事務所経営
AI時代でこそ「巡回監査士」として活躍したい!
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現在、TKC全国会では月次巡回監査の実施関与先件数の増加を目標として運動方針を展開している。月次巡回監査を断行するためには、「巡回監査士」の存在が不可欠だ。令和7年度の巡回監査士試験で極めて優秀な成績を収め、第154回TKC全国会理事会で表彰を受けた成績トップ5の職員5名が中村哲郎中央研修所副所長の司会進行で、勉強方法や巡回監査時の心掛け、AI活用などについて語り合った。
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■とき:令和8年1月16日(金) ■ところ:グランドプリンスホテル新高輪
- ◉出席者
- 佐藤光平氏(宍戸由喜夫税理士事務所・TKC関東信越会)
北川梨菜氏(れん税理士法人・TKC千葉会)
山口雅彦氏(角谷会計事務所・TKC近畿京滋会)
鈴木佳帆氏(税理士法人クラフトマン・TKC東北会)
福田拓也氏(税理士法人原田税務会計事務所・TKC東京中央会) - ◉司 会
- 中村哲郎会員(TKC全国会中央研修所副所長)
合格者537名のトップ5、5名全員が異業種からの転職
──中村(司会) 令和7年度の巡回監査士試験は、2579名が受験し、537名が合格されました。その中で本日は極めて優秀な成績を収められた全国トップ5の職員の皆さんにお集まりいただきました。はじめに、自己紹介をお願いします。
北川 れん税理士法人(代表:髙山洋平会員・髙山早苗会員)の北川梨菜です。事務所は千葉や東京、北陸、和歌山など複数の拠点があります。
前職は旅行会社でツアーコンダクターをしていましたが、転職を考えるようになり、「数字を通じて中小企業の会計を見る」ということに大変興味を持ち、2023年10月に入所しました。決め手は、「クライアントにとっての『最善』を尽くすことが使命です」という事務所の方針に加え、代表の人柄に、とても惹かれたためです。
北川梨菜氏
鈴木 クラフトマン・コンサルティング・グループ(代表:髙谷新悟会員・鎌田裕次郎会員)の鈴木佳帆です。私たちのグループは会計事務所を主軸としたコンサルティング・ファームで、宮城県仙台市にあります。
私も転職組で、前職は小学校や高等学校で理科の教師をしていました。転職活動を進めていく中で、「せっかくの機会だから、新しいことに挑戦してみたい」という思いから会計事務所業界を志しました。さまざまな会計事務所のホームページを見ていく中で、企業理念の一つである「私たちは、お客さまと共に考え、共に歩み、共に成長する事に喜びを感じ、お客さまの夢の実現のために全力を尽くします」に惹かれ、面接に伺いました。面接では、中途採用が多いことを聞き、職場環境に安心できましたし、代表の人柄にも惹かれ、「この事務所で成長したい」という思いで2024年の5月に入所しました。
鈴木佳帆氏
福田 東京都港区の税理士法人原田税務会計事務所(代表:原田伸幸会員)の福田拓也です。
私もお二人と同じく中途入社で、以前は経理として働いていました。前職は上場企業だったため、連結決算や四半期開示などの業務を行っており、12年ほど「会計」の世界に身を置いていました。
弊所に入ったきっかけは、偶然代表代理である原田将充と前職時代につながりがあり、「税理士事務所の業務内容に興味があるのです」とお話ししたところ、「ぜひ、うちに来ないか」とお声がけいただき、2024年の10月に入所しました。
税理士法人と社会保険労務士法人オフィストラスティを併設していて、港区という土地柄、上場企業の関与先も多く、もちろん中小企業、個人のお客さまなどもいらっしゃるので、幅広い仕事に携わることができるのが、弊所の特徴の一つです。
福田拓也氏
