自治体情報システムの標準化・共通化への対応
――システム標準化対応推進部とは。
花井TKCでは、以下の2つを対応方針に掲げ「自治体情報システムの標準化・共通化」の期限内の円滑な対応を支援しています。
・標準仕様に完全準拠したシステムを提供するとともに、最適な業務プロセスの実現を支援する
・標準準拠システム・ガバメントクラウドへの移行を最小限の職員負担で実現する
これに伴う各種情報の収集・発信から、標準準拠システムの開発、お客さまの円滑な移行のサポートまで、全社一丸となって取り組むため、2021年11月1日付で自治体DX推進本部に新設されたのが「システム標準化対応推進部」です。
その意味で、システム標準化対応推進部は〈TKCとお客さま〉〈社内の関連部門間〉をつなぐハブ的役割を担っていると考えています。そのため推進部にはシステム開発とお客さまサポートのスペシャリストを結集し、個々のスキルやコミュニケーション力を駆使してお客さまと社内関連部門の支援に努めています。
――標準化・共通化の進展状況をどう見ているか。
藤野標準仕様に準拠したシステムとガバメントクラウドの活用――という国の方針は、もはや揺らがない事実です。この“かつて経験したことがない”大きな環境変化を乗り切るには、お客さまとの協力が不可欠です。
標準仕様書や手順書などが順次公開されていますが、細かい点ではまだ不明確な部分も多く、TKCとしても昨年春から市区町村の皆さんと意見交換を重ねながら対応方針の検討を続けてきました。
そうした意見交換を通じて感じたのは、市区町村の皆さんには主に三つの〈不安〉があるということです。
第一が情報量の問題で、これについては「必要な情報が不足している」と「情報が多過ぎて何をしたらいいのか分からない」と両極端の意見があります。要因として、〈適切な情報が、適切な人に伝わっていない〉ことが挙げられます。
第二が標準化・共通化により「業務がどう変わるのか想像できない」ことです。TKCシステムを利用するお客さまは、システムに沿った業務フローを確立しています。しかし、「標準仕様書」だけでは現行システムと標準準拠システムの差異が分からず、これによって業務がどう変わるのかもイメージしづらいことから、大きな不安につながっているようです。
第三が「人的リソースとやるべきこととのバランス」の問題です。市区町村は標準化・共通化のほかにも、行政手続きのオンライン化など『自治体DX推進計画』に示された重点取組事項について、着実に推進することが求められています。やるべきことが山積する一方、多くの団体が人的リソース不足で「推進体制を構築できない/構築しても具体的にどう進めるべきか分からない」状況にあり、職員数が限られる小規模団体の場合は特に深刻です。
さらに目標期限という時間的な制約が、これらの不安に追い打ちを掛ける結果となっているのではないでしょうか。
全ての市区町村が関わるビッグプロジェクトにも関わらず、〈適切な情報を適切な人に提供できていない〉状況を踏まえ、必要な情報を正しく伝えるにはどうすべきか考えた結果、「自治体DX推進セミナー」(オンライン形式)の開催に辿り着きました。
お客さまの「不安」を「安心」に変える
――自治体DX推進セミナーとは。
藤野自治体DX推進セミナーは、基幹系システムの利用団体を対象に、国の最新情報に加えて、それに対するTKCの対応について説明するため2021年11月から開催しているものです。これによりお客さまに安心していただくとともに、「一緒に変革の大波を乗り越えよう」という意識醸成につなげていただきたいと考えています。
回数 | 開催スケジュール (予定) |
想定参加者 | 開催テーマ |
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第2回 | 令和4年3月 | 住民基本台帳主管課 様 (電算主管課 様) |
【標準化・共通化】・住民記録システム標準仕様の概要・標準仕様とTASKクラウド住基システムの差異および対応案 |
第3回 | 令和4年5月 | 就学事務主管課 様 (電算主管課 様) |
【標準化・共通化】・就学事務システム標準仕様の概要・標準仕様とTASKクラウド就学管理システムの差異および対応案 |
