独立開業

TKCのサポート体制を生かしてお客様の発展に向けて邁進したい

新規開業会員が語る

とき:平成23年6月22日(水)

経営環境の厳しい中で新規開業したニューメンバーズ会員は、事務所経営をできるだけ早く軌道に乗せることがテーマになっている。そこで新規開業して着実に関与先を増やしているTKC会員3名に、巡回監査・職員・関与先拡大などについて語りあってもらった。

出席者(敬称略・順不同)
 渋谷 和(東北会山形県支部)
 小城麻友子(東・東京会文京・台東支部)
 伊東直紀(中部会東濃支部)

司会/ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長
 田口 操(東・東京会)

座談会

法律に則った実務を行いたくて入会
切磋琢磨できる仲間の存在がうれしい

 ──本日は新規開業されたニューメンバーズ会員の皆さんに、事務所経営にどう取り組んでいるかを語りあってもらいます。まず事務所の特徴など自己紹介をお願いします。

小城麻友子会員

小城麻友子会員

 小城 平成20年9月にTKCに入会し、翌10月に開業しました。開業直前まで一般企業に勤めており、関与先ゼロからのスタートでした。いまは法人10件、個人10件の20件です。職員はまだいなくて、すべて自分1人でやっています。お客様からの問い合わせに素早くレスポンスをすることを心がけています。

 渋谷 TKC入会は平成21年2月で、同じ月に開業しました。私も関与先ゼロからのスタートです。職員が2名おり、関与先は法人・個人合わせて31件です。スマートなイメージのある資格商売ですが、私は泥臭い事務所経営を目指しています。お客様の経営について一緒になって考え、“泣いて笑ってケンカして”を地でやっています。

 伊東 平成19年1月に開業し、職員は社会保険労務士の妻を含めて3人います。関与先は法人29件、個人41件の70件で、新設法人のお客様が多いのが特徴です。私もほぼゼロからの開業ですが、参加したTKCニューメンバーズフォーラムで坂本孝司先生からお聞きした「税理士になったら生活費を増やすよりも、まずは事務所に投資すること」を心がけ、これまで積極的に事務所に投資してきました。

 ──新規開業し、TKCに入会したきっかけは何ですか。

 伊東 会計事務所勤務中に税理士資格を取得し、その後勤務税理士として働き続け、特に独立は考えていませんでした。きっかけは、TKCに入会した所長からすすめられた『TKC基本講座〈理念編〉』を読んだことです。
 実はそれまで、苦労して試験勉強して税理士になったものの、勉強と実務の違いというか、業務に理想と現実のギャップのようなものを感じていました。そういう状態だと何を信じて仕事をすればよいか、また自分の立ち位置も分からなくなります。それが本当に嫌だったのです。
 ですから『基本講座』を読み、TKC全国会の理念や法律に則って実務を行うことの重要さを知り、はっとしました。税理士として独立した公正な立場で仕事を追求し、お客様を支えていきたいと思ったのです。ですから独立し、即TKCに入会しました。

 渋谷 入会のきっかけは、宮城県支部長の後藤俊朗先生の事務所に短期間ですが職員としてお世話になったことです。その後税理士試験に合格し、後藤先生にその挨拶に伺うと、「センター長に紹介しといたから」と一言言われて(笑)。私はもともと一気通貫のTKCシステムに慣れ親しんでいてTKCに入るつもりでしたが、後藤先生のその一言で迷う間もなく入会が決まりました(笑)。

 小城 入会のきっかけは、当時の志村センター長代理のお誘いで、今日司会をお務めの田口先生の事務所見学会に参加したことです。正直、開業にもTKCにもあまり興味はなかったのですが、当日先生がおっしゃった「開業は大変だったが、いまの状況を捨ててももう一度開業したい」という言葉が印象的で、開業の喜びや達成感は格別なのだと感じました。
 私はその頃、税理士資格を持って会社で仕事をしていましたが、やりがいを見いだせずに悩んでいました。ところが同じ資格を持って生き生きされている姿を見て、私もそういう仕事がしたいと思い、その場で入会と開業を決意したんです。

