事務所経営

本当に中小企業を支援したいならWebBASTの活用は絶対に欠かせない!

とき:平成28年5月28日(土) ところ:TKC東京本社

6月1日から、平成28年版「WebBAST」(ウェブバスト)の提供が開始されている。平成28年版「WebBAST」は、収録企業数23万社超・収録業種1053業種に上る。TKC経営指標編集小委員会でデータ編纂・分析に携わる田中裕之会員・山本清尊会員と、関与先への経営支援でWebBASTを有効活用しているという小湊昭会員・土田士朗会員が、WebBASTの特長やメリット、具体的な活用手法、経営助言のあり方について語り合った。
※TKC経営指標(BAST)の詳細はこちら

出席者(敬称略・順不同)
 田中裕之会員(北海道会・TKC経営指標編集小委員長)
 山本清尊会員(近畿兵庫会・TKC経営指標編集小委員)
  小湊 昭会員(関東信越会)
 土田士朗会員(西東京山梨会)

司会/木村治司会員(静岡会・中小企業支援委員会金融機関等関連小委員長)

WebBAST座談会

23万社超のデータを売上規模別・業種別に収録 BASTの活用はベンチマークに有効

 木村 本日は、「中小企業のベンチマーク」であるWebBASTについて、開発面で尽力されている田中先生・山本先生、BASTを有効活用されている小湊先生・土田先生にお集まりいただきました。皆さんの事務所での活用事例、率直なご意見などを幅広くお話しいただきたいと思います。まずTKC経営指標編集小委員長をお務めの田中先生から、WebBASTの概要と特長を教えてください。

田中裕之会員

田中裕之会員

 田中 BASTの第1版は昭和50年に発行されており、平成28年版で第42版になります。第1版の収録企業数は約1万4千社だったそうですが、最新の平成28年版では約23万5千社と、第1版に比べ約17倍という規模になっています。
 BASTは、発行年の前年1月から12月までのTKC財務会計システムを利用して決算を組んだデータに基づいて編集されている経営指標です。TKC会員事務所が毎月きちんと実践している巡回監査と、月次決算を経た上で作成された信頼性の高い決算書データがベースとなっています。毎年6月に最新版が提供されており、データの新鮮度は大きな特長の一つといえます。
 最大の特長としては、TKC財務会計システムの科目配置基準という一つの体系的なルールに基づいて数字ができあがっているということ。経営分析にあたっては、どの科目を使われているかが非常に重要になってきますが、BASTは、きちんと決められたルールの下で統一されたデータが集計されています。したがって、データの精度という面では圧倒的な優位性があります。
 それだけでも十分に信頼性が高い経営指標であるといえますが、実は、単にデータを合算して平均を出しているわけではありません。集まったデータはコンピュータ上で統計学的手法を用いて異常値を排除。最終的に23万5千社という収録企業数になっているのです。ちなみにBAST発行当初は書籍版で、なおかつ手作業で異常値を排除していたためにデータ編集・分析には相当な苦労があったと聞いています。
 この「23万社超」という数字は、日本の法人数(約260万社)の約9%にあたります。収録業種も平成27年版では1041業種でしたが、平成28年版では1053業種へ増えました。

 木村 気になるのは、収録企業の黒字割合です。平成28年版ではどうですか。

 田中 全産業では、前年よりも0.7ポイント上昇して50.7%。6年連続の上昇となっています。KFS利用企業では、「F利用」が55.2%、「KF利用」が56.0%、「KFS利用」が57.3%と、まさに理想的な数字となっています。
 なお毎年3月中旬に皆さんの事務所に届く「BAST調査票」は、実は調査票発行の前段階で、すでにある程度のデータ整理作業を経ています。調査票の入力・送信には当然のことながら関与先の了解が必要ですし、最終的には会員の皆さんが採用の可否を判断することになります。守秘義務の問題やデータ漏えいを心配している方もいるかもしれませんが、法人名も会員事務所名も外に出ませんので、守秘義務は担保されています。

「赤字なのは特殊な環境下だから」と言う社長に現在位置を把握してもらう

 木村 BASTは私たちTKC会員の財産ともいうべき宝のデータです。そのBASTを、皆さん方の事務所ではどのように使われていますか。具体例や活用の効果についてお話しいただきたいと思います。小湊先生はいかがでしょうか。

