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三重県四日市市で自動車整備業を営む平野商会。地域に密着しつつ顧客に寄り添う会社づくりを進め、堅実な成長を勝ち取ってきた平野和彦社長は、次世代へのスムーズな承継に向けてラストスパートをかける。平井基也顧問税理士とともに話を聞いた。

左端はふぇにっくす総合事務所の米澤裕子さん(監査担当)、右端は後継者の平野順也常務

左端はふぇにっくす総合事務所の米澤裕子さん(監査担当)、右端は後継者の平野順也常務

──業容は?

平野 スズキを中心にした全メーカーの新車・中古車の販売・整備、板金・塗装、自動車保険、部品・用品販売など、車に関してお客さまのあらゆるニーズに対応しています。基本的には車検整備を軸にしつつ、地域密着でお客さまに寄り添いながら関係性を保ち、車販などに結び付けていくというビジネスを展開しています。

──創業は1958年だそうですね。

平野 父(先代)が平野自転車商会として創業しました。祖父が自転車の職人だったこともあり、自転車屋としてのスタートでしたが、父は便利で速い乗り物が好きだったので、バイク分野に進出し、64年には三菱自動車の代理店として事業を開始するとともに自動車認証工場を設立しました。さらに、87年にスズキから声がかかり、別店舗で営業をはじめ、まもなくスズキ一本に絞る形になりました。

高い技術力と丁寧な接客が売り

愛され親しまれる人づくり

──昨年度の業績は良かったようですね。

平野 売り上げは6億,1000万円、利益は約3,300万円。利益率は5.4%と過去最大でした。ここ何年か続いていた半導体不足などによる納車遅れが徐々に解消されてきて、それが登録件数に結びついたのだと思います。ちなみに、新車は年間110台くらいを販売しています。最近は軽自動車ばかりでなく、小型車も好調になってきており、これも売り上げを押し上げている要因です。

平野和彦社長

平野和彦社長

──それにしてもすばらしい業績です。

平野 ネット上においても、このところ褒めていただく書き込みが多くなっており、口コミで評価が広がっている印象です。ホームページ経由での新規のお客さまも増えています。

──なぜでしょうか。

平野 これはもう社員がよくやってくれているからです。当社では「愛され」「親しまれ」「頼られる」会社づくり、人づくりをモットーとしていて、挨拶や笑顔での接客を徹底し、お客さまに寄り添いながら親身になって対応するよう指導しています。それが当社の強みであり、評価されてきている理由だと思っています。

──近年はクルマの電子制御化が進み、整備技術の更新も大変なのでは?

平野 教育投資は惜しまず行ってきたので、その点は問題ありません。全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)※2 やお付き合いのある保険会社の研修会には積極的に参加し、最新技術を学んでいます。電子制御システムの故障を診断するスキャンツールなども、当社のメカニックは問題なく扱えます。

──最近まで、全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)のブロック長(愛知・三重・岐阜・静岡)をされていたとか。

平野 当社はロータスクラブに81年に入会し、翌82年からは父(先代)の代わりに私が担当となり、研修や会合に出席するようになりました。当時はなにしろ22歳の若造でしたから、他の社長さんたちから聞くことすべてが新鮮でした。

──どのようなことが勉強になりましたか。

平野 キャンペーンなどを通して車両ばかりではなく、タイヤや保険についてもきっちりとマーケティングをしながら「(能動的に)販売していくこと」が大事だということを教わりました。また、朝礼の必要性など、組織をまとめるためのノウハウも学ぶことができたし、ロータスクラブの営業マン研修、メカニック研修、フロントマン研修にも社員を積極的に参加させ、組織としての底上げを行ってきました。

全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)…自動車整備業者の組織として1975年1月に設立。自動車整備業界の近代化、社会的地位の向上、さらには法定需要体質からの脱却など、新しい業界づくりの理想を掲げてスタートし、1社ではできないことも全国の同友(約1,600社)が結束することで成長してきた。

基幹ソフトと仕訳連携

──4年前に、平井基也先生に税務顧問を依頼されたそうですが、理由は?

