事務所経営
事業の発展を目指す経営者に寄り添い、根拠ある数字で意思決定を支えたい
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宮田義久会員
2019年に50歳目前で退官し、税理士として独立・開業を決断した宮田義久会員。開業当初の記帳代行中心の業務に疑問を抱き、現在、「経営の発展を支援することが税理士業の本質」との信念で、継続MASと月次巡回監査をベースにした「数字で対話する経営支援」に全力で取り組んでいる。
税務調査を通じて企業の実態に深く触れる機会を得た
──はじめに、宮田先生が税務官公署に入られた経緯をお聞かせください。
宮田 私が就職活動した時期はちょうどバブル崩壊後で、世の中全体として就職が難しい時代でした。その中で、安定している公務員試験を受けたのが一つの理由です。
私は、もともと税理士という仕事に興味がありました。同級生の父親が税理士で、経済的にも恵まれている印象があったのです(笑)。税理士との親和性が高いと思って、税務官公署への道を選択しました。
──税務官公署ではどのような仕事を経験されましたか。
宮田 最初は津島税務署に入り所得税を担当し、その後、小牧税務署に異動して法人税を担当しました。このように若いときに所得税から法人税へと担当が変わるのは、かなり珍しいケースだと思います。
以後は一貫して法人税に関わってきました。税務署、国税局と複数の部署を経験していますが、基本的には税務調査が中心です。
税務調査では、単に帳簿を見るだけではなく、気になったところは全て確認します。また、経営者と数時間にわたって話をします。今振り返ってみると、そこから会社の強みや弱み、成長の背景や課題を感じ取ることができたわけで、企業の実態に深く触れる貴重な機会をいただいたと思います。印象的だったのは、やはり「良い会社には理由がある」ということです。必ず何かしらの工夫や努力、そして経営者の考え方がある。逆に、うまくいっていない会社にもそれなりの理由がある。その経験は、現在の税理士としての視点にも影響していると思います。
──税務調査では顧問税理士の先生が立ち会われますが。
宮田 率直に言うと、税理士の先生がその場におられてもそうでなくても、調査そのものに大きな違いはありませんでした。税理士が使命感を持って業務に取り組んでいるように、私たちも自らの任務を全うするだけですから、調査に専念していました。
「やらない後悔はしたくない」──「ラストチャンス」と感じた独立への決断
──その後、税務署を退官され、税理士として独立・開業されたきっかけは何ですか。
宮田 税務署の仕事は非常に面白く、充実していました。その一方で、私の場合、新卒のときに「いつかは税理士として仕事をしてみたい」という思いがあったわけです。組織に長くいればいるほど、その責任や役割も大きくなり、簡単に離れることはできません。そのため、「どこかで決断しなければ機会を逃してしまう」「このままでは一生やらないまま終わってしまう」という思いが次第に強くなりました。いわば、自分の人生における「ラストチャンスではないか」という気持ちから、50歳目前の2019年7月に退官し、開業という道を選びました。
当時は50歳手前でしたが、逆に言えば「まだ20年以上働ける」とも考えました。これまでの経験を生かして新しい挑戦ができるなら、それはやる価値があると。不安もありましたが、それ以上に「やらないことの後悔のほうが大きい」と思ったのです。2019年10月に開業しました。
──開業後、苦労されたことはありましたか。
宮田 「なんとかなるだろう」と漠然と考えていましたが、実際にやってみるとそう簡単ではありませんでした(笑)。まず顧客がいない。営業の経験もない。さらに私の場合、会計事務所での勤務経験もなかったため、システムベンダーの違いや、記帳代行や自計化といった業界における基本的なこともよく分からない。基本的なことを学ぶところからのスタートでした。
「毎月の数字を経営者と一緒に見ること」にこだわりたい
──現在の事務所の概要と、力を入れていることを教えてください。
宮田 事務所には職員が2人います。関与先数は法人・個人合わせて約70件です。経営理念として「企業の成長を支え、人と家族を幸せにし、未来を共に拓きます」を掲げています。また、「企業への指針」という項目も設け、「私たちは、経営者の挑戦に寄り添い、根拠ある数字で意思決定を支えます」と定めています。
このように理念や方針を明文化するとともに、職員に対しては「私たちが提供するのは、会計事務所だからこそできる専門知識と数字に基づく価値。顧客のニーズは顧客の中にしかない。だからこそ耳を傾け、悩みや課題を共有し、その解決に専門性で応えていこう」と伝えて、価値観の共有を図っています。
私の事務所は、ひと言でいうと、「毎月の数字を経営者と一緒に見ること」に徹底してこだわっている事務所です。単に試算表を作成するのではなく、経営者と一緒に数字を見て、現状の正しい把握や課題の明確化、そして次に何をすべきかを決める──、このプロセスを毎月繰り返します。経営は感覚に頼りがちですが、数字を丁寧に見ることで、必ず課題等を整理できると確信しています。「どこを改善すればいいのか」「どう動けば会社は前に進むのか」、その答えは、全て数字の中にあると考えています。
──事務所のホームページでもその点を強調されていますね。開業当初からそのようなお考えだったのですか。