小湊 昭会員

小湊 昭会員

 小湊 私は昭和51年の入会ですが、BASTは入会当初の書籍版だった頃から決算報告会や業績検討会の場面でずっと活用し続けています。
 私の事務所では、決算書の付属資料として当期実績・前期実績・計画値とともに、同規模の黒字企業平均のBAST値を表示した簡単な資料をエクセルで作ります。この資料は決算報告会での説明用。決算報告会は社長に来所いただいて行っています。
 報告会ではプロジェクターを使ってBASTを見てもらいますが、最近非常にいいなと思っているのは、売上規模別に見られること。書籍版・CD-ROM版では、売上規模別データというのは黒字企業だけでしたが、Web版では優良企業・欠損企業についてもデータが見られるようになっていて、すごくいい。信憑性がある。社長にも伝わりやすいですよね。
 中小企業の7割が赤字といいますが、規模別で見ると年商5000万円未満の企業が圧倒的に多いだけで、1億~2億円の規模になると欠損割合は約3割になります。だいたい社長は、「うちは特殊な環境にあるから」という意識の人が多いですから、本当にそうなのかというのを売上規模別、業種別データを見せて分かってもらう。それで、黒字企業平均と欠損企業平均をだいたいつかんでもらって、そのあと地元・新潟県の平均値を見ていきます。数字が苦手な方にあまり細かく説明しても嫌がられますので、おおむね見てもらうポイントは売上、粗利率、自己資本比率、自己資本額といったあたりです。
 BASTでまず自社の現在位置を把握してもらってから、継続MASを使って5カ年計画のシミュレーションをします。「頑張ったら5年後には余裕ができそうだから、設備投資も考えてみましょうか」というような話にもつなげられます。

土田士朗会員

土田士朗会員

 土田 小湊先生がおっしゃるように、赤字になると「不景気だから」と言う社長は多いものですが、5割超の企業が黒字になっているBASTを見せれば「不景気でも、黒字企業はこれだけあるんですよ」と言える材料になるのは大きいですよね。ただ根性論で「頑張りましょうよ!」と言うのと説得力が違います(笑)。
 私の事務所では、父の代からある自前の決算チェックリストを使っています。このリスト内には当期・前期・前々期の数字とBAST値を入れて、主に異常値分析のために使っています。
 例えばある飲食店で、BAST値と比較したら異様に利益率が低い関与先がありました。「原価を洗い出してみてください」と何度も社長を説得して、材料の原価を全部洗い出してもらい、味を落とさないように気を付けながら精査してもらったところ、1年くらい経ってようやく利益率が改善されてきたところです。

決算帳表の数字と比較して社長の戦略と思いを引き出す材料に

 木村 皆さん、特に決算の場面ではBASTは欠かせないという認識ですね。山本先生はどのように使われていますか。

山本清尊会員

山本清尊会員

 山本 私は決算帳表の右端に出ているBAST値をまず見てもらって、社長の戦略を引き出す材料にしています。
 例えば製造業では、熟練工の技術で加工するところもあるし、高額な機械を入れて人件費を抑えるところもある。どの戦略でいくかは私たちが判断することではないので、社長にBAST値を見てもらって、「御社は平均よりも人件費が少ないようですが、どうですか」と聞く。「私のところは機械にカネかけているから」という答えが返ってきたら、「今後もその方針ですね。じゃあ来期はこれくらいの償却を見込みましょう」という具合に、話を発展させて経営計画を作っていきます。
 最近では、7000プロジェクトで経営改善計画を作る時に適正在庫や手形の割合などをすごく参考にしています。社長と話をする時も、BASTを見ていただくと「他社でできるならうちもできるかな」と、結構勇気づけられるみたいです。そこで他社と何が違うのか、ヒントはないかと一生懸命考えていただけるようになるので、ヒアリングしながら社長の考えを引き出して、経営改善計画の数値に落とし込んでいく。そうすると活きた計画を作ることができるんです。

