事務所経営

FX4クラウドで市場規模を拡大し税理士業界の価値を高めよう

【FX4クラウド活用編】税理士法人岩崎会計 岩崎博信会員(TKC九州会)
岩崎博信会員

岩崎博信会員

TKCの自計化推進プロジェクト参加をきっかけにFX4クラウド推進に取り組み、その真価に気付いたという岩崎博信会員。会計を税理士がしっかり握り、経営者の意思決定や経理の合理化を支援することで、税理士業界の価値をもっと高めることができるはずと熱く語る。

業務フローに会計システムを組み込んで「税理士が会計を握る」発想が重要

 ──これまでの自計化の取り組みについて教えてください。

 岩崎 当事務所は、父が1974年に福岡県北九州市で開業し、開業30周年の2004年に私が承継しました。
 当時は2代目ならではの焦り、つまり「父とは違うことをしないといけない」という思いがあり、お客さまへのFX2導入に取り組みました。ただ最初は事務所内の協力が得られず、なかなか導入が進みませんでした。
 その時に痛感したのは、後継者はまず創業の理念や事務所の歴史を学ぶことから始めないといけないということ。先輩が築いてきた土台があって今があるわけですから、それに敬意を払わずに「ここが悪い」「こう変えよう」と言ってもなかなか理解は得られません。
 この話をすると長くなりそうなので止めますが(笑)、最終的には職員の協力を得て自計化を進めることができました。

 ──FX4クラウドを推進するようになったきっかけは何ですか。

 岩崎 2012年に発足した「中堅企業自計化推進プロジェクト」(芦川浩士リーダー)の九州会推進リーダーに選ばれたことです。実は、当時FX4クラウドを導入しているお客さまはまだ1件もなかったのですが、リーダーとして会員向け研修の講師をしなければいけないので、必死でデモ画面を動かしながら勉強して覚えたのです。
 そうやって勉強しているうちに、「これはすごいシステムだ」と、その真価が理解できてきました。つまり、FX4クラウドは取引の発生から経営者の意思決定までのデータの流れをスムーズにすることができるシステムだ、ということです。

 ──具体的にはどういうことでしょうか。

資料1

 岩崎 資料1を見てください。どんな経営者でも売り上げは気にしますから、基幹システム(販売管理システム等)のデータは常にチェックしているはずです。ただ、基幹システムのデータからは、「最近この得意先からの受注が増えているな」とか「この営業担当者はよく頑張っているな」といったことは分かるのですが、そこには原価や間接費の配賦などの要素が全く考慮されていないので、正確な経営判断はできません。
 また、会計システムが基幹システムと連携しておらず、別途入力する必要があるので、その入力作業に時間と手間がかかります。さらに、基幹システムと会計システムのデータの整合性をチェックする必要もあります。こうした問題は、取引の発生から経営者の意思決定までの流れに会計システムが組み込まれていないということに起因するわけです。
 一方、資料2では、基幹システムから売り上げ等の内容をデータ連携によってFX4クラウドに読み込ませています。これができれば、経理業務の効率化につながるだけでなく、正確な会計情報により経営者の意思決定に役立ちます。またFX4クラウドの帳表で不十分な時は、MR設計ツールの活用を支援することで経営者の意思決定のスピードと正確さを向上させることができます。

 ──会計システムを意思決定までの流れの中に組み込むことで、経営者が絶対に手放せなくなるわけですね。

 岩崎 今後、会計システムは二極化していくと思っています。一つは、FX4クラウドのように、取引の発生から経営者の意思決定の流れに組み込まれているシステム(資料2)。もう一つが、そのフローの中に組み込めない「単品」としての会計システム(資料1)。フローに組み込まれていない単品なら安くてシンプルな方がいいに決まっていますし、経営者が会計の価値を感じにくいので事務所との関係は薄くなり、年一契約となるおそれも生じます。当然、高付加価値業務は望めません。
 つまり「会計を取られたら負け」なのです。生き残るためには、税理士が「会計をがっちり握る」という発想が必要ではないでしょうか。

自計化はボウリングの「ヘッドピン」パワーを集中させれば必ず倒れる

 ──FX4クラウドの導入件数を教えてください。

事務所外観

JR八幡駅から車で5分ほどの住宅地にある事務所

 岩崎 現在、約20件のお客さまに導入しています。
 TKC会員は、KFS、中小会計要領、TKCモニタリング情報サービスなど取組むべき課題がたくさんありますが、それらをすべて同時並行、同じ力で実践するのは難しいですよね。ではボウリングでいう「ヘッドピン」は何かというと、私は「自計化」だと思います。自計化ができてくれば継続MASや書面添付なども取り組みやすくなり、自然と高付加価値事務所になってきます。
 ボウリングは狙ってもヘッドピンに当たるとは限りませんが、事務所経営なら、所長が決断してすべてのパワーを集中させればいいので、必ず倒れます。

