事務所経営

「巡回監査」のプロとして、着実に日々の仕事を全うしたい

出席者写真

令和5年度巡回監査士試験は、受験者数が2536名に対して合格者数が560名となった(合格率22・1%)。その中で、優秀合格者として第148回TKC全国会理事会で表彰を受けたTKC会員事務所職員3名が中央研修所中村哲郎副所長の司会進行のもと、オンデマンド研修を利用した勉強法や実際の巡回監査時の心掛け等について語り合った。

■とき:令和6年1月19日(金)■ところ:グランドプリンスホテル新高輪

◉出席者
青柳速季氏(税理士法人成迫会計事務所・関東信越会)
古畑里奈氏(山﨑泰史税理士事務所・関東信越会)
吉澤拓真氏(篠原仁志税理士事務所・関東信越会)
◉司 会
中村哲郎会員(TKC全国会中央研修所副所長)

世の中のためになる仕事をするとの理念に感銘を受け入所

──あらためて本日は優秀合格者表彰の受賞おめでとうございます。はじめに自己紹介と事務所の特徴をお聞かせください。

青柳速季氏

青柳速季氏

青柳 長野県松本市にある税理士法人成迫(なる さこ)会計事務所(所長:成迫升敏会員)の青柳速季と申します。大学卒業後は製造業の会社に就職しました。日頃から社長と話す機会が多く、とりわけ経営に関する話が非常に面白かったこともあり「もっと色々な経営者目線の話を聞きたい」という思いで簿記2級を取得し転職を決意。入所して1年5カ月になります。
 入所後に驚いたのはグループ全体で、約170人もの従業員が働いていることでした。現在、医療・福祉事業部という部署で「法人成り」や「診療所の移転」の支援、そして「巡回監査」と、さまざまな業務に携わることができています。いつも快く仕事を任せてくれる環境と、共に働く皆さんに感謝しています。

古畑 山﨑泰史税理士事務所の古畑里奈です。場所は同じく長野県茅野市というところにあります。私は昨年の4月に、新卒として入所して、現在9カ月目となります。山﨑所長とは、たまたま出身大学と学部が同じで面接の際に伺った経営理念と、所長の物腰柔らかな人柄に惹かれたことが、入所の決め手となりました。とりわけ、経営理念の中の、「クレド(行動規範)①自己を磨く②他者に貢献する③感謝を伝える④主体的に動く⑤挑戦する」に、とても共感したことが大きいです。
 就職活動の際に会計事務所に興味を持ったのは、大学で経済学を学んでいたことに加えて、
 「お金に関する知識は生きていく上で必ず必要なもの」と考えていたからです。ですから会計事務所に入ってしっかりと知識を習得したいという思いが強くありました。
 所内では、全員が所長のことを普段から「さん」付けで呼んでいて、事務所全体がすごく和やかで働きやすい雰囲気です。また「親身な相談相手となり、信頼される経営のパートナーとなる」というビジョンを掲げていて、お客様ともすごく密接な関係を築けている事務所だと日々実感しています。

吉澤 篠原仁志税理士事務所の吉澤拓真です。長野県諏訪市にあります。前職は教育関係の業界で入所してから1年4カ月です。経営理念の「自利利他の実践を通じて、関与先の健全なる発展をお手伝いすることにより、世の中のためになる仕事をすること」に感銘を受け入所を決めました。篠原所長は職員研修に大変力を入れておられ、繁忙期を除いておおむね月2回の研修に加え、毎朝の専門書の輪読など「巡回監査担当者としての資質の向上に努める」機会をいただいています。

オンデマンド研修で内容を理解した上で問題集を繰り返し解く

──皆さん長野県の会計事務所に勤務されているということですね。続いて、受験したきっかけや、事務所のバックアップ体制、また、勉強法などを教えください。

吉澤拓真氏

吉澤拓真氏

吉澤 入所前に簿記・会計に関しては少し勉強していましたが、試験科目6科目中、5科目はほとんど触れたことがないような内容で、実際に実務に関わる中でも知識不足から歯がゆさを感じていました。ですから、巡回監査担当者として、知識を習得するという面で今回受験することができたのは、とてもありがたかったです。
 加えて、先ほどもお話しした通り、事務所全体が職員研修にとても力を入れているので集中できる理想的な環境で、取得を目指すことができました。
 勉強法ですが、オンデマンド研修が非常に分かりやすかったので、主に事務所でじっくり見てまずは内容を理解しました。その後、テキストを見ながら問題集を1周し、2周目で確実に理解を定着させていきました。

