厳しい経営環境が続く建設業界にあって、創業以来黒字経営を続けているワクト。「普遍的な価値と新しい感動をもたらすものづくり」という企業理念を掲げ、商業施設、戸建て住宅の企画・設計から施工まで一貫して手がける。同社の経営戦略と『DAIC2』による財務管理について和田豊次社長(52)と経理担当の阿由葉房子さん、顧問税理士の森代茂男氏に聞いた。

培ったノウハウ武器に一味違う繁盛店に再生

ワクト:和田社長(右)

ワクト:和田社長(右)

――主に内装工事を手がけておられるそうですね。

和田 レストランや商業施設の企画、設計、施工を主として手がけており、今年で創業22年目をむかえました。当社が年間に手がけている企画・設計、施工件数は、トータルで100件ほどになります。

――ホームページには、これまでに手がけられた建物の写真が掲載されています。

和田 あれはほんの一例ですね。駅ビルや空港、大型商業施設開発の際に、テナントとして入る予定の飲食店、物販店などから設計や施工の依頼がきます。当社には企画・設計、施工それぞれに担当者が10数名おり、案件ごとにチームを組んで、企画・設計から施工まで一貫して業務を行っています。商業施設開発の他に、戸建て住宅の建築も手がけています。

――特に業務で“強み”にされている分野は。

和田 当社が得意にしているのは、飲食店の店舗開発ですね。『ゲーテ』という月刊誌が優れたレストランを独自の基準で表彰している、ゲーテレストラン大賞「ゲーテイスト」というものがあります。最近発表された、2011年版に、当社が手がけたレストラン2店舗(イタリアンレストラン「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」、フレンチレストラン「ポ・ブイユ」)がそれぞれイタリアン大賞、ビストロ大賞として選ばれました。非常にうれしかったですね。

――そのようなお客様の店舗開発をする際のポイントは何ですか。

和田 お客様とじっくり話し合い、どのようなお店にしたいのか相手のニーズをつかんで具体化していきます。お店で取り扱っている商品に関する色々な写真を参考にしたり、飲食店であれば、使っている食材の原産地に実際に足を運んで、店舗デザインのイメージを膨らませたりすることもありますね。

――仕事は御社単独で請け負うのでしょうか。

和田 受注パターンは様々です。常にお客様が繁盛することを第1に考えており、それを実現するために、当社単独で行う場合もあれば、同業他社と手を組んで行う場合もあります。

――取引先はどのように開拓しているのでしょうか。

和田 当社では営業担当の部署を設けていません。あえて言えば私をはじめ、設計担当者、施工担当者「全員が営業マンという心構え」で取り組んでいます。
 ただ商業施設開発に関する情報をいち早く入手することが重要なので、様々な業界のコンサルタントとのつながりを密にしています。これまでに当社が手がけた仕事を一つの「作品」として評価していただき、それを地道に積み重ねてきたことで、今日に至っているという思いが強いですね。常時50~60件ほどの案件の引き合いがあるのは、そういうことによります。
 この不景気の中で商業ビルを建てても、魅力的なお店がテナントとして入っていなければ事業は成立しません。昨今は世の中の流行りすたりが激しいので、常に新しい発想の店舗開発が求められていますね。

――昨年(平成21年)新たな会社を設立されたとか。

和田 ええ。トヨプランニングという会社で不動産、店舗の開発、運営プロデュースをメーンに手がけています。
 店舗開発の一例としては、「自由が丘ベイクショップ」というパン屋さんの改装オープンを行ったことがあります。ある企業がカフェを閉店するということを聞き、当社がパン屋さんへリニューアルをさせました。オープンしてまだ1年ほどですが、大変繁盛しています。
 実はこの店はビルの4階に入っているため、当初ここで飲食業を営むのは厳しいのではと敬遠する意見もありました。マーケティングでは一般的に適さないと判断される立地であっても、よく観察し、プラスの部分を積極的に評価できれば成立する場合があると思っています。この場合4階に上がってしまえば開放感があり、他にはない気持ちの良さがある点を評価しました。予想は的中し、気持ちの良い空間、おいしいパンを求めてお客様の行列ができるほどです。

――国内だけではなく、海外での店舗開発も手がけられていますね。

和田 これまでに日本の飲食店のハワイへの出店に関わったことがあります。逆に、サンフランシスコやオーストラリアのクライアントを丸の内に誘致して出店してもらったこともあります。
 つい先日も視察のため、ベトナムに訪問しました。ベトナムは国民の平均年齢が若く、経済成長率も公称10%ぐらいで、今後一層の経済発展が期待されています。そのため「ベトナム進出」を考えている企業様もあるでしょうから、そういう時に当社がお役に立てればいいと思っています。