 ──TKCに入会してみてどうですか。

 小城 ニューメンバーズ・サービス委員会主催の事務所見学会などでは、先輩会員が、普通は同業者に見せないような書類を公開され、顧問料の設定などについても具体的なアドバイスがありました。開業はしたものの何をしたらよいか不安だったので、こういう先輩会員やTKCのSCGによるサポート体制は本当に心強く、ありがたかったです。
 また同時期に入会した会員同士で、実務について気軽に聞きあえるのもうれしいです。電話がかかってきたり、かけたりするのはたいてい深夜ですが(笑)。そういう切磋琢磨し、向上しあえる仲間を作れることもTKCの良さだとすごく感じています。

 伊東 TKCでの集まりだと事務所経営の悩みを本音で話せますよね。私も支部例会など会員間の親睦の機会がありがたいです。

 渋谷 そういう恵まれた環境を生かそうと、地域の有志で勉強会「若手の会」をつくり、この4月から毎月1回SCGサービスセンターで開催しています。悩みを共有しながら巡回監査のやり方などを学び、お客様を少しでも発展させられるように、業務品質の向上に努めています。

全社にFX2を導入して初期指導を統一
巡回監査では必ず質問と提案をする

 ──巡回監査にはどう取り組まれていますか。

伊東直紀会員

伊東直紀会員

 伊東 巡回監査の標準化と品質向上のために巡回監査支援システムを使うようにしています。また毎日朝礼前に行う30分間の研修を重視しています。私は職員に会計事務所未経験者をあえて採用しており、この研修でTKC全国会の考え方、巡回監査等を勉強しています。
 関与先が増え始めると巡回監査担当者を所長から職員に引き継ぎますが、3か月間は私1人で、その後職員と2人で、そして半年後、あるいは決算までを一つの目安にして職員1人で行かせるようにしています。担当者が変わってもお客様からの信頼を失わないように、巡回監査の切り替えについては丁寧にお客様に説明するとともに、職員の巡回監査の内容が分かるように、複写式の作業報告書を、1枚はお客様に渡し、もう1枚は所長に提出させることにしています。

 渋谷 私も、職員への巡回監査引き継ぎのときに重視しているのはお客様にストレスを与えないことです。開業当初から経営状態の厳しいお客様が多かったのですが、契約時にお客様に「私が来なくなったら経営が落ち着いてきたと思ってね」と伝え、引き継いできました。

 ──そういう言葉があれば、関与先も安心でしょうね。

 渋谷 そして、巡回監査を担当しなくなっても、機会を見つけて極力社長に会って話をするようにしています。
 職員がいない頃に悩んだのは初期経理指導が統一できないことでした。そこで考えたのは「関与先ゼロから開業したのだからすべてFX2でいこう」ということです。だから私の事務所はいま、すべての関与先がFX2自計化企業です。提案のポイントはお客様に選択肢を与えずに、「私の事務所はFX2を使って経営をサポートします」と自信を持っておすすめしたことです。そのようにして初期経理指導は3か月で完了させています。
 またFX2がお客様に納品されるまでの間は空白期間になりがちで、お客様によっては「会計事務所は何をしているの?」と思われるので、それを防ぐために、その期間に前期の決算書をもとにして企業防衛制度の標準保障額を算出して提案しています。要は「きちんと見ていますよ」というアピールですが、お客様も喜んでくれています。

