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中小企業が、昨今の深刻な人手不足を乗り切るには何が必要なのか。今月号から3回にわたって特集する。第1回目のテーマは高年齢人材の活用法。生産年齢人口の減少を補うためには、シニアが「最も活用しやすい」リソースであると、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの三島寛之氏は言う。その三島氏のインタビューからスタートする。

シニア(高年齢者)活用は、人材不足払しょくの最有力手段だとも言われる。ところが、シニアの持つスキルやノウハウを上手に活用できている企業は少ない。なぜなのか。この分野に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの三島寛之氏に聞いた。
──企業の人材不足は深刻度を増しています。
三島 2025年の生産年齢人口(15~64歳)は約7,300万人ですが、四半世紀後の50年には約5,500万人になると言われています。つまり25年の間に1,800万人減少するというのが見えているのです。そうしたなか、女性、外国人、高年齢者がこれを補う有力な人材となりますが、50年の女性の生産年齢人口は2,700万人となることが見込まれ、就業率を現在の74%から男性並みの84%にまで引き上げても10%増の270万人の増加にすぎません。
また外国人にしても、23年のデータですが、専門的技術分野の在留資格を持つ人は72万人で前年比12万人増です。この水準は過去最高であり、仮に今後25年間このペースで外国人労働者が増え続けたとしても300万人増となります。女性と外国人あわせて570万人しか増えないので、これでは1,800万人減の影響を補うには到底足りません。
残念なシニアが大量発生!
──その足りない部分をシニアで補えますか。
三島 企業としては、シニアだけというよりも、女性、外国人、シニアすべての人的リソースを労働力として活用できる環境を整え、不足分の1,800万人を極小化していく努力が必要になってきます。とはいえ、もっとも活用しやすいリソースはやはりシニアということになります。
──というのは?
三島 もちろん人にもよりますが、一般論としてシニアは長年の職務経験を通じて豊富な知識とスキルを持っており、また、自社の文化や価値観も理解していて即戦力として期待できるからです。元気なシニアに会社に残ってもらい、引き続き活躍してもらうのが今後の企業における正しい選択だと思います。
──とはいえ、いわゆる「残念なシニア」が大量発生しているという話をよく聞きます。
三島 シニア不活性化の理由は3つあります。
1つ目は、60歳以降に再雇用される際、多くの企業では収入が6割前後にまで減ってしまうこと。同じ業務をこなしているのに収入が4割減ってしまうのですから、法的に考えても同一労働同一賃金に反する可能性がありますし、当然、シニアのモチベーションを保つのは難しくなります。
2つ目は「報酬減」の前提で会社からの期待値が設定されがちなこと。つまり、上司が遠慮して、シニアの知識やスキルをフル活用する仕事を与えきれていない状況ですね。
3つ目は、リスキルの環境が整っておらず、例えばAIやRPAなどの技術についていけず、最新のビジネストレンドに乗り切れないシニアが数多く存在することです。
各種調査によると、日本のビジネスパーソンは、自己啓発、自己学習に不熱心だという結果が出ています。企業の側も、若手社員には多彩な教育プログラムなどを用意していますが、中堅からシニアになればなるほどほったらかしの傾向があるので、そうした状況もシニアのリスキルが不十分となる原因になっているのだと思います。
──つまり、企業の硬直的な処遇や制度がシニア不活性化の原因だと。
三島 報酬の問題に関して言えば、一般論として、日本の企業では、50代を過ぎるころから貢献度に比べて右肩上がりに報酬が高くなる傾向にあります。そのため、経営側としては60歳を過ぎて再雇用する際、大きく賃金水準を下げないと割に合わない状態になっているわけです。結果、一段とシニアのモチベーションが低下するという、悪循環に陥ってしまっています。
──定年前の報酬体系に矛盾があるということでしょうか。
三島 はい。企業は入社した社員が退職まで成長曲線をどう描くのかを提示し、これに見合った仕事を付与しつつ貢献度にふさわしい処遇を行う必要があります。少なくとも50代のプレシニアの時代から、将来どんな仕事をして活躍したいかを意識させ、キャリア形成も会社まかせではなく、自分ごととして考えさせることが大事でしょう。その延長線上に「シニアの活性化」があるのだと思います。社員が自律的に成長を志向し、これに会社が報いる。個人が付加価値を高める努力を実践し、それに処遇がついてくる仕組みを会社が用意する必要があります。
知的創造業務の担い手として
──定年延長を行う際の留意点を教えてください。
