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池野歯科医院様

つくば市で35年もの長きにわたり、地域の人たちの歯の健康を見守り続けてきた池野歯科医院。2代目となる池野貴仁院長は、患者との会話を大事にした納得ずくの治療をモットーとしている。そんな池野歯科医院が、TKCが昨年11月にリリースした「月次決算速報サービス」の第1号ユーザーとなった。

──1990年にお父さまが開業されたのだとか。

池野 父の哲之はサラリーマンから脱サラで歯科医になった変わり種で、開業は私が小学生の時でした。父は虫歯で苦労してきたそうですし、私自身も、幼少から歯が悪く、泣きながら祖母に手を引かれて歯科医院に連れていかれた記憶があります。その時の恐怖心が、現在の患者さんへの対応につながっているのだと思います。

コミュニケーションを大切に

──どういうことでしょう。

池野貴仁院長

池野貴仁院長

池野 患者さんの不安な気持ちが痛いほど分かるので、治療する際には、今から行うこと、感じるであろうことをお伝えし、不安を払しょくしてから施術するようにしています。それと言葉遣いにも気を付けています。「少し痛いですよ」は不安感が増すので「ちょっと押しますよ」などという言い方に置き換えます。

──コミュニケーションを大事にされているわけですね。

池野 はい。治療をする際のメリットデメリットをお知らせすることも徹底しています。最悪の場合までお知らせし、最終的には患者さんに決めてもらいます。こちらから強く勧めることはしません。歯を抜くにしても、必ず同意を取り、患者さんのペースで行うようにしています。患者さんと、しっかり会話しながら治療を進めていくのが当院の特徴だと思います。

──歯科医院としての強みは?

池野 ざっくり言うと予防型の歯科医院であるということでしょうか。予防のための検診など、治療以外で定期的に来ていただける方が多いのではないかと思います。

──それも患者さんファーストの姿勢が支持されてのことでは?

池野 そうかもしれません。これは、みなさんにお知らせしたいのですが、予防治療を受けている人とそうでない人を比べると、平均で80歳の時の歯の本数が約2倍違ってくると言われています。また、トータルの治療費も大幅に安くなるというデータもあります。予防治療に関心のある方は、ぜひ、お近くの歯科医院に相談してみてください。

(左)最新の機器が並ぶ、(右)丸みを帯びた外観が印象的

(左)最新の機器が並ぶ、(右)丸みを帯びた外観が印象的

業績把握が行動変容を促す

──増山会計事務所とのお付き合いはいつからですか。

池野 3年前から税務顧問をお願いしています。以前の会計事務所では、レシートをそのまま送り記帳代行してもらうスタイルで、ほとんど丸投げ。リアルタイムの業績はまったく見えませんでした。増山会計にお世話になってからは、慣れるまでは苦労しましたが、数カ月後には、経理処理もスムーズにこなせるようになり、月次の業績が細かいところまで把握できるようになりました。

増山英和顧問税理士

増山英和顧問税理士

増山英和税理士 病医院に特化した会計ソフトである『MX2クラウド』(医業会計データベース)を導入し、池野院長と当事務所の佐々木(貴哉)監査担当とが月次決算体制を構築していきました。

佐々木 当初は、池野先生と一緒に総勘定元帳を見ながら仕訳を確認していきました。20時くらいに診療が終わるのですが、その後に作業をしていたので、午前0時くらいまでかかったこともあります。

池野 投げ出そうと思ったこともありました(笑)が、ようやく入力もスムーズにできるようになりました。いまでは医業収益や限界利益はもちろん、収益の前年比較や自由診療の動向などがリアルタイムで分かるようになり、とても良かったと思っています。

──自計化(自社で会計ソフトを使用して経理処理を行うこと)をすることで、経営面で変わったことはありますか。

池野 経費を細かく見るようになりました。たとえば、かぶせものなどの「歯科技工代」については、外注先と交渉をしてコストダウンすることができました。これも、『MX2クラウド』からのデータを検証するうちに、佐々木さんから「外注費が高いですね」と指摘されたことがきっかけでした。

