制度改正
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正と「再生支援の総合的対策」が公表
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TKC全国会中小企業支援委員会 金融機関等関連小委員長 湯川直樹
令和5年のTKC全国会の活動
昨年に一部改正された「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(以下、「監督指針」)を受けて、TKC地域会と覚書締結金融機関との間で、実務者協議を集中的に実施しました。実務者協議では、経営者保証ガイドラインへの対応に向けた民間金融機関の取り組み方針等のヒアリングや、TKC会員事務所が行う業務が経営者保証ガイドラインへの対応に協力できることを認識していただき、共に経営者保証が必要とされない中小企業の育成を支援するために連携を図っていくことが確認されました。なかでも、実務者協議を通じて、経営者保証ガイドラインの対応チェックリスト等において、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」や「財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保」において、書面添付やTKCモニタリング情報サービス(MIS)に関連する項目を盛り込んでいる金融機関もあり、TKC会員事務所の取り組みを高く評価いただけたものと捉えています。
こうした活動と軌を一にして、民間金融機関では、監督指針の改正に沿って、経営者保証に依存しない融資への取り組みを加速させたことから、令和5年度において無保証融資の割合が大きく向上しています。
「『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績 2023年度上期」が公表
令和5年12月26日、金融庁から民間金融機関における経営者保証ガイドラインの活用実績が公表されました。2023年上期の無保証融資割合は、全体で46・7%と2022年度と比較し、12・8ポイント上がっています。また、「新規無保証融資等の割合」と「有保証で適切な説明を行い記録した割合」の合計は92・6%となり、「経営者保証改革プログラム」で100%を目指すとされた方針に沿って、個人保証を徴求する場合においては経営者に適切な説明を行う取り組みが進んでいるものと思われます。
また、令和6年1月30日に開催された、全国信用金庫協会と金融庁との意見交換の内容「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」が、金融庁から2月16日に公表されました。これによると、信用金庫においても全体平均で37・0%と、2022年度の22・8%を14・2ポイント上回る結果となっています。これまで、信用金庫や信用組合では、地銀等と比較して経営者保証を解除することが困難であると見られてきましたが、経営者保証ガイドラインの3要件を基準として、経営者保証を徴求しないケースが増加しており、TKC地域会と連携が深い信用金庫においても積極的な動きがみられます。
このように、昨年の監督指針改正における金融機関への影響は非常に大きなものであると言えます。そして、令和6年の改正では、一歩先を見据えた民間金融機関による経営改善や事業再生の支援を推進することが狙いとされ、監督指針の改正を含めて、事業者支援に向けた新たな対策が打ち出されました。
「再生支援の総合的対策」が公表
令和6年3月8日に「『再生支援の総合的対策』を踏まえた事業者支援の徹底等について」が岸田文雄内閣総理大臣、他4省庁大臣連名で、主として金融機関向けに発出されました。このうち我々に関連する内容は次の通りです。
コロナ借換保証等コロナ関連資金繰り支援が一律令和6年末まで延長されます。また、4月に金融庁監督指針の改正が行われます。令和5年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類感染症に移行したことを受け、社会経済活動の正常化が進んでいるその一方で、令和5年7月以降、民間金融機関において実施した実質無利子・無担融資の返済が本格化しています。本改正は、金融機関による資金繰り支援にとどまらない、事業者の実情に応じた経営改善や事業再生支援について、一層の推進を図るため、所要の改正を行うもので、コロナ禍の資金繰り支援フェーズから事業者の実情に応じた経営改善・事業再生支援フェーズへの転換を図ることが狙いです。ここでは、業況悪化の未然防止や早め早めの対応を促すことが重要であることが記されています。併せて、貸付残高が少ない企業や、信用保証協会の保証付き融資の割合が高い顧客企業に対しても、必要に応じて早めに信用保証協会や外部専門家と連携し、顧客企業の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等に取り組むことが記されています。現状のみならず状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応を求めること、そして経営改善や事業再生を先送りしない「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」等の策定を促進しています。
この経営改善支援の一つの具体策として、中小企業庁からは「早期経営改善計画策定支援(ポスコロ事業)」について、一定の条件のもと民間金融機関による支援を補助対象とする時限的な取扱(期限令和7年1月31日)が開始しています。併せて、日本政策金融公庫では、ポスコロ事業で策定した事業計画を、コロナ資本性劣後ローンの申込時に必要な事業計画として活用できるようにすることで、小規模事業者の資本性劣後ローンの活用を促進します。
こうした状況を踏まえて、今後、地域金融機関が自行で行えない融資先の一歩先を見据えた経営改善支援について、一層高まる可能性がある認定支援機関であるTKC会員事務所との連携へのニーズにしっかり応えていくことが求められています。
(会報『TKC』令和6年4月号より転載)