税務官公署出身会員に聞く
各分野の若手専門家と連携し関与先の経営をトータルサポート
松木輝義税理士事務所 松木輝義(中部会豊橋支部)
松木輝義会員
平成8年に46歳で税務署を退官し税理士事務所を開業した松木輝義会員は、平成16年3月にTKCに入会した。現在は職員を含め20名の事務所を経営している。医業に特化し関与先を順調に拡大している松木会員に事務所経営の現況を聞いた。
46歳で開業、2年で40件に関与
──事務所を構える豊橋市に特徴的な業種はありますか。
松木 法人では自動車製造関連の業者も目立ちますが、その他には農業が盛んな地域です。市町村ごとの統計によると、豊橋市と隣の田原市は、農業産出額で全国上位を誇ります。私共の関与先も必然的に個人が多く、関与先約300件のうち半分以上を占めています。
──税務署勤務時代から愛知県にいらっしゃるのですか。
松木 はい。名古屋国税局管内の税務署に28年間勤務し、そのうち大半を個人課税部門に従事しました。私は、高度成長期の昭和43年に税務大学校に入校し、普通科28期で採用されました。その後、当時の法人税部門と間税部門を経て個人課税部門に異動になった後、名古屋中税務署を最後に46歳で退官しました。
入署してからの数年間は、日本経済が右肩上がりの時代でした。所得税部門の申告相談では、売上をごまかして申告するケースも見られ「雨が多くて仕事が少なかった」という建築関係の一人親方さんに、1年間の天気図を見せて応戦したこともあります(笑)。
──46歳で退官を決意されたきっかけはありましたか。
松木 開業するなら若いうちにと思い、漠然と50歳までには結論を出そうと思っていました。
平成8年に退官した後、繁華街に近い名古屋市中区で開業しました。飲食業を中心に関与先が順調に増え、2年間で40件になり、やがて関与先50件になると、さすがに私とパート1人だけでは巡回監査をするには限界の件数でした。
各士業と連携し医業に特化
──関与先50件を機に職員さんの採用を考えられたのですね。
松木 事務所の拡大を考えて1人では難しいと考え始めた頃に、社会保険労務士、中小企業診断士の資格者など6人の若手と共に、平成16年に東海経営コンサルティンググループ(税務・会計・人事・労務・経営企画など)を立ち上げることになりました。当事務所の関与先50件に加え、各士業のクライアントが100件ほどあったのでグループのクライアント数は150件になりました。TKC入会は、その直後の平成16年3月です。各士業との連携の効果があったのか、現在の関与先は300件ほどに増えました。
いまでは、監査担当10名、パートを含めて20名になり、平均年齢は30代の事務所です。私自身、トップダウンで引っ張っていくタイプではないので、業務に関しては職員の裁量に任せています。年の功もあり、私は事務所の中では潤滑油のような存在だと思っています(笑)。
──関与先拡大の秘訣は何でしょうか。
国道沿いにある事務所の前で、
職員の皆さんが松木会員を囲んで
松木 医業関連の関与先件数が順調に伸びたことが一因だと思います。もともと医業に関与することになったきっかけは、知り合いの設計士さんと組んで開業支援をしたことです。その後、ご紹介や口コミ等から開業支援に繋がるケースが増えたことから、現在、医業関連の関与先は65件にのぼり、100件の関与を目標としています。
私は、「TKC医業・会計システム研究会」にも所属していますし、職員の1人は「TKCクリニック開業支援アドバイザー」に登録し、TKCの研修で得た知識を開業支援に役立てています。また、事務所では職員主催のセミナーを開催しているのですが、これは職員の自主性と知識を深める機会にも役立っています。
──他に関与の多い業種はありますか。
松木 飲食関係です。職員の中には、飲食業の関与先だけを集めた交流会を自主的に開催する者もいます。交流会で経営者同士が成功事例を共有し、経営のヒントをつかむきっかけとしていただくことが狙いで、参加している経営者からも好評です。
我々の仕事は、税務相談に限らず幅広い支援が求められますが、一人ひとりの力は限られているのも事実です。しかし、TKC全国会には提携企業の皆さんがいるので、経営者をバックアップするための役者が揃っています。事務所内部に限らず、幅広い連携で関与先をサポートできることは、大きな強みとなっています。
逆説的なアドバイスで経営者が奮起
──関与先に対する支援で、特に留意している点はありますか。
松木 私と同年代の経営者は、バブルを経験した人が多く、一番良い時期のイメージをいまだにお持ちの方もいます。しかし、これから先、すぐにそんな時代が来るとも思えませんから、あたかも魔法の杖があるかのように安易に期待を持たせるようなアドバイスはしません。逆説的に「過去の蓄積を取り崩して運営するくらいなら廃業しましょう」と言うこともあります。現実的にはストックがあるうちに廃業するのも一つの方法だと思うのですが、そう言うとたいていの社長は反骨精神で奮起して頑張ると言ってくださいますね。
──今後のビジョンを教えてください。
松木 関与先企業の発展のために、税理士法人化を検討しています。巡回監査体制の構築や顧問報酬の見直し等の事務所経営の課題については、人員増員や事務所内の規定の見直し等を進めると共に、今後も多方面での連携を視野に関与先のトータルサポート体制の強化を目指します。
(TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成24年6月号より転載)