株式会社協和精工 様

株式会社協和精工

左は福嶋恭則顧問税理士

統合型会計情報システム(FX4クラウド)ユーザー事例

周到かつ円滑な経営承継を経て
地域のリーディングカンパニーへ

50年をこえる業歴を持ち、18年ぶりの社長交代が昨年行われた協和精工。橋場浩之社長は堀政則前社長(現会長)に続き、親族外承継による社長就任となった。地元商工会の会長を務めるなど、地域の名士として知られる「先代」からの承継はいかに進められたのか。周到に準備されたバトンタッチの過程をたどってみる。

橋場浩之社長

橋場浩之社長

 2018年6月8日、長野県豊丘村のコミュニティーセンターで開催された協和精工の「第52期経営方針発表会」。壇上には就任間もない橋場浩之新社長の姿があった。「いい会社をつくろう」との企業理念を継承し、理念を実現するための七つの行動指針を発表した。

「一番に考えたのは、どんな心構えで社員に働いてもらいたいのかというマインドの部分。目指す会社の姿を新経営陣と話し合い、具体的な行動指針に落とし込みました」(橋場社長)

 根底にあるのは社員や地域とのつながり、助け合いを大切にし、培ってきた技術で人々に幸せを提供する会社でありたいという思い。目指しているのは「地域のリーディングカンパニー」である。

 橋場氏が堀政則前社長から後継者に指名されたのは、17年11月にさかのぼる。

経営幹部の一員として重要な意思決定に参画

「IoT」の実証実験

経営承継に際し、企業理念と経営理念、
行動指針を1枚のシートに落とし込んだ

「1回きりの人生で、役職への就任を依頼される機会はそう多くありませんから、チャレンジしない理由はないと二つ返事で引き受けました。今になって社長職の重みをひしひしと感じています」

 もっとも、工場長として製造部門を束ねてきた橋場氏が4代目社長に就任するのは、自然な流れだった。自動車整備士などを経て、05年に協和精工へ入社。部品加工を担当し医療機器分野を立ち上げるなど、一貫して製造畑を歩んできた。

 リーマンショックを機に、堀会長によるトップダウン型の経営から、複数名の経営幹部が意思決定に関与する運営へ転換をはかる。毎月開かれる「企画会議」には橋場氏も参加し、会社の方向性を討議してきた。そして昨年5月25日に開催された株主総会で、社長に正式に任命される。

「社長に就任したとき、私は49歳でした。堀会長はかねて、40代の社員にゆくゆくは後を継いでほしいとの思いを抱いていたそうです。5年ほど前から経営承継の準備に着手し、承継に向けたレールを敷いてもらいました」

 企画会議を繰り返すなかで権限委譲が徐々に行われ、バトンタッチへの機運が醸成されていった。10年以上にわたり同社の監査を担当している福嶋恭則顧問税理士は「社長交代の時期が訪れることを念頭に置き準備を進めていましたが、まれに見るほどスムーズに経営承継がなされました」と振りかえる。

将来を方向づけた二つの定例会議

精密部品

オーダーメードで開発される精密部品

 協和精工はブレーキの開発、製造と精密部品加工を事業の二本柱としており、ブレーキの用途はサーボモーターや産業ロボット、電動車いすなど多岐にわたる。医療機器部品の生産拠点集約を目的に、第3工場を新設したばかり。近年業績は好調に推移していたが、18年半ばから雲行きが怪しくなってきた。背景にあるのは米中の貿易摩擦にともなう中国経済の減速。

 中国で現地生産を行う取引先も多く影響がじわりとおよびはじめており、橋場社長も「来期の業績見通しをなかなか立てづらい状況」と危機感を募らせる。逆風をはね返すべく目下注力しているのが、業務の「見える化」による利益を生む体質づくり。機器にセンサーを取り付けネットワークに接続する「IoT」を積極的に導入し、一部の機械装置の稼働状況をパソコン等で把握できるようにした。将来は工場で稼働中のすべての機械装置をネットワーク化し、さらに従業員はウェブカメラを身につけ、稼働データを解析して業務改善に役立てる構想を描く。

 折にふれ堀会長の薫陶(くんとう)を受けてきた橋場社長だが、経営感覚を養う大事な場となったのが企画会議と経営会議である。企画会議の参加メンバーは堀会長、橋場社長、原公司専務、福嶋税理士、福嶋会計の中島透所長代理の5名。

