事務所経営
職員とSCGとともに「幸せな関与先」を増やしていく
税理士法人パートナーズ 村瀨 潔・宮川 淳(中部会名古屋南支部)
村瀨 潔会員(写真右)
宮川 淳会員(写真左)
平成20年10月、互いの事務所を合併するかたちで税理士法人パートナーズを設立した村瀨潔会員と宮川淳会員は、法人化を機に「TKCシステム徹底活用」の事務所経営へとシフトした。法人化から5年、「事務所の強みは職員とSCG」と両会員は断言する。
「今から間に合うのはあいつだけ」と親戚に退職願を出されて税理士の道へ
──まずはお二人が税理士となるまでのストーリーを教えてください。
村瀨 合併前の事務所は昭和40年代に私の叔父が設立した歴史のある事務所で、TKC入会も昭和47年。いわば先発の事務所ということになります。
もともと私は機械商社に就職していました。ところが昭和60年頃に叔父が体調を崩してしまい、事務所の今後をどうするかという話が出てきました。そして親戚中を見渡した結果「今から税理士試験を受けて合格できそうなやつはあいつしかいない」と会社に退職願を出されて連れて来られたのが始まりです(笑)。25歳の時でした。当時は簿記の「簿」の字も知らなかったし、「税理士? 人の金の計算して何が面白いんや」と思っていたくらい(笑)。そんな状態で事務所に入ったので最初はとにかく借方・貸方を理解するのが大変でした。ただその後の税理士試験は実務を覚えながら勉強していたので苦労はあまりしていないのですが、時間はかかりましたね。税理士登録は平成18年2月でしたから。今にして思えばどうせならもっと早く取っておけばよかったな、と(笑)。その後は1年ほど補助税理士として勤務し、平成19年4月に事務所を承継しました。
実は承継した当時、TKCシステムを使ってはいましたが、研修にも行かないし会務もしない、という状態でした。「このまま中途半端にやっていても面白くないな」と思っていた頃、当時の担当SCGから「TKCをきちんとやってみたら事務所経営も面白くなるのでは?」と乗せられて(笑)。とりあえずTKC全国会の方向性を事務所経営に採り入れてみよう、研修に出て何でも拾ってこよう、と方向転換しました。サーバーもすぐに入れましたし、OMSや巡回監査支援システム、FX4クラウドなどのシステムもフル活用。おかげで今では、単に帳簿を作るだけの仕事とは違う楽しさを感じています。
──宮川先生は、もともと製薬会社のMR(医薬情報担当者)として活躍されていたとうかがいました。
宮川 学生時代は薬学部でしたが、当時から税理士になろうと思っていたんです。実は私、大学に6年いまして(笑)、その間に多くの人と出会う中で士業を志すようになりました。そして自分なりに調べた結果、仕事をしながらでも勉強が可能で、独立もできる──ということで税理士に行き着いたんですね。
大学卒業後は製薬会社に就職し、入社3年目の頃から簿記の勉強を始めました。営業職だったので接待もあり、会社には完全に伏せて平日の夜と土日を使って勉強していましたね。簿記1級合格後に税理士試験の勉強をスタートしたのですが、簿記論に受かった後に仕事の都合で3年ほど試験勉強を休むことになり、再開できたのが35歳の時。「時間がない!」と思い切って会社を辞め、大学院に通いながら残りの科目を勉強していました。無事に資格を取れた時は「あぁよかった。やれやれ」と(笑)。
その後は会計事務所、医療法人、調剤薬局の薬剤師等を経て、平成18年2月、税理士登録と同時に開業しました。まったくゼロからのスタートで、あえていえばMR時代のドクターの人脈があっただけ。「最初の1件」は税理士の友人が紹介してくれました。
個人事務所の経営に限界を感じ税理士法人化の話を持ちかけた
──平成20年10月、お二人の事務所を合併するかたちで税理士法人を設立されたそうですね。お二人の出会いは?