第4回 | 令和4年6月 | 電算主管課 様 | 【標準化・共通化】・国の最新情報、当社支援内容の進捗報告等・ガバメントクラウド先行事業の中間報告 |
第5回~第7回 | 令和4年7~8月 | 税務主管課 様 (電算主管課 様) |
【標準化・共通化】・国の最新情報、当社支援内容の進捗報告等・ガバメントクラウド先行事業の中間報告 |
介護保険主管課 様 (電算主管課 様) |
【標準化・共通化】・介護保険システム標準仕様の概要・標準仕様とTASKクラウド税務システムの差異および対応案 |
||
障害者福祉主管課 様 (電算主管課 様) |
【標準化・共通化】・障害者福祉システム標準仕様の概要・標準仕様と現行障害者福祉システムの差異および対応案 |
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… |
図表に当面のセミナー予定を示しましたが、2023年にかけて計20回程度のテーマを企画しています。
最大の特長は、テーマごとに参加対象者を絞り込み、その方に必要な情報を分かりやすく伝えるよう工夫していることです。例えば、第1回では情報システム部門向けに、システム標準化・共通化の全体像として国の動向やTKCの対応方針などを説明しました。また、第2回では主に住民基本台帳主管課に向けて、住民記録システムや印鑑登録システムがどう変わるのか――など、原課が最も知りたいことに焦点を当てた内容としました。
その結果、第1回セミナー(21年11月30日)を開催して以来、毎回、ほぼ全ての団体から数百名もの職員の皆さんが参加されています。質疑応答も活発で、ガバメントクラウドへの対応方針といった大きなテーマから、文字同定などの細部にわたる質問、あるいは業務上の悩みなど、具体的で多岐にわたる質問が寄せられています。
また、セミナー終了後はアーカイブ動画の視聴も可能で、参加者が再度視聴する、あるいは当日参加できなかった方が後日視聴する――といった活用もされています。
参加者に感想を伺うと好意的な意見が多いですね。
担当者として特に嬉しかったのが、「いつも丁寧な説明ありがとうございます」「(こうしたセミナーは)小規模団体にとって大変ありがたいです」「国の最新動向を踏まえてTKCの今後の予定を伝えてくれたのは分かりやすかった」などです。
また、今後も期待しているという声も多く寄せられています。
とはいえ、自治体DX推進セミナーはあくまでもきっかけです。
時間的制約がある中で、最小限の職員負担で標準準拠システム・ガバメントクラウドへの円滑な移行を実現するには、変化のスピードを上げつつも、段階的に理解を深め、無理なく変化に馴染んでいくことが大切です。
そこでTKCではセミナーを皮切りに継続した支援へ取り組み、お客さまと一緒に標準準拠システムと業務フローの最適解を導き出したいと考えています。
――具体的にどんな支援策を考えているのか。
藤野まず自治体DX推進セミナーで大きな差異を説明した上で、セミナー後に「差異分析資料」を各団体にお届けします。これをもとに職員の皆さんと話し合いを重ねながら、業務ごとに〈何が変わるのか〉を考えます。
差異分析資料とは、業務ごとに〈標準仕様書と現行システムの差異〉を示したもので、これに向けてTKCシステムの対応やお客さまが準備しなければならないこと、あるいはお客さまの業務にどんな影響があるのか――などを整理したものです。いわば現時点でのTKCからのご提案をまとめたもので、これに対するお客さまの意見や要望などを伺いながら、われわれが考える対応計画に問題がないかどうか確認・修正をしていくことを想定しています。
その結果は、最終的な対応方針としてまとめて報告する計画です。この段階では、業務がどう変わるのかイメージしやすいよう〈現行システムと標準準拠システムとの差異〉を提示したいと考えています。詳細はまだ検討中ですが、この最終報告は23年度の公表を予定しています。
その上で、それぞれのお客さまの移行時期に合わせて運用テストや研修を実施します。そこで実際のシステムを見て、具体的にシステムや業務がどう変わったのか実感していただく――そういった継続的な支援を通じて、お客さまと一緒に変革の荒波を乗り越えていくことを目指します。
お客さまとともに、未来をひらく
――標準準拠システムの開発や移行スケジュールは。
