システム移行

TKCシステムの徹底活用で厳しい時代に対応できる事務所に

システム移行座談会

TKC会員事務所として、以前にも増して厳しい経営環境下にある関与先の経営を支えるためには、TKCシステムによる巡回監査をベースとする事務所の業務品質と経営効率の向上が前提となる。他社システムからTKCシステムへの完全移行を決断し、事務所一丸で取り組んでいる3人の会員が、TKC入会の経緯やシステム移行の具体的な進め方などを語り合った。

出席者(敬称略・順不同)
 小嶋公志(西東京山梨会立川支部)
 ・大橋俊彦(静岡会沼津支部)
 ・大湾宗樹(南近畿会いずみ支部)

司会/ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長
 山下明宏(東京都心会)

座談会

TKC入会のきっかけは『BAST』、電子申告、OMS

 ──本日は他社システムからTKCシステムへの移行に挑戦なさっている皆さんにお集まりいただきました。まず自己紹介をお願いします。

大湾宗樹会員

大湾宗樹会員

 大湾 平成12年8月に大阪の堺市で開業登録し、最初は会計も税務も市販のソフトを使っていました。TKCには平成16年5月の入会で、スタッフは私と職員の2人、関与先数は法人が33件、個人が22件です。

 大橋 静岡県沼津市から来ました。登録は平成6年、TKC入会も同時期です。私は東京生まれ東京育ちなのですが、もともと叔父が沼津で会計事務所を開業しており、その事務所を継いで所長となりました。モットーは「あなたの税のパートナー」で、地域の中小企業の身近な相談相手になることが基本方針です。巡回監査担当職員が7人、アシスタント4人、総務1名の計12人で、関与先は法人が196件、個人が86件です。

 小嶋 私は会計事務所に6年間勤め、独立したのが平成18年8月なので、もうすぐ開業5年になります。その前はある通信会社で携帯電話をバンバン売っていましたが、1年も経たずに辞めて23歳から税理士を目指しました。
 完全にゼロからのスタートで、最初は自宅が事務所でした。ある程度関与先が増えた平成20年11月にTKCに入会し、現在のスタッフは副所長を含む正社員5名、パート5名の10名、関与先は法人が57件、個人が15件です。

 ──TKC入会のきっかけは何ですか。

 大湾 理由は色々あるんですが、一番の理由は『TKC経営指標(BAST)』(以下『BAST』)です。独立するまでに2つの会計事務所に勤めた経験があったのですが、その一つはTKC会員事務所でした。だから『BAST』や財務三表のことは知っていたのですが、独立開業した時はTKCに入会していなかったので、そうしたTKCのツールが使えなかったのです。
 独立直後は関与先数が5件程度しかないし、経験も浅い。そんなとき、新たに顧問契約を結ぶ社長さんに「うちの業界のことを知っていますか」と質問をされるのが怖かったんです。
 でも『BAST』があれば、一度も顧問経験のない業界のお客様と契約しても、あらかじめその業界の平均値を調べておいて、「この数字を目標にやっていきましょう!」と言えます。だから一刻も早く『BAST』を使いたくてウズウズしてました(笑)。

 ──では、最初からTKC入会を決めていたんですか。

 大湾 いえ、会計事務所向けのシステムを検討する際、複数のシステムベンダーに話を聞きました。かなり値引きをしてくれるという会社もあったし、減価償却ソフトの初期の資産登録も全部やってくれるという話もありました。
 ところがTKCだけは、当時のセンター長代理が事務所に来て「ウチは一切値引きをしません。ただ、先生が今後事務所経営を成功させたいのであれば、TKCに入会することをお勧めします」とニコリともせず言ったんです。

 ──自信満々の言葉ですね。

 大湾 本当にすごい自信でした(笑)。でもそれが入会の決め手になりました。私もそれまではお客様から問い合わせが来たとき、契約できるかできないかとビクビクしながら説明をしていたんですが、TKCに入会してからは「ウチはこれだけのサービスを提供できます!」と自信を持って言えるようになりました。

 大橋 私は職員時代に勤めていた東京の事務所がTKC会員事務所だったので、あまり深く考えずに自然に入会しました。その時は、研修などにたまに出席していた程度でした。
 その後、沼津の叔父の事務所を継いだのですが、その事務所はTKCシステムをあまり使っておらず、利用割合は2割程度でした。承継した平成6年から10年間くらいは元の体制を大きく変えず、従ってTKCシステムの利用率も高くはありませんでした。
 それが約7年前の平成16年頃、このままの体制で将来はあるのだろうかと疑問を持ち、TKCを柱にやっていこうと方針を転換しました。本格的に移行が進んだのは、平成19年に電子申告をはじめて、それを関与先にアピールしたことでした。

 小嶋 私は入会前に約1年間迷いました。入会の直接の要因はOMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)のスケジューラを使いたかったからです。というのは、私は全くのゼロから事務所を作ってきたのですが、自分はどちらかというとお客様を獲得するのは得意でも、事務所の内部体制を整備したりスタッフの心をつかむことが不得手だったからです。
 入会当時は開業から約2年が経った頃で、職員が6人、関与先も60件くらいになっていたのですが、職員との関係がぎくしゃくしたりいろいろな問題が出てきた時期だったんです。システムはすべて他社のものでした。
 所内体制をなんとかしないとこれ以上は大きくならないと痛感していて、何件かのTKC会員事務所を見学させていただいたんです。そこでOMSを使った職員管理を目の当たりにし、入会に踏み切りました。

