独立開業

「人の役に立ちたい」との想いが原点、経営者に寄り添う提案型事務所を目指す

【成長する事務所の経営戦略・新規開業編】
 川畑高一税理士事務所 川畑高一会員(TKC関東信越会)
川畑高一会員

川畑高一会員

TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会が、TKCビジネスモデルの実践を通じて事務所を成長させている会員を数回にわたり紹介するシリーズ。第1回は「新規開業編」として、経営助言を強みとした提案型事務所を目指す川畑高一会員に話をお聞きした。

田口操会員との出会いが人生の転機 先輩会員からの助言にも助けられた

 ──税理士を目指し、開業するまでの経緯を教えてください。

 川畑 私は兵庫県神戸市の出身で、神戸空港近くのポートアイランドで育ちました。大学卒業後は製薬会社など数社で営業をしていたのですが、本当に自分がやりたい仕事なのか確信を持てず、1年以上進むべき道を模索していました。そこで「人の役に立ちたい」という就職の際の志を思い返し、また患者さんから感謝されている医師の先生方を見て「自分も専門知識で困っている人を助けたい」と感じるようになり、資格を取って独立することを決意したのです。
 税理士を選んだのは、以前から興味のあった簿記を勉強してみたら楽しかったのと、何より中小企業を支援するという仕事に魅力を感じたからです。そして平成21年、27歳の時に会計事務所に転職して働きながら勉強を始め、平成28年10月に税理士登録をしました。
 最初は地元の神戸で独立するつもりだったのですが、3人の子供たちを自然の多い環境でのびのびと育てたいと思い、妻の実家近くの新潟市で開業しました。

 ──TKCに入会されたきっかけは。

 川畑 TKC全国会、そして現東・東京会会長である田口操先生との出会いは、私の人生の中でも大きな転機の一つです。
 きっかけは職員時代でした。私が勤めた事務所はすべて記帳代行を主な業務としていたため仕事は入力作業が中心で、中には帳簿の遡及訂正を指示するような所長もいました。せっかく高い志を持って飛び込んだ業界なのに現実は理想と異なり、当時通っていた専門学校の講師と飲んだ時に「こんな事務所どう思います?」と愚痴を言ったのです。するとその方が「東京にすごい先生がいるよ」と田口先生の話を聞かせてくれました。
 早速、田口先生の事務所のホームページを見つけて「神戸の川畑と申します。いまこんな事務所に勤めているのですが、どうすべきでしょうか?」とメールをしたところ「私も職員時代に記帳代行型事務所に勤めていましたが、TKC全国会の考え方を知って目から鱗が落ちました。今は税理士としてのやりがいと喜びを感じています」という趣旨の、本当に丁寧なご返信をいただけたのです。
 その後も時々メールのやりとりを続けて励ましていただき、3年後、無事税理士試験に合格。即TKCに入会し、初めて参加したTKCニューメンバーズ・フォーラムで直接お礼を言えました。
 また、入会直後には同じ関東信越会の橋本真一先生に顧問報酬規程の雛型をいただいたり、長岡市の市村二三代先生には何度も職員と一緒に巡回監査の実務を教えていただきました。他地域会の先輩会員からも「最初から広い事務所を借りた方がいいですよ」など多くの助言をいただき、本当に感謝しています。

FX4クラウドによる課題解決を提案し年額400万円の顧問契約につながった

 ──これまでどのように関与先を拡大されてきましたか。

 川畑 開業当初は経営者団体や異業種交流会などとにかく人と会える場所に顔を出し、名刺交換した人とSNSでつながることで紹介につなげていました。ただ、そうした紹介案件は記帳代行や年一決算ばかり。忙しい割には顧問報酬が低いので資金繰りも厳しく、ストレスで円形脱毛症になりました(笑)。
 思い描いていたTKCビジネスモデルによる事務所経営ができないことに悩み、再び田口先生にメールで相談したところ「食べ物があるからダイエットができるけれど、何も食べなければダイエットどころか餓死します。まずは最低限の収入を確保し、それから関与先の自計化を進めれば大丈夫ですよ」と助言いただいて安心し、少しずつ記帳代行は受けない方向に舵を切りました。

 ──開業時に工夫したこと、こだわったことはありますか。

 川畑 事務所のブランディングは意識しました。開業前に多くの会計事務所のホームページを見て研究したのですが、経営理念が掲載されているだけで、所長の「想い」が伝わってこないサイトも多かったんです。だから自分らしさを前面に出せば差別化できると思い、ホームページや事務所パンフレットに自分の幼少時代から事務所開業までの経歴や「身近な税理士でありたい」「困っている人の役に立ちたい」「明るく話しやすい税理士が親切丁寧に対応します!」といったキャッチコピーを考え掲載しました。
 またやみくもに人に会うことは止め、司法書士など他士業の知り合いに案件を紹介したり、金融機関からの定期預金の提案に応じたりする中で人間関係を構築することを心がけました。そうした方々に「私はこういう考え方で経営しています」とお伝えした上で、紹介をお願いするようにしたのです。
 こうしたブランディングの結果、低価格での記帳代行を望む経営者の紹介が減り、私の理念に共鳴してくれる前向きな経営者とお付き合いができるようになりました。現在の関与先数は24件ですが、ほぼすべて自計化が進んでいます。