宮川 税理士登録の番号が3番違いなんです。その縁で一緒に勉強会をするようになり、そのうちに「一緒に法人をやらない?」という話が出て、その話に乗ったのが私だったというわけです(笑)。
村瀨 「なにか面白いことがしたいよね」と話していて、結構軽い感じで始めたんですよね(笑)。とりあえずやってみて、うまくいかなかったら仕方ないか、という感じで。
当時、個人事務所に限界を感じていた部分がありました。たとえば職員を増やしたいと思っても、きちんと職員の状況を把握できるのは10人くらいが限度でしょう。でも法人にすれば今後税理士も増やしていけるし、業務の幅も広げられる。職員の数も増やせますし、逆に1人あたりの負担は減らせます。それで法人化の話を持ちかけたのです。
税理士を増やしていくことを前提に法人化しましたから、法人名にはあえて自分たちの名前は入れませんでした。
──現在、事務所経営で力を入れていることは何でしょうか。
地域金融機関向けに配布したという企画書
村瀨 私は2つの柱を考えています。1つは、経営革新等支援機関としての経営支援。11月の第1号認定を受けて、金融機関の行員向け勉強会を企画して近隣の地域金融機関に案内を出したら反応があり、さっそく1回目を12月18日に開催しました。それまではどんなに頑張ってもはっきり言って金融機関は相手にしてくれなかったのですが、認定をきっかけにがらりと変わりました(笑)。裏を返せば、昨年末、それだけ金融機関の各支店は不安だったのだと思います。
その後は、やはり行員向けセミナーの講師や、「経営計画策定とモニタリングをお願いします」などの依頼を地元の信用金庫から結構多くいただいています。経営計画策定で依頼される案件はたいていの場合、優良企業ではないのですが、経営者がその気になれば立ち直れるような企業の事業再生案件がほとんどなので、まずはそうした案件をきちんと対応していく。フォローしているうちに税務顧問へとつなげられるかな、と思っています。
1ヶ月に4~5回も顔をあわせて話をつめていっていますし、時には経営者と金融機関の融資担当者を事務所の会議室に呼んで、ディスプレイに「生の数字」を映しながら融資についての話もしています。金融機関側も、実際の数字をチェックしながら話せるから信用してくれています。
もう一つの柱は資産税です。古くからお付き合いのある関与先が多いので、相続が懸念事項になる経営者が増えてきているという背景があります。資産税の相談会をはじめ、夏と冬に財産承継セミナーを開催しています。現在は年間10件程度相続税申告をお受けしているので、今後力を入れていきたい分野ですね。最近は金融機関から資産税関係の案件のご紹介も増えています。
まずは既存顧客に満足してもらうことが先。しっかりフォローできていれば結果として必ず紹介につながる──が私のスタンスです。
独自の取り組みをしていても共通認識があれば法人運営は可能
──宮川先生はいかがでしょう。
宮川 私の場合は逆で、外への拡大を意識しています。私はもともと医療畑なので、医療機関の関与先を増やしていきたいと考えています。というのも、医療機関はヨコのつながりが強く、同業者からの紹介の要素が強い。医療機関の関与先をある程度増やさないと拡大が難しいからです。調剤薬局などの関与先が少しずつ増えてきてはいますが、まだまだペースが遅いので、もう少し加速をつけて増やせるような方法を考えたいなと思っています。
今は、平たくいえば知らない人と名刺交換をする機会を増やしていこうと考えて動いていますね。だから名刺も、私のはかなり「外向け」なんです。つまり、見ただけで何かを感じてもらえる、あるいは名刺が独り歩きできるようにということを念頭に作ってあるんです。
たとえば「主な業務内容」には「経営方針・経営計画策定支援」「事業財務・決算・資金繰り適正化対策」など、税理士事務所がしていそうでしていない業務を上に書き、いわば「当たり前」の税務に関する業務は一番下に書いています。それから名刺交換した相手に共通性を見いだしてもらえるよう、保有資格(薬剤師)や所属団体等、「フック」になる言葉をできるだけ書くことを心がけています。「少し変わった税理士だな」と思っていただければいいかな、と。
──お二人はそれぞれ独自の取り組みをされているように思えるのですが……。
宮川 たしかに方法論は違いますが、「関与先にどれだけ貢献できるか」という基本の部分は一致しています。それに社是「租税正義」と経営理念「私たちは『親身な相談相手』として、すべての納税者の永続的発展をご支援します」というのは共通事項ですから。この基本の部分が代表社員の間で共通していれば、姿勢は違っても法人運営は可能だと思っています。
