事務所経営
関与先一社一社に本気で向き合い経営者の頼もしいパートナーになりたい
馬越晃一税理士事務所 馬越晃一会員(中国会岡山県支部)
馬越晃一会員
「関与先の財務経営力アップに向けた支援を徹底したい」と語る馬越晃一会員。職員のレベルアップや事務所の総合力強化に向けた取り組みについて聞いた。
職員時代は営業隊長として関与先を1日3件増やしたことも
──税理士になるまでの経緯を教えていただけますか。
馬越 私は香川大学出身で学生の頃は、寮とギターアンサンブルサークルを往復する日々でした。昼の3時に起きて学校に行くというギター一筋の生活(笑)。その時住んでいた屋島寮というところはとても勉強する環境ではなかったんです。大学3年生になって、さすがにこのままではまずいと焦り、簿記の3級と2級を取りました。それから勉強に本腰を入れて、大学4年生で簿記論・財務諸表論に受かったことから、本格的に税理士を目指しました。
卒業後は、当時つきあっていた彼女、いまの家内ですが、の地元の岡山県に行き、2カ所の税理士事務所に勤めました。どちらもTKC会員事務所です。2カ所目の竹内秀樹先生の事務所に入所してから2年後の26歳の時に、税理士資格を取りました。
──職員時代に印象に残っていることはありますか。
馬越 飛び込み営業をしたことです。当時は、拡大手法として飛び込み営業がはやっていて、竹内事務所に入所した直後に「うちは営業をやるから」と言われました。実際に私一人で退職するまでに約40件拡大しました。一番多い日で朝、昼、晩の1日3件増やしたこともありました(笑)。自分の足を使って完結できる楽しさと契約書に印鑑をもらう時のやりがいが、記憶に残っています。所長代理になってからは、実質的に営業隊長のような役割でした(笑)。
──開業してすぐにTKCに入会されていますね。
馬越 所長代理として2年ほど勤め、昭和62年に28歳のときに開業しました。職員時代から巡回監査を行い、TKCシステムを使ってきたので回り道することなく、開業と同時にTKCに入会したことは、とてもラッキーだったと思います。
FX2・継続MASの各機能を完全利用しその先にある個別のニーズに応える
──それから25年が経過したわけですが、事務所経営で最も力を注がれてきたことは何ですか。
馬越 やはり巡回監査の品質の強化です。そのためには監査担当者の能力の向上が何よりも重要だと思います。うちの事務所では「習うより慣れろ」で入社してかなり早い段階から担当をもってもらいます。以前は入所3カ月後には一人前なんだから担当になりなさいと言っていた時期もあります。さすがに最近はもう少し時間がかかりますが。やっぱり監査能力の向上には現場に出て自分が汗をかくのが一番の近道だと思います。
以前、関与先に対し、事務所の支援に関する無記名のアンケートを実施しましたが、あえて社名を記載して「いつも来てくれてありがとうございます」というコメントをいただいた時は大変うれしかったですね。それも、職員の巡回監査がしっかりしているからこそだと思います。
──KFSの実践力をどのように高めてこられましたか。
馬越 まず大事なことは、「関与先一社一社に向き合い、いま必要なことは何か」を明確にすることです。平成26年度の事務所目標は、「関与先の財務経営力の強化を全面的にバックアップする」と設定しています。そのため関与先一社ごとに関与先のそれぞれの状況に合わせて財務経営力のアップをテーマとした目標設定を行っています。関与先の中でも財務経営力が極めて高い方も、また試算表すら見ようとしない、もしくは試算表の見方が全くわからない財務経営力の極めて低い方もいらっしゃいます。それぞれのレベルに合わせて的確にアドバイスを行うことがわれわれに求められていることだと思います。
継続MASにしても、FXシリーズにしても、年々グレードアップして関与先の財務経営力強化のための武器になっています。しかし、いくらすごい武器を持っていても関与先のためにならなければ意味がありません。それは自計化推進に限らず、継続MASの予算登録についても同じことで、システムを導入して、取りあえず入力するだけでは役に立たないと思います。最初のうちはそれでもいいんですが、関与先がどうすれば発展できるのかという担当者の強い思いがなければ的確なアドバイスはできません。そのため翌月巡回監査を励行し、関与先個々のニーズを把握することが欠かせないと思います。
幹部職員の離職をきっかけに組織化の重要性にあらためて気付く
──職員さんの採用や入所後の教育のためにどのようにされていますか。
馬越 まず採用にあたっては、簿記の資格とかキャリアは一切問いません。
入所後は、TKCの職員研修に参加させて、中級実務試験、巡回監査士試験には、必ず合格しなければいけないという決まりにしています。もちろんそれは資格手当にも連動しています。中央研修所のオンデマンド研修も利用していますが、所内で受講できるところがとても便利です。ただし、会計事務所は受験学校ではないので、関与先支援に活かすために学ぶということが大前提です。
それから目標を達成した職員の頑張りが給料に反映する仕組み作りもしています。毎年の事務所方針発表の中で職員の査定項目を決めて、能力・成果・やる気に応じて評価しています。
──所内体制面での課題はありますか。
馬越 実は、2年前に幹部職員から突然離職したいという申し出があり、その後1年間ぐらい事務所が相当ごたごたしました。当時、TKC岡山県支部長になって3年目で、事務所を不在にすることも多くなっていましたが、職員が順調に成長しているから大丈夫だろうと思っていた矢先の出来事でした。