山口 京都府京都市伏見区の角谷会計事務所(所長:角谷雅子会員)の山口雅彦です。私は、2025年9月の入所なので、まだ入所後半年未満です。前職はアプリ開発などをしており、前職の顧問税理士が、たまたま角谷会計事務所の税理士の方で人柄もよく知っていたのでぜひ一緒に働きたいという思いから、ご縁をいただき入所しました。
所長の角谷は日々の業務だけでなく、最新のTKC全国会の活動や研修についても情報共有してくださいますし、指示が大変分かりやすいので、とても働きやすい環境で業務に取り組めています。
山口雅彦氏
佐藤 新潟県の村上市にある宍戸由喜夫税理士事務所の佐藤光平です。現在入所2年目で、前職はJA(農業協同組合)で融資業務に従事していました。そこでは、農家の方々の決算書などを見たり、経営に関してアドバイスする機会が多くあり、「もっと農家の方々を直接サポートできる仕事がしたい」という思いから、会計事務所、税理士事務所を目指し始めました。
新潟県村上市は農業が盛んなエリアなのですが、「農業の会計に関する相談は宍戸先生」という評判があり、私も知っていて、前職時に取得した農業経営アドバイザーの資格が活かせると思い、入所を決意しました。
佐藤光平氏
──今年は、皆さん異業種からの転職なのですね。ちなみに私も、昔は造船所に勤務していましたので、転職組です。
オンデマンド研修で得た知識が、そのまま実務に役立つ
──巡回監査士試験に関しては対策ツールとしてテキストや例題集、オンデマンド研修サービスなどがありますが、どのように勉強されていましたか。また、事務所のバックアップ体制なども教えてください。
北川 私は、なるべく往復の通勤時間やお昼休みなどを活用し、5分でも10分でも、勉強時間を確保し、意識的に勉強をするように習慣化していました。テキストや例題集に関しては、現物ではなく、その日読みたい・勉強したい部分をあらかじめ写真で撮っておいて、スマートフォンなどで手軽に勉強できるようにしていました。
──それは新しいですね。また、画期的な勉強法だと思います。
北川 ありがとうございます。加えて例題集に関しては、全6科目(巡回監査Ⅰ、巡回監査Ⅱ、所得税法、法人税法、消費税法、相続税法)を、3周ほど繰り返し解きました。
鈴木 私は8月の税理士試験に挑戦していて、その後本格的に勉強を始めました。あまり時間もありませんでしたので、はじめに例題集を一通り解いて、分からない部分は解説を見て、それでも分からない部分は該当箇所のオンデマンド研修を視聴していました。その後、一通り疑問点が無くなったところで、問題を見たときに解法がすぐに分かるぐらいには、ひたすら例題集を繰り返し解きました。
オンデマンド研修は、例えば「実務に役立つ所得税法」などのタイトルがありますが、本当に得た知識がそのまま実務に役立つことが多いです。
税理士法人クラフトマンは、職員の資格取得をすごく後押ししています。というのも、資格取得が自分のためになり、事務所全体のレベルアップにつながり、ひいては関与先の発展につながるという方針だからです。巡回監査担当ではない総務の方も、「巡回監査士補試験までは受験しましょう」という雰囲気ですので、巡回監査士・巡回監査士補試験を受ける方が、例年とても多いのです。ですから仲間が多く、すごく挑戦しやすい環境でした。
佐藤 私も8月初旬の税理士試験までは税理士試験の勉強に専念していて、実際に巡回監査士の勉強を始めたのは、8月の2週目からでした。税理士試験はまだ終わったばかりでしたが、色んな誘惑に打ち勝ち(笑)、平日は4~5時間、休日はほぼ1日かけて、例題集を繰り返し解きました。5周ぐらいは繰り返したと思います。
山口 私は9月入社ということもあり、試験まで2カ月弱と時間がありませんでしたので、9月はひたすら隙間時間にオンデマンド研修を視聴することで、インプットに徹していました。
10月からはひたすら例題集を繰り返し解き、解き方が分からない部分のみマーカーを引き、それが無くなるまで繰り返しました。ちょうど試験日の11月4日の直前は3連休でしたので、最後の追い込みとして、3日で6科目全てを3周しました。