藤野今夏には選挙人名簿や国民健康保険など第2グループの標準仕様書が公表される予定で、これにより標準化対象となる20業務のシステム仕様はある程度明確になると見込んでいます。
また、ガバメントクラウドについては22年度に予定される「ガバメントクラウド先行事業」の成果をもって、一通りの目途が付くでしょう。なお、先行事業には、TKCもアプリケーション開発事業者として参画しています。22年度は埼玉県美里町と川島町に協力して移行手法や運用面での課題などを検証し、職員負担が最小限で安全・確実な移行、安定運用の実現に向けた手法の確立を目指します。
並行して、ユーザー・インターフェイス設計センターを中心に23年度末までの完成を目指して標準仕様に完全準拠したシステムの開発を進めています。
24年度には数団体の協力を得て標準準拠システムのパイロット運用を行う予定で、ここで実際にお客さまに利用していただきながらガバメントクラウド上でのシステムの機能検証を行います。その検証結果をもって、24年夏頃~25年度末までに全団体のシステム移行を完遂する計画です。
今回のように限られた期間内で全ユーザーのシステムを移行するのは、多くのベンダーにとって初の試みであり、多大な困難を伴うことは想像に難くありません。
この点、TKCは現行の基幹系システム(TASKクラウド)において、全てのお客さまの「国と地方の情報連携」への円滑な対応を図るため、2年足らずの期間(15年3月~17年1月)で全ユーザー(当時は約130団体)のシステムを移行した実績があります。ここで培った経験やノウハウを生かし、標準準拠システム・ガバメントクラウドにおいても期限内に全てのお客さまの円滑な移行を支援します。
※ 標準非機能要件は、2020年9月開示済み。ただし、ガバメントクラウド先行事業を踏まえて、今後改訂される可能性があります。
――取り組みにあたって、市区町村が留意すべき点は。
藤野主に二つ挙げられます。
第一は、標準化・共通化は法的義務であるということです。
例えば、自分たちの業務等に合わせてシステムの動作を一部変更したいという場合、これまではお客さまとTKCとの話し合いで対応できました。しかし、これからはそれが許されません。そのため、お客さまも意識を変えて、標準仕様に準拠したシステムに合わせて業務をどう変えていくのか、真剣に考えていかなければなりません。
第二が、標準化・共通化を単なるシステムの切り替えとしてはいけないということです。
市区町村にとってシステム標準化への対応は〈脅威〉ではなく、業務プロセス全体の抜本的な見直し・再構築――BPRに取り組む絶好の〈機会〉と捉えることが必要です。この点では、業務の見直し・再構築のきっかけとして先述の差異分析資料を役立てていただければと考えています。
――TKCの今後の取り組みは。
花井1980年に日本初の漢字表記を可能とした窓口業務システム「TASK80」を提供して以来、TKCの基幹系システムは40年以上にわたって進化し続け、お陰さまで多くのお客さまから評価をいただいてきました。しかし、標準化・共通化により他社製品との機能的な差はほとんどなくなります。
そこで、標準準拠システムでは優れたUI/UXの提供と顧客サポートに注力し、市区町村の皆さんにとって“もっと便利”なシステムとなることを目指します。
また、「システムの標準化・共通化」と「行政手続きのオンライン化(デジタル化)」はいわば車の両輪であり、TKCでは行政手続きのオンライン化(デジタル化)による行政サービス改革の支援も一段と加速する方針です。
これらを実現する〈システム・サービスの開発・提供〉と、基幹系システムとの一気通貫など窓口改革を含む〈BPR推進〉を一体的に支援することで、「真の自治体DX推進」に貢献していきたいと考えています。
標準化・共通化は、市区町村とTKCの双方にとって〈未知なる世界への挑戦〉です。これまでの法制度対応のように、市区町村はベンダーがシステムを改修するのを待つ――というのではなく、お互いの“知”を結集して新たな価値を創造していかなければなりません。
このチャレンジを通じて、お客さまと一緒に行政の未来をひらいていく――。
そのためにTKCもシステムも進化し続けます。
ぜひ、一緒にDXという変革の荒波を乗り越えていきましょう!