独立開業

公認会計士のスキルと経験を活かした「経営者のベストパートナー」でありたい

【成長する事務所の経営戦略・監査法人出身編】
 信太公認会計士事務所 信太元紀会員(TKC神奈川会)
信太元紀会員

信太元紀会員

監査法人を退職して会計事務所を開業し、記帳代行を中心とした事務所経営を続けてきた信太元紀会員。TKC入会を機にTKCビジネスモデルへの転換に取り組む信太会員に、監査法人出身の強みを最大限に活かした事務所経営等についてお聞きした。

監査法人時代の上司に誘われ独立 顧問料の相場も知らず手探りで経営した

 ──公認会計士になったきっかけと、監査法人を退職し開業された理由を教えてください。

 信太 私は大学卒業後保険会社に就職したのですが、ちょうど大手証券会社が破綻するなど金融業界の将来が不安視されていた時期で、転職のため資格を取ろうと思ったのがきっかけです。公認会計士を選んだのは、商学部出身で簿記3級を持っていたという単純な理由でした。
 公認会計士の論文式試験まで無事合格し、監査法人に入所したのが2001年。その2年後に当時横浜事務所の所長をしていた上司に「横浜事務所に来ないか」と呼んでいただいたのが転機となりました。その上司には本当にお世話になったので、その方が監査法人を辞めて独立するとき同時に退職し、一緒に仕事をさせていただくことになったのです。
 税理士登録をして信太公認会計士事務所を設立したのが2006年。数年間、元上司の事務所を間借りし、その後独り立ちしたというのが経緯です。

 ──開業にあたり不安などはありましたか。

 信太 税務業務の経験はなかったのでその点は心配でしたが、当時は監査法人を退職した公認会計士が税務業務をしながら監査法人の補助者として上場企業の監査業務をするというケースも多いと聞いていたので、食べるくらいであればなんとかなると思っていました。
 また独立直後、偶然幼馴染から「会社を作りたいので顧問税理士になってほしい」と頼まれたのも幸運でした。友人の会社なので多少失敗しても許してもらえるかなと思い(笑)、全面的にサポートすることになりました。そのおかげで税務署への青色申告等の届け出や給与計算、決算など、会計事務所業務について一通り経験を積むことができ非常に助かりました。

 ──順調な滑り出しだったのですね。

 信太 いえ、全然そんなことはなく、経営は常に手探り状態でした。
 例えば顧問料の相場が分からず、今考えるとかなり安い顧問料で契約していましたし、税務・会計業務以外の依頼、例えば給与計算の支援などを頼まれた時、普通は別途料金をいただくのが当たり前ですが「これも会計事務所の仕事なのかな」と疑問に思いながら無償でやっていました(笑)。
 確かに元上司から「徹底してお客さまに尽くしなさい」と教わっていたのですが、当時はその真意が分かっていなかったと反省しています。

立地の良さはスタッフの定着に好影響 前職での人脈で関与先を拡大できた

 ──開業にあたり特に工夫した点はありますか。

事務所外観

JR横浜駅から徒歩4分にある事務所。
開業時から便利な立地にこだわった。

 信太 事務所の立地にはこだわり、横浜駅周辺で良い場所を探しました。横浜市内には中堅クラス以上の企業も多いですし、東京方面へのアクセスという点でも便利なので、東京の関与先も増やしやすいと思ったからです。幸いJR横浜駅から徒歩4分のビルが見つかったので、そこに決めました。
 また、立地の良さはスタッフ採用・定着の面でも大きなメリットがあると感じています。現在のスタッフはご家庭をお持ちの女性パート2名ですが、通勤や仕事帰りの買い物が便利であるなど働きやすさを感じているようで、長く勤めてくれています。また、求人案内を出すと非常に多くの方から応募をいただけるので、今後も優秀な人材を採用できると思います。

 ──関与先はどのように増やしてきましたか。

 信太 実は「これをしたら拡大がうまくいった」という特別なセオリーはないんです。
 監査法人時代の先輩や同僚からの紹介、あるいは私と同じように監査法人を辞めた公認会計士から「うちは税務顧問を受けていないから、信太さんが顧問できない?」と話をいただいたり、監査法人時代のクライアントから突然電話をいただいたりするなど、個別の紹介案件が多かったです。
 件数はまだ多くないですが、既存関与先の社長に知り合いの経営者を紹介いただくこともあります。
 TKCに入会してから、「とにかく多くの人と名刺交換をする」「金融機関にあいさつに行く」という拡大方法を聞きましたが、私がそうした営業らしい営業をしなくてもお客さまを増やせたのは、監査法人時代の人脈によるところも大きかったと思います。
 現在、月次関与先としては約30件ですが、それ以外に公認会計士としての会計監査、株価の算定や上場支援といった仕事も受託しています。

 ──何か失敗事例はありますか。

 信太 開業当初、関与先紹介会社を利用したことがありました。一応、数件の顧問契約にはつながったのですが、そのほとんどが記帳代行で、顧問料の安さを優先するような関与先ばかりで後から苦労したので、これは失敗だったかもしれません。

