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渡辺社長を挟んで髙橋英樹顧問税理士と國嶋邦子取締役部長
営業部門を束ねる常務から社長に就任したのは2012年のこと。チーム制やテレワークの導入、クラウドワーカーの採用……会社の「カラーを活かす」べく注力してきた。生成AIも積極的に活用。セミナーへの登壇や見学受け入れなど、取り組みは注目の的となっている。
- プロフィール
- わたなべ・やすこ●1968年生まれ。90年福島県折込広告社(現ケンオリ)入社。2003年福島カラー印刷入社。常務取締役に就任。12年代表取締役社長に就任し、現在に至る。日々の活動を同社ウェブサイト内「社長ブログ」で発信している。
印刷物やウェブサイトのデザイン、データ制作を手がける、福島カラー印刷。渡辺泰子社長は「人と人をつなぐコミュニケーションビジネス」と事業領域を端的に言い表す。チラシやパンフレットの印刷も請け負うが、印刷機は保有していない。立ち位置は“印刷機を持たない印刷会社”だ。03年に入社した当時は、多数の求人雑誌やフリーペーパーが刊行されていたが、ほどなく転機が訪れる。
「利益の半分を稼いでいた求人雑誌が廃刊してしまい、業績は下降線をたどりはじめました。制作スタッフに営業に移ってもらうなど担当替えも行い、提案型営業へ転換を図りました。そこからウェブ関連事業に本腰を入れるようになったんです」(渡辺社長)
ウェブサイト制作に際しては、サイト閲覧者の年齢層、目的から利用シーンにいたるまで、顧客から詳細に聴き取る。「仕事ぶりが丁寧とか、また依頼したいといったお声をいただくことが多いです。大半はリピーターの方で、取引先さまと共に歩んでいる実感があります」(同)。顧客のニーズを的確にくみ取り、かたちにする対応力を売りに、ウェブ関連事業の比率は徐々に伸長。全社売り上げの4割を占めるまでになった。渡辺社長をして「もはや手放せない」と言わしめるのが、ChatGPTをはじめとする生成AIである。
部署横断でGPTsを活用
例えば、ウェブサイト制作。AIが、顧客との打ち合わせ音声を文字に起こす。起こした文章をChatGPTに入力。ウェブサイトの概要を指示すると、デザイン案が生成される。試作サイトの提示まで5日以上要していたが、生成AIを用いることで1日程度まで短縮できた。
「以前は、お客さまとの打ち合わせ内容を議事録にまとめたり、要望事項を制作担当者に正確に伝えたりするのに、時間がかかっていました。さまざまなシーンでのAI活用によって仕事のスピードが増し、お客さまの要望により合致したサイトを迅速に制作できるようになりました。各社員に優秀な参謀がついているような感じです」(渡辺社長)
生成AIの利用は、制作部門にとどまらない。顧客分析チームを率いる國嶋邦子取締役部長も「AIを利用しない日はない」と明かす。同チームは、主に営業支援を担う。生成AIの活用は、顧客情報を読み込ませて提案の切り口を探ったり、ウェブサイトの改善点を抽出させたりと広範にわたる。國嶋部長が特に効力を感じているのは、資料の要約力だという。
「地方公共団体がプロポーザル方式で事業者を選定するとき、膨大なページの仕様書に目を通して、提案書をつくる必要があります。仕様書をAIに読み込ませると効果的な文言やレイアウトが提示されるので、提案書の作成時間を大幅に短縮できました」
また、メールの作成といった日常業務でも生成AIは必須のツールとなっている。メール返信時、生成AIに受信メールの本文を貼り付けると、文章を生成する。学習機能を備えるのも生成AIが優れている点だ。利用頻度に応じて、好みの口調や文字数で出力するようになった。「GPTsの生成した文章は8割方整っているので、日付等を修正するだけで完成します」と國嶋部長。GPTsとはChatGPTに備わる、特定の業務に特化した回答を引き出せる機能を指す。部署を横断して生成AIの活用が広がっているのは、このカスタマイズ機能によるところが大きい。
「社員がGPTsを共有して使用しているため、業務効率化につながったのはもちろん、提案の質を高められたと感じています。あらゆる年齢層の社員間で、AIを共通言語にしたコミュニケーションが活発になりました」(渡辺社長)