 ──皆さんの話を聞くと『BAST』、電子申告、OMSと、入会・システム移行の動機が三者三様でとても興味深いですね。

個人の電子申告をきっかけに段階的にTKCシステムに移行

 ──皆さんTKCに入会した当初は他社システムが中心だったとのことですが、それをやめてTKCシステムに完全移行しようと思った動機は何ですか。

小嶋公志会員

小嶋公志会員

 小嶋 入会から半年くらい経った頃、TKC会員事務所を見学させていただいたり、支部例会などで先輩会員に話を聞く中で、すべてTKCシステムに統一した方がいいだろうと感じたからです。
 その理由は、当時使っていた他社システムでは、職員によってやる仕事が違ってしまうから。同じシステムを使っているのに、現場でやっていることが違うし、提出される書類なども異なる。それを所長の自分がチェックするのですが、その作業が毎月大変でした。
 FX2であれば、関与先が入力したデータを職員が巡回監査でチェックするという流れがあります。チェック項目も決まっているし、関与先への指導内容を報告する書式も同じです。
 もし自分一人だけが巡回監査をするのであれば他社システムでもそれほど不便を感じなかったかもしれません。しかし、職員が行った巡回監査を所長がチェックするという管理の仕組みを構築するには、FX2が最適だと考えたのです。

 ──TKCでは、所長ではなく職員に巡回監査を任せるという前提があります。それを最適に履行するために開発されたのがTKCシステムなので、当然、所内の管理体制も踏まえています。

 大湾 私は、TKCに入会したからにはシステムを使っていこうと決めていましたが、遡及訂正ができないという点が気になって導入を躊躇していました。関与先に「使いづらい」と思われないか心配で踏み切れなかったんです。
 しばらくどう説得するか悩みましたが、思い切って「会計ソフトを切り替えます」と話してみたところ、意外とすんなりと受け入れてくれました。大きなトラブルもなく移行が進んだのはありがたかったですね。

 大橋 私は皆さんとは少し違い、何年もかけて少しずつTKCシステムの利用率を上げてきたという感じです。一気に職員を引っ張っていくというよりは、協調的に移行を進めてきました。
 当事務所は比較的年配のベテラン職員が多いので、使い慣れていないシステムは嫌だとか、なかなか新しいことを始めるには難しいこともあるんです。
 転機は平成19年の個人の電子申告でした。5000円控除を関与先にアピールしようと思って案内状を作成し送信したところ、予想以上の反応がありました。
 この時、個人の申告書はTKCシステムを使ってやっていこうという動きになったんです。それから、職員のTKCシステムへの抵抗感がだいぶ薄れてきたように感じます。

 ──電子申告をするようになると、統一したシステムで一気通貫にやった方が楽なことが実感できますからね。

 大橋 確かに、最初は他社システムで作ったデータを電子申告用に入力し直して申告書を作成していました。でも全体の業務フローを考えるなら財務システムから一貫して処理できる方が絶対に効率的です。
 そこで職員に「無駄がない方がいいよね」とやんわり言って一度使ってみてもらい、便利さを理解してもらうように努めました。まず電子申告から入って次に税務、そして財務と移行してきたというのが、当事務所のTKCシステム移行の流れです。

 ──平成16年に電子申告がはじまる数年前から、TKCはFX2から申告手続きまでを一貫してIT化する準備を整えてきました。こうした時代への即応性もTKCシステムの強みの一つです。

新規の関与先はFX2導入が前提
既存関与先は副所長を責任者に移行推進

 ──移行の際、一番大変だったのはどんな点でしたか。

 小嶋 関与先への説明には苦労しましたね。私はまず移行のプロセスとして、新たに契約する新規の関与先と既存の関与先を分けて考えることにしたのですが、新規の関与先については比較的楽でした。
 というのは、平成21年8月以降、FX2導入を前提に関与する方針を打ち出し、納得していただけない社長とは顧問契約をしないことに決めたからです。
 そうすれば後からシステム変更の問題は生じないし、それで新規の顧問契約数が減ったとしても、その分拡大を頑張ればいい。これは、所長である自分が決断するだけです。
 問題はすでに他社システムを使っている関与先でした。当時は60件中の約50件が他社システムを使っていたのですが、ほとんどの関与先で自計化が済んでいたため、他社システムの操作に慣れてしまっていたんですね。
 関与先は、システムが変わって新たに操作を覚えるのは手間なので「そんな面倒なことをしてまで変える理由は何ですか?」と職員に聞くのですが、その答えが難しいんです。
 もちろん継続MASへのデータ移行などFX2導入のメリットは説明します。だけど、それで納得してもらえる社長はごく一部でした。

