独立開業
経営者に寄り添い、すべての課題に応えられる事務所にしたい
監査法人出身会員が「ゼロからの開業」を語る
とき:平成27年6月24日(水) ところ:TKC東京本社
税理士事務所の開業という道を選んだ3名の監査法人出身会員が集い、税理士業務の魅力、開業までの経緯、TKC入会のメリット等を語り合った。
出席者(敬称略・順不同)
冨山 昇会員(TKC北海道会)
野口新太郎会員(TKC東京中央会)
山口徹也会員(TKC九州会)
司会/ニューメンバーズ・サービス委員会
副委員長大井敏生(TKC東京都心会)
経営者との「距離の近さ」にやりがいを感じ開業を決意
──本日は、監査法人の勤務を経て独立開業された3名の会員の皆さまに、これまでの経験などをお話しいただきたいと思います。
まずは、事務所の概要や特徴について教えてください。
山口 福岡県の北九州市で開業している山口と申します。平成21年に開業し満6年になります。職員は6名、全員が税理士事務所の経験者です。法令や判例をもとに皆で話し合い、適切なアドバイスができる体制づくりを心掛け、事務所内の勉強会なども行っています。
関与先数は70件から80件程度です。税務顧問契約、財務顧問契約、監査役契約などさまざまな契約形態があり、複数の契約を結び、深く関わっている先が多いです。
冨山昇会員
冨山 北海道から参りました冨山です。平成23年に北海道の当別町で開業して3年が経ちました。事務所の特徴は、自由な雰囲気と、関与先の過半数が町内のお客さまだということです。当別町は札幌市の北に位置する人口約1万7千人の町で、当事務所以外に税理士事務所がありません。現在、私と2名のスタッフという体制で、関与先数は月次関与先が約40件、スポット先を含めると70件程度です。
野口 東京中央会の野口です。事務所は東京都港区で平成22年に開業して、5年と少し経ちました。職員は4名で、関与先数は約70件です。当初は、主に事業再生やM&A等のスポット業務がメインでしたが、開業2年目から事務所基盤の安定を考えて税務顧問業務に注力してきました。スポット業務は積極的に営業せず、お話があれば受けるという姿勢です。
お客さまとの距離を近く、フットワークを軽く、柔軟な対応を事務所として意識して取り組んでいます。
──開業までの経歴についてお聞かせください。
冨山 私は岡山県出身で、大手監査法人に入社し、岡山事務所に配属されました。もともと北海道が好きで、毎年夏になるとドライブに行っており、思い切って転勤を希望して、札幌事務所に異動になりました。
その後、北海道でのびのび暮らしたいという思いから、11年ほど勤めた監査法人を退職し、独立開業しました。
野口 私は大手監査法人に6年半、税理士法人へ転職し3年半の合計10年間勤務しましたが、税理士業務のお客さまとの「距離の近さ」に非常に驚きました。
──「距離が近い」とは具体的にどのようなことでしょうか。
野口 上場企業の法定監査は、チェック業務が主で、経営者と直接話す機会は限られ、会計士以上に優秀な経理担当者もおられますので、一定の距離感を感じました。一方、税理士業務においては、税務顧問という立場ではありますが、経営者から助言指導を求められ、方向性や思いを共有できることが多いです。
そのような距離感に違いがあるためか、恥ずかしい話、転職先の税理士法人の年下のメンバーの方が監査法人に6年間勤めた私よりも仕事に対する責任感が強く、モチベーションも高いと感じました。それまでの自分の姿勢を反省し、税理士法人での経験を重ねるうちに税理士業務にやりがいを感じ、独立を決意しました。
山口 私も大手監査法人に約10年勤めており、IPOやM&A時のデューデリ、地方自治体や独立行政法人の監査等を担当しました。その後、「ものづくり」に魅力を感じて創薬ベンチャー企業に転職し、CFOとして約5年勤めました。そして、それまでの経験を活かして、業種の壁を越えた「いいとこ取り」をしながら経営者をサポートするのが自分の務めだと考え、地元で税理士事務所を開業しました。
監査法人時代に、小規模法人を担当していたので、それほど税理士業務とのギャップは感じませんでしたが、法定監査では、完成した資料をこちらがチェックするという立場のため、常にお客さまと一定の距離がありました。野口先生がおっしゃったように、経営者や会社と「距離が近い」ところが税理士業務の特徴であり、魅力だと思います。
