事務所経営

「常にチャレンジしよう!」をモットーに複数企業グループのコンサル業務を実現

藤本幸治会員

事務所近隣の堀川戎神社の前で

連結納税の子法人を関与していたことから、企業グループ複数社へのASP1000R導入・運用で信頼関係を構築して直接契約。インボイス対応では説明会開催を行うなど、企業グループ全体で業務拡大につなげている藤本会計事務所の藤本幸治会員(近畿大阪会)にお話を伺いました。

1件目の関与先(子法人)で初めて連結納税を支援

──藤本先生は開業されるまでに、システム会社や監査法人での勤務経験があるとお聞きしました。まずは税理士事務所開業に至るまでの背景や開業時のエピソードなど教えてください。

藤本 大学を卒業してすぐ就職したのは、システム会社で、約4年、クライアントのシステム構築を行っていました。顧客からヒアリングした要件を整理し、課題解消に向けて一緒に考えながら、システムを設計していく仕事に充実感は覚えつつ、ほかの新しい世界も見てみたくて。最近「今の若者は転職をすぐ考える…」など、よく世間話を聞きますが、振り返ると私自身もそうでした(笑)。転職を考えたときに、何となく手に職を持っていないとチャレンジできない気がして、次に公認会計士を目指したのです。大学は経済学部で関係ないこともないけど、簿記なんて学生時代は全くやっていなかったのですけどね。

──それまで勉強していなかったのに、難しい国家資格を目指しましたね(笑)。

藤本 若かったですから(笑)。3年ほど集中して勉強して合格し、監査法人に就職しました。ただ、正直に言うと、会計監査の仕事は自分にとっては面白くありませんでした。システム会社のときはお客さんと相談しながら一緒にシステム構築していくスタンスでしたが、監査法人は仕事柄、先方にとって緊張感を伴う関係性。修了考査まで終わったらやめようと早い段階から思いはじめ、結局4年お世話になったあと、平成27年に税理士として登録、独立開業しました。文字通り顧客ゼロからのスタートでした。親からは反対されましたけどね。

──よく決断されましたね。TKCにはどのタイミングで入会されたのですか。

藤本 とりあえず開業後、1件も関与先がないので、自分の友人、知人はもちろん、大学時代にやっていたワンダーフォーゲル部の名簿をもとに声掛けを始めました。そのような中、A社の役員に就任されていたBさんが、OB訪問を受けてくれました。Bさんとはそれまで面識もなかったのですが、面談の際には経理、財務を担当している役員の方の同席も配慮いただいていました。当時、A社は連結納税制度を適用して初年度が終わったところだったのですが、課題があった子法人の顧問税理士が連結納税の対応ができないとの話で、直前にOB訪問していた私に声がかかったのです。A社としては、連結納税の対応ということだけでなく、企業グループにおける決算申告スケジュールや管理体制を理解している公認会計士への期待があったようです。何せ1件目の関与先ですから、私も連結納税は初めてなのですが、「常に新しいことにチャレンジしよう!」という経営方針のもと、やってみようと思いました。自分の業務範囲を最初から狭めるのではなく、自分がお客さんと一緒に課題解消に向けて頑張りたいという気持ちからでした。実はその関与先がA社の連結納税の子法人としてTKCの連結納税システム(eConsoliTax)を利用していたのです。

──なるほど。TKCへの入会は、お客さんの利用システムがきっかけなのですね。

藤本 開業からしばらくは、税務はその連結納税の子法人1社だけ、あとは公認会計士としてアルバイト的な補助業務だったので、依然、中小企業支援に取り組めず、TKCの最大の武器であるシステムやツールを活用できなくて、忸怩たる思いでした。そんな中、大企業の電子申告義務化支援でTKCからC社のASP1000Rコンサル業務のお声がけがありました。

企業文化や決算予定を把握しグループ内のミスマッチを解消

──C社へのコンサル業務について依頼時の感想を教えてください。

藤本幸治会員

藤本 まずは、自分に声がかかったことに素直に感謝しました。初めてで、何をどこまで支援すればよいのか、わかっていませんでしたが、実際に自分が上場企業の子会社の申告書を作成する際につまずいたポイントなど、ユーザ視点での対応に意識を置いたコンサルを心がけようと思いました。TKCからは大きな企業グループということで、少しプレッシャーをかけられましたが(笑)、支援内容自体は、最後まで、良い意味で自由にさせていただけました。

──実際の導入作業はいかがでしたか。

藤本 まずは、しっかりとシステムを稼働させるためにも、前年度の申告書の再現作業に注力しました。その中で、スプレッドシートなどで処理されていた税効果会計などの課題についてもある程度整理して概要を把握した上で訪問しました。先方が引っ掛かりそうな事項について改善策を提案できるように準備しておいたのですが、そういった対応のやりとりの積み重ねが、先方との信頼関係の構築にも役立った気がします。