青柳 事務所の方針は入所後すぐに「巡回監査士補」の取得を目指し、その後は「巡回監査士」の道へ、という流れです。私は8月末の入所だったため、約2カ月の勉強で「巡回監査士補」を取得する必要がありましたが、税法等に関しての知識がほぼゼロだったので、問題に慣れるまでは大変でした。
 ただ、すでに資格を取得している先輩方から過去問の傾向や、高得点を取るためのコツなどを詳しく教えていただき、実務と勉強の両立は少し大変でしたが乗り越えることができました。
 勉強法は、問題集を徹底的に3周ほど繰り返し解きました。オンデマンド研修は「巡回監査士補」を受験するときに、同じ試験を受ける職員と、所内で視聴しましたが「巡回監査士」のときはなかなか動画視聴の時間が確保できませんでした。そのため、問題集の分からない部分、例えば「この数字は何なのか?」などは、基本的に1周目で全て理解するようにして、2周目には全体像を把握し、3周目はほとんど全てを理解できる状態にしていました。

古畑 私は大学4年生のときに内定をいただいてから、アルバイトという形で勉強も進めながら、入所前に「巡回監査士補」を取得しました。「巡回監査士」に関しても、まずは「しっかりと日々の業務に関わる知識を習得したい」という思いもありましたし、所長からは勉強法に対するアドバイスなども具体的にいただけていたので、スムーズに理解を深めることができました。
 私もオンデマンド研修を活用し、主に自宅などで視聴しながら、教科書とテキストにメモ書きをして、まずは知識の習得に努めました。その後問題集を解くのですが、最初は本当に分からないので答えを見ながら、それぞれの数字が何を意味しているのか、しっかりと把握するようにしました。色んなものには手を出さずに、同じ問題集を6、7周ほど繰り返し解くことで知識の確実な定着を図りました。

──皆さん、積極的にオンデマンド研修を活用いただいていますね。その他の研修で実務に効果的だったものや現場で役に立った研修はありますか。

吉澤 特に「原点の会」は所長からも推奨いただいたので参加するようになりました。講師の髙橋宗寛和尚のお話を聞いていると、あらためて自分を顧みることができますし、巡回監査の上で自分の行動や考え方を内省することができるので大好きな研修の一つです。

古畑 普段の業務で相続税に関する申告や試算などを担当することが多いのですが、研修を受けると相続税額の計算や、さまざまな財産評価について学ぶことができ、実務に直結した内容を理解することができたので、素直にうれしかったです。私は学問の中でも数学が好きで、税務業務も数学の裏付けがあって理解できるという部分で共通しています。相続税の勉強は、税法の中でも特に面白いと感じています。
 また、入所してすぐに始まったインボイス制度に関しては理解が浅く、研修を受けて入力の仕方等も含め、制度への理解を深めることができました。実務を行う中でTKCシステムは非常にインボイス制度に沿ったものが多いと感じるので入力方法が研修ですぐに分かるのは大変ありがたいです。

巡回監査の現場で常に心掛けていること

──皆さんはすでに担当を持たれていると伺いましたが巡回監査で普段から心掛けていることについて、教えてください。

青柳 現在の担当は約10社です。クリニックの新規開業に携わることが多く、特に開業1年目となる院長先生方は、実際に資金繰りが正常に回るのかを非常に心配されているので、支出や債務の返済を円滑に行うことができるのか、常に意識し、所長にアドバイスをもらいながら巡回監査をしています。また、実際には1年目よりも、開業2年目からが正念場となる事例が多く、今が安定していてもしっかりと将来を見据えることが重要だと考えており、例えば個人事業主皆さんの退職金確保のために「小規模企業共済」を提案するなど、少しでも将来に対する不安が取り除けるよう心掛けています。

