新たなムーブメントを創造するイノベーターは、いつの時代にも存在する。彼らはパイオニアとして後世に語られることとなる。第2特集では、そうした現在進行形の「先駆者」6名に登場してもらおう。

プロフィール
うえたき・りょうへい●投資家。九州大学 共同研究員。名古屋大学 共同研究者。英国プレミアリーグサッカーチーム・ジャパンアカデミーオーナー。慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科元特任助教。2019年10月25日 WORLD SCAN PROJECT, Inc.のCEOに就任。特許発明 5件
新時代を創る先駆者たち

ウェブ3.0、ブロックチェーン、NFT、メタバース……。IT分野での技術革新はとどまるところを知らない。2020年にワールドスキャンプロジェクトを設立した上瀧良平社長は、テックジャイアントを向こうにまわして、この分野でのトップランナーを目指す。

 小学校、中学校と野球少年でした。中学校の時には近畿2位、全国大会に出場。高校までは「プロ野球選手になりたい」との夢を抱いていましたが、けがをしてしまったこともあり、音楽(バンド)活動の方に軸足を移しました。大学に入ると学生ベンチャーを立ち上げて企業の決済や販売促進、マーケティングなどの代行を行い、その過程で大手企業との取引関係ができたことで卒業後も就職せずにそのビジネスを続けました。32歳の時に、その会社を売却。以降は投資家として、主にITベンチャーなど、ハイテク産業に関わってきました。

「ハイテク」への投資を続けるなかで、ある時、3Dスキャンができるドローンの技術と出会い、そこがターニングポイントとなりました。エジプト政府と名古屋大学と協働して、遺跡としてのピラミッド全域を全方位からドローンでスキャニングして詳細な3Dデータにする画期的プロジェクトに参画したのです。エジプトの遺跡をほぼ網羅するスキャンは世界初のことでした。この時、「ドローンを使って世界中の遺跡を3D化して後世に残す」ことの意義に気づかされました。つまり、「考古学のDX化」です。

ピラミッドの謎と神秘に迫る

 当初、収益は考えておらず、「ピラミッドの謎と神秘に迫りたい」「価値ある遺産を未来に伝えていきたい」といった考古学的な探求心や人類としての責任感だけで、プロジェクトに参画していました。そして、その後も建築物や自然など、世界遺産を中心にしたドローンによる3D解析事業を次々とこなしていったのです。

 ところが、プロジェクトの進捗(しんちょく)を実感しながら、しばらくすると、心境に変化が訪れました。ドローンを使った3Dスキャン技術が研ぎ澄まされるにつれて、ビジネスにつながる幾筋もの道が見えてきたのです。VRやARが一般化し、現地に行かなくてもその場所を体感できる時代がすぐそこまで来ていました。さらに、メタバースという言葉が忽然(こつぜん)と人口に膾炙するようになり、われわれの技術が、具体的ニーズとして訴求される環境が急速に整ってきたのです。そうして、2020年、ワールドスキャンプロジェクトを立ち上げました。

 われわれは、既述の通り世界初のエジプトの歴史遺産の詳細な3Dデータを保有しています。最近では、現地と協力してマチュピチュの調査を行ったり、東南アジアの戦争遺産の3Dスキャンにも挑戦しています。また、九州大学とコラボレーションしながら、独自開発の水中3Dドローン「天叢雲剣(MURAKUMO)」を使って、海底の地形や文化遺産を撮影、デジタルデータ化するというプロジェクトも行っています。海に沈む旧海軍の駆逐艦「蕨」の発見(93年ぶり)、デジタルデータ化にもかかわりました。今でも、日々、世界中を飛び回って地球上の造形物の3Dデータ化を進めています。

 これらのデータを駆使することで、さまざまなビジネスの可能性が開けてきます。たとえば「バーチャル修学旅行」は、すでに商品化され、好評を博していますし、地方創生を志す各地の自治体が企画するプロモーションにおいても、われわれの3Dデータ作成技術は有効なツールとなり得るでしょう。

 スキャニングデータは破壊を伴いません。自然資源や歴史的な人工資源を「ありのままの状態」で残すことは、極めて大きな学術的、社会的価値があります。その価値を未来につなげていく志向性は、当然のことながらこれからのビジネスにも求められるものです。

3Dアバターを自動生成

 ところで、今話題のメタバースはわれわれのドローンによる3Dスキャン技術の延長線上にあります。その象徴とも言えるのが、ここ「ZEXAVERSE(ゼクサバース) TOKYO(トウキョウ)」です。ゼクサバーストウキョウには合計130個の6Kカメラで人間を丸ごとスキャンし、自分そっくりの3Dアバターを自動生成する「ゼクサゲート」が設置されています。アバターを付与されれば、後はわれわれの提供するメタバース空間で、自分のアバターを自由自在に操作することができるようになります。

 ゼクサバーストウキョウができたのは22年の7月15日ですが、プロジェクトがスタートしたのは同年の春でした。映画「マトリックス」みたいな世界を作りたかったのです。ドローンでは動きながら何枚も写真を撮り、それを3Dへと組み立てるわけですが、ゼクサバースでは固定されたカメラがスキャンします。いずれにしても3Dスキャン技術であり、われわれの得意とするところです。また、われわれのメタバース空間はウェブ上で稼働し、スマホを使って片手で操作することもできます。

 またゼクサバーストウキョウでは、大切な思い出の品や美術品などを3Dデータに変換して、「マイルーム」に保管するサービスも展開。また、それら美術品などをNFT化することもできます。NFTとはデジタルデータに替えの効かない唯一無二性を与える技術で、ゼクサバーストウキョウでは、このNFTに関するさまざまな相談に対応する「NFTカウンター」を設けています。さらに、ゴーグルを使用する歩行型VR機器(「キャットウォークminiS」)で、VR空間内を360度、自由に歩き回る体験をすることもできます。

 将来的には、ゼクサバーストウキョウのような施設を、世界中に50カ所くらい作ることができればと考えています。

 今後、メタバースは飛躍的な進化と普及の道筋をたどるでしょう。莫大(ばくだい)なマーケットが想定されるなか、すでに参入しているテックジャイアントをはじめとする世界中の名だたるITベンチャーと対等に戦えると考えています。

 われわれの他社にない優位点は、やはり、独自のドローン技術を使った世界遺産や地形などの3Dデータです。たとえば、企業が、われわれの提供する専用のメタバース空間(マイゼクサバース)で、参加者のアバターが議論を交わすことが可能であり、それをわれわれの3Dデータと組み合わせれば、エジプトやマチュピチュといった世界遺産のなかでオンラインミーティングのみならず、講演会や会社説明会、新製品発表会なども行うことができます。バーチャルモデルルームといったような使い方もできるでしょう。しかも、ブラウザー上で簡単にこのような空間が手に入るわけですから、企業にとっての使い勝手は極めて高い。今後、われわれは、企業のホームページをどんどんメタバースに置き換える活動をしていきます。

 近い将来、「ウェブ3.0といえばゼクサバース」という存在、つまりこの分野のトップランナーになりたいと思っています。勝算は十分にあります。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社ワールドスキャンプロジェクト
設立 2020年1月22日
日本本社所在地 東京都新宿区西早稲田2-18-23 スカイエスタ西早稲田 2F
URL https://world-scan-project.com/

掲載:『戦略経営者』2023年1月号