「企画会議は毎月2回開催しています。以前は私と専務がそれぞれ担当している部門の問題点と解決策を報告し、堀会長から助言してもらう場となっていました。トップダウンで指示されることは少なく、さまざまな観点から質問される機会が増えていきました。議論を通して、経営に対する姿勢やリスクへの対処方法、人とのつながりの大切さを学びました」(橋場社長)

 他方、経営会議は部課長会議の位置づけである。各部署の部課長クラス社員出席のもと、最新業績がつまびらかにされる。社長就任とほぼ同時期に『FX2』から『FX4クラウド』に財務管理システムを切り替えた。『FX4クラウド』から出力した《変動損益計算書》や、独自に作成した業績分析資料を活用し、議論を交わす。

「IoT」の実証実験

「IoT」の実証実験に参加。
機械装置の稼働状況はスマートフォンでも確認できる

「『FX4クラウド』に移行後、複数名の経理担当者が仕訳を分散入力でき、新技術の開発や産学連携等の事業年度をまたぐプロジェクトの管理もしやすくなり、利便性が高まりました。福嶋先生と中島所長代理から人件費や外注費など、推移を注視するべき科目の着眼点をアドバイスしてもらえるので大変心強いです」

 事業承継においてしばしば問題となるのが株式をめぐる相続税、贈与税の扱い。多額にのぼる税の支払いがネックとなるケースは少なくない。同社では業績の伸びにしたがい、株式の評価額が上昇傾向にあった。高額な税負担が見込まれるなか、福嶋税理士のアドバイスのもと周到な準備を施す。福嶋税理士はTKCシステムを活用し、決算申告時期に株式の評価額を毎期試算。顧問弁護士も加わり、経営承継の最適なタイミングを検討した。

「創業家出身の2代目社長が亡くなった際、株式の相続など事業の引き継ぎに苦労されたと堀会長から聞いています。そのため、次の代への引き継ぎはしっかり準備しておきたいとの思いが、会長には強くあったのだと思います」(福嶋税理士)

 創業家の保有していた株式をファンド会社が購入し集約する方式を採用。その後、橋場社長、原専務、堀会長の3名が個人で株式を取得し、残りの株式を会社が自己株式として買い戻した。株式の評価額を鑑み、計画を1年前倒して経営のバトンタッチが行われ、現在の筆頭株主は橋場社長となっている。

「健康経営」の実践で健全なマインドづくり

健康意識向上のため全従業員に活動量計を配布

健康意識向上のため全従業員に活動量計を配布

 橋場社長就任後1年を過ぎ、拍車がかかっているのが働き方改革の取り組み。毎月第3木曜日に開催され、従業員全員が運動し汗を流す「ハッピープロジェクト」(ハピプロ)はその一環。参加者を年代別にグループ分けし、5名の外部トレーナーがストレッチやサーキットトレーニングを指導する。従業員の健康意識の向上は、社長交代時の引き継ぎ事項のひとつだった。

「健康診断を実施したところ、20代後半から30代にかけての男性社員で要再検査と判定される割合が高く、医療機関との個人面談や定期的な運動を推奨してきたものの、なかなか定着しませんでした。そこで子育てを経験した従業員を中心メンバーとするハピプロを立ち上げ、発案されたのが社内で運動する時間を設けることだったのです」

 開催時間を朝10時すぎに設定したのは、パート従業員ももれなく参加できるようにするため。とはいえ就業時間中。業務に支障をきたさないよう、取引先や運送会社にはハピプロの年間開催予定日と緊急連絡先を伝えてある。「プロジェクトメンバーからこうしたアイデアが自主的に出されるので頼もしいかぎりです」と橋場社長。体組成計による測定を今後定期的に行い、最も改善率の高い社員には社長賞が授与される予定だ。

 企業理念の継承、計数感覚の養成、株式贈与など着実なプロセスを経て、円滑な経営承継を成し遂げた協和精工。橋場社長は「経営承継は後を継ぐ側だけでなく、バトンを渡す側の覚悟もとても大切。幹部候補となる社員を発掘し、経営に参画してもらう仕組みづくりをスタートしたい」と次代を担う後継者の育成を早くも見すえている。

企業情報

株式会社協和精工

株式会社協和精工

設立
1966年7月
所在地
長野県下伊那郡高森町山吹1646-5
売上高
28億円
社員数
185名
URL
http://kyowaseiko.jp/

顧問税理士 福嶋恭則税理士事務所
税理士 福嶋恭則

所在地
長野県飯田市高羽町1-4-10
URL
https://www.kazakoshi.com/

『戦略経営者』2019年7月号より転載)