BAST比較で原価率があまりに高い!精査したら架空請求が発覚したことも

 木村 田中先生の事務所ではどういった使い方が多いでしょうか。

 田中 うちの事務所では、税務申告の際に異常値分析をして、添付書面を書く時の材料にしています。例えば、建設業で外注比率がBASTの数字と比べて明らかに異常と思われる数字が出た時は、その理由や背景を経営者に確認する必要がありますよね。その時に、「平均と比較すると今期の外注比率が10ポイントも高いんですが、どうしてですか」と聞けば、角が立つことなく聞けますし(笑)、その確認事項をそのまま添付書面に書けばいいというわけです。
 BAST比較の効用としてこんなこともありました。
 小売業の関与先で、BAST比較の結果、原価率があまりに高かったので売上計上漏れなどの原因がないかどうか確認をお願いしたところ、仕入において、発注していない商品の請求がされていた──という事例がありました。これをきっかけに、それまで納品書と商品のチェックを怠っていたという内部統制の不備も確認でき、その後の改善につながりました。

 木村 そういうケースもあるのですね。

 田中 そうなんです。改めてBAST比較の重要性を肌で感じた事例です。

数字に貪欲な若い経営者なら適正値に敏感に反応してくれる

司会/木村治司会員

司会/木村治司会員

 木村 BASTはTKC会員しか使えないデータです。事務所の差別化にも役立つと思うのですが、いかがでしょうか。

 土田 最近は新規のお客さま、特に若い経営者と会うことが増えていて、そこでつくづく思うのは、最近の若い経営者はすごく素直で、良い意味で数字に貪欲ということ。例えば、「売り上げに対する家賃の割合はどれくらいが適正なんですか」「自分はいくら役員報酬とっていいんでしょうか」と、すごく熱心に聞いてきてくれる。そこでBASTを見せると「そうなんですか」とすぐに腑に落ちてくれる。それ以降も、うちの事務所をすごく頼りにしてくれるようになりますね。

 田中 新規のお客さまにはサービスで、BASTを使った簡単な経営診断をしています。「御社はいまこういう状況です。利益率を改善すればもっとよくなると思います」という話をさらりとすると、「なんか頼りになるな」みたいな雰囲気に(笑)。もっとしっかりした経営診断を希望されるお客さまには、BASTを徹底的に使って詳細な資料を用意します。この経営診断だけで報酬をいただくこともありますね。

 山本 新規のお客さまとの面談時、あらかじめその業種のBAST値を頭の中に入れていくようにしているんです。「御社の業界の売上高と平均従業員数はこれくらいですかね」と言うと、「この先生、うちの業界のことよく知っているな」と安心されるし信頼感が増すみたいです。
 もう一つ、これは特殊な例かもしれませんが、「公益財団法人ひょうご産業活性化センター」が発行している月刊誌に「県内業種別企業業績動向速報解説」というコーナーを作っていただき、兵庫県のBASTデータを基に、近畿兵庫会の会員8人でリレー執筆しています。金融機関の雑誌コーナーにも置いてある雑誌なので、BASTやTKC会員事務所のPRにもなっています。

BASTの徹底活用には前段階がある 経営分析の知識・スキルが必要不可欠に

 木村 今度は事務所の内部に目を向けてみましょう。BAST活用が所内にもたらすメリットについてはどうですか。

 土田 うちは毎年、年末に3カ年計画と翌年の業務方針を出していて、業務方針の目標に「経営助言に力を入れていこう」ということを毎年入れています。もちろん、経営助言の軸になるのはBAST活用ですが、おかげで職員が力をつけてきてくれているのを感じます。
 税理士に求められる仕事が、ここ数年で単なる税務申告から経営助言へと大きく変わりましたよね。いまは税務から会計へという大きなトレンドの中にある。そうすると、BASTを活用した経営助言はこれからますます重要になってくるはずです。もちろん税務をおろそかにしていいということではなくて、雇用促進税制や設備投資促進税制などの税制を活用しながら、儲かっている会社についてはきちんと税額控除を受けられるようにするのは非常に大切なことです。
 それに加えて、中小会計要領に準拠した正しい会計処理をする。赤字であれば、減価償却費や在庫を調整するのではなくて、正しい会計処理をした上でどう黒字に持っていくか──という指導をしなくてはいけないわけです。社長の意識付けのために職員が活用できる一番良いツールが、やっぱり同業他社比較ができるBASTなんですよね。

