導入事例 CASE STUDY
稲穂スズキ株式会社様
統合型会計情報システム(FX4クラウド)ユーザー事例
自動車市場“激変”の時代を
粗利重視経営で突破する
リーマンショックを契機に市場構造が激変した自動車販売業界。昨年まで実施されたエコカー補助金も、結局は一時的なカンフル剤にしかならなかった。こうした逆風下にありながらも、3期ぶりの黒字回復に成功したのが、北海道小樽市のディーラー・スズキアリーナ小樽を運営する稲穂スズキだ。同社の神野弘司社長は「限界利益(粗利)重視へのシフトが黒字化の鍵だった」と語る。神野社長と名越隆雄顧問税理士に話を聞いた。
商品戦略の抜本見直しが黒字回復への端緒を開く
神野弘司社長
――国内自動車販売はリーマンショック以降、厳しい市場環境が続いています。御社の業績推移を拝見してもリーマンショックがあった2008年12月期から3期連続で売り上げが減少していますね。
神野 確かにリーマンショックによる落ち込みはかつてないほど急激でしたが、問題はそれだけではなく、少子高齢化や顧客の意識変化のほうが大きいと捉えています。例えば、以前は一定の品質でないと売れなかったのが、昨今は「乗れればいい」というお客さまが増えている。若年層の“車離れ”も顕著です。つまり、市場の構造自体が変わったわけです。
――そんな激変にさらされながらも前期は黒字転換に成功しています。
神野 2008年決算で赤字に転落する前は、20年以上連続で黒字を継続していました。その意味では、リーマンショックが経営の大きな転換点だったと思います。
――黒字へ回復できた鍵は?
神野 以前ほどの売り上げが期待できないので、売り上げより限界利益(粗利)を重視する方針に転換したことです。具体的には、商品戦略を抜本的に見直しました。当社の商品ラインナップは(1)新車販売(2)中古車販売(3)中古車卸売り(4)整備・車検(5)レンタリース(6)自動車保険の6つで、このうち粗利が高い整備・車検の強化を重点的に図ってきました。また、車両販売は“水物”でなかなか数字が読めないのに対し、整備・車検は比較的売り上げの見込みが立つことも重視している理由です。
その次に重視するのが新車販売です。新車を販売することで、整備・車検や自動車保険といった付帯売り上げが見込めるからです。幸い北海道は軽自動車の比率が約29%と他県に比べて低いので、販売拡大のチャンスは十分あると捉えています。
――反対に重要度を下げた商品は?
神野 中古車の卸売りです。卸売り在庫を抱えていたことで、リーマンショックではかなりの損をしました。中古車仕入れでも、以前は100%オークションだったのを、下取りを強化するなどしてルートの多様化を図ってきました。現在のオークション比率は40%程度で、しかも注文車主体にシフトしています。
――戦略が変われば組織マネジメントも変える必要がでてきますね。
神野 整備・車検の強化には、顧客の囲い込みが重要です。そして顧客を囲い込むには顧客満足度の向上が不可欠。さらに、顧客満足度を高めるには社員全員がお客さまのために何ができるかを自律的に考えないといけない。戦略はトップが考え、現場がそれを具体的にどう実行するか考えるわけです。
全社員がお客さまのために自律的に考えて行動するには、感性的な面と論理的な面の2つの側面から仕組みをつくることが大切だと考えています。感性的な面で大事なのは、「なぜ顧客に貢献するのか」「なぜ働くのか」といった基本的な部分を押さえること。これがふに落ちてはじめて、顧客への貢献が自身の喜びにつながり、仕事にやりがいを感じられるようになるんです。当社では月1回、外部講師を招き、働く意味を考える勉強会などを開催しています。
また、営業部門と整備部門がそれぞれ販売と整備の両方の目標を設定することで、全社員ですべてのお客さまを大切にする社風を醸成してきました。当社では、整備社員が整備から納品、料金受け取りまですべて担当します。実際には営業と整備の役割をきちっと分けたほうが効率はいいのですが、効率より顧客本位の姿勢を重視しています。
――もう一方の論理的な面とは?
神野 データによるプロセス管理です。管理顧客データから売り上げや利益に影響する重要指標を抽出して、各指標ごとに目標設定しています。
例えば「顧客接点回数」。顧客管理データを分析すると、車を販売してから1年以上接触のなかったお客さまからは、かなりの割合で車検の受注を逃していることが分かりました。そこで、車検防衛率をアップさせるため顧客接点回数の目標を設定し、少なくとも販売から半年おきにはお客さまに対して何らかのアプローチを行うようにさせ始めています。データをうまく活用し、お客さまに貢献できる機会をみすみす逃さないようにしようということです。
社員が自律的に自分のすべきことを考え、一つひとつの目標を着実に達成することが、結果的に粗利増へとつながる。この3年間、そうした仕組みの構築を目指してきました。
『FX4クラウド』で部門別限界利益をチェック
――各社員の目標達成と全社業績との関係性を、社内でしっかり理解しておくことが重要になるのでは?
