事務所経営

学んだ知識を生かして関与先によりよい情報を提供したい

TKC巡回監査職員研修制度
上級実務試験優秀者座談会

とき:平成25年1月18日(金) ところ:リーガロイヤルホテル東京

TKC中央研修所・地域会研修所では、巡回監査職員研修制度に基づき、職員研修や実務試験を通じて会員事務所職員の錬成を支援している。平成24年度上級実務試験合格者のうち、最も優秀な成績で表彰された3名の方々に上級実務試験への取り組みや、今後の関与先支援などについて語り合っていただいた。

出席者(敬称略・順不同)
 大石康夫税理士事務所(静岡会) 増田進也氏
 税理士法人けやき土田事務所(西東京山梨会) 宮﨑純子会員
 平間武義税理士事務所(東北会) 山野井隆幸氏

司会/中央研修所副所長
 畑 義治会員(静岡会)

座談会

粟飯原一雄全国会会長(左)から表彰状を受け取る
上級実務試験成績優秀者と、所属事務所の所長。

休日も返上してひたすら勉強に専念
努力が実り達成感があった

 ──平成24年度上級実務試験に優秀な成績で合格した皆さんに、研修制度をどのように生かして実務のレベルアップを図り、関与先支援に役立てているかお聞きしたいと思います。まずは自己紹介と、難関の試験を突破して表彰された感想などをお聞かせください。

 宮﨑 私は、福岡の会計事務所に勤務しながら税理士試験の勉強をしていました。夫の仕事の関係で東京に引っ越してからは、専業主婦をしながら勉強を続け、最終科目の相続税に合格したあと、税理士法人けやき土田事務所(所長:土田士朗会員)に入所しました。入所5年目です。
 学習を進める中で、受験科目の法人税、相続税については忘れている部分も多く、復習の意味でもよかったと思います。私は、前年も上級実務試験を受験したので、さすがに今回は失敗できないというプレッシャーもありまして、試験直前の休日には、家事以外の時間はすべて勉強に充て、短時間で仕上げることを心がけました。

 山野井 私は、もともと税理士という職種があること自体知りませんでしたが、簿記の資格を持っていたことから、母親からすすめられて事務所に入所しました。日商簿記2級、全商簿記・県商簿記1級の資格があります。平間武義税理士事務所に入所して、今年で14年目になります。
 私も仕事以外の時間は、可能な限り時間をとって勉強するようにしました。試験前の休日は、妻と2歳と5歳の子供は実家で過ごし、私は自宅で1日中勉強するなど、週末別居のような形で協力してもらったこともあって、今回の結果に、妻もとても喜んでくれました。

 増田 私も山野井さんと似たような経緯で入所しました。日商簿記2級を持っていて、自宅から近い大石康夫税理士事務所の門を叩き、9年経ちました。
 まさか、自分が表彰されるとは思いもしませんでしたので、昨年末に所長からこの話を聞いたときには、すごく驚きました。休日は、朝から晩までほぼ丸1日、平日の夜は時間の許す限り継続して勉強しました。今回が初めての試験でしたが、絶対に次の年まで持ち越さないと決めて、試験に臨んだかいもあって、努力が実って大きな達成感がありました。

事務所の方針で研修受講を奨励
職員一人あたり年間100時間

 ──次に、ご自身の業務内容を含めて、所内体制について教えてください。

宮﨑純子会員(税理士法人けやき土田事務所)

宮﨑純子会員
(税理士法人けやき土田事務所)

 宮﨑 所内には、監査課が第1課から第3課までと、資産税課があります。所長、会長、巡回監査担当者14名、総務4名で、計20名の事務所です。私は、16件の関与先を担当していて、1課の課長という立場でもあります。

 山野井 福島県相馬市にある事務所は、所長も含めて7名で、とてもアットホームな雰囲気です。福島原発から50キロほど離れたところにあるので、現在も関与先が全国各地に避難している状況です。津波の被害もあって、いまも厳しい状況ではありますが、地元に残り、皆で関与先を支援しようと頑張っています。
 巡回監査担当者は4人で、私は25件の関与先を担当しています。所内では、企業防衛制度の推進責任者という役割もあります。

 増田 事務所は、所長を含めて10人。職員全員が巡回監査担当で、決算申告業務が通常業務です。その他に、システム責任者として所内のシステム管理や情報発信の取りまとめもしています。巡回監査の担当件数は18件です。

 ──所内の研修体制はいかがですか。

 山野井 所長から案内される研修は、基本的に全員で参加し、受講後は、各自の復習も兼ねて作成したレポートを職員全員で回覧するなど、情報を共有しています。特に重要な「税制改正研修会」は、所長から必ず参加するように言われています。