 ──社長さんにはどのように提案しているのですか。

 岩崎 まずターゲット選定ですが、導入しやすいお客さまを選んで、成功体験を積むことが鉄則です。
 毎月の巡回監査で、FX4クラウドによって改善可能な課題がある関与先を調べ、社長を事務所セミナーに招待します。一度に呼ぶのは少人数で、1人でも構いません。第1部ではFX4クラウドのパンフレットに沿って概要を説明します。そして第2部では、1人ひとり別のスペースを用意し、調べておいたその会社にとっての訴求ポイントを、所長、巡回監査担当者、TKC社員が徹底的に説明するのです。
 この時に絶対やってはいけないのが、「FX4クラウド入れますか、入れませんか」と迫ること。経営全般に関わる話なので、社長も急に決められるはずはありません。その日は社長の記憶に残りそうなキーワードを覚えてもらって、その気になるのをじっくり待つのです。そのうちに社長の方から「以前聞いた会計システムを検討したい」と言ってきます。
 こちらが選定基準を複数持つことも重要です。例えば「年商〇億円以上のお客さまにお勧めする」といった基準を決めればシンプルで分かりやすい反面、その条件に合致しない関与先は除外してしまいますよね。年商規模は一つの指標にはなりますが、その他にも「複数拠点がないか」「データ連携ができないか」など別の角度から検討してみることも大切です。
 例えば、ある飲食店のお客さまの場合、店舗は1店舗だけでFX4クラウドは必要なさそうでしたが、実はクレジットカードによる売り上げが多く、カード会社の入金明細からのお客さまごとの売り上げ入力作業に非常に手間がかかっていました。そうした現状を社長にお伝えしFX4クラウドをお勧めしたところ、すぐに導入が決まりました。

売上計上の課題は「手抜き」「ご苦労様」「あきらめ」の3パターン

 ──経理の問題点をどのように見つければよいのでしょうか。

 岩崎 まずは社長に「会計で困っていることはありませんか」と聞いてみます。そこで「もっと細かく部門別管理をしたい」「店舗以外の場所から入力したい」などの具体的な返事があれば「FX4クラウドで実現できますよ」とお勧めすればいいのですが、大抵は「困っていることは特にない」という回答です。
 しかし、実際に問題がないわけではありません。例えば、売り上げデータを販売管理システムと会計システムの両方に入力する二度手間など、無駄な作業があることに社長が気付いていないだけなのです。会社の業務フローを分析し、巡回監査の時に経理担当者にもそれとなくヒアリングして、解決すべき問題点を探っていくわけです。
 真っ先に見るべきなのは売り上げのデータです。「売上高」の仕訳、つまり「(借方)売掛金/(貸方)売上高」を分析すると、大きく分けて次の3パターンがあることが分かります。

1.月間売上高がまとめて一つの仕訳に計上されている(手抜きパターン)
 社長が会計にあまり期待していないというケースです。この場合は「経営の意思決定を『会計』に基づいて行えば、もっとよい経営ができるんですけどね」と話します。「え、どういうこと?」と話に乗ってきていただければ、変動損益計算書、部門別管理などを説明するわけです。つまり、まずは会計に目を向けていただき、その次に「FX4クラウドを導入すれば実現できますよ」という話に持っていくという2段階が必要となります。

2.部門別など細かく経理処理がされており、毎月の入力に労力がかかっている(ご苦労様パターン)
 この場合は、売り上げの発生について、どんな書類に記録、集計されていて、それを経理が受け取り、入力し、チェックしているかという一連の流れを整理します。さらに、それらの作業に1カ月あたりどのくらいの人手と時間が投入されているかを経理担当者等にヒアリングし、FX4クラウドで自動化したらどのくらい省力化できるか概算してみます。このパターンでは、社長は会計の重要性自体はある程度理解しているので、比較的導入がスムーズです。
 例えば、ある卸売業のお客さまでは、数百件の得意先があり、毎月の売り上げの仕訳をたった1人の経理担当者が3日間徹夜で入力していました。社長にその状況を報告した上で「販売管理システムから売上データを出力し、ファイル連携で仕訳を読み込めば、3日間の作業がほんの数分でできますよ」と提案したところ、すぐに導入いただけました。

3.細かく経理処理をしたいけれども、大雑把にしかできていない(あきらめパターン)
 社長の頭の中に「もっと細かい会計データがあればいいな」という意識はあるけれども、手入力では手間もかかるし、現実的に無理だと思っているのです。このケースは1と2を組み合わせたアプローチが必要ですが、このケースも社長はある程度会計に関心があるので、比較的納得していただきやすいですね。
 よく「経理業務の棚卸しをしてください」と社長に頼んでしまう方がいますが、その棚卸作業のために経理担当者が残業しては本末転倒です。「一番大変な作業は何で、どのくらいの時間がかかっていますか」とざっくり聞けば十分です。
 毎月のシステムサポート料を気にされる社長に対しては「私も自分の事務所で使っていますが、以前4人体制だった経理担当者が今は半分で済んでいます」と、効率化による人件費削減のメリットをきちんと説明しますし、もし経理担当者に大きな負担がかかっているようなら、「社員さんが体調を崩したり辞めたりしたら、次の人はすぐには見つかりませんよ」とリスクも含めて説得しています。

