事務所経営
TKCビジネスモデルの実践を通じて「女性が光り輝ける事務所」を目指したい
【成長する事務所の経営戦略・所内体制構築編】
千葉かつこ税理士事務所 千葉賀津子会員(TKC関東信越会)
千葉賀津子会員
外資系監査法人等での海外勤務経験を持つ千葉賀津子会員は、帰国後に税理士事務所を開業し、3年半が経過した。自分自身はもちろん、職員にとっても働きやすい所内体制をつくるため、TKCシステムの積極活用を通じた業務効率化や職員育成等に取り組んでいる。
外資系監査法人等で活躍したあと日本に帰国し税理士事務所を開業
──税理士を目指されたきっかけと、開業までの経緯を教えてください。
千葉 父母が会社を経営していたのですが、私が中学生の頃、家族の日常会話の中で2人の兄が「将来は会社を継ぎたい」というので「じゃあ私はどうしよう」とつぶやいたら「税理士とかいいんじゃない?」と言われたことがずっと心に残っていました。それで大学進学の際は商学部を選び、簿記検定も受け、本格的に税理士を目指しはじめました。ただ昔から英語が好きで海外で働きたかったので、いわゆる地域密着型の会計事務所ではなく、外資系の会社で活躍するような税理士像を描いていました。
大学卒業後に税理士資格を取得し、希望通り外資系監査法人に就職して海外で働きはじめました。その後転職した日本のメガバンクのシンガポール支店にいた時、現在の夫と出会い結婚。ただ家族ができてから、兄たちのように「ここが自分の居場所」と思えるような土地で暮らしたいという想いが強くなり、家族と一緒に日本に戻ることを決意しました。
帰国後は子育てをしながら会計事務所で実務経験を積ませていただき、実家のある埼玉県で開業。お会いする経営者やTKC会員の先輩税理士がすばらしい方ばかりで「自分にはこの世界の方が向いているな」と改めて感じました。
──職員さんは全員女性ということですが、あえてそうされているのですか。
千葉 はい。事務所の経営理念として
- 女性たちが光り輝ける職場をめざす
- 社会貢献できる真のプロフェッショナル集団をめざす
を掲げています。「女性たちが光り輝ける」としたのは、日本では海外に比べ能力はあるのに子育てが要因で力を発揮できない女性が多いと感じていたので、そうした女性が活躍できる事務所を作りたかったこと。もう一つは、私自身が生き生きと働いている姿を子どもたちに見せたいという希望があり、女性職員のほうが私の理念に共感し、同じベクトルで働いてもらいやすいと思ったからです。もちろん、職員が生き生きと働いていればお客さまの幸せにもつながるはずです。
インターネットを有効活用し情報発信 TKC理念に共感し入会を即決した
──開業後はどのように関与先を増やしてこられたのですか。
千葉 当初は電話営業や飛び込み営業などをしていたのですが、思うようにお客さまが増えずインターネットで拡大ノウハウを調べてみたら、私の手法はほとんどダメなやり方でした(笑)。そこで戦略を見直し、それまで事務所周辺のエリアだけに送付していた業務案内パンフレットを、さいたま市など都市部の会社にもエリアを広げて送付するようにしました。するとそれが功を奏し、経営者からの問い合わせが格段に増えました。
──どのような点が経営者の心に響いたのでしょうか。
YouTubeへの動画投稿で情報発信
千葉 社長が悩みがちなポイントを書いていることや、女性税理士で話しやすい雰囲気を感じていただいたのかもしれません。またYouTubeのチャンネルを開設し、私と職員が税や会計等に関する説明動画をアップしていますので、それを見て事務所に親しみを感じていただいている方もいらっしゃいました。実際、お電話をいただいてお会いするとほぼ毎回「もうお願いしようと決めています」と顧問契約が決まります。ちなみに、このYouTubeの動画配信は、職員のプレゼン力のトレーニングという狙いもあります。
現在の関与先数は32件で、業種等はこだわらずどんな会社でもご支援しますが、件数は追っていません。すべてのお客さまに月次巡回監査をはじめTKCビジネスモデルの標準サービスを提供したいので、顧問料の安さだけを気にする経営者や記帳代行を希望される経営者はお断りすることもあります。
──TKCには、開業と同時に入会されていますね。
千葉 実は大学時代のクラスメイトや前職で知り合った友人にTKC会員がいて「開業するなら絶対にTKCに入会した方がいいよ」と勧められたのです。開業前、試しに未入会税理士向けセミナーに行ったところ、その時の話がすばらしかったので「これしかない」と入会を即決しました。
──何が決め手だったのですか。
千葉 一番は理念に共感したことです。一度きりの人生、「自利利他」の心で社会に貢献する税理士を目指すという根本的な考え方が、私自身の価値観と合っていると感じました。
入会後も先輩会員の事務所を見学させていただき勉強になりましたし、同じような悩みを持つ同期入会の仲間がいてくれることも励みになっています。
余裕のある人員体制を維持しつつ職員育成に力を入れスキルアップを図る
──子育てをしながら事務所を経営されていますが、無理なく仕事をするために工夫されていることはありますか。