 増田 私の事務所でも所長から言われて、全員で研修に参加することが多く、静岡会の研修では、畑先生のお姿をよくお見かけしています(笑)。所内では、オンデマンド研修の活用もすすんでいて、「税務情報システム研修会」の配信が始まったことで、研修受講の調整がしやすく、とても便利になりました。また、月初は企業防衛制度の推進会議やシステム研修もあります。

 宮﨑 昨年、当事務所では、職員一人あたり平均年間100時間研修を受講しました。所長は、「研修を受講して、インプットを充実させ、アウトプットにつなげる」という考えで、皆、積極的にTKC全国会や提携企業の研修に参加しています。
 月に1回の全体会議では、全員参加の所内研修があり、オンデマンド研修も活用しています。事務所としてISO9001認証を取得しているので、所内の年間計画によって、業務品質目標や教育訓練計画はあらかじめ決まっています。また、各委員会の担当者は各々、品質目標管理表を作成し、業務品質の維持向上に取り組んでいます。

 ──TKC理念の研修もしておられますか。

 宮﨑 入所時に、所長から『TKC基本講座〈理念編〉』による研修がありました。また、月曜日の朝礼では、事務所の品質方針「自利利他の精神と事務所理念に基づき、お客様の発展のために、使命感をもって価値あるサービスを提供します」を唱和しています。他にも、毎月の全体会議では、初めに必ず『自利とは利他をいう』のDVDを見て初心にかえり、気を引き締めております。

 増田 朝礼では、事務所の経営理念の唱和を毎日行っています。特にそのひとつである「仕事を通して自他の幸福を追求する」ということは、「自利利他」の理念に通じると思います。私自身、このことは忘れないようにしています。

 山野井 私の事務所は、「自利利他」の書を額縁に入れて飾っています。それを見ると、関与先の発展を支援しながら、お互いに人格などを高めあえる関係を目指したいと、改めて思います。

仕事をするうえで一番の励みは関与先の経営者から信頼されること

 ──皆さんは、巡回監査をしっかりされていると思います。留意点を教えてください。

増田進也氏(大石康夫税理士事務所)

増田進也氏
(大石康夫税理士事務所)

 増田 巡回監査に関しては、所長から何度も「単なる数字合わせで終わるな」と言われています。特に意識していることは、経理担当者のレベルを上げて、記帳をしっかりとしていただくことです。経理作業が適時・正確にすすめられれば、より早く、より正確な業績管理が可能となります。巡回監査の時間が短くなることで、業務の合理化にもつながることを念頭において、TKCシステムの有効な活用に気をつけています。

 山野井 私が担当する関与先は、TKCシステムで自計化している割合が高いので、以前と比べて経理指導に充てる時間は短くなりました。その分、巡回監査のときには必ず経営者と話す時間をつくるようにしています。そうすることで、経営数値からは見えない関与先の実態や、経営者が考える今後の展望を確認できるようになり、個々の事情に合わせたアドバイスが可能となります。

 宮﨑 巡回監査では、数字の変化、記帳の重要性などを丁寧にご説明することを心がけています。一度ではなかなか伝わらない場合でも、ご納得いただくまで何度も説明します。経営者に自社の業績を把握していただき、経営者ご自身の言葉で自社の業績を説明できるようになっていただくことが重要です。

 ──巡回監査を通じてやりがいを感じたこと、嬉しいと思ったことはありましたか。

 山野井 仕事をするうえで一番の励みは、関与先から信頼されることです。年上の経営者と接することは、普段はなかなかあり得ないことなので、この仕事をしていてよかったと思います。

 宮﨑 新規の関与先から、「土田事務所にお願いしてよかった」と言われたとき、大変嬉しく思いました。やはり、「ありがとう」と言われることが一番嬉しいです。

 増田 私も同感です。巡回監査に伺って、関与先の社長に歓迎されることが、私も一番やりがいを感じることです。仕事で外出の多い経営者が、巡回監査の日には待っていてくださって、「質問したいことがたくさんある」と言われたときはとても嬉しかったです。経営者からの質問にスムーズに答えられたときなどは、自分自身、成長したのかなと思うこともあります。

座談会

融資を受けるための中期経営計画策定の依頼が急増

 ──社長が自社の状況を数字で語れるようになるために、自計化は必須です。自計化を推進するうえで、工夫していることはありますか。

 宮﨑 TKC自計化システムには「仕訳辞書」という便利な機能があるので、「数字と摘要を入力するだけで、仕訳ができます、会計日記帳に手書きして集計するより簡単ですよ」とご説明しています。実際に自計化した関与先からは、「本当に簡単だね」と言われます。入力作業に抵抗感がなくなるようです。