 田中 BASTは一つの着眼点として、良いモノサシになると思います。というのも、経営分析に関する知識や分析手法をある程度理解していないとそもそもBASTを活用するのは難しいですから、職員のスキルアップという面では、すごく参考になるんですね。
 以前、『わかる財務三表 できる経営助言』(TKC出版)をテキストにした年度重要テーマ研修があって、経営分析の仕方や社長とのコミュニケーション方法を学ぶ機会がありました。当時、その研修で経営分析のイロハを学んだ職員は、比較的BASTを活用したり、関与先と話をしたりするスキルが身についています。でも、結局は事務所が意識して教え続けていかないと所内に浸透していきません。そこで、うちの事務所では、今でも同テキストを所内研修で活用しています。

WebBASTの特長

 TKCグループホームページから確認できる「WebBAST」の主な特長は、次の通りです。

  1. 「優良企業平均」「黒字企業平均」「欠損企業平均」「全企業平均」「黒字企業中位グループ平均」ごとに「損益計算書」「貸借対照表」「変動損益計算書」「経営分析表」のBAST値を確認できます。
  2. 全てのBAST値は、売上規模別、かつ地域別(経済圏別・県別)に確認できます。
  3. 業種コードの選択では、ツリーからの選択の他、キーワードによる検索も行えます。また、業種の説明(日本標準産業分類)を確認することもできます。
  4. 売上高または限界利益に占める固定費等の割合は、グラフで確認できます。
  5. 基本分析に加え、2期比較、3期比較、5年比較、5業種比較の各種分析を行えます。

●ツリー形式・キーワード検索で業種を選択
 業種の選択画面では、ツリー形式からの選択の他、キーワードによる検索も行えます。業種を選択し、決定ボタンをクリックすると、選択した業種の「損益計算書」「貸借対照表」「変動損益計算書」「経営分析表」の指標(BAST値)を確認できます。業種の選択に当たっては、業種の説明(日本標準産業分類)も確認できます。

●売上規模・地域ごとにBAST値を確認
 売上規模を選択することにより、売上規模別の「優良企業平均」「黒字企業平均」「欠損企業平均」「全企業平均」「黒字企業中位グループ平均」の指標(BAST値)を確認できます。また、地域を選択することにより、地域別(経済圏別・県別)でも確認できます。中小企業の経営改善支援の際の指標としてご活用いただけます。
※黒字企業とは、期末純資産がプラス、かつ税引前当期損益がプラスの企業のことです。

●グラフで視覚的に状況を把握
 「グラフ確認」ボタンから「優良企業平均」「黒字企業平均」「欠損企業平均」ごとに、「売上高または限界利益に占める固定費等の割合」をグラフで確認できます。グラフの種類は、「費目別比較」または「費目積上比較」から選択できます。グラフ表示することで、視覚的に状況を捉えることができます。

日本全体・中小企業の10年間の動向が分かる「産業別経営動向」

 木村 中小企業支援委員会では、前身の創業・経営革新支援委員会の時代から金融機関に対するBAST贈呈(提供)活動を行ってまいりました。現在、248の覚書締結金融機関のうち、202金融機関でWebBASTが活用されており、5000IDを超えたところです。近畿兵庫会中小企業支援委員長でもある山本先生、BAST提供活動を通じた金融機関からの評価についてはどうでしょうか。

 山本 金融交流会で、TKC会員の行う業務内容やBASTの編集過程をお話しすると高い評価をいただきますね。
 またCD-ROM版からWeb版になり、地域会の覚書締結金融機関のみに提供ということになりました。これをきっかけに、金融機関側から「覚書を締結したい」と打診いただいたところもあります。貴重なデータとしてBASTを認識されている証拠なのではないでしょうか。ある金融機関では、融資先の審査をする時にBAST値の一部を独自の評価計算式に組み込んでシステムを作っているということも聞きました。

 木村 金融機関では、融資審査の段階で活用されることが多いようですね。棚卸や売掛金が過大計上されていないか、BAST値を活用してチェックする金融機関もあるそうです。今のお話のように仕組み化されていると金融機関の方もきっと使いやすいですよね。今後WebBASTをより使っていただくには、どのような方策が考えられるでしょうか。

 山本 今後は、モニタリング会議や経営サポート会議の場でWebBASTを活用する場面を増やせば、金融機関や信用保証協会へのPRにもつながるのかなと思います。それからTKCのフィンテックサービスの一環として「月次試算表提供サービス(仮)」などが開発中ですが、BAST値を含めた試算表が見られるようにできたら、よりTKCの未来が輝くような気がするんです。それには、BASTの使い方や、TKCのフィンテックサービスを説明する金融交流会を根気よく継続していくことも必要ですよね。

