税務官公署出身会員に聞く
経営者に寄り添い「会計で会社を強くする」税理士になりたい
【成長する事務所の経営戦略税務官公署出身編】
壷見晴彦税理士事務所 壷見晴彦会員(TKC南近畿会)
壷見晴彦会員
令和元年7月税務署長を最後に定年退官後、税理士事務所を開業した壷見晴彦会員。学生時代に目指していた税理士として、税務官公署で得た知見を活かして企業の発展に貢献したいと語る。
学生時代に税理士試験に科目合格 平松一夫先生の勧めで国税専門官へ
──税務官公署でのご経歴をお聞かせください。
壷見 国税専門官として大阪国税局東税務署を振り出しに、令和元年7月に大阪国税局南税務署長として定年退官を迎えるまでの38年間、税務署・国税局・国税庁及び国税不服審判所に在籍していました。期別は専科12期です。
──国税専門官を目指したきっかけは何でしょうか。
壷見 もともと税理士になりたいと思っていて、大学では商学部に進学しました。父親が自営業でしたので、商売上で何かあれば、まずは税理士に相談していました。その姿を見ていて、私はどちらかというと父親のように商いを行うよりも、どうすれば商売が上手くいくのかを経営者と一緒に考えてアドバイスする仕事のほうに興味を持ち、自分も将来は税理士になりたいと考えていました。
大学では、故平松一夫先生(関西学院理事長、世界会計学会会長、日本会計研究学会会長等歴任)のゼミで学んでいたのですが、この頃から税理士試験の勉強を本格的に始め、簿記論・財務諸表論の2科目に合格。税法3科目の取得を目指して勉強していたところ、平松先生から「国税専門官試験というものがあるけれども、一度受けてみないか」と勧められ、それで国税専門官の試験勉強も並行して行い、そちらに合格することができました。
卒業後の進路について、税理士の道へ進むか、公務員の道へ進むかとても迷いましたが、「国税専門官としての経験は今しかできない」との助言もあり、公務員の道に進むことにしました。実際、国税組織での仕事はとてもやりがいがありました。
──平松先生は、「TKC・関西学院大学新月プログラム(税理士のための会計講座)」の創設者で大変お世話になりました。本プログラムは好評ですでに17年目を迎えています。
壷見 私も今年受講しています。残念ながら平松先生の講義を受けることは叶いませんでしたが、この素晴らしいプログラムを受講することで、少しでも先生に恩返しできればという気持ちです。
国税庁では電子帳簿保存法制定と書面添付制度の改正に関わる
──在籍中の印象深い出来事についてご紹介いただけますか。
壷見 大阪国税局管内の税務署と国税局に勤務したあと、国税庁に異動して15年間勤めました。特にその中で、TKCさんとの関わりでは、平成10年のいわゆる「電子帳簿保存法(電帳法)」の制定が強烈に印象に残っています。
当時、法人税課監理第三係長だった私は、電帳法制定のためのワーキングメンバーのチーフでした。そこで電帳法の制度設計等を議論していたときに、坂本孝司TKC全国会会長(当時TKC全国政経研究会幹事長)が国税庁を来庁され、ドイツやアメリカのコンピュータ会計法の現状や「租税正義の実現」のためには、訂正等履歴要件の保存等正確な電子帳簿を作ることがいかに税務行政や納税者にとって大切なのかをわかりやすくお話しいただきました。
また、平成13年には、書面添付制度が拡充され、事前通知前の意見聴取制度が創設されたのですが、その際、法人課税課監理第一係長で担当として携わりました。ですから、TKC会員の方々が、電帳法や書面添付の普及に力を注いでこられていることはよく承知しています。
──当時TKC全国会は、電子申告制度の普及推進にも積極的でしたね。
壷見 国税庁が電子申告制度発足にあたって総力を挙げて取り組んでいた時に、TKC会員の方々が全国の税理士の先頭に立って推進し、かつ政策提言をされるなど、その普及に大きく貢献されました。その姿を目の当たりにして、非常に頼もしく感じていました。
ニューメンバーズフォーラムに参加「会計で会社を強くする」が心に響く
──TKCに入会された経緯を教えてください。
壷見 税務署に届けられている『TKC会報』を読んでいて、毎年全国で官界出身者向けの開業準備セミナーが開催されていることを知っていました。そこでTKCの大阪南SCGサービスセンターに問い合わせの電話をしました。
その時、対応してくれた社員さんが「11月に『ニューメンバーズフォーラム(以下フォーラム)』という全国の新入会員が一堂に会するイベントが浜松であります。ぜひご参加ください」と教えてくれました。この電話がきっかけでTKCに入会しました。
──フォーラムに参加された感想はいかがでしたか。
壷見 フォーラムは、パネルディスカッションや分科会、講演などで構成され、開業時の注意点、関与先拡大策、見込み客との会話、自計化支援、職員教育など事務所経営に必要なノウハウを学べます。
一番驚いたことは、ノウハウがしっかりと体系立てられていて、TKCの先輩会員が、関与先をゼロ件から20件、50件、100件と増やし、職員を雇い、拡大してきた経験を踏まえ、「同志」として教えているということです。その目的が税理士業界の発展と、社会での税理士の認知度の向上のためであると知り、とても感銘しました。
坂本会長の講演「会計で会社を強くする」は、大学で会計学を学び、税理士として会計を活かしてお客さまを支援したいと考えていたため、とても心に響きました。事務所の経営理念に「会計」と「会社を強くする」を入れています。
──フォーラムの内容をどう実践に移されましたか。
壷見 関与先がゼロ件で新規開拓が喫緊の課題でしたので、経営者との接触方法が参考になりました。
まず、「人脈を広げること」が大事で、経営者が集まる勉強会や異業種交流会にどんどん参加し、自ら積極的に名刺交換することでした。もう一つは、知り合った方に、会計事務所の広報誌の役割がある『事務所通信』を送付することでした。これならば即実践できるので、大阪に帰ってすぐに取り組みました。