NMフォーラム参加を機にTKCに入会 記帳代行を脱却し自計化推進に取り組む

 ──TKC入会のきっかけを教えてください。

 信太 監査法人に勤務していた頃からシステムベンダーの一つとしてTKCの名前は知っていました。ただ「入会金が高い」「帳表が紙でしか出ない」といった話を耳にしていたので、正直独立する時の利用システムの選択肢にはありませんでした。
 そのイメージが変わったきっかけが、あるベンチャー企業の上場を支援した時です。その企業の顧問税理士が神奈川会の古川茂先生で、いろいろとお話しをする中で古川先生が経営助言業務をされていることを知り「すごい税理士さんがいるな」と。
 それからしばらくして、(株)TKC主催の経営革新等支援機関向けセミナーのDMが届いたので参加したところ、その講師が偶然古川先生だったのです。経営助言や経営改善計画策定支援をテーマとしたセミナーの内容も非常に参考になり「TKCってこういう組織だったのか」と、当初抱いていたイメージがガラッと変わりました。
 決定打になったのが、そのセミナーの際に誘われた「TKCニューメンバーズフォーラム2014 in 福岡」への参加です。パネルディスカッションなど非常に参考になりましたし、やはり入会を勧誘されるのかと覚悟していたのですが、まったくそんなことはなく「われわれはこういう考え方で活動しているので、もしよかったら仲間になりましょう」と私の意思を最大限尊重してもらえました。フォーラム終了時には入会を決意していましたね。

 ──それからTKC方式の自計化に取り組むようになったのですね。

 信太 入会した以上は、TKCの方針に沿った事務所経営をしないと意味がありませんし、もともと監査法人での経験を活かすために中堅クラスの関与先を増やしたいと考えており、記帳代行中心の事務所経営ではそれが不可能であることが分かっていました。そうした意味でも、TKCビジネスモデルに取り組むのは当然です。
 実際、TKCに入会したことで FX4クラウド継続MASといった強力な武器を使えるようになり、そうした中堅クラスの企業への支援、例えば部門別業績管理体制の構築にも対応できるようになりました。
 また、 TKCモニタリング情報サービス(MIS)もすぐに始めました。決算書等のデータを金融機関に迅速に提供できるので、関与先、金融機関、会計事務所の三者にとってメリットしかないからです。
 これは昔の話ですが、ある関与先が一刻も早く金融機関から融資を受けるため、私が紙の決算書を届けるのを社長が待ち構えていて、持って行ったらその場ですぐコピーし始めたということがありました。MISがあればそんな手間と時間をかける必要はありません。
 逆に利用しないことで、決算書等の数字にやましいところがあるのかと誤解されかねませんし、取り組まない理由はないと思います。

 ──書面添付の実践についてはいかがですか。

 信太 入会するまで書面添付については詳しくは知らなかったのですが、よく調べてみると、監査法人が作成する「監査調書」と意味合いはほとんど同じなんです。きちんと関与先にコミットしていれば何も問題ありませんので、抵抗感なく取り組めました。
 一方課題としては、電子帳簿の推進があまりできていないので、今後は力を入れていきたいと考えています。

監査法人での経験は必ず強みになる 高付加価値サービスの提供に注力したい

 ──監査法人出身であることの強みについて、今後独立を考えている方に伝えたいことはありますか。

 信太 監査法人での会計監査の経験があれば、月次巡回監査の際にどの数字をチェックすればいいのかというポイントが分かりますし、会計システムを導入する際の企業全体の業務フローの構築や内部統制整備のアドバイスといった分野でも、経験を活かせると思います。
 また私の場合、監査法人時代は主に上場支援に携わっていたので、株式公開を検討している企業に対し税務顧問とワンストップで支援できるという点が、他の会計事務所との差別化につながっています。
 実際に、以前「会計監査を受ける必要性が生じたので、公認会計士を探している」という企業から、当事務所のホームページを通じて問い合わせをいただいたことがありました。都市部で開業するのであれば公認会計士資格を活かせる仕事も少なくないと思いますので、これから独立を検討している方にはぜひチャレンジしていただきたいですね。

 ──新型コロナウイルス感染症の影響について、関与先様の状況はいかがですか。

 信太 当事務所の関与先では、特に製造業への影響が大きいですね。中国から輸入している原材料がストップするなど、モノの動きが止まっているのが一番の問題です。
 TKCグループから、 ProFIT等を通じて政府の支援策等の情報提供がされていますので、そうした情報を参考に関与先の存続を全力で支援します。

 ──最後に、今後の抱負をお聞かせください。

 信太 現在TKC方式の自計化に取り組んでおり、新規関与先は自計化システムの導入を前提にしています。
 その上で、今後は FX4クラウドの導入を前提とした中堅クラスの関与先を増やしたいと考えています。私のスキルと経験を最大限に活かせるのは、そうした中堅クラスの企業への支援の場面だと思うからです。ちなみに、中堅・大企業支援研究会にも入会しており、最近上場企業へのFX5導入支援の機会をいただきました。
 こうした企業への支援では当然要求される業務レベルも高くなりますが、理念である「経営者のベストパートナーでありたい」を実現できるように、自己研鑽を続けていきたいと思います。

(取材日:4月3日(金))


信太元紀(しんた・もとき)会員
信太公認会計士事務所
 神奈川県横浜市西区高島2-10-13 横浜東口ビル302-C

(TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』令和2年6月号より転載)