税務官公署出身会員に聞く

税理士の醍醐味は社長と喜びを分かち合えること

小林清税理士事務所 小林 清(中国会広島県東部支部)
小林 清会員

小林 清会員

縫製加工業の盛んな広島県福山市に事務所を構える小林清会員。23年間の税務官公署勤務を経て、甲斐会計事務所を承継した経緯や、事務所経営の現況について聞いた。

迷いなく44歳で退官

 ──退官前のご経歴をお願いします。

 小林 昭和48年に税務大学校広島研修所に入校し、広島国税局の普通科33期、税務大学校本科26期の採用です。1部屋4人で寮生活を送った仲間とは、いまでもかたい絆で結ばれています。広島東税務署を皮切りに、広島県・岡山県・島根県と東京都に勤務し、主に法人課税部門と総務課の仕事に従事しました。単身赴任が長く週末家に帰る生活を送り、子供を抱いて泣かれたときには、いつか地元の福山で仕事がしたいと思うようになりました。
 23年間の税務官公署勤務のうち、15年間法人課税部門で税務調査を行い、日本刀で追いかけられたり、電話機を投げつけられたこともありました(笑)。総務課で署内事務を取りまとめる仕事もしましたが、私には調査の方が合っていました。

 ──なぜ開業しようと思われたのですか?

 小林 先代の甲斐眞一先生の事務所を承継することになったからです。平成10年の終わり頃から甲斐先生は後継者を探しておられて、知人を介してご紹介いただきました。退官する際、女房には大反対されましたが、お誘いをいただいた時が一番いいタイミングだと思い、迷いはありませんでした。平成11年に税理士登録し、勤務税理士として甲斐会計に入所したのが44歳のとき。新しいことを始めるにもちょうどいい時期だったと思います。

 ──それから承継されたのですか。

 小林 平成19年11月に甲斐先生がお亡くなりになり、事務所を引き継ぎ開業しました。現在事務所の職員は、私以外に6名で、そのうち5名は甲斐先生の時代から勤務しています。一番長い職員は勤続40年。他の職員も20年、30年と息が長い仕事をしてくれています。

しんどい時期の承継をあえてすすめたい

 ──関与先さんの業種に特徴はありますか。

税理士法人北川会計外観

JR福塩線戸手駅から徒歩10分の場所にある
事務所。車でのアクセスもしやすい国道
486号線に面している。

 小林 法人104件、個人20件です。この辺りはもの作りの町で、縫製加工業と府中家具が盛んです。最近では、縫製加工業の従業員は中国からの研修生が多く、近所のスーパーに行くと中国語が飛び交っています。それから、若者の働き手が少ないことに加え、社長の世代交代がはじまっています。戦後、リヤカーを引いて服を売ったという70代後半の社長は、特に事業承継に頭を悩ませているようです。関与先の2割ほどが縫製加工業です。

 ──事業承継については、どのようなアドバイスをされていますか。

 小林 「いまはしんどいからもっと楽になってから代わろう」という方が親子間承継では多いのですが、私は「一番しんどいときこそ代わった方がいい」とあえてお話ししています。いい時期に代わって、ある日悪くなったらその先もちませんし、未来を見据えた決断が必要だと思います。やはり、親御さんが元気なうちがいいと思います。

 ──小林先生のように、親族外承継という形も考えられますね。

 小林 跡取りがいない場合もあり、私のようなケースも増えていくと思います。承継の問題に加えて、最近は資金繰りのご相談を受けることも増えました。しかし、経営の主体はあくまでも社長です。金融機関には、社長自ら経営状況を説明していただいていますが、返済計画の変更をお願いするときなども、ご自分でしっかりと説明されています。
 金融機関からのお問い合わせの電話も以前に比べて増えました。具体的には「減価償却をきちんとしているか、仮払金、仮受金、建設仮勘定にどんなものが入るか」等で、取引がある会社の決算書をよく見ていることを実感しました。また『BAST』(TKC経営指標)を持参すると、金融機関に大変喜ばれます。
 繊維で成功した資産家の方も多く、借金しても土地を買えといわれる時代もあったので相続対策に力を入れている金融機関と連携しています。職員には、法人税だけではなく、他の税目の知識も身に付けてもらいたいので研修などにも積極的に参加するように促しています。

FX4クラウドを導入

 ──関与先さんへの自計化推進はいかがですか。

 小林 FX2は積極的に導入しています。特に、「社長メニュー」については、タイムリーに業績を確認できるので喜ばれています。関与先のほとんどは小規模企業ですが、従業員100名程の生コンクリート製造業の関与先には、先日FX4クラウドを導入したばかりです。システム面のサポートについては、福山SCGサービスセンターがあり、迅速に対応していただいています。
 TKC全国会では提携企業とのつながりもあり、システム以外にも幅広いサポートを受けることができます。関与先にはまず、企業防衛(生保)、リスクマネジメント(損保)も併せてご案内していますが、とても好評です。

 ──これからの事務所経営の方向性について教えてください。

 小林 お客さんと喜びを分かちあえることがなんと言っても税理士の醍醐味であり、責任がある反面やりがいのある仕事だと思います。関与先の立場に立ったアドバイスができれば、それが信頼につながると思います。これからも様々な出会いを大切に地道な経営を目指し、関与先のサポートを続けていきたいと思います。

(TKC出版 益子美咲)


小林 清(こばやし・きよし)会員
平成11年税理士登録、同年TKC入会。広島県東部支部NMS委員長。モットーは、人との出会いを大切に(一期一会)。57歳。
■小林清税理士事務所
 住所:広島県福山市新市町大字戸手767-1
 電話:0847-51-4012

(会報『TKC』平成24年5月号より転載)