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2024年は物価高や円安などを背景に、業種間で好不調が二極化した1年だった。では、25年はどのような1年になるのか。日本総合研究所チーフエコノミストの石川智久氏が行方を占う。
- プロフィール
- いしかわ・ともひさ●1997年東京大学経済学部卒業。同年住友銀行(現三井住友銀行)入行。日本経済研究センター出向、内閣府政策企画調査官(経済社会システム)などを経て2023年8月より現職。専門はマクロ経済、地方経済など。主な著書に『「金利のある世界」の歩き方』(日本経済新聞出版)、『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)など。
石川智久氏
2024年の日本経済は、ゆるやかなペースではあるものの、全体的にみて回復へと向かいました。依然としてありとあらゆるモノの価格が上昇していますが、春闘において平均賃上げ率5%超という高水準での賃上げが妥結された影響で、実質賃金が上昇傾向にあります。日本経済を長年苦しめてきたデフレ脱却の兆しが、ようやく見えつつあります。
GDP(国内総生産)の推移を見てみると、大手自動車メーカーの不正問題により、自動車の生産が落ち込んだ1~3月期は前期比でマイナスとなりましたが、その後は2四半期連続でプラスとなっています。特に7~9月期は前述した賃上げによって実質賃金が上昇し、その影響で個人消費が伸びました。
一方で企業の状況を見てみると、一口に好調とは言えない現状が浮き彫りとなります。各業界における業績の推移を見ると、大手製造業、建設業、情報通信サービス業、飲食業、宿泊業が比較的好調を維持している一方、中小製造業は業績拡大に苦慮している様子です。
その原因として挙げられるのが円安です。昨今の歴史的な円安を追い風に、海外に拠点を持つ大手製造業が特に業績を伸ばしましたが、海外取引の少ない中小製造業は、円安にともなう原材料価格上昇のあおりをうけ、業績の苦しい状態が続いています。実際に24年の日銀短観をみてみると、中小製造業の業況判断指数(「景気が良い」から「悪い」を差し引いたポイント)は、軒並みマイナスで推移しています。
インバウンド需要も相変わらず好調で、京都や大阪などを中心に多くの外国人観光客が訪れていますが、観光資源の乏しい地方ではインバウンド需要の恩恵を受けておらず、地域経済の停滞・衰退が懸念されています。このように、24年はマクロでは景気がゆるやかに上向きつつあった一方、ミクロでは業績の良い企業とそうでない企業の二極化が進んだ1年でした。
ゆるやかな成長が続く
では、25年の日本経済はどのように進んでいくのでしょうか。結論から言うと、24年と同様にゆるやかな成長が継続するものと予想します。
内需中心のゆるやかな経済成長が続き、企業の収益がじわじわと拡大した結果、賃上げや設備投資に一定の資金が回ることでしょう。特に賃上げの動きは昨今の人手不足を背景に、さらに加速していくと考えます。25年の春闘も、24年並みの賃上げ率となることでしょう。一方、設備投資としては脱炭素化、人手不足解消や生産性向上に向けた省力化、デジタル化を後押しする設備の導入が進むとみています。
また、25年の4月には大阪・関西万博が開幕します。累計来場者数は3,000万人以上になると試算されていることから、万博は経済を刺激するカンフル剤的な効果が期待できます。特に、大阪は「天下の台所」「食い倒れ」と呼ばれるほど食文化の盛んな街ですから、国内外問わず多くの観光客が、大阪やその周辺地域の飲食店に足を運ぶことでしょう。外食産業のさらなる活性化が期待されます。
一方で、飲食業界では人手不足の問題が相変わらず深刻ですから、飲食店のオペレーションを改善する設備やシステムの導入が進むとみています。調理工程の自動化設備や配膳ロボットなどを手がける企業も、万博の追い風を受けて好業績を記録することが予想されます。
以上を総合して考えると、25年の日本経済は賃上げや設備投資の加速、万博開催などの影響で、引き続き成長軌道を進んでいくことでしょう。結果として、GDP年率成長率は、前年比で1.1%のプラスになると予想します。
米国経済が行方を左右する
ただし、懸念事項もあります。米国大統領にトランプ氏が返り咲いたことです。トランプ氏は「米国第一」を旗印とする保護主義政策を前面に押し出しており、中国からの輸入品に対しては60%以上、その他の国・地域からの輸入品に対しては10~20%の関税を課すことを表明しています。そのため、自動車メーカーを中心とする日本の輸出産業に逆風が吹き、その影響で日本経済が打撃を受ける可能性が考えられます。特に中国に工場を構えている企業は、商品を輸出する際に高関税が課されてしまうので、工場の国内移転等を含め、サプライチェーンの再構築について議論を進める必要がありそうです。
また、時限措置だった米国企業の法人税減税、いわゆる「トランプ減税」はトランプ氏の再選で延長となる見込みです。これに前述した関税の影響が加わり、米国内では今後インフレが進むと予想します。FRB(連邦準備制度理事会)は24年11月に政策金利の引き下げを表明しましたが、これ以上の利下げが行われるかは不透明です。
日本では24年3月にマイナス金利政策が解除されましたが、利上げのペースは半年で0.25%とゆるやかなので、日米間の金利差が縮まらず引き続き円安が続きそうです。具体的には、25年の円ドルレートは1ドル150円前後で推移していくと予想します。海外取引の少ない中小製造業にとっては、依然として厳しい状況が続きそうです。
自社の強みを磨く
このような状況で中小企業、特に中小製造業はいかにして自社を成長軌道に乗せていくべきでしょうか。
まず取り組むべきは経営効率の改善です。例えば先端設備を導入し、業務の省力化・デジタル化を図ることが必要です。あわせて、働きやすい職場環境づくりに着手し従業員の定着率を高める、シニア人材の活用を促すなど、人手を確保する取り組みも進めるべきでしょう。
このほか、顧客開拓やM&A(合併・買収)など地に足がついた経営戦略を実行に移し、競争力を高めることも重要です。25年は地にしっかり足をつけ、自社の強みを磨いた中小企業が飛躍を遂げる1年になりそうです。
(インタビュー・構成/本誌・中井修平)