村瀨 目指す経営品質なり方向性なりが一致していないと難しいでしょうが、結局、「TKC」という根っこが一つあればいいのかなと考えています。たとえアプローチが違っても、「TKC」の理念や施策を事務所経営に採り入れて互いに動いていれば、最終的には「租税正義の実現」に行き着けるはず──と思いますね。
80時間超の研修受講で職員が自発的にレベルアップ
──そうすると、実務を担う職員さんが事務所のカギとなるといえそうですね。どのような教育をされていますか。
村瀨 基本的にはOJTで、新入職員はほぼ100%私が連れて歩いて一緒に動き、仕事内容を見せて覚えてもらっています。皆、だいたい3ヶ月ほどで独り立ちしてくれていて、ある社長からは「村瀨さんよりきちんとチェックしてくれるよ」と(笑)。「細かなチェックは嫌がるだろう」と思って私は遠慮していたのですが(笑)、自分なりに工夫して精度を上げていってくれているようです。
これは研修参加の効果が大きいと思います。我々が「こうしなさい」と言うよりも、研修に参加して外から刺激をもらう方が素直に受け入れられるようです。ある職員は、入社1年目に107時間、去年も84時間の研修を履修しています。そして研修に行ったら、たとえばこちらが「翌月巡回監査率を上げよう」と言わなくとも、「『記帳適時性証明書』の『月次決算の状況』には全部◎がつくようにしなくちゃ」などとすごく頑張ってくれる。純粋な「TKC仕様」で育ってくれている。自発的に「巡回訪問」から「巡回監査」へとどんどんレベルアップさせていってくれているんです。私たちはそれについていくのがやっと(笑)。
──そういった職員さんがいらっしゃるのは、頼もしいですね。
村瀨 事務所の一番の強みですね。うちの強みは職員とSCGだと思っていますから。最初の担当SCGがいなかったら、ひょっとしたらいま私はTKCにいないかもしれないですし、会議室にあるディスプレイも前担当からある日突然「予約しておきましたから」と言われて焦ったけれど(笑)、そのおかげで業績検討会等の場面で活用できている。事務所の全体会議も担当SCGがいなければ始まらないですからね。歴代の担当SCGにはいつもきめ細かなフォローをしてもらっていて、本当に助かっています。
「距離感」の良い人材を採用するため大学の就職担当者に直接紹介を依頼
──職員さんの採用基準はかなり厳しいのではないでしょうか。
村瀨 いえ、来る者拒まずです(笑)。ただ、いまは新卒しか採っていません。中途採用はしないと決めているわけではありませんが、どうしてもいままでの方法から抜け出すのに時間がかかりますから。やっぱり「まっさら」なほうが何事も吸収しやすいというのはありますね。
ただし「こういう人がいいな」という希望はあります。一番の理想は、人と人との距離感が良い人ですね。
──距離感、といいますと?
村瀨 たとえば社長と話をしていて、妙に距離が近すぎる人、馴れ馴れしい人はダメ。かといって、ずっと他人行儀だったり妙によそよそしすぎたりしてもダメなんです。ちょうど良い距離感を保ちながら接することができて、それこそ親身な相談相手として社長の思いをきちんと汲める人が一番いいなと思いますね。いま中心になってくれている子はそのあたりがものすごく上手。社長をうまく乗せることができて、頼りにしています。
──面接はお二人でされるのですか。
宮川 そうですね。過去、4人面接して4人採用。でも、むしろ面接はしていないと言った方がいいかもしれない。
村瀨 基本的にうちの面接は、事務所の概要を説明して、坂本孝司先生の著書『会計で会社を強くする』(TKC出版)を渡して、「来るか来ないかを決めるのは君だから、うちに来る気になったら電話してね」と言っています。
──非常にユニークな方法ですが……。
村瀨 大学に求人を出してはいますが、うちの場合は求人票を張ってもらうのではなく、就職課や学生課の担当者に「国籍も性別も一切問わない。税理士になれそうな子を紹介してください」と直接、お願いしているんです。そうするとその人が見ている学生の中で「よさそうだな」という人をピックアップして直接学生に声をかけてくれる。そうすると面接の時点でこちらの採用意思は決まっているから、あとは本人の気持ち次第。今のところ嫌だと言われたことはないですね。平成22年4月に2人採用したのがスタートで、離職者は今年3月に結婚退職した1人だけです。
──従業員満足度も高そうですね?
