事務所経営
TKCシステムを有効活用して沖縄の中小企業を元気にしたい
税理士法人添石綜合会計事務所 所長 添石幸伸(九州会沖縄支部)
添石幸伸会員
平成22年に父の幸安氏から事務所を承継し、所長に就任した添石幸伸会員(43歳)。関与先中小企業を支援することが沖縄経済の活性化につながるとの思いで、承継後すぐにTKCシステムによる関与先の自計化に着手した。「FX4クラウド」導入にも積極的で、職員・TKC社員と一丸となって推進に取り組んでいる。
厳しい経営環境に直面し会計の重要性を感じる社長が増えてきた
──添石先生は横浜で税理士資格を取得後、平成12年に故郷の沖縄に戻られたそうですが、県内の経済状況をどうご覧になっていますか。
添石 沖縄県はずっと厳しい状況が続いており、リーマンショック以降は特に落ち込みが激しいと感じますね。
ただ沖縄県は人口が増えているし若い人材もたくさんいて、近年は海外からの資本参入も盛んです。特にマレーシア、シンガポール、中国などの企業が沖縄に進出しているので、雇用の創出という意味では決して展望は暗くありません。
しかしチャンスはピンチでもあり、沖縄経済の活性化にはつながっても県内の中小企業の仕事が減るなど好影響ばかりではありません。地元の中小企業が若い人材を育成しながら県外、海外に出ていけるよう、力をつけていくことが重要だと思います。
──関与先にはどのような会社が多いのでしょうか。
添石 関与先数は法人約300件、個人約100件で、規模は零細企業から年商30億円まで様々です。特徴としては比較的歴史のある会社が多いことですね。
税理士法人を設立したのが平成18年、私が事務所を承継したのが平成22年ですが、父(現会長・添石幸安会員)の代から数えると事務所は36年目になるからです。中にはなかなか後継者に経営をバトンタッチできない社長もいるので、事業承継支援が今後の課題です。
もちろん私と同じ二代目あるいは新たにビジネスを始める若い経営者も増えており、そうした若い経営者を中心に会計に関心を持ちはじめる社長もここ数年多くなっています。今までは会計にまったく興味を示さなかった社長も、厳しい経営環境に直面し「これからは会計を経営に活かさないと生き残れないだろう」という自覚が芽生えてきたのではないでしょうか。
──所内体制についてお聞かせください。
添石 税理士資格を持つ私と父のほか18名の職員がおり、やはり父の代からの事務所歴30年を超えるベテラン職員から20代の若い職員まで幅広い世代の職員が頑張ってくれています。
7名の職員が税理士資格取得を目指し、そのうち3名が科目合格しています。
FX4クラウド導入関与先の業績報告会データをMR設計ツールで作成
──TKCシステムによる自計化を進めているそうですが、FX4クラウドの導入状況はいかがですか。
添石 沖縄県内を中心にステーキ店等を展開する創業13年の会社に導入済で、年商は約7億円、平成22年には東京の銀座にも店舗を出し業績も好調です。
社長とは11年前の法人化以来のおつきあいですが財務に対する意識が非常に高く、毎日業績をチェックしていますし、エクセルを使って独自の資料を作り経営分析も行っています。
ただ会計については顧問契約以前から他社のソフトを利用しており、早い段階でFX2をお勧めしていたのですが、「他社システムのままでいい」と断られていたんです。すぐに会社が成長して店舗も社員も増えてきたので、FX4(従来版)に切り替えるようにプレゼンをさせていただきました。
──反応はいかがでしたか。
添石 FX4(従来版)の良さについてはご理解いただけたようで、特に変動損益計算書など業績管理に対する機能への評価が高かったですね。ただ初期費用の負担などがネックになってなかなか実現しませんでした。
しかしFX4クラウドが提供開始され初期費用が大幅に抑えられたので、そのタイミングで改めて提案したところ導入を決断していただくことができました。
──コスト面が決め手だったということでしょうか。
沖縄都市モノレール・おもろまち駅近くの
好立地にある事務所
添石 もちろんその要因も大きいのでしょうが、それ以外にも様々な要素が考えられます。
例えば、社長は将来の海外への出店や株式上場を見据え会社の財務体制を固めておく必要があるという意識をずっとお持ちでしたし、ちょうど当時使っていた他社システムのサポート更新の時期だったこともタイミングが良かった。
他にも、社長が移行を検討している時期に、たまたまある金融機関担当者との会話の中で「顧問税理士はTKC会員だと思いますが、御社ではTKCシステムを使っていますか?」と聞かれたそうです。もし利用していれば利率の優遇や『TKC経営指標(BAST)』による同業他社比較などが受けられるという話もしたそうで、そういった評価も関係しているでしょう。
いずれにしても、常に社長の記憶のどこかに置いてもらうことが大事だと思います。約3年前、はじめてFX4(従来版)のデモンストレーションをさせていただいた後も、機会を見つけて資料をお渡ししたり、他社ソフトと比べた優位性などを意識付けしてきました。
会計事務所が苦手な営業の部分だと思いますが「ダメでもいいのでとりあえず聞いてください」とアプローチし続けたことが結果につながったのだと思います。
──導入後の社長の感想はいかがですか。
添石 そのあたりは、巡回監査担当者の棚原が生の声を伺っています。
棚原 移行後に「FX4クラウドにして良かった」と言っていただいたのは嬉しかったですね。最新の業績がタイムリーにチェックできるようになりましたし、特にドリルダウンで細かい数字も確認できることなど、多くのメリットを感じていただけたようです。