現在、大学院でマーケティングの講師をしており、関与先へのマーケティング手法の提案等も積極的に行っています。
税理士業務へのサポート等が手厚く幅広いTKCに入会
──TKCに入会した理由について教えてください。
野口新太郎会員
野口 私は、偶然が重なってTKCに入会することになりました。独立して2年経った頃に、友人が役員を務める会社から税務顧問の依頼がありました。話を聞くと、「今使っているTKCシステムをやめて顧問税理士を変更したい」という話でした。
TKCのことを詳しく知らなかったので、センターに連絡してみたところ、当時のセンター長代理が私の事務所に来て、TKCの説明をしてくださいました。それで、「これは自分が入るべきだ」と思って、すぐに入会してしまったんです(笑)。ちょうどその頃、事務所経営をしていく上で、「どこから情報を入手していけばいいんだろう」と悩んでいたときで、話を聞いて、TKCのネットワークに心強さを感じました。
結局、その会社は引き続きTKCシステムを使い続けることになりました。TKCシステムを一通り導入している会社だったおかげで、システムに慣れることができたので、重ねて幸運でした。
冨山 私は、北海道でTKCが開催した会計士向けの勉強会に参加して、刺激を受けたことがきっかけです。退職したころは、監査法人がリストラを行っており、税理士を目指そうと考えていた人が周囲に多かった時期でした。
独立にあたり、とにかく税理士業務への不安が大きかったので、一番手厚く、幅広くサポートをしてくれるところがTKCだと感じて、分からないことは全部頼ろうという考えで入会しました。監査法人をやめて独立開業した後輩が、TKCに入会してから活き活きと仕事をしている、という話を聞いたことも後押しになりました。
山口 私の入会のきっかけは、当時のセンター長から提案を受けたことです。そのとき、他社システムを3年間ほど利用していましたが、TKCの「法人決算申告システム(TPS1000)」にも以前から興味があり、どうしようかと悩んでいました。
TPS1000は、別表入力型ではなく申告業務に沿ったメニュー構成となっており、自動的に入力画面が進んでいく仕組みですのでヒューマンエラーが起こりにくく、基本的なミスは「税法エキスパート・チェック」機能で防ぐことができます。職員のことを考え、誰が入力しても同じような結果になるシステムを使いたいと思ったんです。
さらに、その入力方法は、監査法人で監査の際に用いていた調書の入力システムに似ています。決まったメニューに従って、自動的に入力画面が進み、入力が済むと合理的な結論に向かう、その点はそっくりだと思います。
冨山 そうですね。
野口 確かに似ています。
──すると、TKCシステムは、監査法人出身の皆さまにとって、なじみやすいシステムだということなんですね。
SCGから指摘を受けて事務所の課題を認識できた
──TKCに入会して、良かったと思うことはありますか。
野口 開業後に抱えていた、組織に属さないことで感じる「孤独感」がなくなりました。
開業してからは、誰も私に指示してくれないし、課題を指摘する人もいません。悩みを相談する相手がいませんでした。
TKCに入会してからは、担当SCGから「他の事務所と比べて、野口さんの事務所はここが足りません」と、事務所経営に関する耳の痛い指摘をされました。それが的確で、事務所の課題を認識することができて、ありがたかったです。
また、事務所経営の転機となったのが、当時のセンター長の呼びかけのもと、入会時期の近い7人の会員で勉強会を始めたことです。
今でも月に1回開催していますが、定期的に現状を報告し合うことで、自分もしっかりTKCの方針に沿って仕事をしようと気が引き締まり、事務所経営が以前よりもうまくいくようになりました。勉強会で、同じような課題を共有することで気持ちが前向きになり、解決の糸口が見えてくることもありました。
冨山 TKCは研修制度が充実していること、支部例会や秋期大学といったイベント等で他の会員と交流の機会を持てるところに魅力を感じています。
開業当初に、ニューメンバーズフォローセミナーで先輩会員の成功事例を聞けたり、事務所見学会に参加できたことは、非常にありがたかったです。