 小城 私も、お客様の「待たされている感」を少しでもなくすために、業務の途中報告などをまめに行い、コミュニケーションをとるようにしています。
 また私の事務所は小規模なお客様が多く、社長1人で営業や経理、金融機関との交渉までをやっていて、とにかく時間がない。そういう方にたとえば決算書を普通に見せてもなかなか興味を示してもらえません。
 ですから変動損益計算書をもっと簡単にして、前年同月対比などをグラフにした、一目で分かるような資料を作って巡回監査のときに持参し、数字の大切さなどを話しています。過去に数字に意識のないお客様が、事務所に相談せずに借り入れをして、経営上問題が起きてしまった経験があるので、少しでも経営、数字に関心を持ってもらえるようなビジュアル化の工夫もして、何でも相談してもらえる関係をつくろうと努めています。最初はお客様も「変なねえちゃんがきた」と嫌そうな感じだったのですが(笑)、少しずつ興味を示してくれるようになりました。
 それとともに、巡回監査では売り上げが落ちている理由などを聞き、またその業界には素人ですが、お客様の営業のヒントになるように必ず何か質問、提案をするようにしています。

 ──ニューメンバーズ会員の大きなテーマの一つに1人目の職員採用のタイミングがありますが、伊東先生と渋谷先生はいかがでしたか。

 伊東 自宅で1人で開業したので、職員を採用するためには事務所を用意する必要がありました。そこで、自宅近くにビルのテナントなどはないので銀行から借り入れをし、新築で事務所を作ったのです。関与先は少なかったのですが、先行投資としてすぐに職員を採用しました。

 渋谷 私も先行投資型です。先輩会員から「器が大きければそのぶん入るよ」と言われたことがきっかけです。関与先が増えたときに職員を採用しても十分に教育できないと思って早めに採用しました。
 またTKC入会の翌月にはOMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)を入れましたが、これも同じ考えからです。そうしたことによっておしりに火がついた感じで、事務所を発展させようという思いは強くなりましたね。

関与先紹介は信頼のバロメーター
関与先拡大は業務品質向上がカギ

 ──厳しい経営環境が続いていますが、関与先拡大にはどう取り組んでいますか。

 小城 自分で考えられることと、先輩会員から聞いたことはすべて試しています。
 特にTKCの金融交流会などでお会いした金融機関の方への『事務所通信』の継続送付を行っています。金融機関の方からお電話があるときは、たいてい最初の一言が「いつも事務所通信を送っていただきありがとうございます」です。すぐに関与先紹介などの効果に表れなくても、金融機関の方から忘れられないという意味で大切だと感じています。
 また東・東京会の新入会員の中で手を挙げた会員は、田口操先生から営業方法を指導していただいています。実はそれまでいろいろな方法を試してもお客様が増えずに、もう税理士をやめたほうがいいのかもしれないと悩んでいました。けれども関与先拡大への取り組みを「営業報告書」として毎月提出し、営業手法を振り返り、きちんと意識するようになってから、少しずつお客様が増えてきました。
 ほかには法人会の無料相談会から正式な顧問依頼につながったこともあります。
 最近感じるのは、自分の仕事が事務所の評価になるということです。ですから仕事の品質を高めて、たとえば決算書や書面添付をご覧になった金融機関からアプローチされるようになりたいと思います。

 渋谷 関与先拡大の柱は2本あり、一つはお客様からのご紹介です。それは会計事務所の仕事に対する満足のバロメーターでもあると思うので、業務品質を高めていくモチベーションにしています。
 もう一つは金融機関。職員時代に仕事で関わった金融機関の方に開業挨拶をしたら、債務者区分が「要注意先」で経営が大変なお客様を紹介されました。これは試されているなと感じて懸命に取り組んだら次第に業績が回復してきて、その後関与先をご紹介いただけるようになりました。

 ──そういう一つひとつの信用を得る取り組みが大切なのですね。

 伊東 開業当初は仕事がなく、日課のように事務所のホームページを更新していました。最初は雛形の文言を使っていましたが、1年くらいかけて自分の言葉にしていったのです。ホームページには巡回監査をはじめとする業務案内や、脱税相談は一切お受けしないなど、事務所のスタンスを明確に謳ってあります。ですからある程度事務所の考えを分かった上でのお問い合わせがあり、顧問契約につながりやすいと感じています。
 また同時期に開業した司法書士と業務でタイアップしており、相続案件などで紹介がありました。開業当初は金融機関への飛び込み営業、新設法人へのダイレクトメールの送付なども行いましたが、そちらのほうはあまり反応はありませんでした。