福島本社とオフィス
AIマネージャーを養成
ウェブサイト制作やライティング業務は、いずれAIにとって代わられるのでは──。渡辺社長が生成AIの活用にかじを切った背景には、危機感があった。今年1月から3カ月間、4名の社員が「AIによる業務改善」をテーマとするオンライン研修に参加した。経理総務、営業、デザイナー、プログラミングの各部署から1名をメンバーに指名。受講費用の一部には、人材開発支援助成金を充てた。「事業展開等リスキリング支援コース」では、中小企業が一定の要件を満たす研修を受講する場合、経費のうち75%相当額の助成を受けられる。肝心なのは、現場への落とし込みだ。渡辺社長はメンバーの人選時、「自らが主体となってAIの活用を社内に広めることができるかという点を念頭に置いた」という。研修を受講した社員は「AIマネージャー」として、生成AIの伝導役を担う。
「最初にAIマネージャーが講師となり、ChatGPTの大まかな機能を説明してもらい、業務で使用しているうちにプロンプト(生成AIに質問、指示するテキスト)に関する知識がだんだん蓄積していきました。そのノウハウを社員同士で共有して、業務に即したGPTsを組んでいったのです。生成AIの活用を通して、新たな視点や気づきを得られ、お客さまに対する提案の幅が広がりました」(國嶋部長)
業務に生成AIをフル活用というと、ややもすると無機質な職場が想起されるが、渡辺社長は対面でのベクトル合わせにも意を用いる。その施策のひとつが半期に一度、全社員参加のもと開催している「全体会」である。

公式サイトで商品、サービスごとの多数の制作事例を公開
地元企業と協業を推進
全体会の参加者には、商品構成グラフ、商品別月間売上高などを記載した資料を配布して、業績がつまびらかにされる。直近の実施は10月4日。月初の時点で、中間期である9月までの月間売り上げと利益を把握しているというから驚く。数字のベースは、業務システムやTKCの財務会計システムに入力した日々の取引データである。先代のころをふくめ40年以上にわたり同社と顧問契約を結ぶ、髙橋英樹税理士が語る。

半期ごとの節目に開催している「全体会」
「福島カラー印刷さまはTKC自計化システムを長年活用され、月次決算、適正申告を続けられています。書面添付の20期連続実践の表敬状を先日贈呈しました。全体会は社員の方々と業績を共有し、事業の方向性を確認する上で大事な場になっていると感じます」
渡辺氏が社長に就任してから、各チームのリーダーが登壇する時間を設けた。4部門の責任者が前期の取り組みを総括するとともに、当期の重点活動内容を発表する。配布資料の充実ぶりも目を引く。25年4月開催時の資料は、「カラーを活かす」との経営理念から新規顧客リスト、印刷業界動向まで50ページ以上におよんだ。
「カラーを活かすとは、当社のカラーと強みを最大限生かし、お客さまに共に歩みたいと思われる会社を目指そうということ。業務に追われていると理念や方針を忘れたり、ぶれたりするときもあります。全体会は、私たちの仕事の意義を再確認して、ぶれを修正する場なんです」(渡辺社長)
50名をこえるクラウドワーカーの採用や地元企業との連携など、近年は社内外のネットワークづくりにも注力している。足元では福島県須賀川市にある段ボールメーカーとタッグを組んだ「段ボール×デザイン」プロジェクトが進行中だ。
このサービスは、リサイクル可能な環境負荷の少ない段ボールに福島カラー印刷のデザイン力を融合し、イベント用途などの付加価値の高い製品づくりを目指すもの。同メーカーとは、髙橋顧問税理士の主宰する有志の勉強会でも交流が続いている。「企業同士が連携して強みを持ち寄れば、1社ではむずかしかった事業も可能になるかもしれません。AI活用支援に関する提案もあり、相乗効果を見込める企業と協業を進めていきたい」と渡辺社長。生成AIという新たなツールを携え、人同士をつなぐ挑戦はつづく。
(取材協力・髙橋英樹税理士事務所/本誌・小林淳一)
| 名称 | 福島カラー印刷株式会社 |
|---|---|
| 業種 | 広告業 |
| 設立 | 1982年11月 |
| 所在地 | 福島県福島市さくら3丁目2-7 |
| 売上高 | 3億2,000万円(2024年3月期) |
| 従業員数 | 27名 |
| 会計システム | FX2 |
| URL | https://f-color.co.jp |
| 顧問税理士 |
髙橋英樹税理士事務所
顧問税理士 髙橋英樹 福島県福島市松木町12番地15号 URL: https://miyazaki-tax-accounting.tkcnf.com |