 小湊 金融機関から「BASTのデータを見せてほしい」という要請をいただくこともあります。こういった方がもっと増えてくれたらうれしいですよね。

 木村 WebBAST提供活動や金融交流会の資料として「産業別経営動向」を活用したらどうかと思うのですが。

 田中 「産業別経営動向」は、手前味噌ですがすごく良い冊子なんですよ(笑)。全産業の動向と、主要6産業(製造・建設・卸・小売・飲食・サービス)の経済動向が手に取るように分かりますし、黒字企業割合はもちろん、6指標(1社当り売上高・限界利益率・労働分配率・1人当り人件費・1社当り固定費・売上高経常利益率)も10年間の推移を掲載しています。過去10年間の日本経済の状況と中小企業の業況を読み解くには非常に参考になると思います。この「産業別経営動向」の概要を金融交流会等で伝えていけば、BASTそのものにも興味を持っていただけるかもしれないですね。

 山本 今年3月、経済産業省が公表した「ローカルベンチマーク」は、企業・金融機関・認定支援機関が同じ目線でコミュニケーションをとれるようにしよう、という目的で作られましたが、実はBASTも同じように使えるツール。ぜひ多くの金融機関で活用いただきたいですね。

 田中 経済産業省の「ローカルベンチマーク」も、金融庁が力を入れている「事業性評価」も、結局は中小企業・地域経済の活性化が目的ですよね。BASTも同じ理念なのですから、同じ目線で一緒に活用してくれる金融機関が増えてきてくれたら、すごく面白いなと思います。

「会計で会社を強くする」方向へ金融機関と共に歩んでいこう

 木村 WebBASTのさらなる活用に向けて、最後に一言ずつお願いします。

 小湊 毎月、試算表で生の数字を見ている私たちですが、「同業他社はこうです」と守秘義務があって言えない部分をBASTが肩代わりしてくれているわけですよ。そういう意味では、一番得意な分野で社長に話ができるということです。
 でも今日皆さんのお話を聞いていたら、正しい財務諸表の作成や書面添付の実践といったベースの部分にこだわっている事務所でないと、そもそもBASTに関心が向かないのかなという気がしました。同時に、BASTがTKC会員の貴重な財産だとも改めて認識させてもらいましたので、活かさないのはあまりにもったいない。まずは決算報告会から活用してほしいと思います。

 土田 TKC会員はいま、「会計で会社を強くする」という道を目指していますよね。そのための大前提として一気通貫のTKCシステムをフル活用しようという方向ですが、それはBASTも含めて、ということだと思うんですね。BASTは毎月の巡回監査が基になっているわけですから、私たちTKC会員がお客さまに提供するサービスのレベルを上げれば、BASTのクオリティもどんどん上がっていく。金融機関や税務署など、対外的な評価も自然と高まっていくんじゃないかと思います。「皆で良いデータを作ろうじゃないか!」という思いで一杯です。

 山本 社長が必ず興味を持っているのは、同業他社の数字です。BASTを一緒に見れば必ず会話が弾むはずですから、社長とのコミュニケーションツールとしてぜひBASTを活用いただきたいと思います。それから、いまは全法人の約9%の収録企業数ですが、これが20%、30%という数字になればいいなと思っています。私たちTKC会員の毎月の巡回監査の積み重ねがBASTです。より精度の高いデータを一緒に作っていきましょう。

 田中 BASTを何のために活用するかといえば、社長に気づきを与え、考えてもらうようにするためですよね。いま会計事務所には、税務を大前提として会計を軸としたサービスの提供、つまり経営助言が求められていますが、それには何かと比較して問題点を指摘しないといけない。そうすると経営助言の現場ではBASTは絶対に使わざるを得ないと思うんですね。地域経済の活性化のためにも、もっともっと多くの人にBASTを有効活用してほしいと願っています。

 木村 「会計で会社を強くする」という同じ方向を見て、TKC会員と金融機関の双方がBASTを活用して中小企業を支援できれば、地元の中小企業をもっとよくすることができるはず。今後の委員会活動にもつなげていきたいと思います。ありがとうございました。

(構成/TKC出版 篠原いづみ)

(会報『TKC』平成28年7月号より転載)