津波ですべてがなくなる中でデータが残っていたという喜び

 ──山形県の渋谷先生は関与先が今回の大震災にあい、FX2(.NET版)のデータがTKCデータアップロードサービスで復旧できたということですが、そのお話をお聞かせいただけますか。

渋谷 和会員

渋谷 和会員

 渋谷 そのお客様は真面目に記帳し、毎日FX2に入力していました。それで震災前日までアップロードされていて、津波で会社の建物もパソコンもすべてダメになりましたが、データはきちっと残っていたのです。
 経理担当の方から社員の無事を知らせる電話が来て、「よかった。データも大丈夫。ここにあるよ」と言うと、「よかった。それだけが心配で……」と泣いて感激されていました。津波ですべてがなくなった中で、なにかしらが残っていたという喜びがあったのだと思います。

 ──お客様の精神面の負担を減らす意味でも、データがきちんとバックアップされていてよかったですね。

 渋谷 そう思います。このお客様は4月決算で、震災に伴う申告延長制度はありますが、延長しないで通常通りに申告しようと進めているところです。またこのお客様は泥の中から証憑書綴りなどを引っ張り出してきてくれました。だから私、思い切って書面添付をしようと思っているんです。真面目にやってきた会社に、いま税理士としてできるのはそういうことかなと考えています。

関与先拡大は業務品質向上にも不可欠
愚直にTKCの方向性で歩んでいく

司会/田口 操ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長

司会/田口 操ニューメンバーズ
・サービス委員会副委員長

 ──当面の事務所の課題や、夢をお聞かせください。

 小城 毎年、関与先数と年商を前期比増加にしていくことが目標です。顧問料に見合う見合わないではなく、新規開業した以上、税理士として一生懸命にお客様を応援し、そのことによって関与先拡大にもつなげていければと思います。
 また最近、書面添付した会社に税務署の意見聴取があり、「調査省略通知」が発行されましたが、これもうれしかったです。品質の高い仕事をして、全関与先に書面添付をしていきたいと思います。

 渋谷 当面は「100」という数字にこだわっていきます。関与先数も開業5年までに100件達成したいです。そしてFX2自計化も継続MASも企業防衛の付保率も、とにかく100%の導入・提供に努めていきます。

 伊東 夢は職員から積極的に提案が出てきて、みんなで高めあえる事務所にしていくことです。そのためにも、事務所の課題である巡回監査の品質の向上と、日々の所内研修の積み重ねを大事にしていきたいと思います。

 ──入会したての会員に向けてメッセージをお願いします。

 伊東 ニューメンバーズ会員には関与先拡大によいイメージで取り組んでほしいと思います。関与先拡大にマイナスイメージを持っている方もいますが、ある程度のスケールがないと事務所の業務品質も高まらないのではないかと思っています。いまいるお客様へのよりよいサービス提供のためにも、積極的に関与先拡大に取り組んでみてください。
 もう一つはTKCの理念に積極的に触れてほしいということです。私は飯塚毅全国会初代会長の講演集のCDを聞いて非常に感動し、また参考になりました。せっかくTKCに入ったのだから、ぜひその根本部分に触れてほしいと思います。

 小城 ニューメンバーズ会員は、先輩会員が教えてくれる関与先拡大の方法を全部試してみればいいと思います。その中で自分に合うやり方が分かってきますので。同時に、信頼できる方といかにつながっていけるかが関与先拡大のカギだと感じるので、そういう方を増やし続ける努力も大切だと思います。

 渋谷 私はこれまでTKC全国会の方向性のままに事務所経営をしてきました。また地域会で研修講師の依頼があればすべて引き受けてきました。このことが事務所がうまくいく近道ではないかと思うからです。ですからぜひニューメンバーズ会員には、愚直に一歩ずつTKC全国会の方針で業務に取り組んでほしいと思います。私自身まだまだなので、今後もそうしていくつもりです。

(構成/TKC出版 清水公一朗)

(会報『TKC』平成23年8月号より転載)