──青柳さんがクリニックの先生方との関係性を、日頃からすごく大切にされていることがよく分かります。

青柳 ありがとうございます。クリニックには開業時に「内覧会」と呼ばれる見学会があるのですが、地域の患者さんも多く来られますし、普段からクリニックの先生方とは時間を共にする機会が多く、それが、信頼関係の構築につながっているのではないかと考えています。また、巡回監査士の資格を取得してから明確に自信を持って巡回監査できるようになったと感じています。

古畑里奈氏

古畑里奈氏

古畑 私は個人のお客様を2件担当していて、他のお客様に関しては所長に同行することが多いです。新規事業の立ち上げに関するケースが多いのですが、まだ経験が浅いので、日々学ぶことばかりです。ただ、お客様も初めて会計に触れる方が多く「仕訳入力がすごく分かりやすい」「分かりにくい部分に関して、資料を作成してもらえると助かる」等のさまざまなご意見をいただけるときはうれしいです。
 現在は巡回監査時にどういった部分に着目して行うかは、所長に同行しながら学んでいる最中で、普段から事務所の皆さんには「困ったときはいつでも助けるから、とりあえずやってみることが大事だよ!」と明るく声がけしていただけるので、すごく心穏やかに業務に取り組めています。

──新規事業の立ち上げは、お客様と一緒に成長していくという意味で、大変面白みのある仕事ですよね。吉澤さんはいかがですか。

吉澤 2022年の9月に入所後、2023年の年明けから先輩の巡回監査に同行し、引き継ぎを行い、現在は約10社担当しています。私も新規事業の立ち上げに関わる機会がありましたが、小規模の会社であれば、経理担当者の方が経理専門ではなく、他の業務と兼任で担当されているということもあり、最初は自計化の提案がなかなか難しかったです。まずは簿記の知識を共有しながら初期指導したところ、今ではFXクラウドシリーズで請求書等の保存から仕訳まで使いこなしていただいて、業務の効率化を図ることができました。

──例えば、電子取引やインボイス制度対応、書面添付制度などの活用などはどのように取り組まれていますか。

吉澤 昨年から開始したインボイス制度にあわせて、現在、弊所では関与先のクラウド化を進めようということでFXクラウドシリーズを積極的に提案しています。実際に事務所にいながら登録番号のチェックや修正ができるのが大変便利だなと感じています。
 加えて、「証憑保存機能」を積極的に活用することで入力の手間が大幅に削減され仕訳の計上がとてもスムーズになったという声もあり、関与先の経理実務の効率化に寄与していると考えています。

古畑 私達も事務所の方針のもと自計化を進めるためにFXクラウドシリーズの導入を推進しています。お客様に「仕訳辞書」や「銀行信販データ受信機能」等をしっかりと活用していただくためにも、できる限りお客様がスムーズに入力できるようにサポートしています。まだ会計事務所での勤務経験が浅い私でも非常に使いやすいTKCシステムには、すごくありがたみを感じています。お客様にそれらの機能を積極的に提案しつつ、同時にクラウド化も進めていこうという方針です。

青柳 書面添付制度については先輩の担当する関与先で巡回監査に同行した際に「意見聴取のみで税務調査なし」というケースを実際に目の当たりにしましたので、私も積極的に活用していきたいと考えています。
 インボイス制度に関しては、言葉だけで伝えるのがなかなか難しい制度ですので、事務所内で適格区分等のフローチャートを作成していて、関与先に案内しています。

日々の業務をプロとして全うしさまざまな知識を習得したい

──最後に今後の目標と、これから巡回監査士・巡回監査士補を目指す方々へメッセージをいただけますか。

司会/中村哲郎副所長

司会/中村哲郎副所長

古畑 事務所の皆さんのレベルが本当に高いな、と日々感じる場面が多いので「巡回監査士」資格取得をきっかけとして今後もさまざまな知識を習得していきたいです。また、事務所内で足りない部分をお互いが補い合う関係性が素敵だなと思っていて、所内では「中小企業診断士」や「社会保険労務士」等の取得に挑戦されている方もいるので、私も未開拓分野に積極的にチャレンジします。そういったプロセスを経て、長期戦も覚悟しつつ、ゆくゆくは税理士を目指したいと最近は考えています。
 巡回監査士・士補の試験で高得点を取るためには、問題集やテキストを何度も繰り返すことが最も重要だと思います。事務所の先輩には、「入所してすぐの担当件数がまだ少ないうちに勉強しておいた方がいいよ」とアドバイスをいただきました。私もこの試験は会計事務所で働く上での土台であり、忙しくなる前に取得して、その後実務を経験しながらキャリアアップしていくのが理想のプランだと考えています。ですから、早めの資格取得がおすすめです。

