株式会社セリュール 様

株式会社セリュール

『TKCモニタリング情報サービス』&
 統合型会計情報システム(FX4クラウド)ユーザー事例

オートロック錠市場の開拓に挑み
飛躍を目指す女性経営者の情熱

オートロック錠へのニーズが高まるなか、10年以上も前からこの市場を単身で開拓し、成果をあげてきた株式会社セリュールの長島理恵社長。今年、同社は経営を刷新して新製品を上市。財務体制を整え、資金調達にもメドがつき、さらなる飛躍に向けた再スタートを切った。

 オートロック錠とは、文字通り自動で開閉操作をする錠前のこと。キーをポケットやバックに入れたまま、近づくだけで「ピピッ」という音とともに玄関が解錠され、後ろでドアが閉まる瞬間に「カチャ」と施錠される。高齢化、一人暮らし、共働き世代の増加などにより、このオートロック錠のニーズが年々高まってきている。ここ数年、ようやく日本での普及に拍車がかかってきたが、共同住宅でのオートロック錠普及率は30%を超えた程度。ましてや10年以上前には、ほとんど市場に存在していなかった。

きっかけは韓流ドラマ

 さかのぼって12年前。当時、大手代理店に勤めていた長島理恵社長は、友達の家のテレビで、何の気なしに当時大流行していた韓流ドラマ『冬のソナタ』を見ていた。そして、主人公が鍵を使わずに家を出入りしているのが目に入る。

 長島社長は言う。

「ピピッ、カチャッと自動で解錠・施錠されているのを見て驚きました。〝これ何?〟という感じで、その場面を何度も再生するなど、もうくぎ付けでした」

 調べてみると、オートロック錠は日本にもあるにはあったが、韓国からの並行輸入品がほとんど。「自分自身が欲しいと思う製品がなかった。ここから〝オートロック錠の旅〟が始まりました」という長島社長は、いきなり韓国へと飛ぶ。即断即決である。韓国ではすでにほとんどの共同住宅でオートロック錠が採用されていた。26社もの業者を見て回り、ある部品メーカーから10台を購入。施工が簡便で〝ワンドア・ツーロック〟の補助錠として使用できるので、自宅をはじめ、家族や友人の家に設置して回った。

「みながみな絶賛し〝もうシリンダー錠の方は使いたくない〟という感想でした。この感動を世間の人たちに伝えたいと切実に思いました」

 その後、行政や建設会社、デベロッパーなどにリサーチをかけ、錠前業界への新規参入の難しさを実感する。しかし、〝難しさ〟を知れば知るほど〝やってやろう〟との情熱がむくむくと湧き上がる。ついに、つてをたどって行き着いた東京都内の大手設計会社から、ある物件の設計図に長島社長の扱うオートロック錠をスペックインするという確約を得る。取引の都合上、法人設立が必要となった。そうして、いよいよセリュールを設立。2009年5月、ひとりきりの起業だった。とはいえ、お金も知名度もない。軍資金はたったの300万円。もちろん経営はまったくの素人である。父親をはじめ周囲からの〝無謀だ〟との声に負けず、長島社長の奮闘が始まる。

「韓国から100台のオートロック錠を仕入れ、1日1台売ることを目標に行商のように売り歩きました。売り切らないと会社がつぶれてしまう。日々お金が減っていくので、手持ちのブランドものの衣類を質屋に入れて金策したりもしました」

 そこに救世主が現れた。名古屋のマンションオーナーから一本の電話。オートロック錠の将来性を確信する男性からだった。オフィスを訪れたその男性は、長島社長のチャレンジングな姿勢を見て〝信頼するに足る〟と判断。商品を大量に購入する。

 ようやく一息ついた長島社長は次なる手を打った。既存商品だけでは、日本市場をつかむことは難しいとみて、自ら企画・設計を手掛け、新製品を開発。日本のトップメーカーの電子部品を使用したスマートキーでも解錠できる『プレミア』の販売をスタートした。さらに翌年、レバーハンドルのついたメイン錠『アイリス』を自社開発。一気に商品力をアップさせた。

 並行して取り組んだのは販売代理店網の構築である。これも一気呵成(いっきかせい)だった。異業種交流会で、オフィス資材の製造・販売会社の執行役員と知り合ったのをきっかけに、その会社の社長に直談判。施工・アフターケアも含めた総販売元になってもらったのだ。

 長島社長の行動力はとどまるところを知らない。

「代理店に任せるのではなく、〝自分が売るんだ〟という気持ちが強かったですね。そこで、大手通販番組にアプローチし続けました」

子どもを抱きながらでも簡単に解・施錠

子どもを抱きながらでも簡単に解・施錠

 その大手通販番組に、長島社長はデモ機を持って日参した。オンエアが決まったのは8年後。執念である。自らが視聴者に商品のすばらしさを訴えかけ、初回放映ではそう実績は出なかったが、回数を重ねるごとにコンスタントな売上実績が出るようになっていく。さらに、昨年はその通販番組で記録を作るところまできた。さらに、大手流通店舗からも引き合いが来た。5店舗からスタートし、すぐに全国展開。その後25店舗での販売となり、1年半で2400台を売り切った。

 もちろん、その間、商品のバージョンアップも重ねてきた。玄関設置用の『デシメル』は、スマートフォン対応とスマートキー対応の2機種をそろえた。前者は専用アプリで解錠、後者はスマートキーがバッグやポケットにあれば、タッチパネルに触れるだけで解錠可能。『プレミア2』は、マンションのエントランスとも連動するセット商品。いずれもテンキーでの解錠機能を付加した。

