TKCが考える「スマート行政DX」
代表取締役 専務執行役員
飛鷹 聡(ひたか・さとし)

デジタル技術で、業務プロセス全体を変革する
――「スマート行政DX」とは?
飛鷹ひと言で説明すると、「スマート行政DX」とは私たちの活動のスローガンです。
TKCは、事業目的の一つに、地方公共団体の〈行政効率の向上による住民福祉の増進〉の支援を掲げています。日本社会は、いま「2040年問題」という深刻な課題に直面しており、そうした中で当社が得意とするICTの力を使って地方公共団体の皆さんを力強く支援していくんだ、という意思表明でもあります。
根幹をなすのは、〈基幹業務システム標準化・共通化〉〈行政手続きデジタル化〉〈内部事務デジタル化〉を一体で推進する――という考え方であり、これにより〈住民との接点から、職員の皆さんの業務に至る業務プロセス全体をデジタル技術で変革する〉――自治体DX推進をご支援します。

飛鷹人手不足が深刻化する中、市区町村は限られたリソースで「いかに行政サービスを維持・継続するか」が大きな課題となっています。そのためには、やはり業務全般のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進が必要不可欠で、〈基幹業務システム標準化・共通化〉はそのベースになると考えています。
システム標準化への対応は、市区町村にとって法律で定められた義務ですが、これはゴールではありません。
標準化によって、①シームレスなデータ連携、②ガバメントクラウド移行による情報セキュリティー対策の拡充、③行政手続きデジタル化による職員・住民の利便向上――などのメリットが期待されます。いわば、システム標準化は業務効率化と住民サービスの向上を図るための必要条件であり、当社では全てのお客さまにおいて2025年度末までの期限内移行完了を目標に掲げました。
また、『自治体DX推進計画』を実現する上では、システム標準化への対応だけではなく〈行政手続きデジタル化〉や〈内部事務デジタル化〉も一体で推し進めることが肝要です。それぞれを連携し、行政サービスを高度化することで、さらなる住民の利便性向上や業務効率の改善、新たな価値創出につながると考えており、これを能動的に実現できるシステム環境を目指しています。
そのため、標準仕様に適合した基幹業務システムの開発と並行して、〈行政手続きデジタル化〉〈内部事務デジタル化〉を支援する各種ソリューションの強化・拡充にも積極的に取り組んでいます。
――スマート行政DXにより、どんな効果が期待されるのか
飛鷹『自治体DX推進計画』には、7つの重点取組事項が掲げられています。その筆頭が「自治体フロントヤード(住民との接点)改革の推進」です。
システム標準化によりシステム間のデータ連携が容易になることで、フロントヤード改革は一段と進むでしょう。接点の多様化により住民サービスを向上させるのはもちろん、フロント/バックヤードのデータ連携により業務プロセス全体の効率化という点でも大きな効果が期待されます。
「公金収納におけるeL-QRの活用」では、基幹業務システムと財務会計システム(TASKクラウド公会計システム)を連携することで、公金収納事務の効率化が図れます。
「テレワークの推進」では、デジタル完結による業務の効率化がポイントとなります。これについては、財務会計システムを核に電子決裁や文書管理、ペポルインボイス*などを連携させることで、業務改善・生産性の向上につながります。
*TKCでは、ペポルネットワークで送受信するデジタルインボイスのことを「ペポルインボイス」と定義しています
このように各種システム・サービスを迅速かつ柔軟に組み合わせることができるのは、基幹業務システムに加えて、行政手続きデジタル化や内部事務デジタル化を支援するシステムを自社開発していればこそのことで、当社の大きな強みです。
この強みと機会を生かして、自治体DX推進計画の実現を支援することが、お客さまに対する貢献と考えています。

強みを生かし、一歩先行くシステム・サービスで
お客さまの期待に応える
――お客さまの反応は
飛鷹 いま、標準化対応でいろいろやるべきことが停滞しているように見えますが、コロナ禍を経て市区町村の意識は確実に“変化”したと感じています。標準化対応後を見据えて、フロントヤード/バックヤード改革を具体的に検討・計画するお客さまも増えており、当社への期待が高まっています。
その期待に、全力で応えていかなければいけないと考えています。
先進団体の中には、住民との接点を多様化するだけでなく、行政サービスのやり方そのものを見直そうという動きも登場しています。そこでは、市区町村が保有するデータ(基幹業務システムのデータ)と、オンライン申請システムなどとを安全かつ円滑に連携して、申請手続きの入力省略・簡素化や、住民への漏れのない情報提供、申請のプッシュ通知、自治体の審査効率化・精度向上――などを図ることが求められています。
今後、「公共サービスメッシュ」など情報連携基盤が整うことで、こうした動きは今後一段と加速するでしょう。これに備えて社内で調査・研究を進めるとともに、先進団体との実証事業にも積極的に取り組み、それらの成果はさまざまな機会を通じてお客さまに広くフィードバックしていく方針です。
――DX推進に伴い情報化コスト増も懸念されているが、どう対応するのか
飛鷹 人口減少に伴う税収減が予測される一方、社会保障費はますます増大していくことを考えると、情報化コスト削減の動きは当然のことでしょう。
そのため、システム標準化でも「運用コスト3割削減」を目指すとされました。
当社は、この国の方針に賛同し、標準化システムをマルチテナント型でサービス提供することでインフラコストの削減に努めています。これによりガバメントクラウドの利用料はシングルテナント方式に比べて、3分の1程度に抑えられる可能性があると考えています。
また、当社ではかねてより単一バージョンのパッケージシステムを複数の市区町村が“共同利用”することを前提に設計したクラウドサービスを提供しており、これにより“コストの最適化”を図る姿勢は今後も変わりません。

さらに、当社は基幹業務システムに加えて、課税計算から大量印刷、封入・封緘まで全てに対応できるアウトソーシングサービスも提供しています。
デジタル化が進むことで紙の納付書などは確実に減少しますが、紙がなくなることはないでしょう。そうした中で、当社はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の側面でも、お客さまの情報化コスト削減に貢献できると考えています。
――今後の取り組みは
飛鷹 標準仕様対応システムの円滑な運用に向けて支援体制を一段と強化するとともに、標準化対応後を見据えて、フロントヤードからバックヤードにいたる業務プロセス全体の変革を支援するシステム・サービスの開発、機能強化を加速する計画です。
また、システム・サービスの“新たな利用価値の創出”にも努めます。
一例が、財務会計システムです。この分野では、当社は一部上場企業を含む大企業から中小企業まで数多くの採用実績を有しており、そこで長年培ってきたノウハウを生かし、財務情報を活用して経営状況を見える化するなど継続的な自治体経営に資することができると考えています。
さらに、いま注力しているのが「AIの活用」です。
生成AIの活用だけでなく、人員減少に伴い職員の業務を補完するようなAIエージェント技術やアバター技術、あるいは住民からの問い合わせに能動的に対応できるチャットポットなど、さまざまな技術と、システム・サービスをどう組み合わせ、どう活用すれば、職員も住民も安心・安全・便利に利用いただけるか研究をしています。
市区町村のデジタル化への取り組みは、昨今、社会経済やIT技術の革新、行政サービスに対するニーズの変化を背景に、劇的な変化を遂げてきました。しかし、時代がどんなに変わっても、市区町村の基本的役割が変わることはありません。
事業目的に掲げる〈行政効率の向上による住民福祉の増進〉支援へ――TKCは、これからも「スマート行政DX」を合言葉に“一歩先を行く”サービスやサポートの提供に努め、お客さまのデジタル改革をご支援してまいります。
インタビュアー 自治体DX推進本部 田﨑沙由美