 ──拡大の成功事例を教えてください。

 川畑 先日年商約16億円の企業と、月次顧問料と決算料、システムサポート料等を含めた年間報酬約400万円という大きな顧問契約が決まりました。その会社では表計算ソフトで売り上げ等を管理し、別途他社会計システムで決算書等を作成しており、効率が悪い上に数字が合わないという問題を抱えていました。そこでFX4クラウドによるデータの一元化と銀行信販データ受信機能等を利用した経理事務効率化をご提案しました。
 SCGさんにも同行してもらってプレゼンし、また「TKC経営支援セミナー」にも社長自らご参加いただいた結果、最終的にご納得いただきました。また、前の税理士さんが何も助言してくれなかったのに比べ、当事務所のサポートが非常に手厚いこともご契約いただいた理由の一つとのことで、TKC会員事務所の強みを改めて実感しました。

書面添付やMISは差別化の「武器」経営助言を事務所の強みにしたい

 ──TKC方式の書面添付やTKCモニタリング情報サービス(MIS)の取り組みについてお聞かせください。

 川畑 TKC全国会の方針はまず実践しています。やってみて分かったのが、これらが事務所経営の強力な「武器」になるということです。
 例えば、書面添付を標準業務にしていれば、経営者との最初の面談の際に「当事務所では税理士法第33条の2の添付書面を作成しています。これを税務署に提出している法人は全国で1割もありません。御社のメリットは、税務調査が省略される可能性が高まること、また決算書の信頼性が高いことを裏付ける資料にもなるので、金融機関からの融資が受けやすくなることです」と説明できます。
 MISも、社長に「決算書等を銀行にデータで提供する方が便利ですよね」と当たり前のサービスとして進めています。この二つだけでもTKC会員ではない税理士との差別化になっています。
 当事務所の顧問料は記帳代行型事務所に比べて割高かもしれませんが、こうした付加価値の高いサービスを提供していることがその根拠となっているので、経営者にも堂々と提示できています。

 ──経営助言業務にも力を入れているそうですね。

 川畑 もともと困っている経営者を助けたいという想いがあったので、コンサルティングの講座や事業再生のセミナーを受講するなど勉強をしていました。
 ただ、そうした勉強を通じて感じたのは、基本となるのは継続MASを活用した経営計画の策定だということです。ほとんどの経営者は、私が当初考えていたような本格的な経営コンサルティングを求めているわけではなく、まずは社長が数字を見て経営できるようにするきっかけを作ることが入口です。
 ですから今は「経営計画を作りましょう」と堅苦しくアプローチするのではなく、「社長、来期は売り上げを伸ばして、役員報酬を増やしましょう!」とフランクに話をして、単年度計画のたたき台を作ることから始めています。
 もちろん、経営助言を行う前提は毎月の巡回監査の実施です。巡回監査を徹底しているからこそ決算もスピーディーに組めるし、正確な数値に基づいた的確な経営助言ができる。月次巡回監査の質が大事だということを常に職員に伝えていますし、数年後には提案型事務所として「経営助言なら川畑会計だね」と評判になっていたいですね。

大切なのは職員との理念の共有「日本一働きたい事務所」が目標

 ──職員さんについて、採用・育成の方針をお聞かせください。

職員の皆さんと

職員の皆さんと

 川畑 現在、正社員2名とパート1名の職員がいます。採用に当たって見ているのは、①素直、②前向き、③誠実、④貢献、⑤勤勉──という人柄です。実は以前採用した職員が会計事務所の経験者で、即戦力になってくれると喜んだのですが、相性が合わず結局退職してしまうということがありました。面接の際に私の考えをきちんと伝え、素直さや事務所の仲間に貢献する意識があるかどうかを見極めるのが重要だと学びました。
 育成については、TKCの巡回監査士補研修などに参加してもらうことで、税法の基礎を身に付けてもらっています。また実務面ではOJTを非常に重視しており、職員に丸投げするのではなく、最初はなるべく一緒に仕事をして、私の考え方やその仕事の意義をしっかり伝えるようにしています。
 一番大切なのは、所長の私と同じベクトルで働いてもらうことです。そのために日ごろのコミュニケーションが重要だと考えており、具体的にはOMSの業務日報を活用し、その日に行った作業、会った人、お客さまから預かった資料や渡した資料、情報提供や指導をしたこと、相談を受けたことなど、項目に沿って報告してもらっています。そうした報告に対し、私が感じたことを書いたり、必要があれば細かく指示を出したりすることで常に意思疎通を図っています。
 もちろん、感謝の気持ちや良いところを伝えるのも大切ですよね。褒めるのは苦手ですが(笑)、できるだけ言葉に出すようにしています。

 ──今後の目標をお聞かせください。

 川畑 事務所のビジョンに掲げている通り「日本で一番働きたい税理士事務所にする」ことです。私自身、職員時代につらい思いをして、田口先生と出会っていなければ税理士になる目標を見失っていたかもしれません。いま税理士試験の受験者数が減っているそうですが、会計事務所に就職し「私も税理士を目指そう」という職員が増えれば、税理士業界はもっと良くなるはずです。
 『TKC会計人の行動基準書』の項目を一つずつ実践しながら、職員がやりがいを感じ、立派な職業会計人として成長できるような事務所を作っていきます。


川畑高一(かわばた・たかひと)会員
川畑高一税理士事務所
 新潟県新潟市中央区南笹口1-11-9 豊マンション102

(TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』令和2年4月号より転載)