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大阪ウェルディング工業は、産業機械やプラント設備の寿命を延ばすための「溶射」という表面処理加工技術に定評がある。88歳の魚谷禮保会長は、「高い耐久性をもたらす技術を通じ世界中で社会貢献をしたい」と意気込みを語る。
- プロフィール
- うおたに・れいやす●1935年、島根県生まれ。1968年、大阪ウェルディング工業入社。取締役工場長を経て98年に社長、2012年に会長に就任。趣味は釣りやゴルフなど。とくにゴルフは自らの健康状態を図るバロメーターと話す。1ラウンド18ホールを年齢以下でホールアウトする「エイジシュート」はこれまで71回。今年春までの目標は100回だという。
魚谷禮保会長
大阪ウェルディング工業のコア技術は、耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性を高める「溶射」という方法だ。800度以上の高温に加熱した超合金やセラミックスの粉末を金属に噴射し溶着させて表面処理をする技術である。魚谷禮保会長は言う。
「人間の筋肉と皮膚の関係のように、母材と一体化するのが他の表面処理の方法と異なります。高い耐久性を金属部品にもたらすことから、第2次世界大戦前後から米国では戦車の部品や潜水艦のスクリューの軸受けなどに使われていました。実兄の田島明良がこの技術を知り、将来性を確信し同技術を導入して1962年に創業したのが当社です」
田島元社長の予想は見事に的中し会社は急成長。魚谷会長は68年に「忙しくなってきたから手伝ってくれ」と呼ばれ同社に入社した。
「当時は東西陣営による冷戦の時代でしたので、日本は米国へ大量のオートバイを輸出していました。そのバイクのエンジン部品である『ロッカーアーム』の溶射加工の注文が大量に入ったのです。この『特需』が10年以上続きました」
高付加価値品を多種少量生産
自動車や電化製品に使われるアルミダイカスト工程で必須の「プランジャー」と呼ばれる部品にも着手。大阪大学と共同開発した技術で特許を取得し、7割超の市場シェアを占める看板製品も誕生した。取引先の幅も加速度的に広がり、少量の高付加価値製品を手掛ける開発型の溶射部品メーカーへと成長していく。
「人間の生活を豊かにする産業機械は世界中あらゆるところで活躍しています。なかでも電力設備や水利事業で使われる設備など非常に厳しい環境下で動作するものには、高い耐久性が求められます。そうした高い耐久性を要求される産業機械用部品を少量多品種で供給しているのが当社の大きな特徴です」(魚谷会長)
例えば水道水を使うようなポンプはそう簡単には傷まないが、水害時に泥水を排出するための排水ポンプには頑丈な部品が求められる。
「排水ポンプは通常羽根が高回転して水を移動させるのですが、砂の粒子を含んだ泥水では普通のステンレス鋼はあっという間に削られて、故障しやすくなります。こうしたことが起きないような部品をつくるのが当社の使命です」(魚谷会長)
求められる性能は耐摩耗性だけではない。耐腐食性、耐薬品性、耐熱性……、あるいはこれらの機能を複数組み合わせることも求められる。主力の滋賀工場(滋賀県甲賀市)を含めた同社の生産拠点では製品種類が年間6,000種類にも達する典型的な少量多品種生産工場で、現場の声を最大限に生かしながら開発する「現場思考型開発」と呼ぶ開発手法を取り入れている。
「大企業の開発部が資金を投入して共同開発を行うケースも少なくありません。研究開発で試行錯誤した経緯はすべてデータベース化しており、得意先から『この部品のこの課題を改良してほしい』という要望に対しすぐに提案できるようにしています」
損益分岐点を重視し海外展開
「ゼロからのスタートが得意」(魚谷会長)という同社は、海外展開も中小企業のなかでは群を抜いて早かった。中国拠点の開設は構想から8年をかけた2000年1月に実行。鄧小平の改革開放路線が明確になったことから、まず上海地区で設立する決断に踏み切った。その後中国事業は日系企業の海外調達需要をうまく取り込み急成長、数年後には上海に2カ所目の拠点を設立、さらに中国山東省に3カ所目の生産拠点を広げた。その9年後に南インドに合弁会社を設立した。
国内拠点の拡大や海外進出という重大な経営判断を支えたのが、顧問契約を結んでいる鈴木則夫税理士事務所のバックアップである。TKCの『FX4クラウド』を活用した業績管理において、魚谷会長はとりわけ「損益分岐点」を重視しているという。
