新商品を販売したら好評だったので、特許出願して知的財産戦略を強化したいと考えています。中小企業が活用できる便利な制度はありますか。(製造業)

 高付加価値商品・サービスを提供して利益に結び付けるために、知的財産の重要性は増しており、知財戦略を強化することは大切です。知財戦略を立てる際には、やみくもな知的財産権の取得を目的とするのではなく、知的財産を経営に資するものとするという視点で行うと良いですね。端的には、知的財産戦略は、事業戦略や研究開発戦略と三位一体で考えて行うことがポイントとなります。

 中小企業が知財戦略を実行する上で便利な制度はいろいろとありますが、発明を重要な知財として知財戦略の強化を考えている中小企業の方が使いやすい制度として、例えば特許出願の早期審査制度が挙げられます。これは出願人が中小企業である要件を満たすことで使える制度です。通常の出願審査請求では請求から審査官からの最初の通知がされるまで平均28.7カ月(2010年)ですが、早期審査では平均約1.7カ月で審査着手されています(特許庁HP参照)。早期審査制度を利用して早期に権利化可能性を知ることにより、事業化を積極的に進めたり、他社との事業連携を進めたり、あるいは営業秘密として保護されるよう管理を進めたりと、戦略を次のステップに早く移せるというメリットが得られます。

 日本など多くの国では、出願前に国内で未公開の発明でも国外で公開されていれば原則特許を受けられません。日本で最初に出願した発明について外国でも特許取得を目指す場合、実際にその国で出願した日でなく日本の出願日を基準に審査を受けられる優先権制度を利用すると、日本出願後にその発明を公開していた場合等でも特許取得ができるメリットがあります。同制度は多くの国で利用可能ですが、最初の出願から一定期間内に出願すべき点に注意して下さい。

 一般的に、外国出願は国内出願に比べコストがかかります。しかし中小企業の場合、早期審査制度を利用しやすいため、この制度と優先権制度を組み合わせれば、日本で特許可能性が高いとされた発明のみ外国出願するという戦略が容易になります。原則的には各国独立して審査が行われるため、日本で特許となった発明が外国でも特許を得られるとは限りませんが、優先権制度のメリットを得つつ、権利化の可能性が高い外国出願をすることができるのです。加えて、最初に審査した国の審査結果を利用し簡易な手続きで早期審査申請ができる国も増えています。

高額の助成制度も

 販売後の特許出願において便利な制度が本年4月以降の出願から利用可能となりました。以前から、発表等により新規性を喪失しても6カ月以内に出願し一定の手続を行えば、その発表等によっては新規性を失っていないものとされる旨の制度はありました。この制度における発表等に、従来認められていなかった、販売や配布・記者会見・テレビ等出演が含まれることになり、この制度を利用することで、販売後の出願でも特許を取得する途が開けました。

 さらに、各自治体等が行っている知的財産取得費用の助成金・補助金制度も、中小企業が対象の便利な制度です。国内出願の助成は市区町村、外国出願の助成は都道府県において主に行っています。上限額内で費用の半額程度まで助成するタイプが主流ですが、最大3/4まで助成されるものもあります。外国特許助成では、上限額300万円の高額助成もあります。事業支援関連の各種助成制度において、助成対象の中に知財取得費用が含まれていることもあります。知財制度は例外も多くありますので、前記制度を利用して知財戦略を強化する際には、企業の特色に応じ、弁理士等の専門家の力を借りることをお勧めします。

掲載:『戦略経営者』2012年4月号