千葉 4人の子どもを育てながらなので、どうしても自分ができる業務量は限られます。ですから、開業する際には「自分の仕事を職員さんに任せられる仕組みを作ろう」と考えました。具体的には「余裕のある所内体制」と「職員育成」の二つです。
余裕のある所内体制というのは、適切な職員数に対し、必ずそれより1人多い人員を維持するということです。ですから、開業時も職員を雇い2人で始めました。よく「関与先が増えてから職員を増やす」という話を聞きますが、私の場合「仕事が増えたら自分が頑張って長時間働けばいい」というのが無理なので、人が足りない状況が絶対に起こらないように先手を打ったのです。
職員育成については、いずれ私の代わりに1人で巡回監査に行ってもらわなければならないのですが、そうなるまでには時間がかかりますよね。ですから研修をしっかりやって、少しでも早く成長してもらおうと考えました。
──具体的にはどのような研修をされているのですか。
千葉 毎週月曜日に、巡回監査士か巡回監査士補の例題集の問題を解いてもらう小テストをしています。私が10題くらいピックアップしてみんなに伝え、その中から2問が出題されるという感じです。そのおかげで、開業3年目ですがすでに2人の巡回監査士補がいますし、私も巡回監査士試験に合格しました。またオンデマンド研修も活用しており、職員自身に受講したい研修をリストアップさせて計画的に受講してもらっています。
巡回監査についても、まず私と一緒に訪問し、証憑書類の突き合わせなどできるところはやってもらいながら、私が経営者の悩みを聞いてアドバイスしている姿を見てもらいます。さらに、事務所では継続MASで作った経営計画の内容を社長に説明するシミュレーションをして、次回の巡回監査では実際に社長に説明してもらっています。
──1人で巡回監査に行けるようになるまでの期間はどのくらいですか。
千葉 未経験者だと1年程度を見込んでいます。職員に早く力をつけてもらえれば、私自身が担当するお客さまを任せられるようになるので、安心して関与先拡大ができるようになります。
今は職員が5人なので私が直接指導しているのですが、将来職員が増えてきたらベテラン職員に新人職員の指導をしてもらい、全体のボトムアップができるようにしていくことが目標です。
職員にとって働きやすいようにフレキシブルな勤務制度を採用
──職員さんの働きやすさという点はいかがですか。
千葉 私と同じように小さなお子さんがいる職員もいますので、保育園等への送り迎えの都合など、自分の生活に合わせられるようなフレキシブルな働き方を認めています。例えば、週5日勤務でも4日勤務でもいいですし、1日の勤務時間も6時間でも7時間でもOKです。朝の出勤時間や退社時間も同様です。
また女性は比較的協調性が高いので、不満や悩みがあってもなかなか言い出せず、我慢してしまう人もいます。そこで必ず月に1度個別面談を行い、大変に感じていることや悩みなど何でも話してもらうようにしています。実際、退職しようとしていた職員の話をじっくり聞いて一緒に解決策を考え、退職を思いとどまってもらえたこともありました。
──柔軟な勤務形態を実現するために工夫されていることはありますか。
千葉 先ほどお話しした人員的な余裕はもちろんですが、TKCシステム活用による業務効率化も欠かせません。例えば、OMSの業務日報や巡回監査報告書を活用し情報共有をしているので、何かあったら私がすぐにフォローできます。
私が以前勤めていた外資系監査法人では転職は当たり前という世界でしたので、ワーキングペーパーのフォーマットや入力規則が決まっており、前任者がいなくなっても情報共有できる仕組みがありました。OMSはまさにそれと同じで、大企業で使われるような体系化されたマネジメントシステムを小さな会計事務所も同じように使えるのはすごいことだと思います。
関与先支援の場面でも、例えば、継続MASなら経営計画を簡単に作成できますし、資金繰り支援の際もTKCモニタリング情報サービスを利用すればお客さま、金融機関、当事務所みんなにメリットがあります。まさにTKCシステムの徹底活用が、業務効率化と柔軟な勤務形態につながっているのは確かです。
職員の皆さんと
所内体制構築の次は事務所の成長 社会貢献できるプロ集団になりたい
──コロナ禍で苦しんでいる中小企業が増えていますが、関与先への影響はいかがですか。
千葉 大きく業績を落とした関与先は1件だけですが、当面の資金繰りに問題がない関与先でも、不測の事態に備えるため、政府・民間金融機関による融資制度を活用し資金を潤沢にしておくようアドバイスしています。
──今後の抱負をお聞かせください。
千葉 ニューメンバーズの3年間は、事務所体制を整える期間と位置づけ、職員育成等に特に力を入れてきました。今後の課題は、職員と関与先を増やし、もっと社会に貢献できる事務所になることです。
税理士を目指している職員もいますし、実は娘も「税理士になりたい」と言っています(笑)。実現したら税理士法人化して支店も作って、経営理念の通り「女性が光り輝ける、真のプロフェッショナル集団」になるのが私の夢です。
(取材日:7月30日)
千葉かつこ税理士事務所
(TKC出版 村井剛大)
(会報『TKC』令和2年9月号より転載)