平野 以前の税理士先生も伴走型でよくやっていただいていたのですが、いかんせん、当社では月間1,000枚近くの伝票を処理しなければならず、決算自体が遅れ気味になっていました。そうこうするうちに、ロータスクラブとTKCが業務提携するということで、いろいろとお話を聞くうちに、TKC会員にお願いするとクラウド会計によって効率的な財務管理が可能になると分かり、それはいいと……。

平井 平野社長とはロータスクラブ研修会のグループワークで、たまたまご一緒させていただいたのが、最初の出会いでした。

平井基也顧問税理士

平井基也顧問税理士

平野 その際に、平井先生に会社の課題をすべて赤裸々に相談し、それぞれに詳細なアドバイスをいただきました。そのご縁で、税務顧問をお願いしたという経緯です。

──関与されてからはどのようなプロセスを?

平井 『FX4クラウド』を導入して自計化(会計ソフトを使用して自社で財務を管理すること)を行いました。さらに『ブロードリーフ』という自動車整備業界向けの基幹システムと『FX4クラウド』を連携させました。これによって入力業務の効率化はもちろん、ミスのない月次試算表をタイムリーに出力することが可能になりました。従来、平野商会さんでは、試算表や決算書の正確性に疑問をお持ちだったようですが、いまでは、そのような不安はなくなったと聞いています。

──実務面でどのような変化が?

平野由紀さん(経理担当) 自計化については、最初とまどいましたが、慣れてくるにつれて以前よりもはるかに楽になりました。『ブロードリーフ』との連携はもちろん、銀行信販データ受信機能によって金融機関との取引データを自動受信して簡単に仕訳できるようになったし、証憑保存機能を使ったペーパーレス化にも取り組んでいます。また、現在、経理業務の一部は常務の奥さんにお願いしていて、彼女は家事や子育てに忙しく、在宅で仕事をしてもらっているのですが、『FX4クラウド』ではどこにいても入力ができ、その意味でも、ありがたいです。

平野由紀さん

平野由紀さん

平野 とにかく工数が減って生産性が上がりました。翌月には部門別の正確な業績が見えるようになったので、数字に基づいて的確な打ち手を取れるようになったし、さらに言えば、給与システムもTKC(戦略給与情報システム『PX2』)に変えたので、私がとくに注視している労働分配率も即座に把握できるようになりました。

──労働分配率を注視する理由は?

平野 やはり最大の経費は人件費なので、ここを慎重にコントロールする必要があります。私は45%くらいが適正だと考えていますが、今後は、社員に報いるためにも50%くらいに持っていければと考えています。

高い技術力と丁寧な接客が売り

高い技術力と丁寧な接客が売り

次世代へたすきを渡す

──これまでのお話をお聞きすると、社長は数字にとても強いという印象です。

平野 97年に社長に就任した時には利益がわずかしかなく資金繰りが苦しかっただけに、数字にはこだわらざるを得ず、売り上げを上向けながら変動費を下げることに徹してきました。おかげで、ここ20年、赤字の年はありません。経営者としては石橋をたたきながらわたってきたように思います。

平井 なにしろ、自己資本比率が76%ですからね。

──すごいですね。ほぼ無借金ということですか。

平野 2008年に板金工場やショールームの改装などに投資するための借り入れを行いましたが、それも来年返し終わります。と同時に常務へ代表をバトンタッチする予定です。

──そういえば、事業承継が平野商会さんの課題だとか。

平井 私が関与してまもなく、相続税の申告を二つ実施し、さらには贈与税や相続税の納税が猶予される特例事業承継税制を活用した常務への承継を実践中です。常務は社長に対してリスペクトを持っておられるので、経営承継については問題ないでしょう。あとは業務の引き継ぎですが、これは既述の通り『FX4クラウド』による自計化により、仕事の標準化ができ、スムーズに継承できる基礎はほぼ完成しています。前のままでは、業務の引き継ぎすらできなかったと思います。

──抱負を。

平野 既述の通り、来期、常務に社長職を渡す予定です。私ばかりではなく、家内も常務の嫁へと業務を引き継いでいかなければなりません。つまり、次世代へたすきを渡すためのゴール直前に差し掛かっているので、平井先生の協力を得ながら、歯を食いしばってラスト100メートルを走り切りたいと思っています。

(取材協力・ふぇにっくす総合事務所 平井会計/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 有限会社平野商会
業種 自動車販売・整備業
設立 1958年4月
所在地 三重県四日市市東坂部町3-2
売上高 6億1,000万円
社員数 16名
URL https://www.hirano-shokai.com/
顧問税理士 ふぇにっくす総合事務所 平井会計
所長 平井基也
三重県津市寿町21-1
URL: https://www.tkcnf.com/atax

掲載:『戦略経営者』2025年8月号