左から長江博史氏、松山圭太社長、
出原和弥氏、佐藤元之氏
愛知県北名古屋市に本社を構える松山電気は、ショッピングモールなど大型施設などの電気工事を請け負う成長企業だ。提案力を強みに見事な第2創業のスタートを切り、高収益体質の会社へと変貌を遂げた背景には、会計事務所とメインバンクがタッグを組んだ強力な支援体制があった。
有限会社松山電気は2021年、愛知県北名古屋市内に新社屋を建設した。おしゃれな平屋建ての社屋は建設会社の本社には見えないが、それはまさに松山圭太社長がねらった効果。「いわゆる建設業っぽくないオフィスにすることで若い人の目を引きたい」と考えたのだという。規模の小さな電気工事会社は、ピラミッド型の下請け構造のなかで3次下請け、4次下請け……となるケースが多い。ところが松山電気は、松山社長の代でゼネコンなどの元請け企業から直接業務を請け負う1次下請けのポジションでの仕事が増えたため、同業他社に比べ高い利益率を実現している。
2021年に完成した新社屋
「当社はもともと自動車関連工場内の機械の電源配線などをメインに手がけていて、職人1人当たりの日当をベースにした計算で売り上げを計上していました。しかし私が社長に就任して以降は、材料や設備機器の仕入れ・調達、施工、現場管理などすべてを含むいわゆる『一式』でゼネコンなどの元請け企業と請負契約を交わす形態がメインになりました。とくに最近ではショッピングモールや老人ホーム、カーディーラーなどの新築工事を手掛けることが多く、ほとんどが1次か2次下請けで契約することができています」
とはいえ大型施設の電気工事一式ともなれば相当な数の照明、コンセント、空調設備などが必要になる。資材価格の高騰も響いているはずだ。どうやって高収益を実現しているのか。松山社長はその要因が「技術力」にあるという。
技術力には定評がある
「この2年で電線の原料となる銅価格が2倍、材料費全体で3~4割ほど高くなりました。このような状況でもうけを出すためには、経営者自身に『技術力』が必要です。ここでいう技術とは手先が器用という意味ではなく、お客さま満足度を実現し、そのうえで利益を生み出す力のことです」
つまり提案力である。元請け企業から提示された図面通りに施工を行うだけでなく、松山社長は専門知識をフルに生かし設計図面そのものの提案をすることもある。付近に人がいるときだけ照明がつく人感センサー、複数個所で照明のオン/オフができる3路スイッチ、4路スイッチ、インターホンを受けた電話で解錠できるシステム──使い勝手や省エネ性能などの観点から積極的に顧客に工事の提案し、設計段階から深くかかわることで利益を出しやすいビジネスモデルを作り上げてきたのである。
変動費率60%を目安にチェック
モニターを見ながら意見交換
12月1日午後、松山電気本社にはスーツ姿のビジネスパーソンがひとり、ふたりと集まってきた。業績報告会が開かれたのである。参加したのは、松山社長、税理士法人パートナーズの出原和弥氏、メインバンクの中京銀行から佐藤元之笠寺支店長、長年同社を担当している同支店の長江博史渉外グループマネージャーの5人。進行役を務める出原氏が、《365日変動損益計算書》の画面をプロジェクターに映しこう切り出した。
「上半期6カ月の実績をご報告します。売上高が約1億8,500万円、限界利益が約8,400万円となりました。前年同期と同水準の工事利益がとれています。これは社長の独自のノウハウと工事内容に応じた適正な原価管理=技術の結果だと思います」
ここで松山社長が一言あいさつ。
「中京銀行さんは父が社長を務めていた時、特にリーマンショックの際にためらうことなく融資に対応してくれて本当に感謝しています。下半期はもう一段業績を伸ばしていく計画です。今後ともご支援よろしくお願いします」
資材価格の高騰など外部環境の急激な変化にもかかわらずしっかりとした利益を出す同社の業績にメインバンクも一安心の様子。中京銀行の長江氏は松山社長の言葉に次のように返答した。