 増田 当事務所では、新規の関与先はTKCシステムによる自計化を基本としています。しかし、既存の関与先で手書きの習慣が体に染み付いてパソコンに抵抗があるときなどは、なかなか導入がすすまないこともあります。その場合、経理担当者が交代するタイミングで自計化をすすめます。導入時にはデモデータを持参して、いち早く業績管理ができることを特に強調します。

山野井隆幸氏(平間武義税理士事務所)

山野井隆幸氏
(平間武義税理士事務所)

 山野井 私もおふたりと同じように、経営者には、事務処理にかかる負担が軽減することや最新の業績把握、部門別管理ができることをお伝えして、事務担当者には、デモデータを作って入力方法をご説明しています。

 宮﨑 経営者が適時正確に経営実態を把握できることは、業績管理の面でも非常に重要なことだと思います。そのためには、やはり私たちが試算表をつくっていては、難しいのではないでしょうか。試算表をすぐに出せる関与先には、金融機関からの信頼も高まると思います。

 ──中小企業経営力強化支援法に基づく認定支援機関制度も始まり、中期経営計画策定の重要性がますます高まり、融資の際には、金融機関からの要請も増えていると思います。継続MASをどのように活用されていますか。

 増田 以前から継続MASを使って、関与先の業績検討会の開催を支援し、短期、中期経営計画の策定支援をすすめてきましたが、最近は、業績検討会の場に取引のある金融機関の行員の方にも一緒に参加していただき、経営計画策定を支援するようになりました。これによって、経営計画を見た金融機関から、「数字の根拠がストレートに伝わる」と喜んでいただいています。

 山野井 現在、関与先から「融資を受けるから中期経営計画をつくる支援をしてほしい」という依頼をとても多くいただいています。継続MASで計画をつくったあとは、社長が当初目標にしていた予算と、実績の評価をご説明するという流れです。
 それから、福島県は東日本大震災の復興特需で、特に建設業が忙しくなったので、お客様には、DAIC2の導入をおすすめしています。このシステムは工事原価管理機能が充実していて、数字の流れを把握する意味でも特におすすめです。

 宮﨑 関与先に対しては、決算予測と次期経営計画の作成を標準業務として行い、そのデータをもとに予実管理を行っています。これまで、主に中期経営計画は、融資を依頼する際や経営者が事業展開を考える際の資料として使っていましたが、平成25年の事務所の業務方針で、業績検討会や中期経営計画の策定が進んでいない関与先に対しても、支援を進めて実施件数を増やしていくことが決まりました。当事務所は、経営革新等支援機関でもありますので、今後、実施件数は増えると思います。

 ──決算報告書には、書面添付もつけていますか。

 宮﨑 全関与先について、必ず書面添付を行っています。個別の事情で提出を控えた方がいい場合には、作成したうえで所内資料として保管しています。個人で年一決算の場合にも、できる限り書面添付を行うようにしています。

各税目のつながりを意識した情報提供で経営者を支援したい

司会/畑 義治中央研修所副所長

司会/畑 義治
中央研修所副所長

 ──TKC全国会では、上級実務試験合格者のステップアップを図る目的で、昨年から巡回監査士制度が創設されました。皆さんが巡回監査士の資格を取得した場合、どのように生かしていきたいですか。今後の目標を含めてお話しください。

 山野井 巡回監査士の資格があれば、自分のスキルが上がったという証明になるので、このような資格は、とても励みになります。私は、FP技能士2級の資格を取得したこともあり、お客様に対する資産対策、相続対策や、生命保険に関する総合的なアドバイスが可能となるよう、付加価値をつけた関与先への情報提供を心がけています。
 福島県は、いまも津波の被害と原発の影響で、かなりの風評被害を受けております。経営者の皆さんは、必死で復興に向けて取り組んでいらっしゃるので、私もその支援を全力で行いたいと思います。特に、特例措置や補助金交付などの内容は、知らなかったでは済まされない大事な情報ですので、積極的に経営者へお伝えしていきます。

 増田 巡回監査士を取得すると、さらに税務の専門家としての自覚がわいてきます。所内の他の職員や関与先から頼られる存在になりたいと思います。
 仕事は、人生においてかなりの時間を占めるので、仕事を頑張ることで、自分の人生も充実すると思います。充実した人生を送っていきたいです。

 宮﨑 事務所には、上級実務試験合格者が6名いますし、職員全員が受験しています。「巡回監査士が多い事務所」として、よりレベルの高い業務を行うことをアピールできればと思います。
 税法は、税目ごとに勉強しますが、最終的に必要になるのは、法人税、所得税、相続税などの横のつながりを意識して、関与先によりよい情報を提供することだと思います。その中から答えを見つけるのはお客様です。よりよい答えを選択していただけるように、情報提供していきたいと思います。

座談会

(構成/TKC出版 益子美咲)

(会報『TKC』平成25年4月号より転載)