無担保無保証の当座貸越枠

奈良信城税理士

奈良信城税理士

 さて、順調に売り上げを伸ばしてきたセリュールだが、今年度は大きなターニングポイントを迎えている。既存の代理店との契約を終了し、第2次創業に臨むのだという。これまでの商品ブランドはすべて廃止という思い切った再スタートである。なぜなのか。

「自分の力で事業をまわし、〝日本一高い給料を払う会社〟をつくりたいとの野望が湧いてきたんです。そして、プロダクトだけではなく、組織として世の中に貢献できる会社になりたいと……」

 とはいえ問題はお金。そんな長島社長の高い志に応える金融機関を見つけるのが大変だった。サポートしたのは、約5年前から同社の税務を見ている税理士法人日本パートナー会計の奈良信城税理士。奈良氏は言う。

「今後、商品開発や販路開拓での資金需要がかさむことが予想されます。そのため、5000万円の増資をしていただくと同時に、メインバンク以外の資金調達先を探しました」

「対話型当座貸越(無保証)」の概要

図表1

 調達先は商工組合中央金庫。TKC全国会との提携商品「対話型当座貸越(無保証)」を活用した。貸越枠は満額の3000万円。昨年の11月にこの商品が発表されてすぐのこと(第1号)だった。概要は図表1の通り。TKCモニタリング情報サービス(MIS=図表2)によって所定の帳表を提出し、また、利用期間中には企業とTKC会員税理士、商工中金の3者が事業概要・必要金額の見通しについて対話(会議)を行うことが条件となっている。

 この商品の特徴は、なんといっても無担保無保証であるところ。税務署に電子申告したのと同じ決算書、あるいは月次試算表を即座に伝送する仕組みのMIS自体が、セリュールという会社の信頼性を担保しているというわけだ。3者会議も、すでに2月に開催。今後も順次開催していき、事業計画の進捗(しんちょく)度合いをモニタリングしていく。長島社長は言う。

「商品や販売体制を見直し、新たなスタートラインに立ったわけですが、既存の金融機関はそこにリスクを嗅ぎ取ったのか、融資の依頼をしてもあまり色よい返事をいただけませんでした。その意味でも、商工中金さんが、当社の将来にかけてくださったのは、ありがたかったです。開発には億単位のコストがかかりますし、量産体制を軌道に乗せるためにも、資金は潤沢にあった方がいいですから」

 そもそもMISは、巡回監査、月次決算、書面添付、電子申告といったTKC方式の会計をベースにしてはじめて成り立つサービスである。セリュールでは、統合型会計情報システム『FX4クラウド』を導入し、財務管理において分散入力や部門階層管理などが可能な体制をすでに築き上げている。準備万端というわけだ。

 奈良税理士の話。

「資金をプールしておくことはセリュールさん発展の絶対条件でした。増資と商工中金さんの当座貸越で1億円弱。このほかにも日本政策金融公庫さんとも、同様にTKC方式の会計やMISによって信頼関係を構築しており、重要なパートナーと考えています」

 政府系金融機関のそろい踏みで、さあ、あとは、6月に発売を開始する商品の売れ行きを見守るのみである。

図表2 TKCモニタリング情報サービス

図表2 TKCモニタリング情報サービス

新商品2種で〝勝負〟

新商品2種

玄関ドア用『Jo-XⅠ』(左)部屋用『Jo-XⅡ』(右)

 新商品は2種。玄関用が『ジョーエックスワン(Jo-XⅠ)』。本体幅40ミリと超小型化を実現し、いままで難しかった勝手口の取り付けも可能にした。操作性、機能性を重視した3次曲面デザイン。本体、スマートキーともに「メード・イン・ジャパン」にこだわった。もちろん、近接センサーを採用し、ハンズフリーでも解錠できる。新機能としてはいたずら防止などのための「外部強制施錠機能」、ブザー・点滅で知らせる「ドア閉め忘れ通知機能」などがある。

 もう一つの目玉が〝部屋用〟の『ジョーエックスツー(Jo-XⅡ)』。家事代行や訪問介護などで、他人が家に入る機会が増えた昨今、新しいニーズをすくい上げ開発した製品である。強力両面テープで貼り付けるので、業者による取り付け工事が不要。侵入通知機能や火災通知機能もついている。

 さらに来春にはマンションなどのエントランスと連動する『ジョーエントランス(Jo-Entrance)』の発売も予定されている。

 これら商品で勝負をかける長島社長は強気だ。

マンション等のエントランス用『Jo-Entrance』

マンション等のエントランス用『Jo-Entrance』

「3年で売り上げ100億円を達成して、近い将来1000億円までは行けると思っています。構想もすでにできあがっていますし、絶対にあきらめない気持ちさえあればなんとかできることを証明したいですね」

 製品が上市されるとともに、小ロットで安定的に売り出し製造とのバランスを取る。全国をカバーする代理店網を完璧に整えた上で、10月前にQVCなどを活用して一気に拡販に持ち込む。これが長島社長の当面の構想だが、その先には世界展開が視野に入る。

 ラスベガスのビルダーズフェアへの出店、あるいは本場米国のQVCへの出演によって「東京オリンピックで来日した人たちが当社の製品を買っていくような世界的知名度を獲得する」(長島社長)ことはもはや夢ではない。

 長島社長が志向するのはあくまで〝ものづくり〟。

「かゆいところに手が届く商品はさすがセリュールだね……と言われるような展開をしたい」と語る情熱は、いまの中小企業にもっとも必要とされているものではないだろうか。

企業情報

株式会社セリュール

株式会社セリュール

設立
2009年5月
所在地
東京都中央区銀座4-13-15
売上高
約5億円
社員数
5名
URL
http://www.serrure.co.jp/

日本パートナー税理士法人
東京本部所長 奈良信城

所在地
東京都千代田区神田駿河台4-3
URL
https://www.kijpa.co.jp/

『戦略経営者』2019年6月号より転載)