従業員の待遇改善、優秀な人材確保を図るべく夏季賞与を支給したいと考えています。中小企業における相場を教えてください。(鉄筋工事業)

 今夏の1人あたり賞与支給額は、民間企業全体で前年比+3.5%の41万1,000円と、3年連続で増加する見込みです。賞与額は所定内給与(基本給)に支給月数を乗じて算出されるケースが多く、所定内給与の引き上げが賞与の増額につながると予想されます。

 所定内給与は、今年の春闘で妥結された賃上げが夏場にかけて適用され、増加すると見込まれます。連合の第5回回答集計結果によると、春闘賃上げ率(定期昇給を含む)は、+5.17%と33年ぶりの高い伸びとなりました。これは大幅な伸びとなった昨年の+3.67%をさらに上回るもので、組合からの高い賃上げ要求に対し、経営側が積極的に応えた形です。

 高い賃上げ率が実現した背景には、好調な企業収益や深刻な人手不足に加えて、物価上昇への配慮が挙げられます。総務省「消費者物価指数」によると、消費者の生活実感に近い「持家の帰属家賃を除く総合指数」は、2024年3月に前年比+3.1%と高い伸びが続いています。資源高や円安などに起因する輸入インフレ圧力が根強いほか、人件費の上昇を価格転嫁する動きも広がっており、幅広い品目の価格が上昇しています。そのため、足元では、依然として賃金の伸びが物価上昇に追いついておらず、家計の購買力を示す実質賃金は、3月まで24カ月連続で減少しています。こうしたなか、物価高から従業員の生活を守るため、社会全体で物価上昇を上回る賃上げを目指す機運が高まりました。

政府施策も増額を後押し

 中小企業の賞与についても好調な伸びが見込まれます。この背景として、人手不足が深刻化するなか、強い賃上げ圧力がかかっていることが指摘できます。日本銀行「短観」3月調査の雇用人員判断DIによると、中小企業における人手不足は大企業以上に深刻です。しかし、わが国の人口が減少局面を迎えるとともに、これまで新たな労働力の供給源となってきた高齢者や女性による労働参加の伸びは鈍化しています。

 今後の労働供給の拡大余地が限定的となるなか、中小企業は賃上げなどにより従業員の待遇を改善することで、大企業への人材流出を阻止しながら新たな人材を確保することが求められています。一般的に中小企業は大企業に比べて経営体力に劣るため、一部の企業は所定内給与を増額するほどの原資を確保できない可能性もあります。しかし、そうした場合にも賞与の増額という形で、従業員に利益を還元する動きが広がると予想されます。

 政府の取り組みも中小企業の賞与の増額を後押しする見込みです。たとえば、政府は今年4月から「賃上げ促進税制」を強化し、税額控除率の上乗せ要件を緩和・拡充しました。具体的には、中小企業が賃上げを実施したうえで、教育訓練費の増額や子育て支援の充実などの要件を満たせば、「給与等支給額」の増加額の最大45%が法人税から控除できることになります。給与等支給額には賞与も含まれるため、賞与の増額にも寄与すると考えられます。

 さらに、中小企業は、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年間繰り越せることになりました。これまでの制度では、赤字に陥りやすい中小企業は、税額控除の恩恵を受けにくいという問題がありましたが、賃上げ後5年以内に黒字を実現すれば、税額控除の恩恵を受けられることになります。

掲載:『戦略経営者』2024年6月号