──これまでのキャリア、システム会社や監査法人にいたことの強みが活きましたね。

藤本 TKC社員がC社との間に入って、必要な追加資料の提供依頼や他社での事例を紹介してくれたことも助かりました。ヘルプデスクにもお世話になりましたね。自分としても導入コンサルを良い感触で終わることができたという実感はありましたが、既存の顧問税理士もいらっしゃるので直接契約に結び付くとは想定していませんでした。ただ、導入が終わったあと、担当者が上司に相談してくれていたようで、顧問税理士がサポートしていない範囲での税務相談の直接契約を締結できました。見積を作成する際は、中堅・大企業の相場感がわからなかったので、先達会員の岸田泰治先生(近畿大阪会)に事例を教えていただきました。サービス範囲や工数の考え方なども含め、目安となって感謝しています。
 現在、C社はグループ通算制度に移行中というのもあり、申請の仕方からシステムに関する問合せなど気軽に相談いただけています。

──最初に子法人が関与先になってくれたA社グループの方は業務拡大につながりましたか。

藤本 A社グループにはさらにその上に親グループがあるのですが、組織再編で連結納税を離脱することになったのです。当時、A社グループの親会社とは特に顧問契約を締結していたわけではなかったのですが、私が関与している子会社の決算早期化などで私の仕事ぶりを見ていてくれたこともあって、気軽に話せる間柄にはなっていました。そこで連結納税離脱を機に元々利用していた他社の申告システムに戻る意向を聞いた際、すぐASP1000Rの導入を親会社に提案しました。そうしたら「これまであまり税理士や公認会計士から提案されたことない」と新鮮だったようで(笑)。結局、既存の顧問税理士の契約満了後、改めて契約締結となりました。さらにA社グループのほかの子会社もご紹介いただきました。

──提案した姿勢を評価してくださったのですね。A社グループでは現在、何社と直接契約に至りましたか。

藤本 現在、5社です。企業規模としては、売上数億~監査法人の監査が入るところまで様々ですが、孫会社、ひ孫会社となるとどこも人材不足なのに、親会社から求められるレベルは高いし、担当者はしんどい。そういった業務のミスマッチを起こしている会社の課題解消を実現するための提案は不可欠です。同一グループ内なので企業文化や決算申告スケジュールを私が把握しているという点で、先方にも納得感のある提案につなげられていると思います。

──追加提案のコツがあれば教えてください。

藤本 私の場合は、インボイス対応などの制度改正のときはもちろん、支援する上で押さえるべきイベント──例えば、人事異動や経理担当の退職、子会社の管理体制の変更など意識してアンテナを張って会社の人と会話するようにしています。そういう機会が提案のチャンスにつながることが多いですからね。

中堅・大企業での関与先拡大成功要因

社員向けインボイス研修会などユーザに有益な情報を提供

──インボイス対応では、どんな支援をされましたか。

藤本 A社グループでは、1年ほど前に、社員向けのインボイス対応説明会を行いました。さすがに通常の顧問契約範囲ではなく、スポット業務として受託しましたが、当日はハイブリッドで開催され、Webを含めると50~60名は参加されていたと思います。A社グループでは、複数の事業部があり、事業部ごとにインボイスを発行されているので、説明会実施後は、各事業部を回って要件を整理して、どの証憑をインボイスとみなすかなど、アドバイスしました。説明資料には、TKCから提供されているツールを全面的に活用しました。一から自分で作ることなんてとてもできないので、本当に助かりました。
 A社以外の企業グループにもインボイス対応について困っていないかヒアリングしましたが、親会社がコントロールしているケースと各子会社に任せているケースと両方ありますね。先方のニーズに合わせて、柔軟に対応していきたいです。また今後は、新リース会計基準への対応を見越して、固定資産管理システム(FAManager)の提案なども行っていきたいですね。

──藤本先生は複数企業グループで中堅・大企業のコンサル業務を担われていますが、中小企業への支援との違いはどこにあると思いますか。

藤本 中小企業の場合は、経営者の判断で物ごとが決まることがほとんどですが、中堅・大企業の場合、組織体制として関係者が多く、上司や場合により親会社の承認を受ける必要があることです。当然、文書での報告、共有を求められますので、質問には根拠条文を添付して回答するなど、担当者が困らないように努めています。

──貴重なお話をありがとうございました。最後にこれから中堅・大企業への支援業務に取り組みたいと思っている会員先生方へのメッセージをお願いします。

藤本幸治会員

藤本 率直に言って、中堅・大企業へのシステム・コンサルティング業務は自分にとって、とても刺激になる仕事です。もちろん中小企業への支援は、経営者へのアドバイス業務がメインになるので直接的で面白い反面、公認会計士や税理士という専門知識が活かせている感覚ではない。今、自分が担当しているユーザへの運用支援としての訪問時には、制度改正の最新動向だけではなく、そのユーザにとって有益な情報についてネタ探しをするのですが、実は自分自身とても勉強になっています。毎回、何時間も準備するのはしんどいなと思いつつ(笑)、それを評価してくれる相手であることもわかっていますからね。最近もある会社から「子会社も参加させたい」といった要望をいただき、嬉しかったです。
 難しい課題に遭遇しても相談できる仲間が中大研にいますから、横連携しながら取り組んでいけばいい。TKCから声がかかったら、安心して多くの若手の会員先生方にチャレンジいただきたいと思っています。

(インタビュー・構成/中堅・大企業支援研究会事務局 今村こすみ)

事務所概要
事務所名 藤本会計事務所
所在地 大阪市北区西天満5-1-15 西天満パークビル2号館5階
設立 平成27年2月(平成27年10月にTKC入会)
代表者 藤本幸治(平成27年2月税理士登録)
職員数 3名

(会報『TKC』令和6年5月号より転載)