高齢社員の労災事故が近年増えているようですが、労災事故対策を職場でどのように行えばよいでしょうか。(めん類製造業)

 厚生労働省の最近のデータによると、人口動態の変化や高齢者の健康状態の向上等を背景に、雇用者全体に占める50歳以上の労働者の割合は41.4%、60歳以上の労働者の割合は18.7%(2023年)となっています。それに相まって、死傷者数(休業4日以上)に占める50歳以上の労働者の割合は55.7%(同)、60歳以上の高齢者の割合は29.3%(同)となっており、図表のとおり平成15(2003)年から上昇しつづけていることがわかります。また、別のデータによると、労災発生事由は業種により異なるものの、墜落・転落、転倒によるものが多いのが特徴です。

 高年齢者の労災増加の背景には、個人によるばらつきはあるものの、加齢とともに進む筋力、バランス能力等の身体機能や、身体の頑健さの低下によるところが大きいと考えられます。その一方で、高年齢者の安全と健康確保は企業の責務とわかっていても、実際には身体機能の低下による労災リスクの理解が進んでいないため、防止対策が取られていないのが実情です。

 では、企業はこうした問題にどう取り組むべきでしょうか。厚生労働省から公開されている「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」に沿った取り組みがポイントになります。あるデータによると、当ガイドラインの内容を知っている事業所は、23%程度にとどまるそうです。ガイドラインには、経営層による方針表明と体制整備、ハード・ソフト両面による設備装置・作業管理、高年齢者の健康・体力状況の把握と対応、安全衛生教育等が記されています。こうした内容に目を通し、自社の実情をふまえたガイドラインを策定し、実践したいものです。

労働安全衛生法改正の動向

 現行の労働安全衛生法第62条では、中高年齢者等の労災防止のため「心身の条件に応じて適正な配置を行うよう努めなければならない」との規定があるのみで、具体的に何をするべきか明確ではありません。そのため、急増する高齢者の労災防止を念頭に、同法の改正が見込まれています。高齢者の労災対策の努力義務化や職場環境の整備、転倒事故防止策等を求める内容の改正案が国会に提出される予定です。

 なお、高年齢者の労災防止対策や、転倒や腰痛を防止するための専門家による運動指導等、健康保持増進のための補助金が用意されています。2024年版の「エイジフレンドリー補助金」のリーフレットによると、三つのコース(上限額100万円および30万円)が設定されています。転倒リスクを低減する設備の導入経費が補助されるため、活用をおすすめします。補助金の性質上、国の予算があるため毎年度見直しされることがあります。申請時には受付可能かどうか確認して申請するようにしてください。

掲載:『戦略経営者』2025年3月号