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かつてのような右肩上がりの成長が見込めないなか、利益を着実に得るには数字に対する“感度”を高める必要がある。月次決算体制を構築し、変動損益計算書を使いこなすことが、成長する会社をつくる第一歩となる。

──月次決算は何のために行うのでしょうか。
原田 企業には年に1回、税務署等に決算申告書を提出する年次決算が求められます。それに対して月次決算とは、自社の業績を把握するために、1カ月ごとに決算数値を確定させることをいいます。月次決算は法律で義務化されているわけではなく、あくまで企業が自らのために行うものです。
──月次決算がいま求められている理由は?
原田 大半の経営者は1カ月間の経営成績、すなわち月次業績を知りたがっています。ただ、資金繰りや人材確保などさまざまな課題を抱えており、業績が悪化すると悩みが無限に増幅しがちです。どんどん悪い方に考え、本業に集中できなくなるおそれもある。こうした事態を防ぐには、自社の置かれている状況をできるだけ具体的に知ることが肝要です。
月次決算を行うと、取りも直さず現実に向き合うことになるので、業績下降時にはどの程度悪化しているか、客観的な数字として把握できます。経営者はバイタリティーにあふれていますから、目安をつかめれば挑戦する意欲が湧いてきます。業績が順調な時には、経営者自身や社員のがんばりが反映された結果として手ごたえを得ることができます。月次決算を通して現実を知ることは、業績のいかんにかかわらず経営者にとって有益であり、企業を永続させるための取り組みといえます。
──その他にメリットはありますか。
原田 経営者は大まかな業績を頭の中でイメージしていますが、月次決算で正確な数字を知ることで、わずかな変化に気づけるようになります。例えば、例年と比較して増加している経費がある場合や、売り上げが増えているのに利益が減少しているといったケースです。業績を前月、あるいは前年同月とつぶさに比べれば、何らかの変化が起こっているものです。その原因を追究して改善策を早期に施せるようになります。
黒字割合が6割超に
──正確な業績を把握するには、タイムリーな経理処理が求められます。
原田 月次決算を行うには、自社で経理処理を行う「自計化」が欠かせません。TKC自計化システムである「FXクラウドシリーズ」には、《365日変動損益計算書》や《得意先順位月報》など、詳細な業績分析に役立つ機能が搭載されています。これらの機能を活用するには、発生主義で経理処理したり、費用科目ごとに固定費と変動費に区分したりする必要があります。月次決算の仕組みづくりに際しては、会計事務所にご相談ください。
月次決算のメリットに関連して、興味深いデータがあります。上のグラフをご覧ください(『戦略経営者』2025年8月号P7参照)。国税庁統計によると、令和5事務年度(令和5年7月1日〜令和6年6月30日)における申告法人の黒字割合は36.0%でした。これがTKC自計化システム利用企業では54.1%(令和6事業年度)、また《365日変動損益計算書》利用企業(※1)では60.9%(同)、同機能に加えて《得意先順位月報》も利用している企業(※2)では62.8%(同)まで上昇することがわかりました(TKCによる調査)。
──業績を定期的に確認している企業は、黒字割合が上昇するということですね。《365日変動損益計算書》の読みとり方を教えてください。
原田 変動損益計算書は、すべての費用を売上高の増減にともない変化する変動費と、変化しない固定費に分けて表示した損益計算書です。上から順に純売上高、仕入高、限界利益……といった項目が並ぶわけですが、次のように言い換えるとイメージしやすくなります。
①売った(純売上高)−②買った(変動費合計)=③儲かった(限界利益)−④使った(固定費合計)=⑤残った・使いすぎた(経常利益)
商品を仕入れて仕入れ値以上で販売すれば、もうけが生まれます。これが①〜③で、自社商品・サービスに対する市場の評価であり、経営者の“戦略家”としての成績表といえます。企業経営には交通費や人件費といった諸経費がつきものですが、黒字にするためには諸経費をもうけの範囲内に収めければなりません。つまり③〜⑤は、経費をしっかりコントロールできたかを表す、経営者の“管理者”としての成績表です。
クラウド型のシステムである「FXクラウドシリーズ」なら、経営者自身のパソコンやスマートフォンから《365日変動損益計算書》をいつでも確認できます。全社の業績を把握できたら次のステップとして、どの取引先の売り上げが伸びているかなど、詳細に分析することをおすすめします。
※1…毎月365日変動損益計算書を開いている企業
※2…3カ月ごとに得意先順位月報を開いている企業
業績改善の3つの方法
──具体的な分析方法は?