神野 毎期末に中期経営計画の発表会を実施してベクトルをあわせています。ただ正直に言うと、すべての社員が個別目標と全社業績との関係性を理解できているわけではありません。感性的な面は徐々に成果が出てきていますが、論理的な面がまだまだ弱いと感じています。
――中期経営計画の中身は?
神野 経営理念とビジョン、SWOT分析による商品・市場戦略、中期業績目標と来期予算、そして各部門・チームの目標といった構成です。
――商品・市場戦略について簡単に。
神野 一例を挙げると、新商品として自社リースを手掛けるようにしました。以前はリース会社を利用していたのですが、それだと限界利益率が低くてあまり積極的には扱えない。でも儲からないからと言ってお客様のニーズに応えないわけにもいきませんから、ならば自社でリースを提供しよう、と判断しました。
――そうした意思決定を行うには、詳細な財務データが必要ですね。
神野 当社では名越税務会計事務所さんからTKCシステムを導入しています。毎月5日までに月次決算を行い、《変動損益計算書》や《部門業績ランク表》などで管理しています。
名越税理士
名越税理士 以前から『FX4』を導入いただいており、今年の6月に『FX4クラウド』へとリプレースしていただきました。稲穂スズキさんは、『FX4クラウド』の全国第1号ユーザーでもあります。
神野 TKCシステムをなぜ選択したかというと、月次決算が早いからです。月次決算の帳表には、経営者としての私の判断や社員の頑張りの結果が現れる。それをいち早く確認することで、次にやるべきことが見えてくるんです。
――部門分けを教えてください。
神野 「営業」「整備」「卸売り」の3部門で、営業部門はさらに2カ所の拠点ごとにも分けています。
――毎月、まず確認する数字は?
神野 粗利重視の経営をしていますので、各部門の限界利益額ですね。これは主に前期比で見ています。次に固定費を予算比でチェックします。固定費以上の限界利益を確保できているかがもっとも重要です。
――売り上げは?
神野 もちろん売り上げも大事です。売り上げでは、最初にお話ししたように、営業部門より整備部門を重視しています。車両販売より整備・車検のほうが限界利益率が高いからです。現在、全社の限界利益の55%が整備・車検によるものですが、整備部門の売り上げをさらに伸ばして、この割合を70%程度にまで引き上げたいと考えています。
――思ったように業績が上がらないときもあると思います。
神野 そんなときは現場のプロセスを見ます。顧客との接触は計画通り行えているか、などといったことです。個々の社員が、私の方針に沿って与えられた目標を達成すれば自ずと業績がついてくるはず。なので、現場の動きをチェックするのです。
クラウドへのリプレースで事業継続のリスクを軽減
――先ほど課題として「論理的な面が弱い」ことを挙げていましたが、社員の計数管理能力を高める取り組みなどはされているのでしょうか。
神野 月に1回、私の自宅で幹部会議を開催しています。今後はこの会議で『FX4クラウド』の画面を見せながら管理会計の指導もしていくつもりで、いまそのための設備などを準備しているところです。『FX4クラウド』を目標達成のエンジンにしたいと考えています。
――『FX4クラウド』にしたことで利便性なども向上しましたか。
神野 自社サーバーから(TKCデータセンターを活用する)クラウドになったことで、データ・セキュリティー面で安心感が高まりました。実は、これまで2度もサーバールームが泥棒に入られて、パソコンなどを盗られた経験があるんです。
名越税理士 東日本大震災では津波の被害が甚大でしたが、稲穂スズキさんも本社が沿岸部に位置しています。当事務所としては、『FX4クラウド』にしていただいたことで、これまで以上の安心・安全をご提供できていると感じています。
――事業継続におけるリスクの軽減につながっているわけですね。
神野 天災や人災に対する備えに限らず、私は以前から会社を存続させていくことを経営の命題にしてきました。例えば、経営の安全性を高めるため、内部留保を厚くするよう心がけてきた。黒字にして、納税し、残った利益を貯えてきたんです。
――最後に今後の展開についてお聞かせください。
神野 当社の強みは、小樽に根ざした会社であることです。地場ディーラーなので社員と地元との結びつきも深く、それだけ顧客に密着できる。これを生かして現在のお客さまをもっともっと大事にしていきたいですね。つまり、現市場の深掘り戦略です。今後3年間はこの戦略にエネルギーを集中していくつもりです。
自分たちが気づいていないだけで、実際にはまだお客さまに提供できていない商品・サービスが存在しているはずです。どうすればそれを発見し、提供できるかを全社員で考え続けることで、この厳しい環境を突破できると信じています。
企業情報
稲穂スズキ株式会社
- 代表者
- 神野弘司
- 所在地
- 北海道小樽市塩谷1-25-15
- TEL
- 0134-26-0800
- 売上高
- 13億7000万円(2010年12月期)
- 社員数
- 25名(パート等含む)
- URL
- http://suzuki-otaru.co.jp/
顧問税理士 名越隆雄
ベーカーティリージャパン税理士法人
札幌 名越税務会計事務所
- 所在地
- 北海道札幌市北区北
19条西3丁目 - TEL
- 011-716-7412
(『戦略経営者』2011年11月号より転載)