山口 私は入会してすぐに、TKC出版主催のボストン・ニューヨーク会計事務所見学ツアーに参加しました。その間、全国の成功している先輩会員とずっと一緒にいて、若いころからの話を多く聞けたことが非常に参考になりました。
「TKC経営指標(BAST)」や継続MASシステムシステムなどはとても使いやすく、形式的な書類作成や比較試算はシステムに頼って、事務所職員はお客さまへのコンサルティングに注力できるところがいいですね。もっと他の会員の活用事例を学びたいと考えています。
──TKCシステムに対する所感をお聞かせください。
野口 事務所のメンバーの負担感と業務の効率を考えると、TKCシステムの使用がベストという方針です。システムに触れたことのない未経験者でもヘルプデスクできめ細やかな対応をしてくださるので助かっています。
冨山 スタッフの負担を減らすという意味で、私もTKCシステムに集約したいと考えています。今は9割くらいの導入率だと思います。
山口 現在さまざまな自計化ソフトがありますが、システムの差が出てくるのは、その開発体制だと思います。その点、TKCは会員が開発に携わっていることが大きな強みです。単なるシステムベンダーではなく、TKC全国会という存在があり、理念や方針があるという意味で他と異なると思います。たとえ現状のシステムで対処できない部分があっても、ヘルプデスクに相談すれば、現在の対処方法を示し「今後はこのように対処します」と答えてくれます。そのようなところからも、TKCシステムに対しては信頼を寄せています。
セミナー講師の経験で成長し新たなネットワークを持てた
──事務所経営における監査法人出身者の強みはありますか。
山口徹也会員
山口 金融機関等とのネットワークがあることでしょうか。私の場合は、社長を説得するとか、伝票を切るとか、一般企業の社員を経験した強みの方が大きいかもしれません。「人の管理」という面では、監査法人もチームワークの仕事でしたので、分担とか、スケジューリングについては慣れていました。
冨山 私もネットワークが強みだと思います。監査法人時代の仲間は、いまだに監査法人勤めの人も、独立した人も、海外で働く人もいます。それぞれ得意分野を持っているので、何かあったときすぐに相談し合うことができます。
基本的には監査法人業務と今の業務はそう大きく異なるものではないと思っています。企業を訪問し、経営者と会い、経理担当者と話し、数字を見せてもらう。これまでの監査法人の経験を活かすことができます。
野口 私は、監査法人や税理士法人といった大企業での勤務を経験できたことがよかったと思います。独立開業して、TKCに入会し、まっさらな状態で、素直に先輩会員方から多くのアドバイスを聞けたので、回り道をしなくて済みました。
──経験の少ない中で、税理士業務に携わっていく不安はありませんでしたか。
野口 開業当初は、チェック体制のない中で、申告書を作成することが非常に怖かったです。
TKCに入会してからは、その不安は大分軽減されました。基本的なミスはシステムで防げますし、サポート体制もしっかりしている。「頼れる仕組みがあるから、自分でもやれる」という自信につながりました。
山口 私は、経験のなかった相続税がとても不安でした。しかし、事業承継等のご相談を受ける上でも相続税は避けて通れませんので「相続税はじめました」と看板を掲げたところ、なんとセンター長から相続税のセミナー講師を依頼されてしまって。それで必死に勉強しました(笑)。
自分の能力を超えたところに成長がありましたし、講師の経験を通じて新たなネットワークを持てたので、そういう意味でも機会を与えていただいたことはありがたかったです。
業務レベルを引き上げ所長不在でも成立する体制に
司会/大井敏生会員
──事務所経営における課題を教えてください。
山口 一番の課題は自分が選手と監督を兼ねてしまっていることです。成功している先輩会員の事務所では、所長は監督に専念しています。私が職員を管理しきれていないことで職員に負担をかけてしまっていると思うので、基本となる税理士業務とスポット業務を分け、バランスよく仕事を組みたいです。
自分の思いに共感してくれる職員の業務レベルを引き上げ、給与も引き上げていくことなども課題です。