現場別工事台帳で予算消化額を把握、工事原価管理に活用

――『DAIC2』を長年利用いただいているそうですね。

森代 ええ。最初は『FX2』を利用いただき、平成7年に『DAIC2』に切り替えました。かれこれ15年以上使っていただいています。
 実はワクトさんと当事務所は、“先代同士”からお付き合いをしています。和田社長のお父様は大田区で工務店を創業され、現在はご長男が事業を継いでいます。

――『FX2』から『DAIC2』に切り替えた理由は。

和田 『FX2』を利用していた時は工事台帳を手書きで作成していましたが、事業の拡大にともない、手書きの作業では骨が折れるので何とかならないものかと先生に相談したところ、『DAIC2』を紹介いただきました。

森代 『FX2』の勘定科目残高を『DAIC2』にそのまま引き継いで利用できるようにしました。

和田 『DAIC2』に移行した当初は、『FX2』と入力画面の使い勝手が違うため、経理担当者が戸惑うこともありましたが、今では当社の経営判断に欠かせないツールになっています。

――日々の経理業務はどのような流れで行われていますか。

阿由葉 まず工事を受注したら、当社独自の「工事管理表」に物件名、工期、施主、実行予算などを、その工事を受け持つ担当者に記入してもらいます。1担当者あたり、工事案件を常時5件ぐらいかかえています。
 次に、私がこれをもとに、物件ごとに工事番号を付番します。付番のルールは現在22期目にあたりますので、22-001から始まり、重複しないようにハイフン以降を3桁の連番で割り振っています。
 当社は2月決算ですので、3月開始の工事から付番が始まり、1期につき140件ほどの番号が付きます。その後、この工事管理表をもとに『DAIC2』にデータ入力していきます。

和田 当社の業務を大別すると、設計のみ、施工のみ、設計施工の3パターンありますが、設計施工業務の比率がその大部分を占めています。手がける案件の中には設計のみで、施工を行わない場合もありますが、その場合でも受注が決まった時点で工事番号を付けています。

――部門別管理も行っているそうですね。

和田 はい。前述した設計、施工、設計施工の3つに分けて管理しています。月次単位でどの部門でどれぐらい利益が出ているかをつかむことができます。

――どんな帳表をよく見られていますか。

和田 「現場別工事台帳」です。工事を受注すると、材料費、外注費などがいくらかかるか算出して実行予算を組みます。工事ごとの「実行予算額」と「予算消化額」の差額に着目し、予算消化率が当初予定よりオーバーしそうな場合、工事担当者に改善するよう指示を出します。現場別工事台帳が、予算オーバーに対する一種の歯止めの役割を果たしているわけです。
 「担当者別業績順位表」も活用しています。棒グラフにして、人別の粗利をチェックしているわけです。前期と当期の粗利益額が色分けされていて、見やすいのがいいですね。

――毎月の巡回監査では、現場別工事台帳をもとにお話しをされるのでしょうか。

森代 新たな事業展開や当面の利益額、決算予想といった経営全般について話し合うことが多いですね。お互い忌憚なく物が言える間柄ですので、時々言い合いになることもありますが…。社長に苦言を呈するいわば「水戸黄門」のような役割を私は果たしていると思っています(笑)。

プロデュース業に磨きをかけグループ年商10億円も視野に

――今後の事業展開についてお聞かせください。

和田 これまで飲食店、貸倉庫、マンションなどを手がけてきた経験を生かして、SOHOやウイークリーマンション、ホテルへの改装といった新たな分野の提案にも取り組んでいきたいですね。
 都心の一等地に建つビルであっても、好立地という利点をビジネスに生かし切れていないケースが多いので、当社が持つコンテンツ、アイデアをお客様のニーズに沿った形で提案していきたいと考えています。
 以前に比べるとビル自体の値段が下がり、物件を入手しやすくなっているぶん、そこに入る店舗の中味が重要な時代になっています。立地条件に最適で、より魅力ある商業施設の開発を今後も手がけていきたいですね。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社ワクト
業種 建築企画、設計、施工
代表者 和田豊次
所在地 東京都渋谷区猿楽町2-3 天城ビル6F
TEL 03-3780-5655
売上高 7億4000万円
社員数 15人
URL http://www.wact.co.jp/
顧問税理士 森代茂男
森代会計事務所
東京都世田谷区上北沢4-26-10
03-3329-0891

掲載:『戦略経営者』2011年1月号