事務所経営

中小企業経営者が月次の業績を経営判断に活かす文化を定着させたい

目次
加藤武人税理士事務所 加藤武人会員

加藤武人会員

月次巡回監査終了後に最新業績が瞬時に経営者や経営幹部のスマートフォンに送られる「月次決算速報サービス」。関与先の多くに利用を促している加藤武人会員(TKC千葉会)は、本サービスをきっかけとして、日々の経営を月次で自己評価することを社長に習慣化してほしいと述べる。

会計事務所から経営助言を得たいという社長の潜在ニーズを掘り起こしたい

──加藤先生の事務所では令和6年11月20日のサービス提供からわずか一カ月間で、関与先の約半数にご利用いただいています。その理由をお聞かせください。

加藤 私の事務所にとって、とても待ち望んでいたサービスだったからだと思います。かねてから私の事務所は、関与先経営者(社長)が自社の業績に関心を持ち、成長・発展に向けた行動に移してもらえるように巡回監査を行い、支援してきました。職員にも事務所の取り組みが浸透しており、月次決算速報サービスが最適なものだと感じて、積極的に社長へ推進していった結果、多くの関与先に使われたのだと捉えています。

──月次決算速報サービスの特にどのような点をよいと感じたのでしょうか。

加藤 月次決算速報サービスがよいと感じた点は、月次更新処理を終えると、即座に社長のスマートフォンに業績が届けられるという速報性と確実性です。
社長には「自社が本当に儲かっているのか。もし損失を受けていたら一刻も早く食い止めたい」という思いが根底にあります。私たちはその思いに応えるため、月次決算の質(精度)と量(スピード)を充実させる努力をしています。
しかし、そこには課題があります。関与先で行う月次決算の作業は、経理担当者のパソコン上で行っています。その場に社長が同席していれば、決算後すぐに業績を見ながら対話できるのですが、社長が不在の場合に経理担当者が「月次決算が終わりました」と社長に報告し、業績をお見せすることはほとんどないでしょう。また、我々に業績報告を求める社長もまだ少なく、我々としては、まずは社長に月次決算直後の業績をなるべく早く確実に見てもらうことが課題でした。

──月次決算の結果にあまり関心を持たない経営者もおられますか。

加藤 もちろん、1日でも早く自社の業績をチェックし、自ら下した意思決定を振り返りたい、課題解決に取り組みたいと望む社長もいます。月次決算を行い、経営助言を待ち望んでいるケースです。その一方で、多くの社長は業績に無関心で、振り返る機会がないまま、勘と経験をもとにした経営判断を行っている状況です。後者の社長に対して、会計事務所から経営助言を得て、自分で数字を見て課題解決したいという潜在ニーズを掘り起こすことが必要です。この潜在ニーズの掘り起こしはとても大事な役割です。
月次決算速報サービスを利用すれば、社長が直接、業績を目の当たりにすることになります。社長にメールアドレスを聞いて、「これからは巡回監査が終わると社長のスマートフォンに最新業績が届きますよ。必ず見なくてはだめですよ」と促す機会ができました。社長が毎月しっかりと業績を確認し、自身の意思決定を振り返り、経営判断に活かす文化を定着させるツールとして活用したいです。

──月次巡回監査の質とスピードはどのようにお考えですか。

加藤 当然のことですが、いかに業績の提供スピードが速まっても、そこに記載されている数字が正確でなければ無意味です。仕訳の計上漏れや二重計上などが原因で売掛金残高や買掛金残高、棚卸高などに誤りがあると、社長は正しい経営判断ができません。月次決算の精度を高めるためには、我々が関与先を初期指導して、TKCシステムで自計化し、証憑保存機能や銀行信販データ受信機能などをフル活用した上で、月次巡回監査を行う必要があります。そして、TKCシステムを活用した月次巡回監査によって、質とスピードが充実した月次決算を実現できるということを社長にご理解いただくことも重要です。