冨山 私の事務所は業務の幅が広いことが課題です。海外の不動産を買おうか悩んでいるとか、酪農の経営者が子牛を買おうかなとか、本当にいろいろな相談が来ます(笑)。それが面白さとも言えるのですが。
それから、私もすべての業務が自分に集中しているので、私が不在でも業務が滞ることがない体制を作ることが今一番の課題だと思います。
野口 自分が業務に追われているという悩みは、私も同じです。目の前のことに忙殺され、事務所の進むべき方向をじっくり考えるための時間が十分には確保できていません。
また、事務所メンバーの能力と仕事量、報酬のバランスを決めるのが非常に難しいです。今のやり方が適正か、不満を持っていないか、などと悩みます。最近は、「税理士試験合格」や「余暇の充実」など、個人の目標を聞き、お客さまへのサービスや事務所運営との兼ね合いに配慮しつつ実現を支援していければと思います。
──事務所経営のビジョンを語ってください。
山口 「コンシェルジュのような外部CFO」を目標としています。税務はもちろん、アカウンティング、マーケティング手法の提案、そしてお客さまの人生に寄り添い、すべての課題をサポートできるような事務所を目指していきます。
年末に、「洗濯機が壊れてしまった」と、あるお客さまから相談されました。電気屋さんを営むお客さまに連絡したところ、無事に年内に納品してもらえることになりました。「あぁ、洗濯機の納品までできる税理士事務所になったな(笑)」とうれしかったです。
冨山 私のビジョンは、町医者のような身近な税理士事務所になることです。
多くのお客さまは相談に来るタイミングが遅く、会社を設立した後や、銀行からお金を借りた後に、切羽詰まってから来るんです。事前に相談してくれたらもっと幅広くアドバイスできたのにと残念に思います。
最近では地元の顔見知りも増え、事務所の認知度が上がって町内のお客さまが多くなりました。どんな相談でも受け入れる体制で、気楽に訪れてもらえるような地域に根付いた事務所にしていきたいです。
野口 私は、「お客さまと距離の近い税理士事務所」を引き続き目指します。
まずは事務所が提供するサービスが一定の品質をクリアし、「あの事務所に頼めば品質は確実だよ」と言われる事務所になりたいと思います。そして、メンバーそれぞれに自分の興味のある分野、得意分野を伸ばしてもらって、仕事にやりがいを持ってほしいです。そのことが、自然とお客さまの満足度向上につながるのではないかと考えています。
税務顧問業務に集中して事務所の基盤を固められた
──最後に、独立開業を検討している公認会計士の方々にメッセージをお願いします。
冨山 独立して不安に感じるのは、税理士業務に関することだと思います。開業当初の私のように税務に自信がない方が独立するなら、フォロー体制のしっかりしたTKCに頼ることで安心して取り組むことができると思います。
山口 公認会計士のフィジカルのピークは30代前半だと思っています。一方で税理士事務所所長や会社経営者のピークは50代後半ではないかと期待しているんです。自分のキャリアを見据え、いいタイミングに独立すべきだと思っています。
私はTKCに入会したことで、視野が格段に広がりましたし、ネットワークを広げることもできたという認識がありますのでそのことをこれから開業する皆さまにもぜひ知っていただきたいですね。
野口 勤務されている公認会計士の方々にも「独立」という選択肢を持っていただきたいです。今後のキャリアプランを考える上で幅が広がることはもちろん、「独立」という選択肢を意識しながら業務に取り組むことで、専門家として、より成長できるのではないかと思います。
監査法人勤務時代には、独立を考えたことがなく、「経営者の発想」というものがありませんでしたが、今では、経営者と話していても、理解し合えることが増えました。
開業後に、スポット業務に注力するか、税務顧問業務に注力するか悩みましたが、TKCと出会えたことで、思い切って舵をきり、業務に集中して事務所の基盤を固めることができました。連結納税や連結会計といった中堅・大企業向けの業務に取り組める機会も増えました。そのためのシステムやノウハウはTKCにそろっています。迷うならば、まずは飛び込んで、身を委ねてみてください。
(構成/TKC出版 小早川万梨絵)
(会報『TKC』平成27年8月号より転載)