特集

MIS活用・書面添付実践を重視しスピーディーな融資審査を実現

仙台銀行 斎藤義明専務取締役に聞く

「信為萬事本(しんをばんじのこととなす)」を行是に掲げ、地域社会における信用を経営基盤に据えている仙台銀行。従来からTKCモニタリング情報サービス(MIS)や書面添付を重視するなどTKC東北会宮城県支部と連携を深め、今年の3月には相続・資産承継の顧客紹介を強化している。同行の斎藤義明専務取締役と坂爪敏雄常務取締役、武田信地元企業応援部副部長をTKC東北会の中田庄吾会長と竹石淳一宮城県支部長が訪ね、経営者保証に依存しない融資をふまえた中小企業金融の方向性を聞いた。

とき:令和5年4月20日(木) ところ:仙台銀行本店

経営者保証に依存しない 新規融資割合は6割超

TKC東北会 中田庄吾会長

TKC東北会
中田庄吾会長

 中田 斎藤専務におかれましては今年のTKC東北会の新春賀詞交歓会で来賓としてご挨拶いただき、ありがとうございました。そのお話からは私どもとの連携を本気で進めようとの思いがひしひしと伝わってまいりました。本日は、経営者保証に依存しない融資のあり方を中心にお考えを伺います。

 斎藤 よろしくお願いします。

 中田 御行では、新規融資に占める経営者保証に依存しない融資割合が22年度上期において6割を上回っており(次頁資料)、東北エリアの地方銀行のなかで最も高いそうですね。「経営者保証に関するガイドライン」に対してどのようなスタンスで臨まれていますか。

 斎藤 2013年にガイドラインが公表されたのを受け、08年から13年までの5年間で実行された新規融資のうち、保証人から返済いただいた件数を調べたところ、1件しかなかったんです。こうした調査結果をふまえ、一定の条件を満たした企業に融資する際には、経営者保証を外す方向にかじを切りました。
 金融機関は従来、保証人や担保といった「保全」を何よりも重視してきました。ただ、これまでの融資スタイルを踏襲していては、地域二番手行から抜け出せません。地方の人口減少が見込まれるなか、他の金融機関との差別化を図らないと生き残るのはむずかしいという危機感もありました。

 中田 融資する際の一定の条件とは何でしょう?

仙台銀行 斎藤義明専務取締役

仙台銀行
斎藤義明専務取締役

 斎藤 経営者保証ガイドラインの3要件(①法人と経営者との関係の明確な区分・分離が図られている②財務基盤の強化が図られている③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性の確保が図られている)にのっとって、総合的に検討しています。
 また、債務者、保証人から保証契約の変更・解除の申し出があった場合には、次の5点をもとに保証契約の必要性や適切な保証金額を検討し、柔軟に対応しています。

  • ①法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている
  • ②法人と経営者の間の資金のやり取りが社会通念上適切な範囲を超えない
  • ③法人のみの資産・収益力で借金返済が可能と判断し得る
  • ④法人から適時適切に財務情報等が提供されている
  • ⑤経営者から必要な物的担保の提供がある

 現在「ゼロゼロ融資」の新規取り扱いが終了しており、制度融資件数が徐々に減少している一方、当行のプロパー融資件数は伸びているため、経営者保証に依存しない融資割合は引き続き上昇していくものと見込んでいます。

顧問税理士がTKC会員かなど顔が見えると安心感が違う

 中田 金融機関と中小企業の「情報の非対称性」という課題の解消に向けた取り組みについてはいかがですか。

 坂爪 経営者保証ガイドラインの施行に伴い事業性評価が言われはじめ、企業の定量面はもとより定性面にも注目することが求められるようになりました。そのために欠かせないのは、経営者の人となりを正確な情報を基に判断すること。われわれは取引先に足を運んで、経営者と会話することから始めました。
 当行では融資審査の際、案件ごとにチェックシートを作成し、独自に評点化して可否を判断しています。われわれ銀行員は融資を実行する際、保証人や担保を取るのが当たり前と教わってきましたから、ガイドライン公表当初、戸惑いもありました。そこで、保証人を取らない方向に誘導できるよう、点数配分を工夫した経緯があります。

仙台銀行の新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合

 武田 目下注力しているのは、TKC東北会宮城県支部の会員先生方との交流、連携の促進ですね。与信判断する上で、「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」により提供いただいた試算表や、税理士法第33条の2に基づく添付書面に記載された内容を貴重な情報として注目しています。MISの活用と書面添付の実施を、自社で適時適切な計数管理を行っている透明性の高い企業である証しとしてとらえています。

 斎藤 決算書に目を通すのはもちろんですが、経営者と面会して話を聞き、本業にしっかり目を向けましょうと事あるごとに職員に訴えています。私もこれまで大口取引先の経営者に直接会って、コミュニケーションを重ねてきました。