宮田 いいえ、最初からそのように考えていたわけではありません。というのも先ほど申したように、会計事務所での勤務経験等がないため各システムベンダーの違いなどもよく分からず、開業当初は記帳代行を中心とした業務を自然に受け入れていたからです。会計ソフトを使って記帳代行業務を行っていました。
──開業当時、TKCにどのようなイメージをお持ちでしたか。
宮田 税務署勤務時代にTKCの三枚複写伝票の存在を知っていたこともあり、正直なところ「結構面倒そうだな」と(笑)。具体的に調べたわけではありませんでしたが、「手間がかかりそう」「費用がかかりそう」という印象を持っていました。
宮田義久税理士事務所ホームページのトップ画面
法令完全準拠のシステムがもたらす安心感と継続MASが決め手
──そうした思いがあったにもかかわらず、TKCに入会されました。決め手は何でしたか。
宮田 大きく二つあります。まず一つ目は、開業後、深く考えずに価格だけで選んだ他社の会計ソフトを使う中で、ある問題に直面したことです。支店を有するような大規模な関与先企業において、地方税の税率が自動で更新されず、誤りがあったのです。会計ソフトが税率を間違えるなどあり得ない──そう思っていただけに、大きな衝撃を受けました。
この一件は、税理士事務所としてサービスを提供する上で、根幹に関わる問題です。大きなリスクであり、お客様にも顔向けできません。二度と同じ失敗を繰り返してはならないと強く感じました。
その点でTKCシステムは、税率の自動更新を含め、制度改正等に正確に対応しており、法令にも完全準拠していると知りました。これは本当に大きな安心材料です。システムに任せるべきことは任せ、効率化できた時間を関与先企業の経営支援、経営助言に使いたいと考えるようになりました。TKCシステムならそれができると思ったのです。
もう一つは、継続MASとの出会いです。開業から半年ほど経った頃、当時のセンター長代理と面談する機会があり、丁寧に説明していただきました。そのときに特に印象に残ったのが継続MASでした。
これがあれば経営計画を策定し、経営者と数字を通じて対話しながら企業の成長に関わることができる──そう確信しました。「税理士は関与先の経営のためにここまでできるのか」と感じ、「経営支援」という領域が明確に見えた瞬間でもありました。それまで行っていた記帳代行とは全く異なる価値です。
TKCシステムの安心感と継続MASの二つが決め手となり、2020年3月に入会を決断しました。
記帳代行ではお客様の経営に深く関わっている実感が持てない
──TKC入会後、事務所経営に変化はありましたか。
宮田 入会当初は、TKCの理念や取り組みについて十分に理解できていたわけではありませんでした。
ただ、記帳代行については開業当初は深く考えずに受けていたものの、次第に違和感を持つようになっていました。「忙しいのに安価」「価格競争に陥りやすい」といった問題があり、何より「お客様の経営に深く関わっている実感が持てない」と感じるようになったのです。
記帳代行は、低価格で受けることで成り立つ側面があります。その結果、人件費も抑えざるを得ず、「職員が常に忙しくしているにもかかわらず、付加価値が低い」という構造になります。このままでは事務所として成長できないし、何より税務署を退官してまで取り組みたい仕事ではないと考えるようになりました。
そう考えた大きなきっかけの一つが、TKCの研修、セミナーの存在です。私は積極的に参加していましたが、参加するたびに新たな学びがあり、大きな刺激を受けました。行動に移す気付きを与えてくれました。TKC全国会の運動方針への取り組みやシステム活用について、「なんとなく分かったつもりになっていたこと」がセミナーを通じて理解が深まり、「行動に移すきっかけ」となったのです。
私は実際に試してみないと納得できない性分なので、回り道や失敗もありましたが、講師の話を実践する中で先ほど述べた「経営者の挑戦に寄り添い、根拠ある数字で意思決定を支える」という事務所の方向性が定まり、事務所経営の中身が徐々に変わっていきました。
──特に印象に残っているセミナーはありますか。
宮田 インパクトがあったのは、2020年に受講したTKC神奈川会の秋元学先生のセミナーです。「どの顧客層をターゲットにするか」といったお話があり、私は「事業発展を目指す経営者を支援する事務所でありたい。その仕事にこそ税理士の出番がある」と強く感じたのです。
TKC会員は、セミナーや事務所見学会、委員会等を通じて事務所経営の取り組みを惜しみなく共有してくださいます。そうした話に触れる中で、自身の事務所経営の方向性が明確になりました。現在もTKCの研修等で学び続けるとともに、実践を通じて税理士業の本質への理解を深めているところです。TKCはそれができる組織だと感じています。
私の事務所経営の軸は、「数字でお客様と語る」ことです。毎月数字を見て経営について対話することの積み重ねによって会社は強くなると信じています。ですから、現在は顧問契約の段階でそのことを明確にお伝えし、同じ考えを持つ経営者とだけ仕事をすることにしています。「経営を良くしたい経営者」に全力で向き合いたいのです。
したがって、「記帳だけをお願いしたい」という依頼は、お断りしています。スタッフにも記帳代行の業務をさせるつもりは一切ありません。
地道な月次巡回監査で「経営者の心にベルトをかける」ことができる
