税務官公署出身会員に聞く
創業時からの関与で成長する企業を応援したい
毛見会計事務所 毛見広明(関東信越会群馬支部)
毛見広明会員
成長する関与先に対応するために、1年半で40件以上の関与先にTKC自計化システムを導入したという毛見広明会員。開業後の関与先拡大や所内体制の工夫などを聞いた。
退官後に備えAFP資格取得に励む
──税務官公署時代のご経歴を教えてください。
毛見 専科13期の採用で、最初に配属されたのは前橋税務署でした。2年ほど隣の席で指導していただいた先輩が、元TKC群馬支部長の川野由夫先生で、開業後も公私にわたって交流があります。関東信越国税局には6年間勤務して、消費税課の係長や資料調査課の実査官としていた時期は、特に忙しかった記憶があります。伊勢崎税務署の法人課税統括国税調査官を最後に、23年3ヶ月の勤務を経て平成18年7月に退官しました。
──開業前の準備はどうでしたか。
毛見 退官する2、3年前からファイナンシャルプランナーの資格試験の勉強を始めました。平日は毎朝5時に起きて、休日は群馬から東京の専門学校に通って勉強する生活を続けました。それがだんだんと面白くなって、事務所の料金体系や関与先拡大の手法を考えるようになりました。
創業者を中心にホームページで拡大
──関与先拡大のためにどのようなことを実行されましたか。
毛見 開業当初は、飛び込み訪問、事務所チラシの配布、新設法人名簿を使った電話営業などもしましたが全く効果がなく、事務所を知ってもらうために開催したワンコイン相談会では、1回限りのお客さんばかりでした。関与先ゼロのときから家賃14万円の事務所を構えたので、そうこうしているうちに退職金はあっという間に底をつきました(笑)。
税務の世界は、一度関与すると他の税理士が入り込むのは難しいと分かってからは、起業を目指す方の支援に力を入れるようになって、これまでに40件以上の開業支援に携わりました。
他に効果があったのは事務所のホームページを開設したこと。定期的に更新して内容を充実したところ、伊勢崎、前橋、高崎を中心にホームページ経由で、新規創業者からのお問い合わせが入るようになりました。全関与先の半分が前橋税務署管内で、残りは群馬県内の全税務署管内にあります。最近では、紹介の案件も増えてきました。
──関与の際に気をつけておられることはなんですか。
毛見 私が税務署出身だからというのではなくて、当事務所の支援体制を見て実際に話をする中で、安心していただければいいと思っています。関与先が深い傷を負わないように、適正に納税をしていただくことが第一なので、脱税行為と認定されるおそれのあることは、きちんと指摘します。そのうえで、当事務所に頼んで良かったと信頼される事務所でありたいと思います。
1年半で41件にTKC自計化システム導入
――TKC入会の決め手はなんでしたか。
毛見 TKC会員事務所の勤務経験がある職員を採用したことから、事務所に強い味方が一人いれば、システムを覚えられると思ったことがきっかけです。事務所は東日本大震災後、関与先の倒産や職員の不幸が相次いで記帳代行型では対応しきれなくなっていました。それで、開業当初より川野先生からすすめられていたTKCに平成23年8月に入会を決めました。
──TKCシステムへの移行はどのように進められたのですか。
毛見 私が提案を行い、同意を得た関与先に職員が導入を進めました。関与先76件のうち、1年半の間にTKCシステムで自計化した関与先は、41件になりました。慣れるまでは「もうやめたい」とおっしゃる経営者もいましたが、それを乗り越えると毎月数字を見ることが楽しみになるようです。当事務所の関与先は、年商3,000万円から8,000万円の関与先が多いので、FX2かe21まいスターのどちらかを入れています。最初は年商1,000万円に満たない企業でも、長く関与することで成長していく企業もありますからね。
1年半で事務所の体制を大きく変えることができたのは、職員のおかげです。「あんなに良い職員をやめさせてはだめだよ。所長が来なくても大丈夫だから」と言われると嬉しいですね。私の役割は、関与先に対する巡回監査で、生き生きとした職員を送り届けること。職員のフォローはしても、私自身は巡回監査担当を持たないようにしています。
──職員さんを育てるために、どんな工夫をされていますか。
毛見 働きやすい職場環境をつくるために、社会保険や就業規則を整備しました。職員の業務量にも気を配り、巡回監査の担当は一人15件くらいまで。たとえ担当の関与先が決算期でも、基本的に残業はさせません。パートはもちろん正社員も勤務時間の選択が可能で、1日7時間、7時間半、8時間の勤務時間に応じて給与に差をつけています。また、ハローワークの求人欄では「子育てと仕事の両立がしやすい事務所」に登録して、子供が小さくても働きやすい環境づくりにも務めています。
──今後の抱負をお聞かせください。
毛見 私はあえて関与先を何件にしたいとか、いつまで続けたいということは決めていません。当事務所を必要としてくれる関与先がある限り、それに応えていくことが私の役目だと考えています。
(TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成25年8月号より転載)