関与先ごとに異なる業績の着目点を示して社長の経営判断に役立ててもらう

──社長に自社の業績に関心をもってもらうためこれまで工夫されてきたことを教えてください。

加藤 当事務所では決算が終わると同時に次年度の計画を立てています。そのために決算の一カ月前には、継続MASシステムに次年度の役員報酬の金額を入れて、過去の業績と次の年の売上計画を社長にお聞きしながら、役員報酬を確定させていきます。社長と業績を振り返り、対話しながら経営計画を立てていく取り組みは従前から行っていました。
また、2年前からは、四半期ごとに業績検討会のデータを基にして、特に着目していただきたいデータを関与先にお示ししています。これはかつて、元TKC千葉会会長の故・宮﨑健一先生の事務所を訪問した際に、職員さんが定規とマーカーを手にして、TKCから送られてきた月例経営分析表などで、社長に注目してもらいたい箇所に印をつけて関与先に提供していたことを参考にしています。関与先ごとに業績を見る際の着目すべき点が異なります。そこで「データを見ておいてください」とだけ社長に言っても、すぐに経営判断には使っていただけません。
これまでは四半期ごとの業績検討会のデータを基にしていましたが、毎月社長に届く月次決算速報サービスの方がより早く社長の経営判断に使っていただけるので、月次決算速報サービスのデータに切り替えていこうと考えています。

──日ごろから社長と接している巡回監査担当者の皆さんの分析力やコミュニケーション力が重要ですね。

加藤 毎月所内で行っている全体会議の中で、巡回監査担当者が関与先経営者とどんな対話をしているのかを、職員間で情報共有しています。時間にすると20分程度ですが、例えば、赤字だった関与先の社長に対して業績改善に向けてどのような動機づけを行ったのかを巡回監査担当者が発表し、別の担当者に「○○さんはどのように対応していますか」と問いかけるという形で振り返りを行っています。担当者それぞれが話術を持っていることが分かり、お互いに他者のよいところを参考にしながら、社長とのコミュニケーション力を高め合っています。

日々の経営を自己評価できる環境をつくり業績を上げた社長には敬意を表したい

──当サービスへの要望はありますか。

加藤 サービスを利用するにあたって必要な三つの条件(FXクラウドシリーズ・巡回監査機能・継続MASでの予算登録)のうち、継続MASでの予算登録はほぼできていますので、職員は、FXスタンドアロン版からFXクラウドシリーズへの移行をどんどん進めています。あと半年ほどで大半の関与先がサービスを利用している状態になっていると考えています。
サービスを利用している社長からは、物珍しさもあって、「スマートフォンでいつでも見られるから、よいサービスができたね」との言葉をいただいています。今後は数カ月経っても飽きがこないよう、社長が関心を寄せ、継続して見たくなるようなインターフェースや仕掛けも検討していただきたいです。
そして、社長がメールを開いてくれたかどうか、どれくらいの時間見てくれたかを確認できる仕組みもあればとてもありがたいです。そうすれば、数字に興味がない社長にも「まだ見てないですね」と我々から働きかけて、対話のきっかけにすることができます。今後のレベルアップを期待しています。

──今後の抱負をお聞かせください。

加藤 経営者はどんなに頑張っても褒められる機会はめったにありません。そのような社長のために、月次決算速報サービスが日々の経営を月次で自己評価できる通信簿のような役割を担って、業績が上がって黒字になれば、社長の頑張りに敬意を表して讃えることを、地元千葉県の金融機関や信用保証協会と一緒に定着させていきたいと考えています。そうすれば、社長のモチベーションが高まり、自ら業績を振り返り、気づいたことを実行に移す習慣ができ、日本の中小企業が元気になるのではないでしょうか。
赤字企業を黒字化することや黒字企業を優良企業へと発展させるきっかけづくりは、社長の「親身の相談相手」として、会計の力で日本の中小企業の存続・発展を側面から伴走支援している税理士の重要な役割だと考えています。この役割をしっかりと果たすことにより、社会から期待される存在となります。TKC会員が、関与先の月次決算体制構築を支援し、経営助言業務に背を向けることなく、積極的に月次決算速報サービスを活用し、社長のやる気を引き出すことで「会計で会社を強くする」土台を築いていけるものと思います。

(インタビュー/SCG営業本部 島田 聡 構成/TKC出版 石原 学)

事務所概要
事務所名 加藤武人税理士事務所(TKC千葉会)
所在地 千葉県千葉市中央区新宿2-5-3大同生命ビル5F
開業年 平成2年12月
職員数 7名(巡回監査担当者5名)
関与先数 99件(法人88件、個人11件)

(会報『TKC』令和7年3月号より転載)