福田 弊所は、まずは巡回監査士補からでしたので2024年10月の入所後、まずは1カ月で巡回監査士補を取得しました。私も税理士試験を受けていたので、「法人税法」や「消費税法」は一応体系的に学習できており、過去問を少し解くぐらいでこの2科目は対策を終えました。
その他4科目の巡回監査Ⅰ(職業倫理・巡回監査)、巡回監査Ⅱ(企業会計、経営助言)、相続税法や所得税法に関しては知識が手薄でしたので、主に始業前の時間を活用し重点的に勉強していました。
これらの科目の中でも特に「相続税法」の馴染みが薄かったため、「相続税」を扱う案件に取り組み、実務と紐づけながら、知識を補完するようにテキストで勉強していたので、実務と座学を行き来するような形で勉強を進めていました。
所内では、鈴木さんと同様で資格取得を目指す方が多く、総務の方でも巡回監査Ⅰ・Ⅱは、取得必須となっております。
また、興味があれば自ら所得税法を受験されている方もいましたので、所内全体のモチベーションがすごく高かったです。
司会/中村哲郎副所長
事前のヒアリングを通じて、関与先の真のニーズを捉える
──ここから、皆さんが実際の巡回監査で心掛けていることについて伺います。
北川 私が巡回監査時に心掛けているのは、実態をきちんと把握し、経営者と会話することです。正確な数字はもちろん重要ですが、月次試算表を見ながら「最近はいかがですか」と聞くことで経営者の本音を引き出すことができると思っています。
また、巡回監査に加えて、いわゆる初期指導を行っている新規のお客さまには、記帳からお教えし、年間の大まかな流れも教えていく中で、「最初は苦手意識があったけど、数字を見るのがだんだんと楽しくなってきたよ。ありがとう」と言っていただけたときは、本当にうれしかったですね。
山口 私はまだ先輩職員の巡回監査への同行がメインですが、心掛けているのは「経営者の感情が揺らいだ瞬間を捉える」ことです。
今後は、経営者の方が喜んでいたり、困っていることにいち早く気付き、すぐにアドバイスや解決策をご提案できるような巡回監査士になりたいです。
福田 関与先の規模や経営者の年齢などによって、お困りごとやニーズが異なりますので、私は事前のヒアリングを通じて、お客さまの真のニーズを捉えることを、巡回監査では心掛けています。
例えば、私が担当している、ご夫婦2人で営まれているアパレルの小売業のケースでは資金は潤沢であっても、事業承継する方がいないため、ゆくゆくは第三者への売却なども見据える必要があって、純資産をあまり増やしたくないとのことでした。その点に加えて、お2人には、「できるだけ利益を従業員に還元したい」という想いもありましたので決算期が近付いてきたら、着地見込みを計算して、賃上げ促進税制が適用できるかをシミュレーションしました。
結果的に限界利益が予想よりも多く出ていて、使い道として、従業員の方々への決算賞与としてご提案を行ったところ、大変喜んでいただけました。
鈴木 私も着地見込みは必ずお伝えしています。会計事務所側は、「売上がいくらで、原価がいくらで~」と途中経過の数字をついつい説明してしまいがちですが、経営者の皆さまが気にされているのは「結局、今期は赤字なの? それとも黒字?」ということだと思いますので、限界利益などもおさえながら、重要な数字に関して、順を追って説明するようにしています。
佐藤 私は前任者からの引き継ぎがほとんどでしたので、とにかく今はコミュニケーションをとることを最重視していて、何かあったら直接相談してもらえるよう、関与先の皆さまとの関係構築に注力しています。
記帳をシンプルにすることで「自計化」への不安を取り除く
──「自計化」や「書面添付」への取り組みについてはいかがですか。
山口 私は「自計化」に重点的に取り組んでいます。前職の経験もありExcelのマクロが得意でしたので、MR設計ツールに関して、ボタン1発で瞬時に出るように、約10件ほどのマクロを組ませていただきました。ここは私の得意分野でもあるので、業務の強みとして伸ばしていければと考えています。
