9ミクロンという世界最細クラスのステンレス製ワイヤーロープの製作を可能にした大阪コートロープ。熟練の技術を駆使しながら、産業機器、フィッシング関連、医療機器など幅広い分野で多彩な高付加価値製品を供給する元気企業である。

筒井克哉氏

筒井克哉 氏

 当社はワイヤーロープを製作するメーカーです。ワイヤーロープと言っても、太いものでは明石海峡大橋を吊っているワイヤーから、細いものでは医療機器用のミクロンサイズのものまであります。当社は主にステンレス製の「細い」ものに特化しています。

 ただ、ワイヤーロープだけでは商品とはなりません。あくまでパーツとしての役割なのですが、非常に幅広い市場からのニーズがあります。たとえば、意外なところでは靴紐や自動車のタイヤ、半導体を切る機械にも使用されています。昨今、世間では「ワイヤレス」が叫ばれていますが、ワイヤーロープのニーズはとどまるところを知りません。当社でもコピー機など産業機器、フィッシング関連、医療機器、アクセサリー、建設関連と、数多くの分野に分散して製品を提供しており、累計で約1,000社もの取引先への納入実績があります。

 われわれの最大の売りはやはり技術力であり、世界最細の直径9ミクロンのワイヤーロープを製作することができます。これは過去にNHKの『超絶 凄ワザ!』というテレビ番組に取り上げられたことがあるなど、話題にはなりましたが、実際のニーズはありません。「ただつくってみたかった」だけなのですが、こうした技術へのこだわりが、当社の持ち味と言えるでしょう。

一貫生産体制を構築

ここがポイント▼
  1. ①川上から川下までの一貫生産体制を構築
  2. ②あえて効率の悪い、競争相手の少ない分野を選択
  3. ③常に先を見据えながら研究開発に注力

 当社は、魚釣り用やコピー機の内部スキャナー駆動用のワイヤーなどの「コーティング」を行う会社として、先代の加納川快明(現会長)によって1981年に創業されました。機械1台からのスタートでした。その後、加納川は、コーティングという業態に飽き足らず、その川上である「撚線」(ステンレス線をより合わせる工程)、「伸線」(ステンレス線を細くしていく工程)へと上っていくことで、「よりよいワイヤーロープづくり」を実践していきました。結果として、材料入荷から梱包・出荷まで一貫生産体制(『戦略経営者』2023年7月号 P5 上図参照)が出来上がり、注文をワンストップで請け負うことができるメーカーとして存在感を発揮できるようになったのです。

 たとえば「釣り用」は強度、「コピー機用」は耐性、「アクセサリー用」は見た目としなやかさなど、ワイヤーロープには、最終製品によって求められる特性が変わってきます。それらニーズにあわせたデリケートな作り込みを行うためにも、当社の一貫体制はプラスに働きました。材料の選定から撚り方、コーティングの方法まで試作検証していきながら、最良の製品づくりを実践することができたからです。

 ワイヤーロープの90%を占める亜鉛メッキ鋼線は、中国、韓国勢が強いので手がけることはせず、ほぼステンレスの極細製品に特化したことも、ブランドを維持できた要因だったと思います。要するに、「トン単位」で商売ができる分野を避け、あえて効率の悪い、しかし競争相手の少ない分野での「メーター単位」「1本単位」のビジネスを選んだのです。

 そうなると、研究開発への比重が大きくなります。特殊な製品のためのオーダーメードニーズも拾っていく必要があるし、それを繰り返すことで、取引先からの信頼感の醸成につながります。こうした長年の研究開発を積み上げることで、異なる金属同士の撚線、金属プラス繊維の複合撚線、レアメタル、特殊コーティング、フィッシング向け超極細コーティングなどのさまざまな特殊加工を可能にしてきました。

適正価格を維持していく

 2016年3月に私が社長に就任してからは、医療機器の部材用ワイヤーの製作により注力し、現在では、この分野が全体の売り上げの20%を占めるようになりました。カテーテル治療用のガイドワイヤーや骨を縫合するための治療機器に使用されるワイヤーなどを製作・販売しています。医療用の現場では、ミクロン単位の繊細な加工を施した品質の高い製品が求められるので、この分野での技術開発にはとくに力を入れています。将来的には“医療用”製品の売り上げを全体の50%に引き上げたいと考えています。

 当社製品の品質の高さは、分かりやすいところでは「FLEXY」というブランドに象徴されています。FLEXYは、ビーズアクセサリーに使用されるステンレスワイヤーで、強度はもちろん、折れぐせや巻きぐせがつきにくい高い品質が欧米や中国、ロシア、東南アジアなど世界で認められてきました。ハリやしなやかさ、柔軟さが業者、個人を問わず人気で、ビーズアクセサリー文化のある国々で引く手あまたとなっています。ただ昨今、その副産物として、中国で先に商標登録をされてしまい、偽物が大量発生するという事態に見舞われました。そのため、近く、商標やパッケージを変えるなど再ブランディングを行う予定です。

 さて、このところの重要な懸案として、「価格の見直し」があります。社長就任以来、当社のステークホルダーであるみなさんが「儲かる」状況をつくるために、取引先に理解を求めてきました。近年の材料高についても、100%の転嫁ができるような価格改定を、毎年行っています。私は社長としての最大の役割は、「会社を続けること」だと考えています。そのためには、販売先およびユーザー、仕入先、協力会社が儲かり、そして当社や当社社員も儲かり、みんながハッピーになる必要がある。今後も製品に付加価値をつけながら、他社にできないものづくりを訴求し続け、適正価格を維持していくことにつとめていきます。

(取材協力・鈴木則夫税理士事務所/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 大阪コートロープ株式会社
業種 ワイヤーロープ製造
設立 1985年2月
所在地 大阪府和泉市テクノステージ3-5-22
売上高 5億3,000万円
社員数 30名
URL https://www.ocr.co.jp

掲載:『戦略経営者』2023年7月号