TKCの緊急資金繰り支援の情報が経営者に喜ばれ、顧問契約につながる
──フォーラムのあと、すぐにコロナ禍に見舞われました。関与先拡大に影響があったのではないですか。
壷見 参加を予定した会合が中止またはWeb開催になるなど名刺交換する機会は減りつつありましたが、数少ない機会に、知り合った経営者に新型コロナに関する情報提供ができたおかげで顧問契約につながりました。
──どんな情報が役に立ちましたか。
壷見 経営者の皆さんは当面の資金繰りにとても困っていました。国・地方自治体・金融機関からは続々と支援策が発表されていたのですが、全く知らない。あるいは、どれが該当するのか。その手続き方法も分からないとのことでした。
このとき、TKCから日々発信されている新型コロナに関する国・地方自治体・金融機関の支援策の情報と『事務所通信』や昨年出版された『Q&A コロナ危機で必要とされる緊急資金繰り対策とは?』などの冊子がとても役に立ちました。
私は、収集した情報を整理し、分析していましたので、その場で経営者に必要な支援金や補助金、緊急融資などの支援策があることをお伝えできました。
──TKCの新入会員へのサポート体制についてはいかがでしょうか。
壷見 南近畿会のニューメンバーズ・サービス委員である山田祥雄会員からTKCのビジネスモデルに則った事務所運営のことを教えていただいています。また、南近畿会には「一歩会」という入会5年未満の会員を対象にした任意の勉強会があり、関与先拡大やTKCシステムの活用方法などをテーマに討論をしたり、先輩会員のお話を聞くなどして学んでいます。入会時期が近い会員と情報交換ができる貴重な時間でもあります。
SCG社員も親身に相談に応じてくれます。多くの会員を支援しているため、システムのことに限らず事務所経営に関する情報も持っており、私が欲しい情報に対する反応が速く、とても頼りにしています。
「『書面添付制度と税務調査』のホンネとタテマエ」をテーマに講演
──壷見先生は、在職中の経験をもとにした講演をされているそうですね。
壷見 開業して年数が浅い会員にお聞きすると、税務調査を受けた経験がないと言われることがあります。「税務署はほんとうに調査を行っているのか」「書面添付を実践しているが、意見聴取の経験もない。税務署はその内容をチェックしているのですか」と質問を受けるのです。
そのようなときに、研修講師として会員に向けてお話しする機会をいただきました。今年の4月には、東京5会の会員を対象にした「『書面添付制度と税務調査』のホンネとタテマエ」という題名の講演をしました。
──大変興味深いタイトルですが、どのような内容か教えてください。
壷見 税務調査の選定、税務署から見たTKC・書面添付、今後の税理士業界などについてです。
国税庁の使命は「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことです。税務当局は、限られた職員数と時間で円滑な税務行政を行い、恣意的な税金のごまかしや課税逃れを正さなければなりません。使命のために、税務当局は税務調査やそこに至る過程で書面添付の記載内容を時系列で確認していることをお伝えしました。
また、講演の「まとめ」として「国税庁レポート2020」から書面添付制度の推進に関する部分を抜粋して紹介して、税務当局が添付割合の向上が図られるよう、書面添付制度の普及・定着に努めていることを知ってもらい、書面添付を実践していただきたいと伝えました。
■講演レジュメから(「国税庁レポート2020」から抜粋。下線は壷見会員によるもの)
計算事項や相談事項を記載した添付書面の一層の普及・定着
- 税理士法に定められている書面添付制度は、税理士等が申告書の作成に関して果たした具体的な役割を明らかにすることにより、納税義務の適正な実現に資するとともに、国税庁としてもこれを尊重することにより円滑な税務行政の運営を図る趣旨から設けられているものです。
- 具体的には、税理士等は、申告書の作成に関して計算等した事項や相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付することができ、この書面が添付されている申告書を提出した納税者にあらかじめ日時、場所を通知して税務調査を実施しようとする場合には、税務署等の担当者は、その通知前に、税務代理をする税理士等に対して、添付された書面の記載事項に関する意見陳述の機会を与えなければならないというものです。
- この制度は、正確な申告書の作成・提出に資するとともに、税務行政の円滑化・簡素化が図られ、ひいては信頼される税理士制度の確立に結びつくものであることから、添付書面の記載内容の充実及び添付割合の向上が図られるよう、税理士会等との協議を積極的に行うとともに、この制度を尊重し、一層の普及・定着に努めています。
AIやデジタル化が進んでも経営者の一番の相談相手は税理士
──退官後に開業を考えている方にメッセージをお願いします。
壷見 AIが税理士の仕事にとって代わるという予測がありますが、経営者にとって税理士が一番の相談相手であることに変わりはないと思っています。
自計化において、会計事務所の初期指導と月次巡回監査があるからこそ、帳簿の適時性や正確性が担保できます。そして、未来へ向けた投資を行う際には、最終的な税負担を考慮した経営助言も求められます。また、令和5年には適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入され、多くの免税事業者が課税事業者へ転換することも予想され、税理士への相談は増えることでしょう。
経営者の期待に応え続けるためには、常に最新の情報を収集し、学び続ける必要があります。TKCには先輩会員や仲間、SCGのサポートがあります。経営者に寄り添い「会計で会社を強くする」税理士を目指していきます。
(取材日:令和3年6月2日)
壷見晴彦税理士事務所
(TKC出版 石原 学)
(会報『TKC』令和3年7月号より転載)