 竹石 融資の事前協議で使用している書類には、「MIS活用」と「書面添付実施」の有無がわかる項目欄を設けられていると伺っています。

 斎藤 TKC宮城県支部の会員先生方との勉強会でMISや書面添付の意義を学び、すばらしい取り組みであると感じたのがそのきっかけです。従来から当行で使用している「事前協議書兼指示書」には「顧問税理士名」と「TKC会員であるかどうか」を記入する欄を設けていましたが、決算書の信頼性の高さを判断する指標として、3年前から二つの項目欄(MIS・書面添付)をそこに追加しました。他の金融機関との差別化を図る意図もあります。
 MISで送信いただいた決算書、月次試算表データについては、審査部門の全職員が閲覧できるようになっています。とりわけ注目しているのは「月次決算報告シート」に記載されている売上高などが増減した理由です。また、添付書面にも関与先企業の状況が赤裸々に記載されている。銀行サイドとして、こうした情報を入手するのはむずかしく、活用しないのは大きな損失です。

 中田 そうおっしゃっていただけるのはありがたいです。

 斎藤 当行の「事前協議書兼指示書」は融資申し込み後、1週間以内に審査部門に届くようになっています。細かい条件は後で調整することとして、その段階で稟議申請するか、お断りするか、いったん方向性を決定して経営者にお伝えしています。すぐに返事がないと経営者も困ると思うからです。この協議書の活用を通して、融資審査がスピーディーになりました。

 坂爪 また、TKCの会員先生方との勉強会には、主に支店長クラスが参加していました。今後は会員先生方の取り組みをいっそう周知させるべく、若手職員との勉強会の場も設けていきたいです。

 斎藤 経営者の人となりだけでなく顧問税理士がどんな方か、顔が見えると安心感が違いますね。例えば、「事前協議書兼指示書」の顧問税理士欄に中田先生や竹石先生のお名前が記入されていれば、じゃあ大丈夫となる。その点、TKC宮城県支部の会員先生方と定期的に開催している交流会や勉強会は、大いに役立っています。

勉強会で相互理解をさらに深め地域中小企業を支援しよう!

 中田 御行に提出された決算書における書面添付実施率は、どのように推移していますか。

 斎藤 徐々に増えつつあり、昨年12月末の実績で全体の件数985件のうちTKCの会員先生によるものが、9割以上(949件)を占めています。書面添付は顧問税理士の方にとってプレッシャーになるものでしょうから、実践されている先生方はすごいなと。当行としても、書面添付された決算書の評価をより引き上げていきたいと考えています。

 中田 書面添付制度自体は税理士法に定められているため、税理士であれば誰でも取り組めます。ただわれわれは、「TKC方式の書面添付」と呼んで区別しており、添付書面に加えて「基本約定書」や「完全性宣言書」といった独自の書類も作成しています。経営者と税理士がこれらの書類に署名、押印することで真実性が担保され、ひいては関与先企業の防衛につながるのです。

後列中央左へ、仙台銀行の坂爪敏雄常務取締役、浅野詔子コンサルティングプラザ課長。
右へ、武田信地元企業応援部副部長、竹石淳一TKC宮城県支部長。(photo:門澤真由美)

 斎藤 取引先を訪問すると、TKCの会員先生から贈呈された書面添付連続提出の表敬状が飾ってあるのを見かけるときがあります。書面添付を実施していると、税務調査を受ける機会が減るそうですね。

 中田 書面添付を行った場合、税務署が税務調査の通知をする前に、税理士に対して意見を聴取する機会が設けられ、調査省略となるケースが多いです。

 斎藤 実際、書面添付された決算書を詳細に眺めると、内容がとてもシンプルなんです。「その他〇〇」といった勘定科目を使用して数字が変に調整されていないので、業績をクリアにつかめます。

 中田 中小企業の黒字決算と適正申告の支援を標準業務とするTKC会員は、「記帳適時性証明書」を提供し、「TKC全国会バッジ」も着用していますので、併せて融資判断時の参考にしていただければと思います。最後に、御行が今後目指されている方向性を教えてください。

 斎藤 MISや書面添付により得られる情報は、取引先の現状を把握する上で大変有用といえます。今回のインタビューもそうですが、TKCの会員先生方とさまざまなテーマで勉強会を行い、お互いの理解をさらに深めて、地域の中小企業を支援していきたいです。そのためにも経営者や税理士先生と顔の見える関係を地道に構築しつつ、皆さまから選ばれる金融機関を目指していきます。

会社概要
名称 仙台銀行 仙台銀行
本店所在地 宮城県仙台市青葉区一番町2丁目1番1号
店舗数 72店舗(本支店68 店、4出張所)
従業員数 708名
預金・譲渡性預金残高 1兆2,402億円
貸出金残高 8,909 億円

(構成/戦略経営者編集室・小林淳一 本誌編集室 古市学)

(会報『TKC』令和5年6月号より転載)