事務所経営
会計事務所の的確な税務判断を支援する「税研DB」活用法(前編)
- ■出席者(敬称略、順不同)
- 深瀬善太会員(東北会)
友野行晴会員(関東信越会)
山尾秀則会員(静岡会)
三木武裕会員(中国会)
◎司会/谷口裕之TKC税務研究所所長 ◎オブザーバー/古郡孝昭TKCシステム開発研究所次長
会計事務所の的確な税務判断に基づいた関与先指導や申告業務を支援する質疑応答事例等が集積された「TKC税研データベース(税研DB)」。令和5年12月には検索機能が大幅にレベルアップされている。この税研DBの利用が全国でトップクラスの事務所の会員4名による座談会の模様を2回に分けて掲載する。前編となる今回は、税研DBの税務Q&Aをいかに所内の業務品質向上に役立てているのかを中心に語り合っていただいた。司会役はTKC税務研究所の谷口裕之所長が務めた。
「日本の最高峰の権威ある知的財産だからとにかく使おう!」
──TKC税務研究所では、TKC会員事務所からの税務上のご質問に対して、税目ごとの専門家が回答書を作成しています(税研メールボックス)。このうち汎用性が高いと認められる質疑応答事例を、「TKC税研データベース(税研DB)」の「税務Q&A」に約1万2千件収録しています。
本日は、この税研DBのご利用が全国でトップクラスの事務所の会員先生4名にお集まりいただきました。先生方の特徴としては、税務Q&Aのご利用が極めて多い一方で、「税研メールボックス」のご利用がほとんどないという点です。そのあたりの理由を含めて、税研DBをどのように有効活用されているのか、存分に語り合っていただいて、多くの会員先生方や職員の皆様の参考にしていただきたいと思っています。
それでは、税研DBの活用状況とあわせて自己紹介をお願いします。
友野行晴会員
友野 TKC関東信越会埼玉中央支部の友野です。TKCへは父(友野孝重会員)が昭和48年に入会し、私は平成30年に2代目として所長を引き継ぎました。友野会計事務所は、正社員とパート・私と妻の由希子(TKC会員)を合わせて31名の体制で、月次関与先は約350件です。事務所の特徴は、一般法人をはじめ医療法人や社会福祉法人、宗教法人など様々な法人があること。また、事務所のあるさいたま市はベッドタウンということもあって資産税にも力を入れているため、法人・所得・相続と総合的なお客様のサポートを目指しています。
税研DBは、私の事務所も税務Q&Aの活用が中心です。うちの場合は、税務官公署OBの税理士が顧問として在籍していて、その先生方が税務上の問題を調べるツールとしており、職員もそれに準じて使っているという状況です。日常業務の効率化・標準化を進めることで、担当者に偏った属人化をなくすことに取り組んでいるところで、その一助としても税研DBを活用できればと考えています。
三木武裕会員
三木 TKC中国会広島支部の三木です。当事務所は祖父が昭和29年に開業しました。昭和47年、TKC入会後に2代目の所長となった父の三木武彦は、TKC中国会会長も務めました。私は、東京の監査法人で修業を積んだ後、平成29年に3代目の所長に就任しました。現在、職員数は13名で、巡回監査対象の関与先数は約150社です。「最高品質の仕事をしたい。お客様に喜んでもらいたい」をモットーに、既存関与先の黒字化と成長の支援、さらには中堅・大企業の自計化の支援に全力を注いでおり、関与先の3割にあたる約45社にFX4クラウドを利用していただいています。
税研DBに関しては、現会長(三木武彦会員)が積極的に利用する姿を見せてくれておりましたし、会員先生方に税研DBの存在のPRと積極的な活用を奨めておりました。私はいつもこのように言われています。「これだけTKCが投資してくれている知的財産で、日本の最高峰の権威あるものだから、とにかく率先して使おう!」と──(笑)。
税務情報の共有は、私が入所した当時から『TKC税研速報』を全職員で必ず回覧していたほどで、特に税務Q&Aは、事務所にとって当たり前のものとして活用する雰囲気が醸成されています。
税務業務=法律業務税研DBは事務所の必須アイテム
山尾秀則会員