──税務官公署のご経験が生かされていると思えることはありますか。
宮田 税務調査を通じて、さまざまな業種・業態の企業の経営者と接してきたので実態についてよく理解しているつもりです。そのため、業界ごとの特徴や注意点などを、お客様との対話の中でアドバイスできる点は特にお役に立てる部分と感じています。
一方で、税務調査に強いことを前面に打ち出して顧客を獲得したいとは考えていません。記帳代行もそうですが、税務調査対応や、必要以上の節税に重きを置く経営者との顧問契約は基本的にお断りしています。そうした志向の経営者は同様のお客様を呼び込む傾向があるため、「この税理士は税務調査に強い」「税金を安くしてくれる」といった評価で仕事が広がることは避けたいと考えています。
「税務調査に強い」「税金を安くする」というニーズに応えるだけでは、本質的な価値は提供できません。本来取り組むべきは企業の経営を強くすることで、その結果として利益が出て、適正な納税につながります。内部留保も生まれます。この順序を履き違えてはならないと考えています。
──事務所のホームページに、税務署勤務時代のご経歴を掲載されていないのはそうしたお考えからなのですね。
宮田 あくまでも「数字を活用して事業の発展を目指したい方」が対象です。私の仕事はその実現にあります。税金のために本質を歪めるようなことがあってはならない。この点は税務官公署を経験した私の事務所の存在意義でもありますから譲れません。
また、税理士の役割の本質である「経営を強くする支援」において、月次巡回監査は重要な仕組みと捉えています。経営者と毎月、継続MASを用いて数字を基に対話することは、事務所理念の実現にも直結します。
もう一点、税務官公署出身の立場から申し上げると、過去に税負担を免れようとする経営者を見てきました。その点において、初期指導をはじめ、月次の巡回監査を通じて経営者と対話を重ねる中で信頼関係が生まれることは、経営者の意識改革も生み、いわゆる「経営者の心にベルトをかける」ことにもつながります。これは、事業の健全で永続的な発展に寄与する重要な役割であると考えます。
それを実現できるのは、売上や報酬、会社の実情などを全て把握している、経営者に最も身近な存在である税理士だからこそだと思います。同業者や他の外部専門家には難しい部分ではないでしょうか。経営者の心にベルトをかけ、かつ経営助言等が行える存在は、税理士が唯一無二だと思います。
──「書面添付」についてはどのように捉えていますか。
宮田 税務署向けとしてだけでなく、金融機関向けにより積極的に活用することも重要だと感じています。毎月の経営者との対話を通じて把握している情報、顕著な数字の増減の理由等を適切に記載して伝えることは、金融機関にとって有益であるだけでなく、資金調達や良好な関係構築を目指す経営者の支援にもつながります。税務署向けはもちろんのこと、金融機関向けにも内容を充実させ、さらに活用していくべきだと思います。
宮田義久税理士事務所が入居する県道60号沿いのビル(名古屋市千種区)
適正申告という目的は同じ──税理士として社会に貢献する道へ
──今後の事務所経営のビジョンについてお聞かせください。
宮田 関与先の拡大に取り組むため、スタッフの採用・育成に一層力を入れていく考えです。高付加価値のサービスを提供するためには、それを理解し実行できる人材が不可欠です。採用にあたって最も重視しているのは、経験よりも事務所の理念に共感できるかどうか。理念に共感できる人であれば、教育に一定の時間を要するものの、TKCの充実した職員研修プログラムによって着実に育成できると考えています。
また、AIの進展や動画サイトの普及により、ある程度の税務知識は手軽に入手できる時代になりました。しかし、情報過多であるがゆえに、誤った情報を経営者がそのまま信じてしまうケースも見受けられます。その中で我々に求められるのは「何が問題かに気付く力」や「誤りを発見する力」を備えることだと思います。
──最後に、開業をお考えの税務官公署の方へメッセージをお願いします。
宮田 50歳前後の年齢であっても新たな道で、まだ20年は仕事をすることができます。これまでの税務官公署勤務の経験を生かし、企業の成長に貢献できる税理士という仕事は大きなやりがいがあり、地域社会への貢献にもつながるものだと思います。
TKCの価値は、「学び続けられる環境」と「横のつながり」にあると感じています。成長段階に応じた研修体制が整っていることもありがたいです。税務当局時代に「適正申告」という観点から仕事に取り組んできた我々にとって、「租税正義の実現」という理念への共感もあります。
独立・開業することは、自らの意思で方向性を定め、挑戦できる自由があります。私自身、税務署勤務時代も充実していましたが、「ラストチャレンジ」を経た現在、大きなやりがいを感じる日々を送っています。ぜひ一歩踏み出していただきたいと思います。
(聞き手/SCG営業本部 三村俊輔 構成/TKC出版 清水公一朗)
| 事務所名 | 宮田義久税理士事務所 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市千種区春岡一丁目1番2号YAMAMAN仲田ビル4F |
| 開業年 | 2019年10月 |
| 職員数 | 2名 |
| 関与先数 | 約70件 |
(会報『TKC』令和8年6月号より転載)