増山 業績を把握できるようになったことが、池野院長の行動変容を促したということですね。

“速報”の利用で優良企業へ

──「月次決算速報サービス」のサービス利用第1号に輝いたということですが、ご感想をお願いします。

池野 まさか第1号になるとは。驚きました。

佐々木 実は、狙っていました(笑)。池野先生に当サービスを説明すると、「ぜひやりたい」とのことだったので準備を整え、サービス提供日の朝一番に満を持して伝送しました。

池野 日中は診療で忙しく、数字のチェックは夜間になります。メールで最新の業績が確認できるのはありがたいと思いました。また、コンパクトにまとまった内容なので、私のように数字に弱い人間でもすっと頭に入ってきます。

──内容的にはどの部分を見ておられますか。

月次決算速報サービスでメール送信される情報の一部(サンプル)<br>(クリックで拡大します

月次決算速報サービスでメール送信される
情報の一部(サンプル)
(クリックで拡大します)

池野「売上高・限界利益・経常利益の推移グラフ」が分かりやすくて良いですね。最近、「限界利益」という会計用語を勉強しまして、その重要性が分かるようになったこともあり、この赤い折れ線グラフの向きを注視しています(右グラフ参照)。
 それと、「この変動損益計算書から分かること」というコメント欄も見ています。前回のメールでは、「限界利益率が目標より低く改善が必要です」や「固定費の節約が必要です」とのコメントがあり、ドキッとしました。

佐々木 コメントはシステムが自動で記載しているもので、人間的な忖度がない分、直球で分かりやすいかもしれませんね。

増山 当事務所が関与するあるお客さんは、「限界利益率は計画より改善しています。経営努力の賜物です」というコメントを見て喜んでおられました。

池野 怒られるばかりではなく(笑)、褒めてもくれるのですね。がんばります。

──当サービスによって、月次巡回監査の内容は変わりましたか。

佐々木貴哉監査担当

佐々木貴哉監査担当

佐々木 たとえば、今日は私が15時から監査を行うのですが、夕方くらいに監査が終了した時点で当サービスによる「月次決算速報」が池野院長のスマホに送られます。池野院長は20時くらいまで診療をされるので、その後、手が空いた夜にそのメールを確認して、不明点があれば私に電話等で連絡をいただく――そんなプロセスが可能になりました。

増山 佐々木が次に池野歯科医院さまを訪れる時に、速報で見えてきた課題を改善するにはどうすればよいか補足説明をしてあげればいいわけです。つまり、当サービスのおかげでお互いの会話の質が深まってきている。池野院長が数字をしっかり見ることができるのが大きいですね。

佐々木 それと、監査では、どうしても損益計算書の話になり、貸借対照表は後回しになりがちです。当サービスでは総資本、自己資本、自己資本比率といった貸借対照表上のデータを見ることができるので、自社の現状を知るための良い気づきになると思います。

増山 TKCには優良企業(BAST優良企業)の定義があって、条件として自己資本比率30%以上、限界利益額2期連続増加などがあります。その優良企業へステップアップするための指標として、使ってもらいたいですね。

池野 優良医院を目指します。

──今後の目標は?

池野 DX化を進めたいと思っています。直近ではIT導入補助金を利用した自動精算機導入を予定しています。それからAI電話も考えたいし、最終的に目指すのは、受付の無人化です。
 また、昨年は、カメラを使って口腔内の様子の確認や型取りができる口腔内スキャナーを購入しました。これで、印象材を用いたアナログな型取りをせずに済むようになり、効率化を実現できました。今後も、設備機器などの更新時期をとらえながらDX化を行い、強い体質の歯科医院にしていきたいですね。

(取材協力・増山会計事務所/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 池野歯科医院
創業 1990年4月
所在地 茨城県つくば市高野台2丁目16-8
従業員数 10名(パート含む)
URL https://www.ikenoshika.com
顧問税理士 増山会計事務所
所長 増山英和
茨城県水戸市千波町1258-2
URL: https://www.ma-g.co.jp

掲載:『戦略経営者』2025年3月号