一致した。

「また『FX4クラウド』は複数の端末から入力できるので、路線ごとの営業担当者に自らの伝票の数字を打ち込んでもらいました」

 その際、使い慣れたエクセルの売上票・預金票を変えることなく、『FX4クラウド』に仕訳データ連携ができるようにすることで、新たな負担の発生を防いだ。

 いずれにせよ、担当者によって打ち込まれた数字が管理会計と財務会計に直結するわけだから、これまでの手書きの集計作業とは大違いである。飛躍的な経理業務の効率化につながった。

 

マースのプラットフォームに

「毎月2時間程度、確定したデータをもとに膝をつき合わせてレクチャーいただけるのは有り難いですね。資料だけもらったのではそのままどこかへやってしまいますから(笑)。リアルタイムの数字が明確に分かることで、自信を持った打ち手が可能になります。バスは3000~4000万円と高額なので以前は金融機関から融資が下りることを確認してから購入していましたが、いまでは逆に、購入してから融資をお願いしています」(松浦社長)

TKCモニタリング情報サービス

 さらに、今年3月期からは、オンラインで財務データを金融機関にダイレクトに送付するTKCモニタリング情報サービス(※1)の利用も開始。5つの金融機関との取引において、わざわざ紙の決算書類を提出する必要はなくなった。

「数字に表れない会社の内実を表記した〝書面添付制度(税理士法第33条の2)に基づく添付書面(※2)〟もあわせて送付しているので、今後は金融機関からの信頼感がより一層増すことが期待されます」(伊藤税理士)

 今年、創業60周年を迎えるあおい交通。松浦社長は2つの将来展望を持っている。

「自動運転やEVなども先駆けて取り込みながら、マースのプラットフォームになることがひとつ。これは現実的な目標です。それから、いますぐというわけにはいきませんが、エアタクシーにも興味があります。近隣に名古屋空港がありますし、小牧工業高校や中部大学に近く航空専門の学科ができるとも聞いています。陸が空に変わっても構造は変わりません。バス・ガソリン・ドライバーは機体・燃料・パイロットに置き換えることが可能です」

 確かにホンダエアクラフトカンパニーは「ホンダジェット」を駆使して国内外のエアタクシー業界に参入をはじめているが、それにしても松浦社長の描く「未来の地域交通」は、われわれの想像を超えているようだ。

※2 「書面添付制度」とは

 税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。

  1. 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
  2. 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
  3. 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
  4. 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。

 書面添付をすると、調査対象となる前に、税理士に記載内容についての意見を求められることがあります。これを「意見聴取」と言います。この意見聴取で疑問点が全て解決できれば、調査省略となります。また、調査に移行したとしても、既に調査を行うテーマが分かっており短時間で終了するのが殆どであり、税理士・関与先ともに負担が軽減されます。

日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用

企業情報

あおい交通株式会社

あおい交通株式会社

設立
1959年9月
所在地
愛知県小牧市新町3-316
売上高
16億円
社員数
114名
URL
http://aoi-komaki.jp/

顧問税理士 株式会社中京会計
代表取締役 伊藤圭太税理士

所在地
愛知県小牧市東田中2146-1
URL
http://chukyo-kaikei.com/

『戦略経営者』2019年2月号より転載)