例えば、その会社では毎月業績報告会を実施していて、その資料となるデータを一つひとつ拾ってエクセルに入力していたのですが、MR(マネジメントレポート)設計ツールを使うことでそうした作業が楽になり、現場の社員が非常に助かっているとのことでした。
また毎日各店舗からエクセルの売上表がメールで送られ、FX4クラウドの仕訳読み込みテンプレート機能でそのデータを取り込むことができるので、経理の省力化につながっています。この春に2店舗増やす計画ですが、FX4クラウド導入の効果で経理の人員は現在のまま増やさずに済みそうなので、結果としてコスト削減にもつながっているようです。
もちろん苦労もあり、最も配慮したのが会計科目体系です。上場を目指しているため監査法人の審査があり、例えばリース設備について資産とするのか費用とするのかなど、より細かな会計科目の設計が必要だったのですが、そうした作業を監査法人と調整しながら行いました。
添石 今後、社長はFX4クラウドを使いこなせる経理担当者を育てたいという意欲もあるので、当事務所も全力でサポートしていきたいと思っています。
多店舗展開や上場を目指しているならFX4クラウドを積極的に勧めていく
──他にFX4クラウドの導入を検討している関与先はありますか。
添石 現在、約10社の関与先が候補に挙がっており、そのうち3社にはすでにシステム説明などのアプローチをして検討いただいています。
──どのような基準で候補を選んでいるのでしょうか。
添石 中小企業はしっかりした財務体制を整えることが何より重要な課題であり、そのために日々の取引をタイムリーに入力し経営者が常に業績をチェックできる体制というのは規模の大小に関係なく必要なこと。そういう意味ではすべての関与先が対象となります。
とは言え、現実的には毎月のコストを負担できる程度の売上高がないと導入は難しいですし、細かい階層毎の部門別管理などFX4クラウドならではのメリットを活用しないならFX2で十分です。
大切なのは、経営者が最終的な目標をどこに置いているかということではないでしょうか。先ほどのステーキ店のように、現状ではFX2で事足りていても将来の多店舗展開や上場などを見据えた経営をしているのであれば、それが実現した時にどのような経理体制がベストであるかという視点で考えます。
特に会社が急成長しているような場合、経理部門だけが会計システムも人員も従来のままで他部門との連携もうまくいかなくなり、経営者が焦るという例は多いんです。少しでもFX4クラウドが必要になる可能性がある関与先には先行して勧めていきたいですし、さらに言えば、当事務所がしっかりと経営支援を行うことでFX4クラウドが必要となる規模にまで成長してもらいたいと思います。
──システムのメリットをわかりやすく伝え実際に使い方を指導するなど、巡回監査担当職員の役割も重要になってくると思われますが。
添石 もちろんです。FX4クラウドに限らず、システム移行の際は巡回監査担当者がキーマンになります。そのため当事務所では数年前にシステム移行のプロジェクトチームを立ち上げ所内勉強会を行っていました。
現在は企画推進室と名称を変えましたが、若手職員を中心に所内研修を企画し、講師としてTKC社員に来所いただいて各種システムの研修を実施しています。
棚原 FX4クラウドに関しても、提供が開始される前から何度か研修を行ったので、FX2との違いなどを関与先にスムーズにお伝えすることができました。
──TKCシステム導入による事務所のメリットについてはどのようにお考えですか。
添石 少し規模の大きな会社だと、すでにしっかりした経理体制があり、場合によっては経営コンサルタントが顧問にいますよね。そうした経営コンサルタントが、われわれの関与先の中小企業にもどんどん入ってきています。
そのため今後会計事務所は経営アドバイスもしっかりできないと、そうしたコンサル会社を通じて関与先を奪われてしまうことも考えられます。
そうした意味でも、FX4クラウドをはじめとしたTKCの自計化システムによって会計を使った経営分析、的確なアドバイスをすることは関与先の離脱防止につながるのではないかと思います。
目標は東京に支店を出し沖縄出身の人々や企業を支えること
──事務所の今後の目標をお聞かせください。
添石 大きく2つあり、1つは他士業と連携して、税務会計だけでなく法務や人事労務も扱える総合病院のようなワンストップサービスを実現すること。
もう1つは、できるだけ早く東京に支店を出したいと考えています。そうすれば沖縄から関東に進出する企業、あるいは関東で頑張っている沖縄出身の経営者に対してもっと手厚い支援ができるし、情報収集や若手職員のスキルアップにもつながります。
ただそのためには父以外にも有資格者が必要なので、早く科目合格の職員に全科目合格してもらうか、同じTKC会員から一緒に頑張ってくれる仲間を招くことも考えています。そういう時、TKCシステムという共通の基盤があるのは非常にありがたいですね。
沖縄は、昔は琉球王国として独自の経済圏を持ち、小さい島ながらも世界中と貿易を行っていました。私と同世代の沖縄人がそうしたパワーを発揮することで、沖縄全体の発展に貢献していきたいと思います。
職員の皆さんと。左端は担当SCGの平井サブチーフ
(TKC出版 村井剛大)
平成10年税理士登録、12年TKC入会。15年に父幸安氏の事務所と合併して添石税理士綜合事務所を開設し、18年に税理士法人設立。22年に事務所を承継し所長に就任。
税理士法人添石綜合会計事務所
関与先件数約400件(法人300件、個人100件)。
有資格者2名、職員18名。
住所:沖縄県那覇市おもろまち4-12-9 4階
電話:098-867-4335
(会報『TKC』平成25年1月号より転載)