青柳 今回、資格を取得したことで「ようやく一人前へのスタートラインに立てた」という実感があります。ただ、まだ細部に至ってはおぼつかない部分もあるので、今後は一つずつ経験していきながら、より自信を持ってお客様に寄り添った巡回監査を行っていければと考えています。
 これまでの巡回監査では実際にお客様の前に立ったときに不安を感じたり、「どうすればいいか分からない」と悩むことも多々ありました。しかし、これまでの勉強、そして合格というプロセスを通してあらためて、実務に役立つだけでなく、自信も持てたなと思っていますので、ぜひ皆さんにも積極的に挑戦していただきたいです。

吉澤 さまざまな研修に参加する中で、昨年の5月に他事務所の職員の方と話す機会がありました。その際、事務所方針によっては初年度に「巡回監査士補」しか受験できないということを伺い、あらためて挑戦する機会を与えてもらえたことに感謝しています。日々仕事をしていく中で試験勉強を通して身についた知識が実際に実務に役立っていることを実感しているので、アグレッシブに挑戦していくことが大事だと考えています。
 今後は巡回監査のプロフェッショナルとして、着実に日々の仕事もしっかりと全うしながら、税理士試験にもいずれ挑戦する予定です。

──皆さん、本当に素晴らしいですね。今後のご活躍をとても楽しみに、そして大いに期待しています。本日はありがとうございました。

(構成/TKC出版 米倉寛之)

巡回監査士試験「優秀合格者」所属事務所代表者のコメント

◉北原正明会員(税理士法人成迫会計事務所)
私たちの事務所では、入所後すぐに「巡回監査士補」の取得を目指してもらいます。実は私自身、税理士資格取得後に、当時は上級実務試験という名称の巡回監査士試験にチャレンジしましたが、1科目落としてしまいまして……。優秀合格者の皆さんは本当に立派だなと思います。あまり簿記・会計になじみがないさまざまな経歴の方がいらっしゃいますからTKCの充実した研修制度は本当にありがたいです。「巡回監査士」の取得はある意味で監査担当者の仕事の質への担保につながるでしょうから、積極的に挑戦してほしいです。
◉山﨑泰史会員
約20年前に職員として座談会に参加したのがとても懐かしいです。「昔、表彰していただいたことがあるんだよ」と弊所の古畑に伝えたところ、彼女は大変負けず嫌いなので「私も頑張ります!」と。有言実行で本当に優秀合格者として呼ばれましたから、大したものだなと思います(笑)。巡回監査士試験は実務に役立つ内容ばかりですし、税理士になるためのステップアップの一つとして、受験してよかったと今でも思います。今は人材難などもあり採用活動そのものが大変難しくなっていますが、会計事務所で働く人達が自分の仕事に誇りを持っていれば自然と輝いて見えるでしょうし、採用活動はもちろん、関与先拡大にもつながると考えています。ですからその誇りを持つためにも、まずは「巡回監査士」の資格を取得することで、職業会計人としてのはじめの一歩を職員の皆さんに踏み出してもらいましょう!
◉篠原仁志会員
弊所では基本的に入所後、まずは「巡回監査士補」の取得を目指してもらっています。その後「巡回監査士」の取得、生涯研修への参加など段階的に進んでもらいます。最終的には事務所全体のレベルアップが関与先の発展につながりますから、日頃から私も含めてさまざまな研修を受けて能力を高める必要があると考えています。また、「巡回監査士」は実務と知識両方を学ぶことができる非常に実用的な制度ですので入所してから、なるべくすぐに取得することが望ましいと思います。

(会報『TKC』令和6年4月号より転載)