山尾 TKC静岡会浜松西支部の山尾です。税理士法人坂本&パートナーで所長をしており、理事長の坂本孝司がTKC全国会の会長を務めています。事務所の概要ですが、職員数は45名で、この4月に2名の新入社員が入ります。ここ2年くらいは退職者がありません。監査部と総務部があり、監査部は3部6課体制です。現在の関与先数は558社(法人419社・個人139社)で、全関与先に月次巡回監査を実施しています。
事務所の特徴は、TKC全国会の方針に沿って事務所業務を遂行するということです。具体的には『TKC会計人の行動基準書』とISO9001基準に則って全ての業務を行っています。ISOの認定は、平成9年に会計事務所業界初で取得し、維持・更新しています。強みは、41名いる巡回監査担当者のうち35名が巡回監査士の資格を持っていることで、これによって税務業務の最低限の品質を担保しています。
坂本理事長がよく言っているのは、「税務業務は法律業務である」との前提に立っているということです。したがって、税研DBは事務所にとっての必須アイテムとして活用させていただいています。
ちなみに私の個人的な経緯ですが、大学卒業後2年間の営業職を経て、理事長の弟と大学が一緒だったことから声がかかり、会計のことをよく知らないまま、昭和60年、開業5年目の当事務所に入所して今日に至っています。
深瀬善太会員
深瀬 TKC東北会福島県支部の深瀬です。当事務所、税理士法人寺田共同会計事務所は、私が4代目所長で、平成31年に就任しました。歴代所長に親族関係がないという珍しい例ではないかと思います。初代の故高橋義一先生が昭和17年、福島市に会計事務所を創業以来、戦中・戦後の激動の時代を過ごし、社会の進展と共に基礎を固めて現在まで業務を継続してきました。事務所名の「寺田」は2代目の寺田一男所長の名前が残されたものです。地元の名士だったこの方が関与先をかなり拡大しました。歴史が長いこともあって、業種特化型ではなく幅広い業種のお客様に対応しています。現在の職員数は、福島本店に33名、二本松事務所に12名おり、ベテランと若手のバランスがよく取れていると思っています。
税研DBにつきましては、TKCに入会したときからなくてはならないものとして使ってきました。私も税務Q&Aの利用がメインとなっており、いつも非常に助けられています。
──実は私は、先生方の地域を所管する国税局(仙台、関東信越、名古屋、広島)の全てに勤務した経験があり、その意味でも親近感を持って具体的なお話が伺えることを楽しみにしております。
申告書作成時や所内の相談時に根拠資料を添付する
──まずは、所内での税研DBの具体的な活用方法を教えてください。
深瀬 日常的に関与先からの質問や職員からの相談を受けることがかなり多いため、できるだけ時間をかけず、かつ的確に解決したいので、まずは税務Q&Aで検索しています。特に若手の職員は、所長に言われても納得できなければ対応してくれないことがありますが(笑)、そんなときに税務Q&Aで検索した資料を「これが根拠だよ」と見せるとすぐに理解し納得してくれるので助かります。
業務中は基本的に税研DBを立ち上げていて何かあればすぐに調べるので、かなりのヘビーユーザーだと思います。
三木 私の事務所では、若手からベテランまで職員が皆、税研DBを活用する習慣ができています。今回、座談会に参加するにあたり、職員に活用方法を尋ねてみたところ「確認したいことがあれば、最初に検索する」「巡回監査時に質問を受けた際にその場でパソコンで調べることができる」「上司との打ち合わせの際に根拠資料として利用する」など、日頃から税研DBに触れる機会が多いという回答でした。職員に、先代所長や私が「税研DBには何と書いてあった?」と折に触れて質問してきたことも、活用が定着した一因かもしれません。
山尾 私の事務所には巡回監査担当者に対してISOの規定に則った検閲体制があります。具体的には、①課内での検閲、②課長による検閲、③決算審査会での検閲──という順番で全法人申告書の検閲を行います。決算審査会のメンバーは、三つの監査部の部長3名と私の計4名で、課内・各課長で検閲した申告書を、全て再度チェックするという流れです。先ほど申し上げた「税務業務は法律業務である」という前提の下、決算申告には、税研DB、主に税務Q&Aを検索し、判断の根拠資料として印刷して添付することを所内でルール化しています。決算審査会の検閲の際に根拠資料が不十分なら差し戻すこともありますね。
