【ユーザー事例】デジタルで挑む、福祉相談業務の最適化
福祉相談支援システム > 神奈川県葉山町
福祉部子ども育成課 課長 内藤丈裕 氏 / 課長補佐 柏木淳子 氏 /主任 山内徳子 氏 / 福祉部福祉課介護高齢係 係長 中込里子 氏
- 住所
- 神奈川県三浦郡葉山町堀内2135番地
- 電話
- 046-876-1111
- 面積
- 17.04平方キロメートル
- 人口
- 32,639人(2022年11月1日現在)
──葉山町では、現在、デジタルを活用した福祉の相談支援業務の最適化に取り組まれています。
内藤 福祉の相談支援業務は、他業務と比べてデジタル化が遅れている分野です。葉山町でも相談支援経過の記録にパソコンを活用していても、手書きが印刷に変わった程度でアナログな状況が続いていました。扱う内容が機微な情報のためパソコンにはデータを保存せず、大量の紙文書を対象者ごとにファイリングして保管し、関係機関からの問い合わせ対応や過去の経過確認などのたびにファイルを取り出す運用をしていたわけです。
いま、急速に進む少子高齢化に加え、家族形態の変化や児童虐待の顕在化、貧困の連鎖など、子どもとその家族を取り巻く環境は大きく変化しています。これにより対応ケースは年々増加し、かつ内容が複雑化する一方で、マンパワー不足という現実的な課題もあります。限られた職員で増加する相談に対応するには、情報を一元管理して相談業務を効率化するとともに、情報共有による相談・対応内容の質の向上が不可欠でした。
効率化に加え、適切な情報管理も
中込 児童虐待事件の増加を受けて、国は「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(2018年7月)を取りまとめました。ここで、市区町村における相談支援体制・専門性の強化に加え、ICT活用による関係機関間の情報共有の徹底──などの方針が示されました。そうした社会情勢を踏まえ、葉山町でも個人情報を守りつつ相談支援経過や子どもの情報を管理・検索でき、担当者が不在でも問い合わせへ迅速に対応できるシステムの導入を検討しました。TKCに相談したところ、神奈川県町村情報システム共同事業組合(県内14町村)で共同利用する基幹業務システムへ、新たに相談支援システムを追加することが分かりました。相談支援業務における現状の課題や、今後、目指していることなど対話を重ねる中で、葉山町の実態に合わせた機能改良にも取り組んでいただき、「TASKクラウド福祉相談支援システム」の導入に至りました。
──システムの活用で、業務はどのように変わりましたか。
山内 業務効率が格段に向上しました。記録書式が統一化されて相談支援経過が見やすくなり、状況の取り違いや思い違いをすることなく情報共有が可能です。また、システムを導入する際に過去の記録もデータ化したことで継続的な情報が蓄積され、関係機関や他団体からの情報照会にも迅速に対応できるようになりました。さらに、業務品質の向上という点では、住基システムとの連携により家族構成や福祉サービスの受給状況などの情報把握がスムーズに行え、対象となる子どもはもちろん、その子どもを取り巻く環境も考慮した支援に役立っています。
柏木 特に、便利な機能だと感じているのが家族相関図です。子どもの支援は家族抜きでは考えられませんが、家族内で複数の問題を抱えている例など文章記録だけでは理解しづらいこともあります。この点、家族に関する情報を図式化し全体像を即座に把握できるのはすごく助かります。
内藤 相談支援業務ではとにかく細かな記録が求められます。また、葉山町のように人員が限られるところでは全員体制で対応せざるを得ません。
内藤 相談支援業務ではとにかく細かな記録が求められます。また、葉山町のように人員が限られるところでは全員体制で対応せざるを得ません。
しかし、そうした環境下でも相談を受けた職員が相談内容と今後の支援方針に関する考えなどをシステムに入力し、記録した情報は時系列で整理・共有されるので、次に誰が対応しても記録をもとに継続的な支援が可能です。さらにベテランの知見などもデータとして蓄積できるので、職員が替わっても業務の停滞や支援サービスの低下を起こさない仕組みを構築できると期待しています。
切れ目のない継続的な支援へ
──今後の展望は、いかがでしょうか。
柏木 現在、18歳までは子ども育成課が、以降は福祉課が担当していますが、子どもやその家庭を支援するには子どもの年齢に応じた切れ目のない継続的な支援が必要です。紙文書の時には、支援が長期間途切れた場合などに記録文書が廃棄され過去の情報が分からなくなることもありましたが、今後はそうしたケースの相談支援経過についても容易に検索できるようになると期待しています。ただ、家族を取り巻く状況は時間とともに変化します。その点では、ぜひ過去の家族相関図の履歴なども保管できるようシステムの機能強化をお願いしたいですね。
内藤 現状では福祉相談支援システムを活用しているのは一部の課に限られていますが、いずれは福祉部全体に拡大することで一層の業務の効率化・スリム化になればいいなと考えています。とはいえ、全体で連携するにはまだ課題も多く、他団体の事例の共有などの支援もTKCには期待しています。
葉山町では「のびのび育て葉山の子──地域ぐるみで元気な親子をはぐくむまち葉山」を基本理念として子育てを支援しています。全ての子どもたちが尊重され健やかに成長できるよう、市区町村の役割はますます重要になると考えています。デジタル時代となっても、相談支援のコア業務は支援を必要としている人と相対することです。多様かつ複雑な相談は今後も増え続けていくことでしょう。それにいかに柔軟に対処できるか。そのためにも、デジタルを活用して業務を効率化するとともに、専門性を強化して人でなければできない業務を深化させていくことが肝要ですね。
掲載:『新風』2023年1月号