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〈寄稿〉 一人医師医療法人化に伴うメリット・デメリット

 医業経営コンサルタント 税理士 森 茂樹

1.増加傾向にある一人医師医療法人

 医療法人は、医療法第39条の規定によって設立が認められた特別法人です。昭和23年に制定された医療法では当初民間医療機関について法人化することは認められていませんでしたが、昭和25年の医療法改正時に民間医療機関も法人化の途が開かれました。しかし、診療所は「医師若しくは歯科医師が常時3人以上勤務する診療所」という要件が必要であったため、実質的に一定規模以上のものに限り法人化が認められていました。

 医療を取り巻く環境の変化に伴い、昭和60年の医療法改正により「医師若しくは歯科医師が常時1人又は2人勤務する診療所」も法人化(通称「一人医師医療法人」)の途が開かれ、小規模な診療所についても、医療法人を設立することが可能になりました。

 この一人医師医療法人は医療法上、一人医師医療法人以外の医療法人と運営・権利及び義務に関して何ら異なるところはありません。

 ちなみに、厚生労働省の調べによりますと、平成16年3月31日現在、全国の医療法人の数は38,754件であり、このうち一人医師医療法人の数は31,664件となっています。内訳は医科が25,574件、歯科が6,090件であり、医療法人全体の81.7%を占めています。平成11年3月末(24,770件)から平成16年3月末(31,664件)までの5年間における件数の推移をみると毎年約1,400件が設立されています。医療法の改正、診療報酬改定、税制改正等により、現在でも数多くの一人医師医療法人が設立されています。

2.一人医師医療法人のメリット・デメリット

 一人医師医療法人は、診療所の経営と医師個人の家計を明確に分離し、診療所の経営基盤を強化し、医療設備、機能の充実をおこない、診療所経営の近代化・合理化を図ることを目的としています。

 法人化することにより、診療所が医療機関として社会的信用を確立し、診療所の経営体質を強化し、更に税務上の節税効果をも生じさせます。

 法人化した場合のメリットとデメリットは次の項目が考えられます。

メリット

(1)社会的信用の確立
 a 法人会計を採用することにより、適正な財務管理が可能になります。
 b 金融機関等への対外的信用が向上します。
(2)経営体質の強化
 a 社会保険診療報酬の源泉徴収がなくなるため、資金を有効に利用できます。
 b 事業承継、相続対策等を計画的に進めやすくなります。
 c 分院や介護保険事業等への事業展開が可能になります。
(3)節税効果
 a 所得税の「超過累進税率」から法人税の「2段階比例税率」を適用することにより、税負担を軽減することが可    能です。
 b 院長先生のほかに院長夫人等の家族を役員にすることにより、その職務に応じた役員報酬の支払いができ、効   果的な所得の分散がはかれます。
 c 役員の退職時に役員退職金を受け取ることができます。
 d 一定の契約条件を満たした生命保険契約や損害保険契約等の保険料を経費(損金)にすることができます。

デメリット

(1)経営上のデメリット
 a 医療法人の付帯業務禁止規定によって、業務範囲が制限されます。
 b 剰余金の配当禁止規定等により、剰余金が内部留保され、出資1口当りの評価額が徐々に高くなります。
 c 医師個人は、役員報酬を受け取ることになり、役員報酬以外の資金は自由に処分できなくなります。
 d 社会保険の加入が強制適用になり、役員及び従業員は健康保険・厚生年金に加入しなくてはなりません(一定  の手続きにより医師国保を継続することも可能です)。
 e 法務局に役員変更等の登記が、都道府県知事に決算書類の提出が義務づけられます。
 f 都道府県知事による立ち入り検査等の指導が強化されます。
 g 特別な理由がない限り、安易に医療法人を解散することはできません。

(2)税務上のデメリット
 a 交際費として、損金に算入できる金額に限度が設けられています。
 b 原則として個人で掛けていた小規模企業共済を脱退しなくてはなりません。

 一人医師医療法人化を検討した方がよい個人診療所には、以下のケースがあげられます。
 a 診療所の社会的信用を高めたい場合
 b 子供等に事業承継を考えているか又は事業承継者が決定している場合
 c 介護保険事業への進出や分院等、法人化により可能な事業を計画している場合
 d 毎年の事業所得が高額である場合

3.個人の診療所を一人医師医療法人にした場合の税額比較

 下の表は、ある個人の診療所を一人医師医療法人にした場合の税額比較の表です。これを通してメリットが具体的な数値でつかめると思います。

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(比較結果)
 個人の場合は、医師個人分25,050千円、配偶者分490千円で税額総額は25,540千円となります。
 法人化した場合、医師個人分9,900千円、配偶者分490千円、法人分8,700千円で税額総額は19,090千円となり、その差額6,450千円が節税効果となります。