職員は全員がProFITのIDを持っており、OMSとProFITのどちらからでも疑問があればすぐに検索できる環境です。税研DBでは関連する法令や通達だけでなく、税務判決要旨や国税庁HPの質疑応答事例等もすぐに検索できるので大変役立っています。
──税理士法人坂本&パートナーは税研DBの利用が全国1位です。これは職員さんが自ら使う体制が仕組みとして構築されているためですね。
友野 私の事務所でも、根拠資料として税務Q&Aを非常に重宝しています。巡回監査で関与先からの質問について調べる際や、決算時の疑問点の確認の際には根拠資料が必要です。もちろん、全ての法令等が頭に入っているわけではないので、提出された申告書等に根拠資料がなければ「こんな特例あったかな……」とあやふやな状態でチェックを通す訳にはいかず、1回職員に戻して確認してもらいます。日が浅ければまだ記憶に残っているのでよいですが、数年経って税務調査が入った際には記憶頼りではとても太刀打ちできない。あるいは担当者が変わった場合にも大きな問題となります。
そのため、関与先の質問に回答したときや、決算書や申告書を作成するときには税研DBで検索した資料や、信頼に足る書籍のコピーなどを根拠資料として貼り付けて保管しておくこととしています。ただ、正直なところ、若手職員による活用という点では、まだ検索能力、いや検索手順が身に付いていないということが今後の課題です。
ネット上の情報を鵜呑みにせず税務Q&Aを判断基準に
──経験の浅い職員さんにも積極的に使っていただきたいというのが、私たち税務研究所の思いでもあります。皆さまが税研DBの利用についてご指導されていることがあれば、お聞かせください。
山尾 先ほどお話しした検閲時だけではなく、職員が税務判断を上司に相談するときなど、日常的に「税研DBで検索した根拠資料を添付すること」を指示しています。そのため、職員は「税研DBにはこの記載があり、法令・通達はこう、類似事例の判決要旨はこう、そのためこう判断しました」というかたちで相談します。もちろん、経験の浅い職員がすぐに同様にはできませんが、経験を積むことでレベルアップしてもらえます。少なくとも課長・課長代理レベルは、相談時や決算審査会には添付を必須とする仕組みです。逆にそれがなければ、「なぜ使っていないの?」という雰囲気ですね。
深瀬 皆さんすごいですね。私の事務所では未経験の若い職員を採用するケースが多く、これまで専門知識を学ぶ機会のなかった職員がいざ一人で巡回監査に行き始めても、疑問があったときに調べる方法も検索ワードも浮かばないということがあるようです。そういうとき、私の場合は「取りあえずインターネットの検索サイトからでもよいから、まずは『取っ掛かり』として何か調べてみて」と伝えています。ただ、ネット上の情報に信憑性はあまりないので、あくまでも参考にしてもらう程度。何かかすったら、つまりキーワードが見つかって大枠がつかめたら、その情報を基に税務Q&Aで検索するよう伝えています。検索した事例は今回の事例に合うのか、また関連情報に掲載されている法令等も確認してもらいます。そのようにして「取っ掛かり」と最終的な結論の整合性を自ら確認し、後から振り返ってもらえるという点においても非常に役立つツールだととらえ、指導しています。
山尾 ネットの情報だけを税務判断の基準にされてしまうと困りますよね。所内では、もし職員からネット上で調べた資料が根拠として提示されたら「それはだめ。もう1回税務Q&Aで確認してきてください」と指導します。
──特に若い世代の方が、使い慣れたインターネットで調べたいという気持ちはよく分かりますが、それらは根拠材料、信頼材料にはなりません。昨年12月には、経験の浅い方でも検索しやすいよう機能を大幅にレベルアップしていますので、ぜひ税研DBを信頼性のある情報としてご利用いただきたいです(44頁参照)。