幹部職員の離職を機に、あらためて所内の組織化が何よりも重要だと気付かされました。それが所内体制をもう一度見直すきっかけになりました。これまでも、経営計画を作って、それを職員と共有するということを徹底してきましたが、それだけではなく、職員と向かい合って話をする時間の大切さも実感しました。
認定支援機関として経営改善を支援し150万円の費用支払いが承認される
──中小企業診断士の資格もお持ちだそうですね。
馬越 開業当時から、税務はあくまでも過去の話なので、これからの会計事務所は、未来志向の話が関与先とできなければいけないと危機感を抱いていました。われわれがいくら真顔で「社長、売り上げを伸ばしてください」とか、「経費削減してください」と言ったところで、経営者もそんなことは十分分かっているんです。
これまでにも経営計画を作るシミュレーションシステムに一千万円かけたり、コンサルタントと提携して一千万円報酬を支払ったこともありましたが、いくらお金をかけても私が本来欲しているような情報は得られませんでした。それから一念発起して、6年かけて中小企業診断士の資格にチャレンジして、一時はコンサルタント会社を立ち上げていた時期もありました。
われわれの仕事は、中小企業の頼もしいパートナーになることです。ましてや、いま税理士に求められているのは、中小企業経営力強化支援法に基づく経営革新等支援機関としての役割です。
──認定支援機関としての具体的な支援事例をお聞かせください。
馬越 時系列でいうと、9月末頃から関与先の中で、国の経営改善支援事業の対象となる企業のリストアップを始めて、翌月初めに、至急改善が必要な対象先を一社に絞りました。経営改善支援センターとの打ち合わせをして、150万円の費用支払いの認可が下りたのが10月末。今後はモニタリングを行うという流れです。経営者と金融機関を交えて、私と中小企業診断士の2名が入って経営改善計画策定会議を行いました。
──その支援にあたっている関与先は、どのような状況だったのですか。
馬越 順調なときは経常利益が1億円ほどありましたが、経営悪化を理由にリスケをしました。その際こちら主導で簡易な経営改善計画書を作って何とかリスケには成功しましたが、目標売上と実績が大幅に食い違って、とても当初の計画通りにはいっていませんでしたので、再度リスケをすることになりました。
経営の主役はあくまでも経営者です。われわれがいくら経営改善計画書を作っても、そこに魂が入っていなければ、まったく意味がありません。残念ながら当初の経営改善計画書はこちら主導で作って経営者の動機付けが足りなかったので今回の再リスケになってしまったのではないかと反省しています。計画を作る際は、経営者をいかに動機付けするかが非常に重要だと思います。
経営者のやる気を引き出すために、どんなことに注意すればいいかというと、支援する側が本気の姿勢を示すことしかないと思います。また、必要なときには、苦言を呈することもあるので、日頃から経営者との信頼関係を築いておかなければ経営改善は進みません。
信金向けに研修を開催 職員の強みを活かせる事務所を目指す
──金融機関との連携は進んでいますか。
馬越 地元信用金庫の関与先があるのですが、平成24年にその信金からの依頼で、渉外担当者向けに営業研修の講師を担当しました。飛び込みの営業経験はあるものの、全く門外漢の私に、営業研修なんかできないのではないかと最初は戸惑いましたが、事務所に地銀の支店長代理を経験した者がいるので、彼の知識も活かして、計4回開催することができました。
──参加者の反応はいかがでしたか。
馬越 うれしいことに、その信金では、融資件数が純増したとのことで、翌年も追加の講師の依頼があり、元金融マンの職員にも講師を務めてもらいました。それをきっかけに、職員を介した関与先の紹介も増えて、事務所の総合力が強化されています。
──馬越先生の今後の夢を教えてください。
馬越 事務所の経営理念は「まごころでお客様の夢を実現し共に歩むアドバイザー」です。われわれが関与先の夢の実現をお手伝いするのはもちろんですが、どれだけ事務所がもうけても、職員が物心ともに豊かにならなければ意味がありません。会計法人の名称をリアライズ(実現)としているのも、関与先の夢の実現と職員の夢の実現という二つの意味を込めているからです。
当事務所で育った人材が70歳くらいになった時に、「事務所にいた時はこうだったよね」と気さくに話ができる集団を作ることが理想です。先日、開業25周年の記念イベントとして、退職した職員を集めて同窓会を企画しました。独立して税理士や中小企業診断士、地元中小企業の幹部となった元職員たちが十数人集まってくれました。今後もそれぞれで成長して輪を広げていってほしいと願っています。
私は「65歳になったら所長を辞める」と、職員やTKC会員の仲間に宣言しています。そのためには、事務所の総合力を高めることが何よりも重要です。各職員の役割の中で責任を全うすることに楽しみを感じられる事務所にすることが目標です。
創立25周年記念祝賀会に参加した現職員・元職員の皆さん(前列左から4番目は馬越会員)
(TKC出版 益子美咲)
昭和62年4月開業。同年TKC入会。関与先数268件(法人181件・個人87件)。FXシリーズ129件、継続MAS166件、書面添付122件。巡回監査率96.3%。職員数12名(監査担当者10名、内勤2名)。中国会岡山県支部長。55歳。
馬越晃一税理士事務所
住所:岡山県倉敷市児島下の町1-11-45
電話:086-474-3719
(会報『TKC』平成26年2月号より転載)