原田 取引先別の売上高を把握するには、《得意先順位月報》が役立ちます。取引先コードを選択して入力した仕訳が自動的に集計され、取引先別の売り上げ推移をグラフでも確認できるので便利です。この機能をもとに、メインの取引先は何社あるか、売り上げが急増または急減している取引先はないか、といった点をチェックできます。
──《365日変動損益計算書》等で業績を把握した後、業績改善に向けどのような打ち手を施せばよいですか。
原田 業績を改善するには、①売上高を増やす②限界利益率を高める③固定費を減らす、という3つの選択肢があります。
- 売上高を増やす
売上高=販売単価×販売数量ですから、売上高を増やすには販売単価を上げる、もしくは販売数量を増やすしかありません。販売単価を上げるには、商品・サービスのセールスポイントを明確にしたり、販売促進方法を見直したりする必要があります。また、販売数量を増やすには、新規顧客を開拓できているか、既存顧客との関係を強化できているかなどを確認します。 - 限界利益率を高める
限界利益率=(売上高−変動費)÷売上高であり、限界利益率を高めるには、ロスを減らし販売価格を上げる、もしくは変動費を減らすという2つのアプローチがあります。ロスを減らすには、安易な値引きや効果のないおまけを実施していないか、価格転嫁できていない付随コストがないか、といった観点から打ち手を考えます。また、変動費を減らすには、在庫の整理整頓状況を確認して在庫ロスをなくし、小ロット購入等により仕入れ価格を抑制します。 - 固定費を減らす
固定費には、すぐに削減できるものとできないものがあります。前者は経営者自身の判断により抑えられる支出で、その支出が真に効果を生んでいるか検証することが大事です。飲食費、ゴルフ費用等の接待交際費が業績に貢献しているか、広告宣伝費、販売促進費の効果を定期的に検証しているか等を確認します。後者は、人件費や設備費等が当てはまりますが、効率的に稼働できているかを点検します。例えば、売り上げ規模に鑑みて社員数は適正か、ITツールの活用で改善できる業務はないかといった点が挙げられます。
月次決算予定日を決めよう
──打ち手を迅速に施すには、月次決算を早めることがポイントになりそうです。
原田 経理担当者は正確な経理処理を念頭に置いているため、精度を重視しすぎると月次決算が遅れてしまうケースがあります。そうすると業績データが陳腐化して、利用価値のないものになってしまいます。そのため、精度と鮮度(スピード)を両立させることが大事です。月次決算のスピードを早めるには、タイムリーかつ正確な経理処理が欠かせません。例えば、変動費に計上する請求書の入手に時間を要する場合、業績への影響が軽微なら概算額を計上し、請求書到着後、確定額に振り替えるのも手です。
加えて、他の経理担当者が給与計算や請求書発行といった締め日のある業務を抱えていると、それらが優先され経理業務は後回しになりがちです。大切なのは、月次業績を早く確認する方法を全員で考えること。月次決算の予定日を段階的に早めていき、その都度、数字の計上が遅れている原因を追究して、対策を施すようにします。
──月次業績をいち早く知りたい経営者にうってつけの機能があるとか。
原田 「月次決算速報サービス」を活用すると、月次巡回監査後、スマートフォンに最新の業績データが届きます。仕事の合間など、気になったときに業績を確認できるとあって、経営者から好評です。まれなケースかもしれませんが、入院中ベッドの上でも業績をつかむことができたと喜んでいた方もいました。
──月次決算に着手したいと考えている経営者にメッセージを。
原田 業績を毎月把握して、改善策を考える。この作業を繰り返すと、企業体質がだんだん強靭になってきます。月次決算を軌道に乗せるには、会計事務所の支援が不可欠です。経営数値の分析の仕方を含め、会計事務所にぜひ助言を仰いでください。
(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)