ところで、先ほど三木先生は、所内で税研DBに関するヒアリングをしてくださったとのお話がありましたが、職員さんの感想があればお伺いできますか。
三木 35年目のベテラン所長代理からは「オンラインで検索できるため、かつてのように本棚まで移動せずに机で確認できて効率が上がった」という声がありました。オンラインで使えるという利点は大きく、5年目の職員からは「巡回監査の際、お客さまからの質問を受けたとき、類似事例等をその場ですぐに調べられて参考になるため便利」という声もありました。
興味深かったのは「キーワード検索ができるため、絞り込みができると同時に、関連した様々な情報に接することができる」「確認したいこととは関係ないタイトルが目に入り、興味が湧いて思わず内容を確認することがある」という反応です。私にも同じような経験がたびたびありますが、税研DBの利用をポジティブにとらえてくれていて、ありがたい限りです。
──先生方の事務所全体の知識の幅を広げることに役立っているというのは大変うれしいです。
職員の成長を促し税理士法遵守の実践にもつながる
司会/谷口裕之所長
──税研DBの活用を通じて、事務所の業務品質の向上にもつながっていると感じられることはありますか。
友野 私の事務所では、関与先からの質問や決算書・申告書作成時の確認事項を、税務官公署OBの税理士先生に相談して解決することが多いです。現状、私が全て確認するには時間が足りず、職員が調べるには時間がかかりすぎるので、税務官公署OBの税理士が税研DBを駆使して税務Q&Aや判例・採決事例や類似事例まで掘り下げて添付してくれています。もし、全く同じ事例が見つからなくても、類似事例が確認できるため判断の方向性を決めやすい。決算書・申告書の最終的なチェック、判断の手助けとなり、効率化や業務品質の向上に役立っているのは間違いありません。
最近では中堅職員も、税研DBで自ら調べる力が身に付いてきました。若手職員はまだ使いこなせていませんが、税務官公署OBの税理士が添付してくれた資料を用いながら指導を受け「こんな調べ方ができるんだ」「こんな事例もあるんだ」と学ぶ機会になっているようです。最近では「調べておいてね」とお願いした内容に対し「こんな事例がありました」と、私が教えてもらえることもあります。
三木 若手職員が税研DBをベースに学ぶという今のお話は、私の事務所と非常に似ています。例えばうちの税務官公署OBの税理士に、若手職員が質問に行ったケースがあります。最初は手ぶらに近い状態で質問に行き「調べてきなさい」と優しく諭される。次に国税庁のタックスアンサーを持参し、「税研DBで詳しく調べてごらん」と言われる。税務Q&Aで調べた事例を提出する。すると「他にはこんな事例があるよ」と数倍にして返してもらえる。このようなやりとりの繰り返しが学びにつながっているようです。ですから、職員の成長を促す会話の共通の土台、いわばコミュニケーションツールとして活用できていますね。
山尾 職員の成長という観点で言うと、ベテラン職員は常に税研DBを開いており、何かあれば確認して「税務Q&Aにはどのような考え方が記載されているか、根拠条文や裁決事例はどうか、だから自分はこう判断した」という思考で業務を行っています。そのような習慣が定着すれば「税務業務における望ましい思考の組み立て」が、頭の中にでき上がるはず。正しい事実認定の下という前提はありますが、この思考の組み立てに沿って物事を判断していれば、おそらく大きなミスは起こりにくく業務品質の向上にもつながるのではないでしょうか。このことは税理士法第41条の2(使用人等に対する監督義務)の遵守にもつながり、会計事務所を守ることになるとも言えるのかもしれません。
そのことを職員たちに理解してもらうためにも、税研DBを活用して役立った事例を所内でしっかりと共有していくことがとても重要だと考えています。
※後編に続く。後編では税務Q&Aの関与先支援等における活用事例や、税研DBの役立つ機能の詳細をテーマに掲載します。
(構成/TKC出版 古市 学・小早川万梨絵)
(会報『TKC』令和6年3月号より転載)