「中小企業は資金力や人材に弱点があるので、海外進出で過大な投資をすると会社存亡の危機を招くことがあります。そこで私はとくに損益分岐点を重視し、鈴木則夫税理士事務所の協力を得ながら原則1年以内に黒字化できるような事業計画を作成し、必要最低限の投資からはじめるようにしました。海外展開や新規事業では、この『小さく構えて大きく育てる』が鉄則だと思います」
インド進出を果たしたのは魚谷会長80歳のときである。自動車や家電製品をはじめ、先進国に工業製品を輸出する次世代の「世界の工場」になると見込んだからだ。ところが進出直後にコロナショックが世界を覆い、開店休業状態に。大ピンチを救ったのは、持ち前の「小さく構える」戦略だった。「人件費をメインとした月額40万円のコスト」(魚谷会長)で収めたために、コロナ禍を耐えることができたのである。
改善コンテストで生産性向上
マネジメントの特長は、現場の自主性を尊重することである。現場の無理・無駄を削減するQC活動が活発に行われており、毎年7月に行われる「改善コンテスト」は業績に直結する高レベルなものだという。
「全従業員が1人1票の権利で投票し3つの賞を決め賞金と表彰状を授与します。過去に受賞した活動では『ロス材料の節減で48万円節約』『加工法の改善で加工時間が44時間から8時間半に短縮』『工具の変更で作業時間が49分から5分に短縮』など、生産性向上に直接つながる改善提案が数多く生み出されました」
全社員の知恵と努力で生産性と給与水準を上げているので、同社は「強い筋肉質の会社」と言われている。
魚谷会長が旗振り役となって、健康経営の実践にも力を入れている。健康経営優良法人の認証は21年から3年連続で取得しており、健康診断の受診率は100%。再検査や精密検査も必ず行うことを徹底している。社員の顔色が悪かったり、体調がすぐれない様子だったりした場合、魚谷会長自ら「病院に行ってすぐに診てもらいなさい」と声をかけるようにしている。
「労働人口の減少で一人ひとりが無理な働き方を余儀なくされるという現状があり、過労死のニュースを聞くたびに心を痛めていました。そんなときに経産省が健康経営の考え方を提唱したことを知り、すぐに取り組もうと決めたのです」
調べると健康で最も大切なのは、食事の内容や運動などで病気になる確率を下げる「予防医学」だということが分かった。一念発起して生活習慣病やアレルギー、メンタルヘルスなど心と体の健康に精通し、病気を未然に防ぐための健康管理を栄養学や予防医学の観点から指導する健康のスペシャリスト「健康管理士」の資格を84歳の時に取得した。魚谷会長は断言する。
「今一番社内で心身ともに健康なのは、私だと思います」
強化プラスチック分野に注力
現在「現場思考型開発」の重要なテーマとなっているのが、強化プラスチックの分野。混錬機で使われるシリンダーで世界最高水準の性能を実現し、国内大手メーカーに採用された。また刃物の耐久性を高める表面処理の受注を重ねるなかで、刃物そのものの生産にもトライ。10倍以上の耐久性を実現した製品の開発に成功した。魚谷会長は、世界中で機械の寿命を延ばすものづくりを展開し、今後200年以上続く会社の礎を築くのが目標だと語る。その情熱の原動力は、「社会貢献」への意識だ。
「私の仕事は、5年先、10年先の世界がどうなっていくかを朝から晩まで考えること。朝5時に起きてすぐに新聞を複数読み、大きな社会の流れを常に感じるようにしています。儲けを出して人をたくさん雇うのが企業の最終目標ではありません。私がまず考えるのは、世の中に貢献するためにはどうしたらよいかということ。産業機械の寿命を少しでも延ばし、人類が豊かになる進化を支えていくのが、われわれの仕事だと考えています。そしてそれはSDGsの実践なのです」
(取材協力・鈴木則夫税理士事務所/本誌・植松啓介)
名称 | 大阪ウェルディング工業株式会社 |
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業種 | 耐磨耗・耐腐食・耐熱・ その他金属表面改質及び精密機械加工 |
設立 | 1962年10月 |
所在地 | 大阪府茨木市安威2-20-11 |
売上高 | 14億円 |
従業員数 | 60名 |
URL | https://www.osakawel.co.jp |
顧問税理士 |
鈴木則夫税理士事務所
所長 鈴木則夫 大阪府大阪市北区豊崎3-10-2 アイアンドエフ梅田601号 |