三島 1点目は、そもそも正社員として引き続き雇用する定年延長を行うかどうかを適切に判断する必要があります。一般的に、日本の企業の人員は30代と50代でボリュームゾーンを形成し、40代に大きなへこみのあるひょうたん型になっています。こうした企業では50代のベテラン勢が厚いので、将来的に大量のシニア層が形成されることになります。このシニア層に活躍を促したいのであれば定年延長を行うことをお勧めしますが、若手・中堅を中心に据え新陳代謝を促したいのなら、定年延長は必要ではないかもしれません。
2点目は、報酬水準の引き上げを意識することに終始してしまい、シニアのスキルや能力を十全に生かせる環境や評価制度をつくれているかという問題があります。
散見されるのが、せっかく能力のあるシニアを、報酬を下げた代償というわけではないでしょうが、事務系のルーティン仕事や製造系の単純計算業務に回すケースがあり、それではもったいないです。平易な仕事をあてがうのではなく、付加価値の高い仕事を担ってもらう方向で考えるべきです。つまり、シニアは知的創造業務の担い手として継続雇用していくのが原則だと思います。その上で、貢献度に応じた評価を行い、満足度の高い報酬で報いるのが順序ではないでしょうか。
──シニアの能力を発揮できる仕事の提供という意味では、ジェロントロジー(※)を踏まえる必要があるのではないでしょうか。
三島 ジェロントロジーでは、加齢にともなう体力知力の変化を学術的に分析しているので、詳しく知る必要はないかもしれませんが、シニアに適した仕事を付与していくうえで、参考にするべきだと思います。
たとえば、体力面については、加齢によって低下するのは持久力や疲労回復力だと言われているので、長時間勤務や昼夜交代勤務などは避けるのが望ましいでしょう。また、加齢によって上半身の筋肉は落ちませんが、下半身は落ちやすいので、立ち仕事よりは座った状態で仕事ができる環境を整えた方がよいかもしれません。
また、知力でいえば、シニアは短期記憶が低下しやすいので、マルチタスクに向いていない可能性が高いと思われます。さらに、外向性やストレス耐性は低下するので、異文化への柔軟な対応や未知な分野における人脈形成などには向いてないかもしれません。
一方、「結晶性知能」といわれる「人生経験などに培われた知的機能」は加齢による影響は受けにくいと言われているので、これまでのスキルやノウハウを生かせる業務であれば、十分に活躍が期待できます。
※ジェロントロジー…
加齢に伴う心身の変化を研究し、高齢社会における個人と社会のさまざまな課題を解決することを目的とした、AGING(加齢・高齢化)を科学する学問
全世代の社員を活性化する
──中小企業においてシニア活用を進めるには?
三島 中小企業にもいろいろありますが、一般的には、人材の能力にばらつきが多いように思います。その意味では、大企業以上に、一律的な処遇を排除し、貢献度にふさわしい柔軟な報酬決定が求められるのではないでしょうか。
また、中小企業では業務の標準化が十分でないケースが多く、属人化の傾向があります。ベテランの貴重なノウハウは後の世代に継承しなければなりません。そのためには、技術・技能の伝承を人事評価制度の重点項目として盛り込み、目に見えない貴重な資産を会社に残す仕組みをつくる必要があります。
──高い技術・技能を持つシニアに長く働いてもらう取り組みも必要ですね。
三島 はい。とはいえ、概して中小企業は財務上の体力がないケースがあり、報酬水準では大手と勝負しにくいです。そのため、シニアに限らずですが、仕事の社会的意義や会社の理念を浸透させ、やりがいを伝えていくこと。これが非常に重要です。あるいは、家族的な組織風土であること、コミュニケーションが良好であることなど、報酬だけではない、「この会社で働けて良かった」と思ってもらえるように、企業としての魅力を体現する人材マネジメントを実現する必要があります。
──いずれにせよ、シニアを活性化するには、60歳以降の人たちへの対策だけではダメということですね。
三島 シニアが活躍している企業というのは、概してすべての年代の社員が活性化しています。逆に言えば、若手や中堅社員が活性化していないのに、シニアだけが活性化するわけがありません。シニア活性化に成功している企業は、繰り返しになりますが、会社の理念や仕事の意義をしっかりと社員に伝えているという共通点があります。人事評価や教育の観点から経営者もしくは上司が、部下の現状と向かうべき成長のステージを共有しています。そして、充実したコミュニケーションのなかで、チャレンジを繰り返し、部下の成長を加速していく。そのような仕組みを持っている企業は、当然ですが、業績もよくなるので、報酬アップも可能になります。
他の年代の社員と同じように、シニアについてもスキルとノウハウを最大限生かせる仕事を付与しつつ、本人の成長意欲や会社への貢献意欲を喚起する人事処遇制度をつくりあげるところから、シニア活性化に向けた第1歩を踏み出されてはいかがでしょうか。
(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)