「これだけ売り上げが増えていくと必要な運転資金も出てくると思うので、パートナーズさんと連携をとりながら、今後もしっかり後方支援していきたいと思います」
佐藤支店長も賛辞を惜しまない。
「円安などで材料価格の値上げが続くなか、これだけ利益を伸ばせる中小企業はなかなかありません。松山社長が月次の損益をしっかり把握しているのがその理由だと思います。目安にしている経営指標などがあるのでしょうか」
佐藤支店長の問いかけに対し松山社長は次のように答えた。
「いつも確認するのは限界利益ですね。さらに変動費の合計が60%を切るくらいの水準になるよう意識しています。このご時世ですから、仕入れ価格と外注加工費が上昇することは避けられません。ではどうするかというと、材料の単価が上がったら購入量を減らす工法を考え、外注5人でやっていた仕事を2人で終わらせられるよう工夫するなどの対応をとるのです。変動費構成比率を一定内にとどめておくことが、限界利益の確保につながります」
松山電気の支援について顧問税理士とメインバンクが同じ思いを共有し、万全のサポート体制を敷いていることが、同社の飛躍的な成長の要因の一つになっている。
松山社長は「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)の利用を通じ中京銀行に財務情報のタイムリーな提供も行っている。MISは毎月の巡回監査と月次決算を実施したうえで作成した月次試算表や年度決算書が自動的に取引金融機関に送信されるサービスで、佐藤支店長はその効果を高く評価している。
「巡回監査後に月次試算表を毎月送ってもらえることで、こちらもタイムリーに動けています。前回の融資に早い回答が出せたのも、MISによる情報共有の効果が大きいと考えています」
自己資本比率30%超を達成
松山社長が、創業者の松山元行前社長の後を継ぎ社長に就任したのは19年のこと。代替わりとほぼ同じタイミングで、税理士法人パートナーズと顧問契約を結んだ。松山社長は当時をこう振り返る。
「分からないことを丁寧に教えていただき、ゼロから会計のことを学ぶことができました。経営の素人だった私がここまでこられたのは、パートナーズさんと中京銀行さんのおかげです」
松山社長が感謝の念を忘れないのは、「家業」から「企業」への転換を最速で実現できたから。村瀬潔税理士は「会社そのものは事業承継の形でしたが、まさに第2創業ともいうべき出発でした。先代までは経営に公私混同がみられ、税務調査が入って初めて判明することもたくさんありましたが、そうした体質も一掃しました。デジタル化への取り組みも遅れていて、まずはパソコンの電源を入れもらうことから始めたのを覚えています」と思い出を語る。
村瀬潔税理士
TKCシステムの活用と月次巡回監査を通じた業績管理を導入した同社は、見事に第2創業のスタートダッシュに成功。着実に利益を積み重ね、自己資本比率は事業承継時のほぼ0%から30%超までに達した。私利私欲に走ることなく会社の未来と従業員の将来を第一に考え、内部留保の蓄積を優先した松山社長の姿勢を村瀬税理士は高く評価する。
「経営者のなかには税金の支払いを抑えるために自らの報酬を上げようとする人もいますが、松山社長は『会社を強くするためにとにかく会社にお金を残す』という信念をブレることなく貫いていて本当にすごいと思います。そうした信念が、『優良企業』の選定につながったと思います」
松山社長が目指すのは、従業員10人前後で10億円の売上高を実現する少数精鋭の超高収益企業。「いい建物を作れる人をつくる」と今後は人材育成に注力していく考えだ。
(協力・税理士法人パートナーズ/本誌・植松啓介)
名称 | 有限会社松山電気 |
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設立 | 1996年6月 |
所在地 | 愛知県北名古屋市法成寺南出75番地 |
売上高 | 約2億円 |
URL | https://matsuyama-denki.co.jp/ |