 ──では、それをどうやって変えていったのでしょうか。

 小嶋 最初は、巡回監査担当職員に「移行を進めるように」と指示しただけだったので、各職員のペースで移行を進め、担当者によっては進捗が見られませんでした。
 そこで副所長をリーダーに据えたプロジェクトを発足させ、やるべきことの優先順位と期限を決め、決算期が来た関与先から順番に説得を試みました。
 それでも応じてもらえない場合は、もう腕力しかないです(笑)。「ウチではこれしか使えなくなるんです」と半ば強引に変えてしまいました。

 ──他に大変だったことはありますか。

 小嶋 職員の意識改革にも苦労しました。関与先と同じで他社システムに慣れていたので、変えた直後は業務効率が一気に落ち、不満が噴出しました。
 それでも、私が事務所見学などを通して感じたメリットなどを職員に説明して少しずつ意識を変えていきました。

大橋俊彦会員

大橋俊彦会員

 大橋 私も関与先というより、職員の説得の方が大変でした。FX2のメリットを理解し経営改善のきっかけにしたいという意識の高い社長さんもいますが、多くの関与先はシステムの違いにはそれほど興味がありません。やはり現場での作業を担う巡回監査職員が納得して使えるものであることが重要だと思います。
 最初は他社のサーバーとTKCのサーバーが2つある状態でしたが、先ほど申し上げた通り、電子申告をきっかけに徐々にTKCシステムのウェイトが高くなってきました。
 そこで職員に「余計な(サーバーの)費用がかかっているので、何とかしないとね」と話しました。事務所としてそんなに余裕はないのだから、一つに絞ろうと同意を求めたのです。
 TKCシステムが税法や会計制度の改正に合わせて随時更新されるのも良かったですね。常に最新の状態になっているTKCシステムの方が使いやすいので、「これから本格的に使うならTKCがいいよね」と、自然な移行の流れを作っていけたのです。

 ──システム移行では「所長が職員をしっかり指導することが大切だ」と言われますが、大橋先生のように職員を上手に誘導するやり方もあるんですね。

 大橋 現在もまだ他社システムがありますが、もうほとんど使っておらず、昔は「他社システムが一番良い」と言っていた職員も今ではTKCシステムしか触りません(笑)。サーバー費用の負担など経営的な観点からも、併用は避けた方がいい。このことは、職員を説得する材料としても有効でした。

 大湾 確かに、複数のシステムを混在して使っていると、職員は両方覚えなくてはいけなくなるので大変です。
 当事務所は職員が一人だけなので、どちらかと言えば自分の意識改革が大変でした。やはり使い慣れたシステムの方が楽だと思いこんでいたので。
 でも実際に使ってみると、FX2は巡回監査の現場でチェックする職員の使いやすさを考慮していることに気付きました。こうした実感は自分で使ってみてはじめて分かることなので、とりあえず一度やってみることが重要だと感じます。

 ──関与先さんの反応はいかがでしたか。

 大湾 経理も自分でやっていたある社長さんの話ですが、いつも忙しくて月末までに会計処理を締められず、「巡回監査を先送りにして欲しい」と頼んでくることがよくありました。
 ところがFX2を導入することで遡及訂正ができなくなったため、毎月必ず月末までに入力を完了してくれるようになり、その結果巡回監査も毎月できるようになりました。
 それだけでなく、頼んでいた資料なども期日までにしっかりと送ってくれるなどあらゆる面で期限を守る意識が高まり、経営者として成長してくれたのではないかと感じています。

 ──巡回監査の話が出ましたが、その毎月の積み重ねが「記帳適時性証明書」に表れます。これ1枚で3年間の巡回監査の実施状況だけでなく、その関与先がFX2による自計化ができているか、書面添付をしているかなどが一目でわかるし、金融機関の絶大な信頼にもつながります。これは、純粋にTKCシステムを使っている人にしか得られない物凄い強みになります。

「TKCライフを楽しもう!」を合言葉にさらなる事務所の発展を目指す

山下明宏ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長

山下明宏ニューメンバーズ
・サービス委員会副委員長

 ──皆さんが今後目指す事務所のビジョンをお聞かせください。

 小嶋 自分は関与先拡大はある程度できていても、所内体制の整備はまだまだ不十分だと思っています。TKCシステムへの完全移行も含めて、あらゆる面で自分が理想とする会計事務所を作っていきたいです。

 大橋 自分はある程度業務フローが確立した事務所を承継したので、それを変えるのは大変でした。しかし事務所内で職員と話し合い、TKCシステムの根底にある理念を伝えることで、ある程度移行に成功したのかなと思っています。
 今後は連綿と続くTKC理念を軸にしつつ、ベテラン職員の技と時代の変化にフレキシブルに対応できる柔軟性を持った事務所として持続していけたらいいなと感じました。

 大湾 今日は皆さんの話を聞いて非常に勉強になりました。今までは漠然と言葉だけでTKCシステムを理解していた部分がありますが、これは単なる会計ソフトではなく所長のマネジメントのため、十年後の事務所の発展を見越しているシステムだということがよくわかりました。
 今後は事務所のスローガンである「TKCライフを楽しもう!」を合言葉に、事務所を発展させられるように頑張っていきたいと思います。

(構成/TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成23年7月号より転載)