福田 弊所ではどちらも力を入れておりますが、私個人的には、「書面添付」に特に力を入れています。月次巡回監査でどれだけ必要な項目をヒアリングして、どれだけ関与先と向き合えているかが、良質な書面添付の実施につながると考えています。
佐藤 私はどちらかと言えば「自計化」に注力しています。山口さんと同じく、私もマクロを組めますので、経理担当者が交代した際に、簿記・会計の知識がない新たな経理担当者に、FXクラウドシリーズの銀行信販データ受信機能や、領収書等AI読取りオプション、さらにExcelデータの読み込みなど、使えるものは全て使って、できるだけ経理担当者が入力しやすいようにしています。
北川 私も「自計化」に力を入れていて、意識しているのは、経理担当者の方が行う記帳を、できるだけシンプルなものにすることです。記帳がシンプルなものであれば、経理担当者の方がはじめて行う「自計化」にも不安なく取り組めるためです。
鈴木 弊所もどちらも力を入れています。月次巡回監査によって作成する書面添付に関しては、基本的に全件付けるようにしていて、決算時に関与先の皆さまと読み合わせをして、「今期はこういう業績でしたね」ということを一緒に確認いただくようにしています。
AIの活用で省力化を図り、経営助言業務を充実させたい
──最近では会計事務所業界に限らず、さまざまな業種で、AIが積極的に導入されています。そういった時代背景も踏まえて、皆さまのこれからの夢や目標について教えてください。
山口 人間とAIの最も大きな違いは感情が「あるか・ないか」だと思います。ですから、経営者の心の機微を見逃さないように、そして担当先を一人で巡回監査できるように、これから「巡回監査士」として業務に取り組みたいです。
鈴木 先ほどマクロの話がありましたが私はChatGPTに作成してもらうことがあります。自分で作成するよりは圧倒的に早いこともありますので。ただ、AIは、あくまで業務のサポートとして使っています。
私の夢はいつか「鈴木さんにお願いしてよかった」とお客さまに言っていただけるようになることです。そのためにも今回「巡回監査士」を取得できましたので、次は税理士資格の取得を目指して頑張りたいです。
佐藤 省力化できる部分に関しては、どんどんAIを活用するべきだと思います。ただ、税理士の4大業務(税務、会計、保証、経営助言)のうち、特に「経営助言」業務は人間が月次巡回監査を行った上でないと、適切にできないと考えております。ですから、省力化した上で、経営助言業務を充実させられるようにAIを活用します。
目標は関与先の方が困ったときにいつでも相談できるような存在になることです。また、新潟県村上市は社会保険労務士(社労士)が少ないので、税理士資格を目指しながら、その後は社労士も目指し、地元に貢献できればと考えています。
北川 私は、Geminiを業務の補助として使っています。佐藤さんと同じく、AIをフル活用して省力化できる部分はして、その分お客さまとの会話の時間に割ければと考えています。
今後は自分自身の知識をアップデートしていきながら、お客さまにとって「北川さんなら、安心だ」と思っていただけるような存在になりたいと思います。
福田 機械的なルーチン業務は、AIの得意分野でしょうから、あらゆる業務の省力化に、AIを活用すべきです。
目下の目標としては、私も税理士資格の取得を目指しています。その上で、自分の得意分野を見つけて、これまでのバックグラウンドを活かし、AI時代でこそ「巡回監査士」として、活躍したいと考えています。
──本日はありがとうございました。今年の巡回監査士試験は11月4日(水)です。ぜひ多くの方々に受験いただき、皆さまのような「巡回監査士」が全国に増えて、月次決算体制を構築したTKC会員事務所が、さらに広がることを切に願っています。
(構成/TKC出版 米倉寛之)
(会報『TKC』令和8年4月号より転載)