立ち上げの際は工程表を渡して事務所の支援体制を「見える化」する

 ──立ち上げの際に工夫していることがあれば教えてください。

 岩崎 まず「FX4クラウド導入・立ち上げ支援スケジュール表」(資料3)を作成して、社長にお渡ししています。合計で70以上の項目があり、いつ、何をするのかが一目で分かります。実際に作業をしたら日付を入力し、改めて最新版を渡します。
 社長や経理担当者は、導入を決めたのはいいけれども、本当にできるのか、いつまでに立ち上げられるのかなど、不安を感じています。この表があればそうした不安は半減しますし、クレームも出ません。さらに言えば、全部でこれだけの仕事があるということで事務所の手厚いサービスが分かるので、立ち上げ支援費用請求の根拠にもなっています。

資料3

※「FX4クラウド導入・立ち上げ支援スケジュール」の標準様式は、TKCからご提供できます。

 ──事務所のサービスを見える化することが大切なのですね。

 岩崎 ただし、導入して安心してはだめです。確かに、最初から「これもできます。あれもできます」といっても経営者が混乱するので、訴求ポイントは一点に絞ることが原則です。
 しかし導入後は、「経費の精算を連動させませんか」「給与計算もデータ連携しませんか」とどんどん提案しなければいけません。例えば、使っている給与計算システムがあればPX2に変えられないか、それが難しい場合、使っている給与計算ソフトからどのようなデータを抽出できるか調査して、データ連携を提案するのです。そうやってどんどん新しいことができるようになってくると、社長は、最初は「高い」と感じていたFX4クラウドの費用がどんどん割安に感じ、満足感が高まるはずです。

FX4クラウドは「最後の砦」徹底したIT化・合理化を進めよう

 ──FX4クラウドを推進したことで、事務所経営に変化がありましたか。

FX4クラウド推進のポイント

  • 選定基準を複数持ち、導入しやすい関与先から提案
  • まず「売り上げ」データに着目し、経理の課題を把握
  • 立ち上げ作業を「見える化」し、導入後も提案を継続

 岩崎 まず、根本的に変わるのが巡回監査の手法です。これまでは、入力された数値が正しいか原始証憑とつきあわせて残高が合っているか確認する、つまり「結果」をチェックすれば良かった。
 ところが、データ連携で自動的に仕訳が作られている場合は、元になったデータがどのような過程を経て作られたのかという「プロセス思考」でチェックしていきます。
 例えば、スマホを使った飲食店のレジシステムがありますが、そのスマホから売上データを連携している場合、メインのID以外にもう一つ裏のIDを作られて、その売り上げを隠されてしまったら、いくら結果を監査しても見つけられません。だから巡回監査では、どこからどのデータが入っているのかプロセス全体を確認し、さらに書面添付にも「このID番号から発生した売り上げは完全に連動していることを確認した」と書きます。こうして全体のプロセスを意識して、監査上のリスクがどこにあるのかを理解することが重要です。

 ──業績面ではいかがですか。

 岩崎 おかげさまで、FX4クラウドを推進してから売上高・経常利益ともに伸びていますが、FX4クラウドを推進する意義はそれだけではありません。
 ご縁があって他の事務所から当事務所に移ってきたお客さまがいるのですが、前の事務所には顧問料を月4万円払っていたそうです。当事務所が関与するようになりFX4クラウドを導入していただいた結果、顧問料等を含めた月額報酬が約12万円と3倍になりました。
 これは単に「事務所が儲かって良かった」という話ではなく、税理士の市場規模が拡大したということが重要なんです。つまり、当事務所がお客さまをいくら獲得しても、他の税理士から移ってきただけなら税理士業界としてはプラスマイナスゼロなので、市場規模は変わりません。
 しかし報酬が3倍になったということは、経営者が会計事務所に3倍払ってもいいと思った、それだけ税理士に対する社会からの評価が高まったということであり、まさに「職域防衛と運命打開」です。FX4クラウドを通じて、税理士業界全体の価値を高められるのです。

 ──最後に、会員へのメッセージをお願いします。

 岩崎 いま世の中は確実にキャッシュレス化の方向に向かっています。企業間の決済も個人決済もデータ化された時に、会計システムを単独で論じることに意味がなくなります。つまり、データ連携できないシステムは見向きもされない時代がそこまで来ているのです。その意味で、FX4クラウドは最先端のIT技術であると当時に、会計事務所にとって自らを守る「最後の砦」と言えます。
 このIT化、合理化の流れに乗り遅れないためにも、一緒にFX4クラウド推進に取り組みましょう!


岩崎博信(いわさき・ひろのぶ)会員
税理士法人岩崎会計
 福岡県北九州市八幡東区桃園2-7-10

(インタビュアー:TKC営業本部 山田千津/構成:TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成30年11月号より転載)