村瀨 従業員側は分からないけど、少なくとも我々は従業員に満足している(笑)。
宮川 給与明細は必ず代表社員のどちらかが渡すようにし、その際は会議室で職員から悩みなり不安なり、話を聞くことは励行していますよ。普段は二人とも事務所を空けることが多いので、コミュニケーションの一環として、月に1回は職員が何でも言える機会をつくっています。
税理士法人パートナーズの皆さん。「三世代同居」(村瀨会員)でアットホームな
コミュニケーションが可能になっているという(宮川会員の隣は担当SCGの宮下恵さん)。
「自利利他」とはとっても楽しいこと
ここに気づけばチャンスがつかめる
──今後のビジョン、お二人の夢を最後にお聞かせください。
宮川 営業マン時代から仕事の姿勢は同じなのですが、大事にしているのはお客様にどれだけプラスのことが提供できるかということ。もう少しつっこんで言えば、自分にかかわった人がどれだけ幸せになれるか──を常に考えて動いているつもりです。私とかかわる人が増えれば、幸せになれる人が増える。そう思って顧客拡大に努めていきたいと考えています。
というのも、いまは皆が幸せになれる世の中ではないと思っているからです。これだけ経済成長率が低く、市場も広がらない時代になっていますから、バブルの頃のように全員が伸びていくのは難しいでしょう。ならば少なくとも、自分とかかわった人は幸せになってもらいたい。こうした願いを持って、顧客の拡大と関与先の支援をしていきたいと考えています。
村瀨 我々二人の行動の基本にあるのは「楽しいことかどうか」「面白いことかどうか」。でないと何事も続きませんからね。ですから今後は、税理士法を遵守しながら、常識や既成概念にとらわれずに本当の意味での「親身な相談相手」になるために、「楽しいこと」「面白いこと」にチャレンジしていきたいですね。
TKCの理念や施策に則っていると、世の中の人にとっての非常識、新しいことだらけのはずなんです。たとえば認定支援機関。これは確かにものすごく大きなチャンスですが、認定されただけではダメ。支援機関としての活動をして初めてチャンスになると思っています。
ではその活動とは何か、というとやっぱり「自利利他」なんですよ。ここに行き着いた人が結果として、この経営革新等支援機関への認定をチャンスにできるはずなんですね。それに、純粋に企業のことを考える「自利利他」って、とっても楽しいことのはず。逆に、なんとかして自分に利益を持ってこようとすると、とたんに楽しくなくなってしまいますから。
我々も50代に入り、いままでTKCの先輩から教えてもらったことを次の人に伝えていくべき時期が来ていると感じます。そこで最近はニューメンバーズ会員5~6人をメンバーとした有志の勉強会を立ち上げました。また後継者のいない事務所も増えていますので、名古屋や中部会のみならず、全国で志を同じくする人たちとネットワークをつくりたい。そうしてゆくゆくは「税理士法人TKC」をつくれたらいいなと考えています。
名古屋市緑区では最も歴史ある事務所の1つ、
税理士法人パートナーズ
(TKC出版 篠原いづみ)
昭和34年生まれ。平成18年税理士登録、平成19年事務所承継・TKC入会。平成20年10月、宮川会員の事務所と合併し税理士法人を設立。趣味はトレッキング、カメラ。中部会NMS副委員長、中部会書面添付推進委員会副委員長、中部会企画委員会副委員長。
宮川 淳(みやかわ・きよし)会員
昭和37年生まれ。大手製薬会社MR、調剤薬局薬剤師などを経て平成18年税理士登録・開業。平成20年TKC入会。趣味は音楽(鑑賞と学生時代から続けているクラリネット)、将棋。
税理士法人パートナーズ
住所:愛知県名古屋市緑区六田2-75-1
電話:052-621-1105
(会報『TKC』平成25年6月号より転載)